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引きされnext

終りへ

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「あ、あの」
「え?」

 伊勢谷さんが去った後、私の元を訪れた子がいた。その子の事を――私は確かに、知っていた。
 その顔を、その声を。忘れたくても忘れられない。その――名前を――

「花園……圭……」
「え、なんで知ってるんですか!?」
「あ、ご、ごめん……ビックリしちゃった?」
「びっくりなんてしてないです……それに、初めて会った気がしないです」

 その発言は、確かに、うっすらと記憶にある事を指していた。

「ね、ねえ、今の本当!?」
「え、な、何がですか!?」
「私の事初めて会った気がしないってこと!!」
「ほ、本当です……」

 これは――もしかすると――

「私の名前、わかる……?」
「えっと、その……ごめんなさい……」

 まあ、当然の結果だ。わかってはいたけど、それでも、悔しい。これまでの頑張りが無駄になりそうで、これまで無駄にしてきた思いが本当に無駄になりそうで、声が詰まった。息が出来ないくらい苦しかった。
 でも――圭の発言は予想より、上だった。

「へ、れ、ん……さん……?」
「え……?」

 覚えている発言だった。耳に残る発言だった。

 私が掛けたたった一つの勝負。何億分の一の確率。それは、人の心象風景。どこかで会ったような気がする。夢の中でも、妄想の中でもいい。
 そう言った偶像が、時たま現実になるときがある――

 それが、今だ。

「やっと、やっと――見つけた」
「え、えっと……な、泣かないで……?」
「うん。でも、泣きたいの」
「……いいよ、泣いても」

 泣き叫ぶ声が、施設内に響き渡ったのを覚えている。この再開は――何億分の一の確率に掛けた、最初の世界線の過去。私がいるべき世界線の過去なのだから。

「ねえ、私の名前――」

 幾度となく繰り返してきた、機械のように繰り返してきた。挫折しかけた。そのたびに――あの顔を。この顔を。その顔は、はかなくも、散っていこうとした。いつも、いつも――手の届く範囲で、でも、届かなくて――

「ヘレンさん」
「何?」
「この施設で、伊勢谷さんに救われた人は何人もいるんです」
「ふふ……知ってる」

 そうだ――
 進むべき道は一つ――

「彼に恩返しがしたいんです!」
「私も同じこと考えてたわ」
「じゃ、じゃあ!」
「伊勢谷さんの次の勇者。そうね――next。なんて名前でどうかしら?」
「いいですね!!」

 無邪気な顔で答える。この笑顔を見たいために――

「じゃあ、メンバー集めですね!」
「もう決まってるの」
「え?」
「あなたも、そうじゃない?」
「そう……ですね!」

 これが、終結点。何の因果の干渉もなく、誰にも壊されぬ世界。箱なんてみじんも縁がない世界――

 すべてがぐちゃぐちゃだった世界線は、一つに集約する。
 誰も死なない世界線――私と圭が望んだ最高の集約点。この世界で生きていく。この世界なら前を向いて生きていける。

 そんな気がする。

「カエデとか!!」
「そうね。私も丁度同じ考えだったわ」
「じゃあ、結成しよう!」

 世界線はnextへ――
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