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第三章 「王子とロファン...それと俺。」

「匿って欲しい理由はね....。」

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 「さぁ、紅茶とクッキーだよ。沢山、召し上がれ!」

 と先ほどの真剣な表情からは想像もつかないような、明るい口調で言ったナノの言葉に少し戸惑いつつも、俺は香ばしいバターと砂糖の甘さが絶妙なクッキーをひと口かじり、目の前で優雅に紅茶を口にしているナノに、ここへ来た理由を事細かに話し始めた。

 「ナノ....実は....。」

 俺が全てを話し終えた後で、ナノは自身の皿に盛り付けてあるクッキーをぱくりと口にして顔を少し綻ばせると、俺に複雑そうな表情を向けて

 「う~ん、なるほどね。確かに最近、リルからも出会いの湖であの日、城から居なくなったリオンを見つけたとき、一緒にいた男に一週間徹夜したんじゃないのかっていうぐらいの酷い顔をされたって言っていたし....なんなら、その男は自分にあり得ないくらいの殺意を示していたとまで言っていたからね....しかも、あのリルがだよ...???いやぁ...リルからこの話を聞いたときは、リルでも怖いとか思うんだって心底驚いたね...。まぁでも、確かに僕の大事なアランに手を出すのは許せないかな???...軽く、右手の骨をポキポキッと数本折ってやりたいと思うくらいにはねぇ。(笑)って...はははっ、アラン!そんなに身構えなくても、ほんの冗談だって!!!あっと...とにかく....理由は大体分かったよ。いいよ。そういう理由なら、僕の店にいても。」

 と言って、ナノは手に付いたクッキーの粉を机の上で軽くはたくと席を立ち、ある一枚の紙を持って再びソファに腰を降ろした。

 ナノは冗談だと言っていたが....妙に作られた笑顔で話をしていたことが、意味深すぎて...全く冗談には聞こえなかった...ということは、ナノには黙っておこう...。

 俺は内心こんなことを考えながら、ナノの動きを目で追っていた。

 するとナノは、自身の持ってきた紙を俺に手渡すと、

 「とりあえず、これを書いてもらってもいいかな???....誓約書。万が一にでも、僕のこの店にアランがいるってバレたときに、僕が殺されないようにするためにさ???いくらリルと仲が良いからと言って....流石にこれぐらいはしておかないとね。ということで、はいペン。それと、しっかり指印も押しておいてね。」

 と、にっこりとした作り笑いでこう口にしたのだった。

 俺は、笑顔の綺麗すぎるナノから、恐る恐るペンを受け取ると、そのまま手元にある誓約書に署名をしてナノとの取引を終えたのだった。

 「全く....リルは一体何をしているのだか...。アランの話を聞いていてもそうだが、リルはアランに嫌われたいのか???あんな言葉でしかもあんな態度で....なんなら、あんなタイミングで....!!!!はぁ...そんなの例えリルが仕組んでいなくても、アランは勘違いするに決まっているじゃないか!!!!はぁ、仕方ない。僕が、ここでまた手を貸してやらないと、リルが落ち込む顔を嫌々見なければいけなくなるし...。まぁでも???ただ単純に、アランの居場所をリルに教えるだけでは...面白くないよね??(笑)いつもいつも俺に迷惑を掛けているリルに、仕返しをするには丁度良い機会だろう???それに、アランの話の中に出てきた青年も、きっとこの国の理不尽な制度のおかげで、悲惨な人生歩んでいるに違いないし???なら、これを機にリルには盛大に勇気を振り絞ってもらって、ついでにこの国の妙な政策にも、終止符を打たせようじゃないか!」

 俺から誓約書を預かり、そのまま仕事部屋へと帰って行ったナノが、内心こんなことを考えているとは、リビングでナノが残したクッキーと紅茶で、久々にまったり気分を味わっていた俺は夢にも思わないのであった。

 一方その頃、エルミナ国へ引き返しながらリルは、揺れる馬車の中でこんな事を考えていた。

 「はぁ、まだ城には着かないのか...???リオンに、もしものことがあったら俺は....。いや、まさかとは思うが....リオンは出会いの湖のあの男の所に行ったのではないのだろうか???だとしたら、相当まずい....使用人は信用ならない者が多いから、俺が忙しい公務の合間を縫ってあの男について色々と探ってみれば....あの男は、どうやら過去に国王である父上の手により、家族を皆殺しにされたっていう記録が残っていたではないか....。まぁ、本当は機密のファイルだから見てはいけないものではあったが....これは内緒だ。(笑)あっ....いや、笑っている場合ではないな。もしもあの男がリオンに接触した目的が、俺たち王族への復讐のためだとしたら....本当にシャレにならないぞ。リオンが人質に....いいや、それならまだ良いほうだ。もしもリオンが殺されるような事になれば....。それなら....本当に急がなければまずいぞ....最悪の場合、取り返しのつかないことになる。」

 リルは脳内でリオンの最悪の状況を想像すると、馬車の手綱を持った男に

 「おい、馬車のスピードをもっと上げろ!!!!急いでくれ!!!リオンが危険な状態かもしれないんだ。...報酬なら、いくらでも払ってやる。...お願いだ。それに....お前も、明日の朝日は拝みたいだろ???」

 と大きく...だが、どこか圧のある声色でこう声をかけると、俺の先ほどの発言が恐ろしかったのか、それとも単に寒かったのかは定かではないが、男は震える声で

 「かしこまりました。リル王子。早急にお城へと到着出来るよう最善を尽くします。」

 と言って、力強く手綱を振るうと、馬が小さくうめき声を上げ、先ほどよりも速く馬車を走らせ始めたのだった。

 そんなリルの心情を表現するかのように、薄暗くなり始めた空からは、ぽつぽつと小雨が降り始めていた。

 「はぁ....やっと民放体操が終わった。全く、リル王子って意外にも天然なのか???まぁ、貴族様の私生活など、俺は微塵も興味はないがな。さぁて、じゃあ民放体操も済んだことだし???王子の可愛い可愛いお姫様を、ゆっくりと犯すとするか。(笑)」

 その頃...民放体操を律儀に終えたロファンは、リオンが大人しく家の中で待っていると思い、にやにやと嬉しそうな表情を浮かべ、玄関のドアを開いたが....当然、家の中にリオンの姿は何処にもなく、ロファンは眉間に皺を寄せると

 「あいつ....俺を馬鹿にしやがって!!!!...リオン。一体、何処に行きやがったんだ!???くそっ、絶対逃してなるものか!!!あの忌まわしき王族に復讐するためには、リオンがいなければならないんだよ!!!!!なんとしても、どんな手を使ってでも、リオンをこの手に....!!!!ははっ、王子の大切なものを奪って、俺と同じ苦しみを味わわせてやるからな。クククッ。あはははははははは!!!!待っていろ!!!必ず、俺の手でお前を....お前らに苦しみと絶望を!!!!」

 と大きな笑い声を上げて、リオンの行方を追うために、深い森を勢いよく下り出したのだった。
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