ダメな私と吸血鬼

日向 ずい

文字の大きさ
上 下
4 / 62
第1章 「出来損ないの私。」

私の執事。

しおりを挟む
 外が真っ暗になり、小さな月明かりが窓から差し込む薄暗い部屋の中で目を覚ましたエピーヌは...
「...ん??...うっ...あっ...背中が...焼けるように...あつい...はぁ......はぁ...。」
 お昼に実の父親であるジャルースに、何度も切り付けられた背中にひどい激痛を感じ、顔を歪めた。
 エピーヌは、やっとの思いで立ち上がるとゆっくりと姿見の前まで行き、自分の背中を見た途端、言葉を失った...。
「...っ!?......あっ...うそっ...これじゃあ...もう...ドレスも...着ることが出来ない...。(泣)」
そう...エピーヌの背中には...大きな...✕(バツ)のマークが深く深く刻まれていたのだ...。
 エピーヌは、目に涙を溜めて、その場に力なく座り込むと、静かに泣き出した...。いつも...エピーヌは、自分が受けている虐待の数々を、人に知られたくなかったのだ...だが、その望みは、呆気なく打ち砕かれた...。
 コンコンッ。
とノックの音が響きエピーヌは、肩を震わせた。
「...(ビクッ...!!)はっ...はい...少々お待ちいただけますか...?(汗)」
そう言ってエピーヌは、その場から立ち上がると急いで何か羽織れるものはないかと部屋を見渡した...が、その瞬間に部屋のドアが開いた。
 エピーヌは、咄嗟に近くあったバスタオルを体に羽織ると
「はっ!!だっ...だめ!!!...まだ、入っては!!(汗)」
と言った声も虚しく、若い男が一人入ってきた。
「失礼致します。...エピーヌ様...どうかなされましたか...??」
と言って部屋に入ってきた男...ショコラは、エピーヌが大きな声を上げたため、訝しげな顔をしていた。
 そんなショコラにエピーヌは
「...いっ...いえ...、別に大したことでは...。」
と言ってショコラから目線を外した。
 そんなエピーヌにショコラは
「そうですか...ん??...何故電気も付けずに、バスタオルを羽織られているのですか??」
と言って月明かりに照らされたエピーヌを見て、不思議そうな顔をしていた。
 そんなショコラにエピーヌは、少し焦った様子で
「...えっと...さっきまでお風呂に入っていたの...、だから...その...それよりも、ショコラは、何か用なの??」
と言って咄嗟にショコラに質問し返した。
 そんなエピーヌの様子にますます怪しさを感じたショコラは
「...ちょっと...よろしいですか...??とにかく電気...付けますね...!!」
と言うとドアの横にある部屋の電気のスイッチを押した。電気がついて部屋が明るくなった瞬間...ショコラは
「...エピーヌ様...??...あっ!...血...が...。(汗)」
と言い、険しい表情をエピーヌに向けた...視線を、向けられたエピーヌは
「えっ...??あっ!!...こっ...これは、その...ちょっと擦りむいたところを拭いた時に、きっとついたのよ...!!(汗)」
エピーヌの苦し紛れの言い訳も虚しく...ショコラは
「...え...それにしては...タオルが赤すぎる...エピーヌ様...。...誰にも言わないので...そのバスタオルをとって頂けないでしょうか...??」
と言った。
 そんなショコラにエピーヌは、首を横にブンブンと振ると
「...いや、それは...出来ないわ...。ショコラも...一つや二つ...知られたくないことぐらい......!??」
 エピーヌは、ショコラを何とかして部屋から追い出そうと必死で会話をしていたが...いつの間にか、エピーヌの目と鼻の先に立っていたショコラに、エピーヌが羽織っていたバスタオルが取られてしまった...。その瞬間、エピーヌの恐れていたことが起こった...もう逃げられない...。
 バスタオルをとった瞬間...顔から血の気が引いたショコラは、目の前にいるエピーヌに
「...はっ!!...こっ...これは...ひどい...。...エピーヌ様...これは...この傷は...ご自分でやられたものではないですよね......。(汗)一体...誰が...何があったのですか...??...あっ!!そんな事よりも、まずは、手当てを先にしなければ...。(汗)」
こう言って、エピーヌの真っ赤に染まった背中に触れようとした瞬間...エピーヌが、とても悲しい声で
「...もう...疲れたよ...ショコラ...。部屋を出て...今夜...この傷を見たことは、黙っていて...。出ないと...貴方にまで、被害が...。(泣)」
そう言ったエピーヌの目には、涙が溜まっていた...。
 そんなエピーヌにショコラは
「...何を言っているんですか...!!(汗)そんなこと、出来る訳がないじゃないですか!!...エピーヌ様...ちゃんとお話は、後で聞くので...今は、私に一刻も早く...傷の手当てをさせてください...。」
と言ってエピーヌの肩を掴んだ。
 そんなショコラにエピーヌは、泣きそうな顔をして
「...だめだよ...。ショコラは、大切な人なんだから...だからこそ...ショコラには、こんな目にあって欲しくない...。私と話して...消された人のこと...。ショコラも知っているでしょ...??...私と、関わっただけで、殺されるのに...傷の手当てをしている所がバレたら...。ショコラ...あなたは...。」
と言って、ショコラをじっと見つめていたが耐えきれなくなり、エピーヌは、目線を下にずらした...。
 そんなエピーヌにショコラも泣きそうな声で
「...エピーヌ様が思われていることと同様に、私もエピーヌ様のことを...大切な主だと思っております...。私も、エピーヌ様の傷つく姿を黙って見ていることなど出来ません...!...これは...私が、個人として行う行動であって、命令ではありません...。...なので、エピーヌ様が責任を感じる必要は、一切ないのですよ...!(泣)」
と言うショコラは、エピーヌの顔をみて、ニッコリと微笑んだ...。だが、どこか切なげで...でも、口調は...とても優しかった。
 そんなショコラにエピーヌも笑いかけると
「...ショコラ...。ショコラは、他の人間とは...違うね...!(笑)...ありがとう...でも、大丈夫だよ...。ショコラ...私は、独りで今まで生きてきたのだから、本当に大丈夫!!...だから、私をおいて部屋の外に出て...早く...。」
 そう言ったエピーヌは、どこか焦った様子だった。
 そんなエピーヌにショコラは
「...エピーヌ様は、私の話を聞いていらっしゃいましたか??(汗)」
と言って質問するとエピーヌは薄く笑い
「...うん...聞いていたよ...。...つまり、命令なら、きくってことだよね...??...これは命令よ!!」
と言ったエピーヌにショコラは、慌てて
「...やめてください!!(汗)...エピーヌ様...次の言葉を、発してはなりません...!!(汗)」
と言ってエピーヌを止めようとしたが、エピーヌは、そのまま言葉を紡ぎ続けた。
「...ショコラ...部屋を今すぐに出なさい...!!...私をおいて...何も見なかったことにして...!!(汗)」
と言うエピーヌの額からは、背中に受けた傷のせいか...大量の汗が流れ出していた...。
 そんなエピーヌの様子にショコラは
「...や...です......イヤです!!(汗)」
と言って必死にエピーヌに訴えかけた。
 だが、エピーヌは、じっとショコラを見つめると
「...聞こえなかったの??...これは...命令...決して逆らってはいけない...。それぐらい...あなたも分かるでしょ...??(汗)」
と言うエピーヌは、困った顔をしていた。
 そんなエピーヌにショコラは、じっと真剣な表情を向け
「...エピーヌ様...お願いです...。(汗)命令を...撤回して下さい...!お願いします...!!(汗)」
と言った瞬間...エピーヌが苦しそうに顔を歪める姿が、ショコラの目に入ってきた...。
 エピーヌは、なかなか部屋から去ってくれないショコラに、最後の力を振り絞り
「...はぁ...命令よ!!...早く...でっ...て...い...うっ.........バタンッ。」
言葉を必死に紡いでいたが、既に体力は、限界を超していた...。エピーヌは、最後まで言いきる前に、力なく床に倒れ込んでしまった...。
 倒れたエピーヌにショコラは、途端に焦った表情を更に強くし...
「...!?...エピーヌ...様...??...エピーヌ様!!!(汗)」
呼びかけても反応の返ってこないエピーヌに、慌てて駆け寄ったショコラは、必死でエピーヌの名前を呼び続けた。
 そんなショコラに対して、今にも意識が飛びそうになっているエピーヌは
「...はぁ...はぁ...命......令......よ...。」
と言ってまだ自分の事よりショコラの心配をしていた。
「エピーヌ様...喋ってはなりません...。これからも...私は、エピーヌ様の執事として大人になっていくエピーヌ様をずっと見ていられると思っていましたが...それももうすぐで、叶わなくなるのですね...。(泣)エピーヌ様...あとすこしだけですが...こんなダメな執事と共に過ごしていただくことを...お許しください...。エピーヌ様......××××...。」
 ショコラの、最後の言葉を聞き終わる前に、意識を失ったエピーヌ...心の中で、きっとショコラは、近いうちに私の元を去っていく...。やっと分かってくれた...。私といる事で...ショコラの人生が台無しになっていることを...。今までありがとう...。そして、さよなら、ショコラ...。と言って光のない真っ暗な闇の中へと落ちていった...。
 部屋に残っていたショコラは、何かを決心するとエピーヌの傍から立ち上がり、足早にどこかに向かうため、エピーヌの部屋を後にした...。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ダメな私と吸血鬼〜我が屋敷へようこそ〜

日向 ずい
ファンタジー
出来損ないの私と親バカな吸血鬼、その仲間達が繰り広げるコメディー要素も入り交じりの、はちゃめちゃファンタジー!今回は、招かれざる客が現れる...魔界でのパーティーが物語の舞台。 登場人物達に降りかかる様々な試練とは...!? 前作『ダメな私と吸血鬼』の続編ストーリーになります。 こちらから読んで頂いても、きっと少しは、楽しんで頂ける作品になるのではないかと思います!!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...