秋良のシェアハウス 2 〜新たな住人??〜

日向 ずい

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「叶芽ちゃんのことは...。その2」

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 料理を運んできた十希は、バイトをしていたみたいで、その前に料理を運んできたパートの人は、

『...残さないでくださいね??...廃棄処分する身にもなってください。』

 と言って去っていった。

 多分、以前店に来た人が、同じようなことをして、料理にほとんど手をつけずに帰ったのだろう。

 ...色々考えながらも、大人しく家族全員分の料理が来るのを待つことにした俺の元に、最後に料理を運んできたのは...十希だったんだ。

 料理を机に置いた十希は、俺の顔を見てニッコリと微笑むと

『あの...俺もこの料理出したら、あがっていいって言われてて、家に帰っても食べるものないし...だから、もし迷惑でなければ、ご一緒させてもらってもいいですか?』

 って聞いてきたから、なんだろうこの人...とか思いながらも、嫌とは言えず、渋々了承したら向かいの席につくなり、手を挙げてバイトの女の子を呼ぶと、俺と同じ辛いカレーを注文したんだ。

 なにが目的なんだろう...とか最初の頃は警戒してたっけ...。

 注文して、暫くしてから十希が話しかけてきた。

「...なんだか、すみません。俺...今日はあまり家に帰りたくなくて。...あっ、なんか愚痴りそうなんですけど...『いいですよ...こんな俺で良かったら、はなし聞きますよ??』...あっ、いいんですか??...俺、遠慮しないんで結構長話しますよ??」

 俺は、本当なら死のうと考えているのだから、他人の愚痴など聞いている暇などないはずなのに...何故か、目の前の十希の話が猛烈に聞きたくなったんだ。

 俺がこういうと...十希は嬉しそうに微笑んで話をしてくれた。

「実は俺...早くに両親を亡くして...心に深い傷を負った弟に、これまで出来るだけ寂しい思いをさせなくないと、必死にアルバイトをして...美味しいご飯を作って、完璧な兄を演じてきたハズなんですが...。昨日の夜...弟が、俺がバイトから帰ると...電気も付けないで、部屋の床に体育座りをして丸まっていたんです。...俺が、『どうした??』って聞いたら、弟は、目に涙をためて、俺に勢いよく抱きついてきたんです。そして俺の顔を見るなり、一言『...兄ちゃん、その仮面を取って。その仮面を取って...僕の本当の兄ちゃんになってよ。』って。...その瞬間、俺は...完璧な兄の仮面が外れかけていたことに気付いたんです...。弟は、俺が無理してるってわかってたんでしょうね...。そんな弟に...俺は『...兄ちゃんは、これが本物で偽物なんてないんだよ??...䴇はいい子いい子。...兄ちゃんの心配をしてくれるなんて、ホントに優しい子に育ってくれてありがとね!』って言って、頭を撫でてあげたんです。そしたら、䴇は、俺の手を振り払って大声で『兄ちゃんの嘘つき!!』と言うと、玄関を飛び出して、外に出ていってしまいました。...朝方、俺が布団から起きると...机には『ゴメンなさい...兄ちゃん、大好きだから...もうどこにも行かないで。』という走り書きとともに、パインアメがひとつ置いてありました。...泣いている䴇を慰めるために、毎回与えていたパインアメを...俺が貰う日が来るなんてと思った瞬間、䴇には全てバレている...。こう考えてしまったせいで、家に帰るのが怖いんです...。笑えますよね...。」

 目の前の十希は、遠くを見つめていた。

 そんな十希に俺は、辛いカレーを食べる手を止めて、こう言った。

「いいえ、笑えないですよ。...いいじゃないですか。...愛されている証拠ですよ。...俺には、もう誰も愛を与えてくれる人なんて...居ないんですから...。兄弟喧嘩だって...仲直りだって...笑い合うことさえ出来ないんですから...。...だから、貴方と弟さんを繋ぐものが例え、飴玉ひとつでも...それさえあれば、あなた達は、兄弟喧嘩をした後の仲直りができて...また、兄弟喧嘩をして、最後は笑い合うことが出来るんですよ...!!!それなのに...その弟さんの繋がっていたいという気持ちを踏みにじるつもりですか!??弟さんは、親同然のお兄さんのことを、失いたくない...ずっと一緒にいたい...兄弟喧嘩をした後の仲直りさえも、幸せに感じている...少なくとも、俺は...こう考えることだって出来ると思いますよ!?...だから、そんな幸せな状況にあるアンタが、愚痴だと言って、俺よりも愛を持ってるくせに...グチグチ言うことが許せない!!!!...甘ったれんな!!!!!身近に居る...かけがえのない人を大切にしろ!!!この...贅沢者が!!!!...っあっ!!ごっ...すっ...すみません!!!!...でしゃばって偉そうなこと...『いえ、目が覚めました。...そうですよね...世界には、俺よりも...過酷で...愛に飢えてて...家族がいなくて...それでも、毎日必死に生きている人たちがいるってこと...考えてませんでした。...ほんとに...贅沢者ですよね...。』...いえ、ほんと...俺の言ったことは、気にしないでください!!!」

 俺は、こういうと席を立ち、目の前の十希に深く頭を下げた。

 そんな俺に、笑い声をあげた十希を不思議に思い、顔を上げると俺の髪の毛にカレーがついてたんだ。

 その瞬間...なんだか死ぬことが馬鹿らしくて...目の前の十希の笑顔が、キラキラしてて...こんな笑顔が死んだらもう二度と見られなくなるんだって思ったら、笑えちゃって...生きなきゃって思って...。

 その日...俺は、死ぬ事をやめた。

 十希のような綺麗な笑顔をもっと沢山見たいと思ったから。
 
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