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第六章 「リル王子とリオン王妃の日常」

「公務は意外と激務です。」

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 「リル???....今日の公務は???」

 「はぁ....今日はな、絹製品で有名な隣国のヴァリシア国の若き王子であるカレブ王子との晩餐会だ。なんでも、王子に就任してまだ日も浅いらしくてな。公務の勉強の一環として、マテオ国王が直々にカレブ王子を晩餐会に出席させるんだそうだ。」

 「へぇ、そうなんだね。じゃあ、リルとしては、親近感が湧くんじゃないの???」

 馬車に揺られながらこう言ったアランに、リルは大きなため息をひとつつくと言いにくそうにこう言ったのだった。

 「はぁ....親近感か...生憎、奴と俺を一緒にされたくはないな...。とりあえず、アルには予め忠告しておくぞ???カレブ王子には気を付けろ。」

 リルのこの言葉にアランは、首を傾げ

 「アル...???(あー、俺の愛称ってこと???いやいや、俺の名前はリオンだから、それって外で使うとバレるんじゃ....。)....気を付ける???...それって、一体どういうこと???」

 と言い、リルに訊ねたが、リルは仕事用の書類に目を通し始めており、それ以上話をしてくれることはなかった。

 アランは、モヤモヤしながら初めて逢える隣国の王子様に心を弾ませていたのだった。

 そうして、隣国のヴァリシア国につく頃には、日がすっかり沈んだあとであった。

 城に着くと、リルが先に馬車を降りてアランの手を取りエスコートする形で、城内の会場まで案内されたのだった。

 晩餐会の行われる会場は、エルミナ国ほどではないが、それでも人が3000人は悠々と寛げるほどの広さを誇っていた。

 アランは、広い城内になんだか落ち着かず、隣を歩くリルにこう声をかけた。

 「....リル....こんなに煌びやかな世界....私、場違いではないですよね...???」

 アランのこの問いかけに、クスリと微笑んだリルは

 「....ははっ、大丈夫だよ。隣には俺がいるんだ。この辺りの支配下にあるエルミナ国の国王だぞ???....何があっても、俺がお前を守ってやる。(笑)....それに、エルミナ城に盗みに入った奴が何を言っているんだ???そんなことに比べたら、よほどマシだとは思うがな??」

 と言い、悪戯顔でアランに目線を向けると、アランはそんなリルに

 「っ....リル!!!酷いっ....もう嫌いです!!!」

 と言い、リルの肩をぱしっと叩き、そっぽを向いたのだった。

 そんなアランにリルは、嬉しそうににこにことした表情を浮かべていたのだった。

 そんな仲睦まじい様子の二人を背後から見つめていたひとつの人影があったことは、すっかり二人の世界に入り込んでいたアランとリルが気付くことはなかったのだった。

 「.....それでは、定刻となりましたため、これよりヴァリシア国と隣国の親睦を深める会と加えてヴァリシア国のカレブ王子の初お披露目という名目にて晩餐会を執り行わせていただきたいと思います。」

 大規模な会場に並べられた長い机についた招待客は、マイクを持って話をしている司会人に目線を向けていた。

 「....まず始めに、我がヴァリシア国の現国王であるマテオ国王様に声明を頂きたいと思います。」

 司会人のこの言葉に、近くで控えていたヴァリシア国のマテオ国王は、司会人からマイクを受け取ると、来賓に軽く視線を送ると

 「....ご紹介にあずかりました。ヴァリシア国国王のマテオ・セオドアと申します。本日は、お忙しい中足を運んでいただき、誠に感謝申し上げます。あまり長々とお話をすることは得意ではないため、早速晩餐会を始めさせていただきたいと思います。その前に、我が国の王子であるカレブ・セオドアを紹介させていただきます。カレブ....皆様に挨拶を。」

 と言い、近くに控えていたカレブと呼ばれた若い青年にこう声を掛けたのだった。

 カレブと呼ばれた青年は

 「はい、マテオ国王様。」

 と透き通るような美声でこう返事をすると、マテオからマイクを受け取り、綺麗な笑顔でこう話を始めたのだった。

 「我が国のマテオ国王より、ご紹介預かりました。ヴァリシア国第一王子のカレブ・セオドアと申します。私は、まだ王子に就任してから、日が浅いですが、精一杯皆様と友好な関係を築けるように精進いたします為、どうか宜しくお願い申し上げます。」

 カレブ王子は、伸長が180㎝ほどあり、髪はダークレッドよりで、瞳の色は髪の毛と類似しているレッドブラウン....見た感じは、紳士的で活気のあるとても好印象な青年という印象を受けたが....

 アランは、カレブ王子に視線を向けながら内心こんなことを考えていた。

 そうして、カレブが深々とお辞儀をした後、すぐに晩餐会は始まりを告げた。

 リルは、食事をしながら、隣国の国王方と貿易や情勢などの難しい話を始めていた。

 一方のアランはというと、正式にリルの妃として認められてからは、リルから貿易関係の話を聞き、一生懸命に国について勉強に励んでいたのだが、やはりまだ勉強して日が浅いため、アランには少々難しい題であることは確かである。

 だが、アランの近くに座っていた畜産が盛んなユラマ・イナ連合国のシエナ・シェイバン王妃は、幸い貿易関係の話ではなく、恋バナに花を咲かせるタイプの人だったため、アランは慣れない恋バナに励んでいた。

 「んふふ、リオン様は、格好いいお方が婚約者で羨ましいですわ。私の旦那...アーロンは、最近中年太りが酷くてね....???私が痩せてっていっても、アーロンは『いいんだ!畜産が盛んな我が国の国王は、これぐらいふくよかな方が、性に合っているよ!だから、シエナももっと太るべきだよ!!』....って、信じられないことをおっしゃるのよ???」

 「うふふ、そうなのですね。格好いいなんてとんでもありませんよ。(笑)リルは、外面は良いですが....城内では不甲斐ないところばかりですよ。アーロン様は、きっと体格と同等の性格の良さをお持ちなのですよ。優しい旦那様...素敵だと思いますよ。」

 「あらぁ、そんなことおっしゃると.....ほら、リル様がこちらを見ておられますわよ???きっと、今夜は....。」

 こう言ったシエナの発言に、アランはそっと隣に腰を掛けるリルの方に顔を向けると、凄くわざとらしい笑顔と目が合い、アランは咄嗟にニコニコと微笑みながら

 「あっ、うふふ。リル様....今のお話....聞こえておられましたか???」

 というように尋ねると、リルは完璧な作り笑いを崩さずに

 「あぁ、聞こえていたよ。シェイバン王妃の言うように、今日は私がどれだけリオンを愛しているのか.....じっくりと教え込んであげるとしよう。(笑)」

 と言い、まずい...という焦った表情をしているアランの様子にリルは、アランのおでこに軽く口づけると、アランの耳元で

 「焦った顔も可愛いよ。リオン....早く二人になりたいよ。....でも、あまりお喋りでべらべらと話はしない方が良い。変な噂が一人歩きすることもあるから....気を付けるんだぞ。チュッ。」

 と囁き、満面の笑みを真っ赤になったアランに向けると、そのまま、先ほどの人たちとの話に耳を傾け始めたのだった。

 そんなリルの様子に、暫く顔から熱が逃げなかったアランなのであった。

 また、そんなアランの様子にクスクスと微笑んでいるシエナ王妃がいたことは、自分のうるさい心臓を収めることに必死なアランが気が付くことはなかったのだった。
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