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第2章 「狂い出す関係。」

「ぶん太の過去。」

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 俺が恋さんを好きになったのは...忘れもしない、高3の夏のオープンキャンパスだ。

 俺は、ドがつくほどの田舎に住んでおり、都会に出たのは片手で数えられる程しかなかった。

 そんな俺が何を考えたのか、難関大学で有名な誠京(せいきょう)大学...通称、誠大のオープンキャンパスに参加したのだ。

 今思えば、これは運命の出会いだったのかもしれない。

 慣れない都会の電車や地下鉄に悪戦苦闘して、ようやく大学に到着した。

 俺の親は、当然来てくれるはずもなく...というより、今まで散々妹の世話から家の事まで、全部任せられてきたんだ。

 親と一緒にどこかに行くなんて...真っ平だよ。

 だから、俺は親には内緒にして一人でオープンキャンパスに参加していた。

 でも、思った以上に大学は広くて......それはもう広大で......迷わないはずがない。

 むしろ入学して1ヶ月間は、講義室の場所を特定するので遅刻するという、一見冗談にしか聞こえない噂も、この広さを見れば、180度変わる...。

 そして、これまた当然のように迷った俺は、不安から早く開放されたい一心で、相談コーナーのブースにいた茶色の髪の毛が特徴的なカッコイイお兄さんに声をかけたのだった。

 それが運命の出会いであった。

 「あの....すみません、ここのブースに行きたいのですが....場所が分からなくなってしまって...。」

 遠慮がちに聞いた俺の言葉に振り返った茶髪のお兄さん(恋さん)は、微笑みながらこう言ったんだ。

 「ん???あ~、分かる分かる!!!!俺でも変わった講義を履修したときに、講義室が何処それ!???って、なること日常茶飯事だし....。えっと、それで、何処のブースに行きたいの???」

 俺は、恋さんの笑顔が綺麗すぎたのと、親しみやすい話し方に完全に惚れてしまった。

 そんな俺の様子に首をかしげた恋さんは、近くに居たこれまた美人のお姉さんに

 「ちょっと、俺この超絶可愛い子と今からデートしてくるわ!!!だから、少し居なくなるけど、先生とかには上手いこと言っといて!!後で、上手いものおごるからさ!じゃ、よろ!!!」

 と言って、あきれ顔のお姉さんをほったらかしにすると、じっともじもじしていた俺の手を取り、さっさと歩き出したのだった。

 俺は、突然の事に思考回路が完全に停止していた。

 そんな俺には、おそらく気付いていないのだろう。

 恋さんは、歩きながらぎゅっと俺の手を握り

 「ねぇ、君ってどこ高校から来たの???その制服ここらへんの高校の制服じゃないからさ??」

 と言ってきた。

 俺は、心臓のドキドキ音を聞かれたくなくて、恋さんの質問に普段滅多に出さない大きな声で

 「えっと、岩崎高校です。あの...ど田舎の....高校で、多分分からないと思いますが!!!」

 とまぁ、それは近くを歩いていた人たちが振り返るほど盛大に....。

 俺は、やっちまったと思って、みるみるうちに顔が熱くなる感覚に襲われた。

 きっと恋さんも、こんな変な奴とは一緒にはいれないって言って....。

 そう思った時だった。

 恋さんが、俺に負けないような大きな声で

 「えっ!?????君、岩崎高校の子なの!???マジ!??小学校の友達が、そこの高校通ってたらしいんだけどさ???そこって、勉強をリスタートできる所なんだろ????友達が聞いたら喜ぶと思う!...というよりも、さっきからぼそぼそしゃべっていたから、体調悪いのかと思っちゃった。いいじゃん、声綺麗だし、もっと自分に自信持ちなよ!!!!それで、すっかり変わった姿で、俺とこの大学で一緒に学ぼう??....あっ、そうだ!!ここで逢ったのも何かの縁だよね!!!だから、これあげるよ!この大学に入学したときに返してくれれば良いから!約束だよ??」

 と長々と話をすると、急に足を止めて俺を振り返り、恋さんは薄汚れた小さなイヌのマスコットがついたキーボルダーを俺にくれたのだった。

 俺が困った顔をすると、恋さんは俺の頭を優しく撫でながら

 「それな...俺が、高校入る前に俺の大切な子がくれたものなんだ。それがあったから、俺は高校も大学もパスできたと思っている。それじゃ頼りないかもしれないけど、お守りとして側に置いててくれると嬉しいな~。なんてね!.....さぁ、ここが君が探していたブースだよ!!!また逢えること楽しみにしてるね!じゃ、オープンキャンパス楽しんで!」

 と言って、俺がお礼を言う前に走り去ってしまった。

 その日からなんだ。

 小学校も中学校も、ろくに勉強していなかった俺が、この難関大学に本気で挑もうと心に決めたのは....。

 そうして猛勉強の末....俺は、恋さんとの約束を果たすためにあの日見た....自分とは無縁だと思っていた大学の門を、その大学の在学生という形で、くぐり抜けたのだった。

 そう....恋さんには、まだあの日預けてもらっていたイヌのキーホルダーを返すことが出来ていない。

 ....いや、正確には返せなくなってしまったという方が正しいのだが....。
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