上 下
106 / 147
第14号 「俺にしなよ...。」

「能天気馬鹿の魔法再び。」

しおりを挟む
「それで...琉架......お前が大好きなミルクティーを、秒で飲み干さないなんて...一体どうしちまったんだ???(笑)」
 家にたどり着き、坂沢の部屋に入った琉架は、入口のすぐ横にある壁に力なくもたれて座りこんだ。
 坂沢は、自らのベットに腰を下ろすと、コンビニの袋を漁り、先程買ったばかりのまだ冷たいエナジードリンクを開け、ひと口煽った。
 そうしておもむろに、琉架へと目線を移し、いつものおちゃらけた調子で質問した。
 そんな坂沢の様子に琉架は、何を言うでもなく、ただ目から一筋の涙を零れさせた。
「...。(泣)」
「...っ!!(汗)(おいおいおいおい...なんで泣くんだよ...!!(汗)泣かせるつもりじゃなかったのに...!!)」
 坂沢は、琉架の様子に自らの失言を思い、慌てて口を引き結んだ。
 そうして沈黙のまま、小一時間が過ぎ去ろうとしていた時、琉架がゆっくりと口を開いた。
「その...ミルクティー...ありがとう...。」
 静かな部屋にも、聞こえないほどの消え入りそうな声でこう言った琉架に坂沢は、ただうっすらと目を細めて
「...あぁ、いいよ!(笑)...というより、約1時間ぐらい無言だったこの状況で、第一声がそれかよ!!(笑)」
 と言って、ケラケラ可笑しそうに笑い返すのだった。
 そんな坂沢に琉架は、さらに言葉を続けた。
「...ねぇ、坂沢...。どうして...坂沢は、そんなに明るいんだ...??まるで...太陽のように...。どうして...俺と一緒にいてくれるんだ...??」
 琉架は、とても弱々しい声でこう言うと、落としていた視線をゆっくりと上げて、坂沢を見据えた。
 そんな琉架の様子に少し悩んでから、坂沢は照れくさそうにこう答えた。
「うーん、何でかな...??こう...琉架と一緒にいるとな...温かいんだ...。(照)なんでか分からないけど...。でもな...他の奴らとは違う何か...何かこう...不思議な温もりに包まれているようで...。って何言ってんだ俺...。(汗)..くそっ....なんか気恥しいな...やっぱり慣れないこと言うもんじゃねぇよな...。(照)俺が、明るく見えてるってのは...きっとお前の思い過ごしだよ...。(笑)俺だって、毎日毎日色んなこと考えて...ヘコんで...それでまた考えて...落ち込んで...まるで、グラフに浮かぶ軸のように、ユラユラと心が揺れている。...もちろん...今もそうだ...お前のことを慰めたっ...いや、なんでもない...今のは...忘れて!!(汗)」
「...温かいもの...に、包まれているような...。確かにそうだった...。俺も、亜衣希さんのそばに居ると、自然と心がホッコリして...。(笑)なぜだか分からないけれど...。それでも、気持ちが落ち着いて...。ひと言で言うと...心地が良いってこういう事なんだって分かるほどに...。『...うん。(汗)』...でも亜衣希さんが倒れる前から...その温かさが、いつしか冷めきって...とても冷たいものへと変わっていった...。(泣)最近...亜衣希さんの近くにいると毎回、心が凍るような冷たさに襲われて...っ!!(汗)...ごっ...ごめん、こんな訳分からない話して...。(汗)坂沢、退屈するよな...!!(汗)もっと面白い話に...!『ううん、俺にとっては十分に興味のある話だから、そのまま続けて???嫌じゃないなら...ね??』...うっ...うん。(汗)」
 琉架が坂沢をじっと見つめたまま、視線を離さず...でも、決して坂沢とは目を合わせずに、つらつらと口から言葉を紡いでいた。
 だが、しばらくして我を思い出したようにはっとした琉架は、慌てた様子で坂沢に自身の弱さを知られたくなくて...誤魔化す意味でも謝った。
 坂沢はそんな琉架を特に気にした様子もなく、じっと真剣な...それでいて優しい表情で琉架を見つめていた。
 そんな坂沢に、すっかり凍りついていた心が、ゆっくりと溶かされていく...そんな安心感を感じた琉架は、頷くと続きを話し出した。
「それで...亜衣希さんが、救急車で病院に運ばれたその日の朝についに...俺の心は、氷のように...完全に凍りついてしまって...。(泣)気づけば、亜衣希さんとすれ違ってて...。そこから...そこから...。うっ...ううっ...。(泣)『そっか...。...琉架は、よく頑張ったよ...。俺は...その場にいたわけじゃないし...それに、お前に会いに行ったあの日だって、俺はエスパーじゃないから、何があったのかなんて分からない...。(汗)でも...琉架は、きっと頑張っていたんだと思う...。少なくとも...俺はそう思うよ...。』...。」
 こうしてベットから立ち上がると、坂沢は琉架の方へと歩いていき、部屋の壁に体重を預けて隣にそっと腰を落ち着かせた。そんな坂沢に琉架は溢れてくる涙を知られたくなくて...ぐっと唇を噛み締めていた。
 だが、坂沢の次の言葉で、琉架のそれは自然と目の奥に引っ込むこととなる。
「琉架...琉架の事を、ずっと見てきた俺だから分かるよ...。こんなタイミングでこんな事言うのもどうかと思うけど...この際だから...言わせてもらう...。...琉架...いいや、姫崎るかちゃん...。(笑)『...っ!!なんでその名前...お前は、気づいてなかったんじゃ...。(汗)』...はははっ、そりゃ気づくよ...。だってお前...あれだけテレビや雑誌に出てて、ず~っと傍にいる俺が、気づかないわけないだろ???(笑)...言ってくれてもよかったのになぁ~!(笑)」
 こう言って、驚いた顔を自分に向けてくる琉架の肩を、笑って軽く叩くと坂沢は、琉架に向かってさらに言葉を続けた。
「俺な...お前が俺に言ってくれるまで、黙っとこうと思ってたんだ...。でも、お前は今まで1回も俺に言ってくれたことは無かった...。うん...それは何となく、わかってたんだ...。(笑)性別を偽ってモデルをするってことは...きっと何か、人に言えないような事情を抱えているんだって...。だから、本当は知りたかったけど...それ以上は咎めなかった。(悔)」
 隣でどこか寂しそうに笑う坂沢に琉架は、困った顔をしてすっかり乾いてしまった涙のことは忘れて、坂沢を見つめた。
「...坂沢は...坂沢は、いつから俺が姫崎るかだって分かってたんだ...?...一体いつから...俺の素性知りながら、黙って友達でいてくれたんだ...?(汗)」
「...いつからだと思う...??...そんなこと...俺も忘れちまったけど...。でも、お前が亜衣希っていう男に会っていた時には、既に知っていたかな...?(笑)」
「...そんなに早くに...。ごっ『謝んな!!何も悪いことしてないのに、謝る必要なんてないだろ???(笑)どうせなら、俺に最高に可愛い笑顔...見せてくれよ!...な!!(笑)』...うん...ごめっ...!いや、じゃなくて...。(汗)」
 「...っ!!!(照)」
 琉架は、再度坂沢に謝ろうとして、慌てて口をつぐみ、かわりに満面の笑みを坂沢へと向けた。
 その笑顔をダイレクトに受け取った坂沢は、どこか照れたように頬を赤らめて、咄嗟に琉架から目線を外したのだった。
「...。(いやいやいやいや、姫崎さん!??(汗)...それ...全身の穴という穴から出血多量で死ぬやつやで...!!(汗)...ほんとにこの子は...俺のことどうしたいんだか...。(汗))」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

思春期のボーイズラブ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:幼馴染の二人の男の子に愛が芽生える  

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

さがしもの

猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員 (山岡 央歌)✕(森 里葉) 〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です 読んでいなくても大丈夫です。 家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々…… そんな中で出会った彼…… 切なさを目指して書きたいです。 予定ではR18要素は少ないです。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

処理中です...