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「䴇...お前は何を言っているんだ。」

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 俺は、作戦通り叶芽さんに連絡を入れて、シェアハウスに呼び出していた。

 叶芽さんに事実を...真実を伝えて、叶芽さんを咲季さんから救うためである。

 当然だが俺以外の人には、見つからないように隠れてもらっている。

 叶芽さんと一対一で話がしたかったからだ。

 そんな緊張の高まる俺の心臓を破裂させるタイミングで、玄関のインターフォンが鳴った。

 俺は、来た相手が分かったため、必死にドキドキと心音が響く自分の胸を抑え、玄関をドアを開けに向かった。

 ドアを開けるとそこには、訝しげな顔をしてドアの前に突っ立っている叶芽さんがいた。

 俺は、叶芽さんに家へと入るように言うと、さっさとリビングに案内した。

「叶芽さん、すみません。わざわざ来ていただいて。実は、この場所で叶芽さんに直接お話ししたいことがありまして。俺は、今まで、あなたに復讐するためにあなたの手となり足となり動いてきました。『...っ!!』俺は、叶芽さんが兄ちゃんの大切な人だって事も知っていました。最初は、自分の兄を...親を取られたのですから、酷い嫉妬に駆られました。でも、兄ちゃんの顔を見ていると、叶芽さんがなくてはなら無い存在なんだって...叶芽さんがいた方が、兄ちゃんから苦しいという悲痛な心の叫び声が、聞こえない気がしたんです。だから俺は、いつしかあなたに兄ちゃんの全てを任せるようになっていました。でも、ある日兄ちゃんが傷だらけで帰ってきたとき、私はあなたのことをこの世で殺してやりたいほど憎みました。そして、その日から兄ちゃんを傷つけたあなたを許すまいと思い、あなたへの復讐のために生きてきました。ですが、今の私はあなたに謝らなければならない。俺は、貴方が兄ちゃんのことを片時も忘れずに、ずっと突然いなくなった兄ちゃんの事を心で思い続け、狩人を潰して兄ちゃんの敵を取るために、大学に居続け狩人の元で動いているんだってことを知りました。俺は、最低な人間です。叶芽さん、ここであなたにこの事を話したのは、これ以上兄ちゃんのことで苦しんで欲しくないからです。兄ちゃんも、きっとこんな事望んでいない。なんて...俺が言えた太刀でも、ないんですけどね...。叶芽さん、俺はもう十分です。叶芽さんが兄ちゃんのことこんなに思ってくれているのだと知って、俺は本当に嬉しかった。兄ちゃんは、いい人に出会ったなって。心からこう思ったんです。」

 俺が、話し終えると目の前の叶芽さんは、どこか湿った笑い声を漏らした。

 そして向かいに座る俺のことを、真っ直ぐに見据えこう言ってきたんだ。

「...䴇??お前は、何を言っているんだ。俺が、自己中の十希のために大学に残っているだって???ハハハッ...馬鹿言うな!!!そんなことある訳ないだろ???なんでもかんでも、都合よくお前の考えていることが正しいと思うな。言われた方は目障りだ!!『ちょっと待って!!!䴇にそんなこと言うなんて俺が許さないよ???』...えっ、十希!?なんで、ここに??だって、十希は大学をやめて...もうこっちには、帰ってこないはずだったんじゃ...。『うん、そのつもりだったんだけどね...??このシェアハウスの人たちが、䴇が一番苦しんでいるから会いに来いって俺の家まで特定してわざわざ会いに来たんだよ。そして俺は今ここにいる。......ありがとう、叶芽。叶芽のおかげで䴇とも真っ正面から向き合えるようになったんだ。それと、勝手に大学をやめてどこにいくかも告げずに突然...姿を消して、卑怯な手を使ってしまって本当にごめんなさい。』...いや、そんな事どうだっていいんだ。十希...会いたかった。ずっと、お前のぬくもりが恋しかった。十希、こっちに来てくれないか。お前に触れたい。ほんの少しでもいいから......お前を抱きしめたいんだ...頼む。」

 俺の言葉に、しらばっくれた叶芽さんに痺れを切らした兄ちゃんが、俺の背後から姿を見せた。

 突然現れた兄ちゃんに、目の前の叶芽さんは思考が追いつかないようで、明らかに動揺していたが、十希の声を聞いた瞬間、叶芽さんの目からは、今にもこぼれ落ちそうなほど、涙が溜まっていた。

 そんな叶芽の様子に、十希は叶芽に近づくと、叶芽の身体をぎゅっと力強く抱きしめた。

 そして俺の見守る中、震える声でこう言ったんだ。

「叶芽、本当にごめん。俺も、君がいなかったこれまで...毎晩君が悲痛に何度も俺を呼ぶ夢を見て、そのたびに叶芽は、元気にしているんだろうか、叶芽は俺の事をもう忘れてしまっているのだろうか。なんてこと考えるようになって、気付いた時には、もう一度叶芽に会いたい。もう一度叶芽に触れたい。...こう考えるようになっていた。でも、同時に会うのがとてつもなく怖かった。叶芽に次会ったら、もう二度と会えなくなるのではないのか。叶芽は、もう他の人と結ばれているんじゃないのかって。そんなマイナスなことばかり考える様になっていて、正直言うと、いま叶芽に触れているのだって、叶芽との永遠の別れを言い渡されるためなんじゃないのかって思って、そう考えたら手の震えが止まらないよ。(汗)」

「十希、大丈夫だ。十希の事を、忘れるなんて事するわけ無いだろ??十希の他に一緒になりたいと思う人なんて、いるわけがない。十希が、帰ってきてくれること。十希をまた抱きしめられること。を、毎日願いながら生きてきたんだ。もしかしたら、もう逢えないかもしれない。と考えて、酷い喪失感に襲われることだって何回もあった。今、こうして十希を抱きしめられているのも、全部夢なんじゃないのかなって思って。そう思うと俺も、身体の震えが止まらない。」

 俺は、もう嫉妬なんてしない。

 だって、こんなに幸せそうな兄ちゃんの顔見るの、きっと初めてだから。

 俺には、こんな笑顔作り出すこと出来ないから。

 だから、叶芽さんともう一度話し合って、こうして再開を喜び合えて本当に良かったって思ってる。

 そうして、叶芽さんと兄ちゃんが再開を喜び合った後、俺は叶芽さんに例の話を切り出した。
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