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「素晴らしいお兄ちゃん。」
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俺は、十希さんを外に連れ出していた。
正確には、連れ出さなければならなかったという所だと思うが...。
俺が十希さんを外へと連れ出したのは、十希さんにあることが言いたかったからだ。
「十希さん。昨日は、大変失礼を致しました。あんな失礼なこと...人生できっと初めて言いました。私は今日の...さっきのあなたの様子を見て、涙がこぼれ落ちそうでした。お恥ずかしながら、私も昔あなたと同じように弟のような大切な存在の人がいました。今、一緒に暮らしている榛名 青波(はるな あおば)というんですけど。青波は、俺が小さいときに母親を失い、母親が亡くなったことを父親が受け入れられず、まだ幼かった青波に母親が死んだ責任をすべて押し付けられたんです。そんな青波に父親は暴力を振るうようになり、青波は私の家で一緒に暮らすことになりました。そんな私もまた、両親が共働きで、いつも孤独を感じて生きてきました。でも青波は、母親がいなくて気が狂ってしまった父親の元を離れて生活しているんだ。俺がさみしいなんて思ったらいけない......と思い、私は必死で青波の心の傷を癒やせるように小さいながらも、一生懸命に青波の事を考えて生きてきました。でも、ある日青波に言われたんです。『むりしなくてもいいよ。』って。俺はこの時、俺がさみしさから無意識のうちにしきりに玄関を見ていたことを、青波は知っていたのです。知っていながら、それを見て見ぬ振り、してくれていたんです。さっきのあなたの話を聞いていたら、自分も過去に同じようなことをしていたんだって。こう考えると、悔しさと、どうしようもない自身に対する不甲斐なさにかられてしまって、涙をこらえることに必死になっていました。」
俺の言葉に十希さんは、困った顔をしていたが、ひと呼吸置くと俺にこう言ってきた。
「私も初めてあなたを見たときは、なんなんだ。他人の心情も知らないで勝手なことばかりいいやがってって思っていました。えっと...。『あー、すみません。まだ、名前を名乗って無かったですね。私は、加来 鈴斗(かく すずと)といいます。』あっ、では、鈴斗さんに対して、怒りがふつふつと沸いてきて、気持ちを落ち着かせるのに苦労しました。でも、同時にこうも考えました。確かに、俺は䴇の事をずっと避けて生きてきたんだって。こう考えた瞬間、あなたに言われたことが、急に心に強く響いてきて、気付いた時には、䴇にどうしても会いたくなって、このシェアハウスまで来ていました。私は、出来ればあの子を助けたい。あの子は、叶芽に復讐しようと考えてこれまで生きてきた。でも、自分がずっと恨み続けていた相手は、実は被害者だったなんて事実を突きつけられれば、あの子は優しい子なので、きっと今度は自分の事を一生恨みながら、人生を過ごすようになる。だから、これまで我慢させてきた分、䴇には幸せになってもらいたいんです。どうか、私に鈴斗さんの力を貸していただけませんか??」
俺は、目の前で立ち止まり急に頭を下げた十希さんに戸惑いながらも、優しくこう声を掛けた。
「頭を上げてください。そんなこと言われなくても、シェアハウスのみんなは、初めからそのつもりです。彼の目的は聞きました。彼が、あのシェアハウスに来たのは、そういう運命(さだめ)にあったからだと思います。あのシェアハウスは、私が住み始めるずっと昔から心に何かしらの傷を負った人達が、入居してきていたようですから。(笑)だから、最初は怪しいと思っていても、やっぱり自分たちと同じで何か人に話せないような悩みを持っているのではないか。だったら、救ってあげるべきではないのか。こういう風に考えられるようになったのは、1年前シェアハウスにある一人の男の子が入居してくれたおかげなんです。みんな、その子に救われて今の自分たちがあるんです。でも、今その子は、シェアハウスにはいません。だから、私からもあなたにお願いがあります。その男の子をこのシェアハウスに連れ戻すために、協力していただきたいんです。」
「はい、勿論です。䴇を救う手伝いをしてくださるのであれば、何でもやらせていただきます。」
この会話とともに、俺と十希さんのある計画が立てられることとなったのだった。
正確には、連れ出さなければならなかったという所だと思うが...。
俺が十希さんを外へと連れ出したのは、十希さんにあることが言いたかったからだ。
「十希さん。昨日は、大変失礼を致しました。あんな失礼なこと...人生できっと初めて言いました。私は今日の...さっきのあなたの様子を見て、涙がこぼれ落ちそうでした。お恥ずかしながら、私も昔あなたと同じように弟のような大切な存在の人がいました。今、一緒に暮らしている榛名 青波(はるな あおば)というんですけど。青波は、俺が小さいときに母親を失い、母親が亡くなったことを父親が受け入れられず、まだ幼かった青波に母親が死んだ責任をすべて押し付けられたんです。そんな青波に父親は暴力を振るうようになり、青波は私の家で一緒に暮らすことになりました。そんな私もまた、両親が共働きで、いつも孤独を感じて生きてきました。でも青波は、母親がいなくて気が狂ってしまった父親の元を離れて生活しているんだ。俺がさみしいなんて思ったらいけない......と思い、私は必死で青波の心の傷を癒やせるように小さいながらも、一生懸命に青波の事を考えて生きてきました。でも、ある日青波に言われたんです。『むりしなくてもいいよ。』って。俺はこの時、俺がさみしさから無意識のうちにしきりに玄関を見ていたことを、青波は知っていたのです。知っていながら、それを見て見ぬ振り、してくれていたんです。さっきのあなたの話を聞いていたら、自分も過去に同じようなことをしていたんだって。こう考えると、悔しさと、どうしようもない自身に対する不甲斐なさにかられてしまって、涙をこらえることに必死になっていました。」
俺の言葉に十希さんは、困った顔をしていたが、ひと呼吸置くと俺にこう言ってきた。
「私も初めてあなたを見たときは、なんなんだ。他人の心情も知らないで勝手なことばかりいいやがってって思っていました。えっと...。『あー、すみません。まだ、名前を名乗って無かったですね。私は、加来 鈴斗(かく すずと)といいます。』あっ、では、鈴斗さんに対して、怒りがふつふつと沸いてきて、気持ちを落ち着かせるのに苦労しました。でも、同時にこうも考えました。確かに、俺は䴇の事をずっと避けて生きてきたんだって。こう考えた瞬間、あなたに言われたことが、急に心に強く響いてきて、気付いた時には、䴇にどうしても会いたくなって、このシェアハウスまで来ていました。私は、出来ればあの子を助けたい。あの子は、叶芽に復讐しようと考えてこれまで生きてきた。でも、自分がずっと恨み続けていた相手は、実は被害者だったなんて事実を突きつけられれば、あの子は優しい子なので、きっと今度は自分の事を一生恨みながら、人生を過ごすようになる。だから、これまで我慢させてきた分、䴇には幸せになってもらいたいんです。どうか、私に鈴斗さんの力を貸していただけませんか??」
俺は、目の前で立ち止まり急に頭を下げた十希さんに戸惑いながらも、優しくこう声を掛けた。
「頭を上げてください。そんなこと言われなくても、シェアハウスのみんなは、初めからそのつもりです。彼の目的は聞きました。彼が、あのシェアハウスに来たのは、そういう運命(さだめ)にあったからだと思います。あのシェアハウスは、私が住み始めるずっと昔から心に何かしらの傷を負った人達が、入居してきていたようですから。(笑)だから、最初は怪しいと思っていても、やっぱり自分たちと同じで何か人に話せないような悩みを持っているのではないか。だったら、救ってあげるべきではないのか。こういう風に考えられるようになったのは、1年前シェアハウスにある一人の男の子が入居してくれたおかげなんです。みんな、その子に救われて今の自分たちがあるんです。でも、今その子は、シェアハウスにはいません。だから、私からもあなたにお願いがあります。その男の子をこのシェアハウスに連れ戻すために、協力していただきたいんです。」
「はい、勿論です。䴇を救う手伝いをしてくださるのであれば、何でもやらせていただきます。」
この会話とともに、俺と十希さんのある計画が立てられることとなったのだった。
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