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「あなたにお話があります。」

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 十希さんは、いつまでも玄関で話すわけにはいかないと言って、会って間もない...しかも、突然押しかけてきた俺たちを、家の中へと入れてくれた。

 家の中に入ると、十希さんはみんなの分のお茶をいれて、居間へと戻ってきた。

 座布団に腰を下ろすと、俺の顔を見て、静かにこう言ってきた。

「それで、私に話というのは...。」

 俺は、改めて十希さんの顔を真っ正面から見つめると、静かに口を開いたんだ。

「夜分遅くに、こんな大勢で押しかけてしまい、大変申し訳ありません。実は、海紗良 䴇さんのことで、少しお話ししたいことがありまして...。」

 俺が、䴇の名前を口にした瞬間、十希さんの表情は、ひどく歪みだし、苦しそうな声でこう訴えてきた。

「あの、䴇が今どこにいるのか知っているんですか!???」

「...えぇ、今は俺たちが共同で暮らしているシェアハウスで、一緒に暮らしています。」

「そんな馬鹿なっ...!!!!!だって、あの子は、独りが大好きで、いっつも孤独を好んでいたのに。」

 俺は、お兄さんの鈍感さに腹が立ったが、ここで怒っても何の解決にもならないと思い、そのまま我慢して話を進めた。

「いいえ、本当です。私たちと一緒にシェアハウスで暮らしています。...初めは、凄くいい子で怖いぐらいでしたが...。彼も、やはり私たちと同じ人間であることが、一緒に暮らしているうちに分かりました。䴇くんは、あなたがずっと被ってきた仮面よりも、何倍も分厚い仮面を被って、これまでの人生を生きてきてたんですよ...。」

「そんな...仮面なんて。(笑)...一体誰から聞いたんですか??そんな話??『䴇くんですよ。䴇くんが、誰にも言わない約束で教えてくれました。』そんな...䴇が???あの子がそんなことを言ったんですか!???あり得ない。だってあの子は、それはそれは我慢を幼いながらもよく知っていて、俺を心配させまいと頑張ってくれていた子ですよ??そんな子が、そんな変な話するなんてあり得ない。」

 俺は、もう我慢の限界だった。

 だから、大人ではあるまじき行動を起こしたんだ。

「お前は馬鹿なのか!!!!䴇がどれだけ、あなたからの愛情を生きる糧にしていたのか......あなたは、まるで分かっていない。それどころか、一緒に暮らし始めて一ヶ月経つか経たないかの俺の方が、本当のあの子を知っているなんて可笑しな話だと思わないんですか!!!!!バカも大概にしてくださいね。俺は、今のアンタに一番ムカついているんですから!!!(怒)そんなあなたに䴇が今一番会いたがっているのが、あなただなんて...そんなこと死んでも教えたくなかった。明日、私たちのシェアハウスに来てください。そこですべてお話しします。でも、今のあなたに䴇の心に深くついた傷を拭えるはずがない。だから俺としては、シェアハウスに...䴇に会いに来ないでほしい。すみません、夜分遅くに失礼しました。...皆、話は終わった。この人は、こういう人なんだ。家族にまで、無理をさせるような最低な人間だったんだ。もう、話すことなんて何もないだろう??...帰るぞ。」

 俺は、こういうと皆が唖然とする中、さっさと外に出た。

 外に出た俺を追いかけてきて、俺の頬を思い切り殴ってきたのは、他でもない青ちゃんだった。

「鈴にー...、あれは俺たちが口出しして良い問題じゃない。鈴にーが、そういうこと一番よくわかっているだろう??なのに、なんであんな酷いこと言えるんだよ。いったいどの口が言ってるんだよ!!!(怒)見損なった...。」

 青ちゃんは、こういうと暗い夜道を走って行ってしまった。

 青ちゃんが、走って行ってしばらく経ったあと、十希さんの家から虎太郎と龍も出てきた。

 そして、頬を赤くはらした俺のもとに駆け寄ってくると、困った顔でこう口にした。

「どうしたの...!??なんだか、鈴斗さんらしくないよ!!(汗)いつも温厚な鈴斗さんが、あんなに怒るなんて。」

「でも、俺は鈴斗さんが怒った理由がなんとなくわかったぞ??だって、ずっと一緒にいた兄が、弟を苦しめていたことに全く気付かずに、それどころか、そんな䴇のわずかなSOSにまで気づいてあげられないなんて、今まで散々近くにいたのに、いったい何を見てきたんだってなると思うよ??...少なくとも、俺はそう思う。」

 俺は何も言えずに、ただとぼとぼと真っ暗になった夜道を歩き、今日泊まれる場所を探しに行くのであった。

 そんな俺の心情に気付いたのか二人は、それ以上何も言わずに、黙って俺の後ろをついてくるのであった。
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