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第三章 「王子とロファン...それと俺。」

「すれ違う二人...。」

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 よし!!なんとか誰にも見られることなく、この城を抜け出すことが出来たぞ。

 とりあえずは、「出会いの湖」に足を運ばないとな。

 俺はこう考え、まだ朝も早い時間から「出会いの湖」を目指して、少し重たい荷物を抱え歩き出したのだった。

 まだ城にリル王子がいるのに、城を抜け出してバレないのかって...????

 バレるわけがない。

 何故なら、リル王子が公務に行く際の支度は、使用人が必要なものを全て用意してくれるのだから。

 これまでも何回か泊まりがけで公務にいくところを見ていたが、毎回仕事に出かける前日は俺のいる部屋には帰ってこないのを見ていた。

 昨日の話とこの事を合わせて考えれば、リル王子は俺がいなくなったことに気付く可能性は極めて低いだろう...まぁ、俺がいなくなったところで、リル王子の暇つぶしが一つ無くなるだけだし。

 双方にとって、大した問題ではないだろう。

 公務前に俺のいる部屋に帰ってこない理由は、王室に暮らして暫く経った今でも、さっぱり分からなかったけどな...。(笑)

 一度ナノに聞いた話では、何でも俺に暫く逢えなくなることが寂しいから、わざとそうしているんだと....。

 いや、純粋に気持ち悪いわ....。

 ナノも、よくそんなこと平気で言えるよな~なんて、その時は真面目に思ったし。

 まぁ、ナノは言った後に笑ってたから、勿論冗談だろうけどな。

 ...はぁ...冗談なのか......いや待て!!!!

 冗談って言葉を自分で思ったくせに、なんで俺シュンとしてんだよ!!!

 それで良かったじゃないか!!!!

 むしろ好都合だろ!???

 あ~、もしかして俺って気がついていないだけで、本当は男が好きとか....???

 いやいやいやいや、あり得ない。

 それはマジであり得ない!

 断固拒否しても大丈夫だろう!!!うん、大丈夫だ!!!!

 なんなら、針千本飲んでやっても....いや、やっぱりそれはやめておこう...。

 こう独り頭の中を騒がしくさせながら、俺は目の前に見えてきた緑の綺麗な森の入り口を何のためらいもなく、ずんずんと....あっ、一応女の子だし...しとしとと歩いていった。

 そうして暫く歩くと....目的の場所が見えてきた。

 あの夕刻....あの青年に....ロファンに出会った湖が....。

 朝の湖は、思っていたとおりやっぱり少し冷えるな...。

 なんて考えながら、自身の体を軽く擦りなんちゃって寒風摩擦をすると、湖の縁に腰を下ろし、そっと目を閉じた。

 この時の俺は、肉体的にも精神的にも大分疲れていたんだ....。

 約一ヶ月間、俺には似合わない煌びやか世界で急に暮らせって言われて、俺の大好きな母親にも会えない...。

 それどころか、母親の世話をしてくれているナシェルおばさんにも.....ほんと、迷惑掛けてばかりだ。

 少しの間、目を閉じていた俺は、これまであったことを思い返していた。

 暫くそうしていると、そんな俺の背後からそっと近づく足音と共に、良く見知った声が聞こえてきた。

 「あっ、リオン????やっと来てくれたんだね!!!!ずっと逢えるのを、楽しみに待っていたんだよ???もしかしなくても、あの城で....リル王子と何かあったんだよね???まぁいいや。とりあえず、僕の家においで。ここは深い森の中で、朝方は特に冷え込むからね。そんな薄着で、そんな華奢な体では風邪をひいてしまうよ。」

 こう言った声の主に、俺はぱっと閉じていた目を開き

「この声は...ロファン...様!???こんな朝早くに、何をしているのですか!??」

 と言って、背後に立つロファンを勢いよく振り返った。

 そんな俺の様子にロファンは、苦笑を浮かべながら

 「待って!それはこっちの台詞だし...そんな堅苦しい名前の呼び方は、やめて欲しいな...。ロファンでいい。いいや、ロファンって呼んで。」

 と言い、湖の縁に座る俺に遠慮無しにと近づいてきた。

 ロファンの様子に少し恐怖を覚えたが、そんな俺の不安を拭い去るように、ロファンは座っている俺に近づくと優しく手を差し出してきた。

 「リオン???...さぁ、早く俺の家に行こう??そして...あの忌まわしき城で何があったのか、じっくりと話を聞かせてくれないだろうか??」

 ロファンの何気ないこの言葉に俺は、一瞬思考が停止してしまった。

 こいつ、今なんて言った???

 ...表情は笑顔だし......でも、俺に向けられている笑顔は、どこか意味深な雰囲気を纏っている...。

 しかも、さっきのあの『忌まわしき』ってどう言う意味なんだ...。

 ロファンは、城とは無関係の人物だろう???

 なのになんで忌まわしきなんて...そんな酷い言葉。

 なかなか手を取らない俺に対して、不信感を抱いたのかロファンは、次の瞬間俺の腕を乱暴に掴むと、半ば強引に俺のことを立ち上がらせ、一言...

 「リオン...大人しく俺の言うことを聞け。...さもなくば、お前も道ずれだ。」

 と微かに聞こえるか聞こえないかほどの小さな声で、呟いたのだった。

 俺には、悪巧みをするロファンのこの声が聞こえていなかった...。

 だが、俺はこの時、この発言を聞いていなくても、さっさとロファンの元から逃げるべきだったんだ。

 ロファンは、反エルミナ派の人間で......昔、俺と同じように自身の家族をこの国に皆殺しにされた過去を持っていたのだから。

 更に、この森に住んでいる住人は皆、エルミナ国の方針に反対している反撃派だったのだ。

 俺は、まだ知らなかった...。

 俺のこの軽率な行動が、リル王子並びにエルミナ国全体を巻き込む、一大騒動を引き起こすことになるなんて...。
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