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第13号 「歪み出した日々。」

歪みを戻せ。 その2

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  亜衣希が声を上げて、壁を何度も殴りつける音は、寝室にいる琉架にも生々しく聞こえていた。
「...なんで亜衣希さんがあんなに嘆いているんだよ...。(汗)泣きたいし...暴れたいのは...こっちなんだよ!!!(怒)...自傷行為で助かった気持ちになってんなよな...。ほんとに...亜衣希さんのそういう所...卑怯で卑劣で...最低だ。...やっぱり大馬鹿者だよ...!!!(怒)」
 琉架は、こういうと亜衣希の壁を殴る鈍い音から、自らの気の迷いを消すために布団にうずくまり、耳をぐっと塞いだ。
 そうしてしばらくたった時、琉架はいつの間にか眠ってしまい、はっと目を覚ますと、ぼんやりとした頭で寝室を出るために扉を開いたのだった。
 扉を出て、直ぐに鼻についた鉄のような嫌な臭いに、思わず自らの鼻を服の袖で覆うと、真っ暗になった廊下の明かりを付けるため、玄関の方へとフラフラの足を進ませ向かった。やっとの思いで電気のスイッチを見つけ、ボタンを押し自分の歩いて来た廊下を振り返ると、そこには、部屋が暗くてさっきは気付かなかったが、真っ赤な血溜まりが家のそこらじゅうにできているのに気が付いた...。赤黒いそれは...自分が眠っている間に出来たものだということがわかるくらい...真新しいものだった。
 琉架は、その血溜まりを見た途端、ひどい寒気に襲われた。ガタガタと全身を震えさせ、赤い雫のあとがリビングへとのびているのを確認すると、壁に手を付きながら一歩一歩...ゆっくりとリビングへと足を進めた。どんどんと鉄の臭いも深くなる中...やっとの思いでリビングへと足を踏み入れた時、目の前の光景に琉架は、咄嗟に自らの口を塞ぎ、その惨さから目線を逸らした。
 琉架の目線の先には、真っ赤になった部屋の中央に、一際(ひときわ)大きな血溜まりができており...そこには、さっきまで言い争いをして、部屋から追い出したはずの亜衣希の姿があった...。だが、亜衣希の体にはあるはずのない無数の刺し傷があり、傍らには包丁が落ちていた。
 恐らく...亜衣希が自らの腹部に包丁を突き立てたと考えるのが妥当な傷だった。
 「...うっ...亜衣希...さん...?...ねぇ、亜衣希さん...??......亜衣希さん!!(汗)亜衣希さん...起きて!!...亜衣希さん!!!!!(汗)」
 琉架は、一度はそのあまりの生々しさから思わず目を逸らしたが、はっと我に返ると、血相を変えて、血溜まりの中で倒れる亜衣希に駆け寄った。
 何度も何度も必死に名前を呼んだ琉架の声は、真っ赤に染まり...鉄の冷たい臭いが漂う部屋に静かに響くだけだった。
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