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引き勇
プラネタリウム
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木山春斗。それが僕の上司らしい。だが、何か聞き覚えがある。なんだろうか?
この違和感は……どこかで感じたことがある。この、安心感はいったい……?
「どうしたんです? 早くいきましょう? お姉ちゃんのお見舞いに」
「う、うん。今支度するから待ってて」
後で、後でまた思い出すかもしれない。……思い出してはいけないものの気もしてきたが。だから、今は考えるのはやめよう。僕たちは、病院へ急いだ。――
―――同時刻―――
「あ? 何さ。あんた。え? 木山春斗? 誰だそれ? あ? 知らねえよ」
黒フードの女に、電話を掛けたのは、ボスなのだろうか。
「ったく……何だってんだよ……」
「あ? また電話? なんだってんだよ……こんな時に」
『君は、七瀬夢実だね?』
「あ? 誰だあんた……」
「!……分かった」
―――
「美雨さん? 入るよ?」
返事はない。おそらく、寝ているのだろう。
「あれ? おかしいですね」
「何がだい?」
「この時間なら、いつもは起きてる時間らしいんですけど……」
「え……?」
よからぬ展開を考えた。もしかすると、何かあるかもしれない。そう考えると、
とっさにドアに手が行った。ドアを開いたら―――
「い、いない!?」
「ど、ど、ど、どうなってるんですかぁ!?」
それは僕のセリフだ。一体なんで居ないんだ。
それを僕が思うと同時に、後ろで足音がした気がした。瞬時に振り替える。
「誰だ!」
そこには誰もいなかった。気のせいだろうか? 気のせいか……そう、思いたかった。そこに居たのは――黒フードの女。確かに、あいつがそこに居た。
「なんだよ。先客がいたのかよ」
「お、お前は……!」
「なんだよ。あたしが居ちゃいけないのか?」
どういう風の吹き回しだ? 美雨さんを殺しかけた張本人が病院に見舞いに?
そんな馬鹿な話があるのか? ……でも、元コンビだったとは聞いた。だから、その気持ちもわからなくもない。だけど、わざわざ殺し掛けた相手のお見舞いに来るだろうか?
「……あいつを殺しかけたのはあたしの手違いだ」
「何をいまさら……」
そうだ、いまさら何を言っているんだ。いまさら言ったって……
「彼女が敵っていう情報をもらったんだよ……」
「誰にだ」
「確か……『K』って名乗ってたっけな?」
K? 一体何のことだ? まさか……木山のKか? そんなはずないか……そんなはずないと思いたかった。
「とりあえず、どうあれここは病院だ。さすがにあたしも病院でやりあう気はないよ」
「……分かったよ」
とりあえず、病院に居る間は平気だろう……病院に居る間は。
そして、向こうから僕の名前を呼び、電話です。と、叫んでいる晴ちゃんの声がした。とりあえず、晴ちゃんの方へ向かった―――
「伊勢谷さん、あなた宛てに電話です」
「僕宛の電話……?」
友達から? ありえないな。なぜなら、僕に友達は居ないからね!!……虚しさだけが残った。ボッチって辛い。そんなことを考えながら、受話器を晴ちゃんから受け取った。
「はい。もしもし?」
『ああ、君が伊勢谷信二かい?』
誰だ? だけどこの声どこかで――
「そ、そうだけど……」
『花沢美雨はこちらで預かっているよ』
「は……?」
言ってる意味がすぐには理解できなかったが、美雨さんが危険だっていうことはわかった。ん? どういう理屈だ? そんなことはどうでもいい。
『返してほしいかい? そうだろうねぇ……返してほしかったら今から言うことを今から3日の間にやるんだ』
「……で、そのやってほしい事って?」
誘拐犯だ。確信した。これは、勇者の案件じゃなくて、お巡りさんの案件だ。
僕は今すぐにでも、お巡りさん!こいつです! と言ってもよかった。だが、次の言葉は一瞬でそんな僕の頭のお花畑(笑)を踏みにじった。
『じゃあ、条件を言うよ? 木山春斗を殺せ』
「は、はい……?」
『木山春斗を殺せ』
何を言っているんだ? こいつは。頭おかしいキチガイか?
「なんでだ」
『人を殺す理由なんて聞いても面白くないだろう?』
電話越しでもわかる殺意だった。こいつ……放っておいたら危険だ……! こいつを止めなければいけない。美雨さんの為にも、ボスの為にも。
「それは無理だ」
『あっそ。じゃあ、ここに居るお前の大事な仲間殺すけど仕方ないよね?』
「や、やめろ!!」
『じゃあ、やるしかないよね』
選択を強いられている……と、言うか、半強制的だ。人殺し。そんなこと僕にはできない……
「……3日以内だな?」
『そうだ。それを過ぎたら問答無用でこの女を殺す』
「……分かった」
そう言い残し、電話をかけてきた男は電話を切った。だけれど、その条件は飲めない……どうにか、どうにかして助けないと。
「一体なんだったんだ……」
「でも、いいんですか? ボスを殺すなんて約束しちゃって……」
「何とかするさ。何しろ、後3日あるんだからね」
「そう……ですね」
妹的に、姉がさらわれるなんて辛いだろう。なんでこんな急に……? なんでこんなタイミングで犯人は犯行に及んだんだ?
「あんた、それ人殺しの依頼?」
「そ、そうだけど……」
「なら、あたしにやらせてよ。多分、電話の相手はミスターKだろうし」
「え……?」
確かに、彼女の腕なら殺せるのは確かだろう。だが、殺しちゃいけない。つまり、彼女要らない子。
「別に殺しはしないさ。あんたらのボスも、仲間さんも助けてやるよ」
「なんだかなぁ……」
や、優しい……明らかに優しい。手の込んだツンデレか? 新手のツンデレなのか!? なんて今はぼけてる時間はないんだ。許してほしい。しかし、自分に命令を与えた人間を殺すつもりなのか?
「でも、両方助けるってどうやって……」
「さあ……? だけど、ミスターKなら問答無用で殺す。あたしに、嘘の情報を与えたんだからね。許せない」
なんもないんかい! まさか、彼女も美雨さんと同じタイプですか? そうなんですか? というか、問答無用で殺すって……策はないのにどう殺すんだ。
「まあいいや。あんたらとしばらく一緒にさせてよ」
「しばらくっていつまでだ?」
「この件が終わるまでさ」
確かに、彼女ほど頼もしい奴は居ないだろう。
だが、あんなことがあったんだ。信用できるわけがない。
「安心しなよ。別にあんたらが寝てる間に首を切って殺すなんてしないさ」
いや、そんな具体的なことを言われたら余計に心配できない。むしろそんなことやろうとしてたのかよ。怖すぎんだろ。
「伊勢谷さん、今は彼女を信じるしか他に手はないと思います」
「で、でも……」
「私は別に平気です!」
そう、笑顔で言ってるが、本当のところは嫌なんだろうなぁ……だが、彼女の言うとおりだ。今は彼女を信用する以外に手なんて無い。少し酷だが、彼女以外に今回の適性者は居ないだろう。内容的にな。
「分かった……でも、殺すなよ? 絶対に、殺すなよ?」
「あー、そのノリ知ってるよ。殺せって事でしょ?」
「違う! 殺すな!」
そんなノリ求めてないよ! 怖いよ!
果たして、こんな調子で大丈夫なのだろうか?
心配過ぎる。というか、この女自体心配過ぎる。七瀬夢実……なんて恐ろしい奴なんだっ……!
―――
「さて……本当によかったのかい? 美雨君?」
「いいんです……これが彼のためになるなら」
「私も……この時間に飽きていたところだ」
(この時間……? 何を言ってるんです……?)
――――
「さて、対策を練らなきゃな」
「私に任せてください!」
「うん、任せるよ」
違和感があった。だが、それがどこから来るのかもわからない。それに、木山春斗と名乗る男。彼についても色々と疑問が多かった。
彼と僕はどこかで会ったことがある……? いや、そんなはずはない……はずだ。しかし、どこか懐かしい気がする。なぜだろうか。わからない。しかし、これだけはわかる。彼は、勇者の中でも強い部類だ。精神的にも、実力も。
「なあ、あんたら」
「なんだよ」
「そこまでして助けたいのか?」
「もちろんだろ?」
何故だ? 助けちゃいけない? 助けちゃいけないとしたら理由は何だ?
「……今のは忘れてくれ」
「あ、う、うん」
何を言いたかったのだろうか? 彼女の性格はよくわからない。正確というか、行動原理がわからないが。わかりたくもないです。
「さーて……どうしようかね」
「とりあえず、気分転換でもしてきたらどうです?」
「今はそんな気分じゃ……」
「まあまあ、そんなんじゃ作戦に集中できないですよ?」
「それも……そうか」
姉が死ぬかもってときにいったい何を転換するんだ。姉妹揃って行動パターンが読めない。読めないってか、マジで何考えてんだ……
「決まりですね! じゃあ、待っててください」
「え?」
「なんです? 私も行きますよ?」
「で、ですよねー……」
気分転換……なんだこの展開? マジで策考えなきゃ。でも、もう遊ぶ気満々だよ、あの妹さん。
「あ、七瀬さんも行きます?」
「うーん、どうしようかな―」
気分転換。それは彼女も含むのか……まあ、本人がいいなら文句はないのだけど……というか、なんで七瀬さんまでノリノリなんだ。それ遠回しに死ねって言ってるだろ。絶対。いや、決めつけはよくない。
「で、晴ちゃん、どこに行くんだい?」
「秘密です」
一体どこに連れてかれるんだ……とりあえず、気分転換するとだけは言っていた――
「目を開けないでくださいよ」
「う、うん」
なんだ、この状況。全く気分転換できてない。むしろ目隠しされて余計に美雨さんの事を考えてしまう。なんでこんなことに……
「もうちょっとです」
後どれだけこの状況が……
「もう開けて大丈夫です」
「や、やっとか……」
目を開けたら、日が暮れていることに気付いた。
「一体どれだけ歩かされたんだ……」
「ざっと、4時間ですね」
「う、うわぁ……」
4時間も目を開けずに歩いてたのか……周りから見たらただの変人じゃないか……というか、この脱力感はそのせいか。多分、目隠しで歩いたってのもあるんだろうけど、すごく疲れた。
「で、ここは?」
「プラネタリウムです」
「プラネタリウム……?」
「はい!」
正直、天体観測とか、星を見るのとか。嫌いだ。嫌いな具体的な理由は特にないが、家でじっとパソコンと向き合っている方がいい。家でスレを見てた方が楽しい。
「あ、始まるみたいです! ここのすごいんですよ?」
無邪気な顔。可愛いです。おっと、ロリコンじゃございません。仮に変態だとすれば変態という名の紳士です。
と、何を言ってるんだ。僕は。しかし、いくら気分転換と言っても、時間がないのに変わりはない。早く、策を考えて助け出さないと。
「……伊勢谷さん」
「ん?」
―――同時刻―――
「もしもし?」
『あ、七瀬君?』
「そうですが……」
『今伊勢谷君たちは?』
「いないっすわ」
七瀬さんの電話の相手……誰だ? ミスターKだろうか? だとすれば、何故犯人と連絡を……?
『え? い、いない?』
「なんかー気分転換って言って出ていきました」
『そ、そうか……』
「いやーあの子も度胸ありますよねー姉が危険だって言うのにデートなんて」
『ん、ん……?』
ボス、ついて行けてないです。七瀬がなぜついてこなかったかは知らないが、少なくとも、僕たちとあまり仲良くする気はないようだ。
――――――
「……伊勢谷さん」
「ん?」
「お姉ちゃん……絶対に助けましょうね」
彼女は、いい気分転換になったのか、いつになく熱くなっていた。なるほど、これが炎の魔人のご加護か。実に興味深いです。
「助けるよ。絶対に」
「なら、いいです」
なんか、和む。いけない。そんなこと言ったらいけない。そう思いつつも、何かに目覚めかけている僕である。
だが、ロリコンではない。(以下省略
気分は晴れた。大分落ち着いた。
そんなこんなで、期限の1日目は過ぎてしまった。
というか、何もせずに終わった……明日から、真剣に考えなきゃな。期限はあと2日。実行日が2日後だとすれば、明日作戦を練らなきゃいけないことになる。だけれど、気分転換に誘ってくれた彼女にもお礼を言いたい。そして、今の彼女のやる気なら、何とかなるだろう。
それより……夕飯はこの近くのラーメンだ。美味しいとこ知ってるじゃねえか。楽々停とか一番好きなとこだ。わかってんじゃねえか。
「伊勢谷さん、しょうゆとみそかソルト、どれにしますか!?」
いや、なんで塩だけ英語なんだよ! ま、まあ、みそは英語でもみそだからな……って、そうじゃない。僕は断然みそ派だ。これは揺るがないっ!
「えー、そこはソルトでしょ?」
うう、なんでそんな目で見るんだ。いや、変えないぞ? みそだ。変える気はない。絶対にみそだっ!
「み、みそに何かあるんですか」
ちょっと怯えて彼女は聞いてきた。
うぃーだろう。答えてやる。(あれ? アウトな口調になってね?)
みそとはーー
「長くなりそうなので先に食べますね」
おうふ。語らせろ。みそについて語らせろ。と、その時、電話だ。
『お前! どこほっつき歩いてんだ!』
な、七瀬さん? どうしてそんなにご乱心……あっ。
『お前なあ……人の命かかってんのになんでそんなのんびりできんだよ!』
「ご、ごめんなさい……」
『いいから。早く戻って来い』
はい。戻ります。ただし――もちろんラーメンを食ってからだっ!
『(あいつ、すする音聞こえたが……ラーメンか? 楽々停だな? ……あたしもついて行けばよかったっ!)』
怒られたので、今の内容をまんま晴ちゃんに伝えた。
「あー、そういえばそうでした」
ファ!? こ、この子、姉の命をなんだと思ってるの……!
「お姉ちゃんが死ぬわけないじゃないですか。あれを殺せるのは筋力極振りのゴリラだけです」
お、おう。なんかたとえがわかりやすい。この子もゲーマーか。それも、格ゲーの。姉妹揃って世界チャンピオン……?
でも、彼女にリアルの戦闘能力はないから安心だな。
「……帰ったら、格ゲー、しましょうね?」
怖い。威圧かかってる。怖い。でも、負けないぞ。何年引きこもってやり込んだと思ってるんだ。僕はねっとりファイターズ2はかなりやり込んだからな。
「あ、ねっとりファイターズ2はお姉ちゃんといっつもやってるから甘く見ないほうがいいですよ」
な、なんだと。つまり、世界チャンピオン並みの実力……! いいぜ、その方が燃えるからな。ふふ、楽しくなって……じゃない! 美雨さんを助けるんだよ!
「ですね。救出の作戦練りましょう。ねっとりファイターズはその後です」
残り時間――45時間
この違和感は……どこかで感じたことがある。この、安心感はいったい……?
「どうしたんです? 早くいきましょう? お姉ちゃんのお見舞いに」
「う、うん。今支度するから待ってて」
後で、後でまた思い出すかもしれない。……思い出してはいけないものの気もしてきたが。だから、今は考えるのはやめよう。僕たちは、病院へ急いだ。――
―――同時刻―――
「あ? 何さ。あんた。え? 木山春斗? 誰だそれ? あ? 知らねえよ」
黒フードの女に、電話を掛けたのは、ボスなのだろうか。
「ったく……何だってんだよ……」
「あ? また電話? なんだってんだよ……こんな時に」
『君は、七瀬夢実だね?』
「あ? 誰だあんた……」
「!……分かった」
―――
「美雨さん? 入るよ?」
返事はない。おそらく、寝ているのだろう。
「あれ? おかしいですね」
「何がだい?」
「この時間なら、いつもは起きてる時間らしいんですけど……」
「え……?」
よからぬ展開を考えた。もしかすると、何かあるかもしれない。そう考えると、
とっさにドアに手が行った。ドアを開いたら―――
「い、いない!?」
「ど、ど、ど、どうなってるんですかぁ!?」
それは僕のセリフだ。一体なんで居ないんだ。
それを僕が思うと同時に、後ろで足音がした気がした。瞬時に振り替える。
「誰だ!」
そこには誰もいなかった。気のせいだろうか? 気のせいか……そう、思いたかった。そこに居たのは――黒フードの女。確かに、あいつがそこに居た。
「なんだよ。先客がいたのかよ」
「お、お前は……!」
「なんだよ。あたしが居ちゃいけないのか?」
どういう風の吹き回しだ? 美雨さんを殺しかけた張本人が病院に見舞いに?
そんな馬鹿な話があるのか? ……でも、元コンビだったとは聞いた。だから、その気持ちもわからなくもない。だけど、わざわざ殺し掛けた相手のお見舞いに来るだろうか?
「……あいつを殺しかけたのはあたしの手違いだ」
「何をいまさら……」
そうだ、いまさら何を言っているんだ。いまさら言ったって……
「彼女が敵っていう情報をもらったんだよ……」
「誰にだ」
「確か……『K』って名乗ってたっけな?」
K? 一体何のことだ? まさか……木山のKか? そんなはずないか……そんなはずないと思いたかった。
「とりあえず、どうあれここは病院だ。さすがにあたしも病院でやりあう気はないよ」
「……分かったよ」
とりあえず、病院に居る間は平気だろう……病院に居る間は。
そして、向こうから僕の名前を呼び、電話です。と、叫んでいる晴ちゃんの声がした。とりあえず、晴ちゃんの方へ向かった―――
「伊勢谷さん、あなた宛てに電話です」
「僕宛の電話……?」
友達から? ありえないな。なぜなら、僕に友達は居ないからね!!……虚しさだけが残った。ボッチって辛い。そんなことを考えながら、受話器を晴ちゃんから受け取った。
「はい。もしもし?」
『ああ、君が伊勢谷信二かい?』
誰だ? だけどこの声どこかで――
「そ、そうだけど……」
『花沢美雨はこちらで預かっているよ』
「は……?」
言ってる意味がすぐには理解できなかったが、美雨さんが危険だっていうことはわかった。ん? どういう理屈だ? そんなことはどうでもいい。
『返してほしいかい? そうだろうねぇ……返してほしかったら今から言うことを今から3日の間にやるんだ』
「……で、そのやってほしい事って?」
誘拐犯だ。確信した。これは、勇者の案件じゃなくて、お巡りさんの案件だ。
僕は今すぐにでも、お巡りさん!こいつです! と言ってもよかった。だが、次の言葉は一瞬でそんな僕の頭のお花畑(笑)を踏みにじった。
『じゃあ、条件を言うよ? 木山春斗を殺せ』
「は、はい……?」
『木山春斗を殺せ』
何を言っているんだ? こいつは。頭おかしいキチガイか?
「なんでだ」
『人を殺す理由なんて聞いても面白くないだろう?』
電話越しでもわかる殺意だった。こいつ……放っておいたら危険だ……! こいつを止めなければいけない。美雨さんの為にも、ボスの為にも。
「それは無理だ」
『あっそ。じゃあ、ここに居るお前の大事な仲間殺すけど仕方ないよね?』
「や、やめろ!!」
『じゃあ、やるしかないよね』
選択を強いられている……と、言うか、半強制的だ。人殺し。そんなこと僕にはできない……
「……3日以内だな?」
『そうだ。それを過ぎたら問答無用でこの女を殺す』
「……分かった」
そう言い残し、電話をかけてきた男は電話を切った。だけれど、その条件は飲めない……どうにか、どうにかして助けないと。
「一体なんだったんだ……」
「でも、いいんですか? ボスを殺すなんて約束しちゃって……」
「何とかするさ。何しろ、後3日あるんだからね」
「そう……ですね」
妹的に、姉がさらわれるなんて辛いだろう。なんでこんな急に……? なんでこんなタイミングで犯人は犯行に及んだんだ?
「あんた、それ人殺しの依頼?」
「そ、そうだけど……」
「なら、あたしにやらせてよ。多分、電話の相手はミスターKだろうし」
「え……?」
確かに、彼女の腕なら殺せるのは確かだろう。だが、殺しちゃいけない。つまり、彼女要らない子。
「別に殺しはしないさ。あんたらのボスも、仲間さんも助けてやるよ」
「なんだかなぁ……」
や、優しい……明らかに優しい。手の込んだツンデレか? 新手のツンデレなのか!? なんて今はぼけてる時間はないんだ。許してほしい。しかし、自分に命令を与えた人間を殺すつもりなのか?
「でも、両方助けるってどうやって……」
「さあ……? だけど、ミスターKなら問答無用で殺す。あたしに、嘘の情報を与えたんだからね。許せない」
なんもないんかい! まさか、彼女も美雨さんと同じタイプですか? そうなんですか? というか、問答無用で殺すって……策はないのにどう殺すんだ。
「まあいいや。あんたらとしばらく一緒にさせてよ」
「しばらくっていつまでだ?」
「この件が終わるまでさ」
確かに、彼女ほど頼もしい奴は居ないだろう。
だが、あんなことがあったんだ。信用できるわけがない。
「安心しなよ。別にあんたらが寝てる間に首を切って殺すなんてしないさ」
いや、そんな具体的なことを言われたら余計に心配できない。むしろそんなことやろうとしてたのかよ。怖すぎんだろ。
「伊勢谷さん、今は彼女を信じるしか他に手はないと思います」
「で、でも……」
「私は別に平気です!」
そう、笑顔で言ってるが、本当のところは嫌なんだろうなぁ……だが、彼女の言うとおりだ。今は彼女を信用する以外に手なんて無い。少し酷だが、彼女以外に今回の適性者は居ないだろう。内容的にな。
「分かった……でも、殺すなよ? 絶対に、殺すなよ?」
「あー、そのノリ知ってるよ。殺せって事でしょ?」
「違う! 殺すな!」
そんなノリ求めてないよ! 怖いよ!
果たして、こんな調子で大丈夫なのだろうか?
心配過ぎる。というか、この女自体心配過ぎる。七瀬夢実……なんて恐ろしい奴なんだっ……!
―――
「さて……本当によかったのかい? 美雨君?」
「いいんです……これが彼のためになるなら」
「私も……この時間に飽きていたところだ」
(この時間……? 何を言ってるんです……?)
――――
「さて、対策を練らなきゃな」
「私に任せてください!」
「うん、任せるよ」
違和感があった。だが、それがどこから来るのかもわからない。それに、木山春斗と名乗る男。彼についても色々と疑問が多かった。
彼と僕はどこかで会ったことがある……? いや、そんなはずはない……はずだ。しかし、どこか懐かしい気がする。なぜだろうか。わからない。しかし、これだけはわかる。彼は、勇者の中でも強い部類だ。精神的にも、実力も。
「なあ、あんたら」
「なんだよ」
「そこまでして助けたいのか?」
「もちろんだろ?」
何故だ? 助けちゃいけない? 助けちゃいけないとしたら理由は何だ?
「……今のは忘れてくれ」
「あ、う、うん」
何を言いたかったのだろうか? 彼女の性格はよくわからない。正確というか、行動原理がわからないが。わかりたくもないです。
「さーて……どうしようかね」
「とりあえず、気分転換でもしてきたらどうです?」
「今はそんな気分じゃ……」
「まあまあ、そんなんじゃ作戦に集中できないですよ?」
「それも……そうか」
姉が死ぬかもってときにいったい何を転換するんだ。姉妹揃って行動パターンが読めない。読めないってか、マジで何考えてんだ……
「決まりですね! じゃあ、待っててください」
「え?」
「なんです? 私も行きますよ?」
「で、ですよねー……」
気分転換……なんだこの展開? マジで策考えなきゃ。でも、もう遊ぶ気満々だよ、あの妹さん。
「あ、七瀬さんも行きます?」
「うーん、どうしようかな―」
気分転換。それは彼女も含むのか……まあ、本人がいいなら文句はないのだけど……というか、なんで七瀬さんまでノリノリなんだ。それ遠回しに死ねって言ってるだろ。絶対。いや、決めつけはよくない。
「で、晴ちゃん、どこに行くんだい?」
「秘密です」
一体どこに連れてかれるんだ……とりあえず、気分転換するとだけは言っていた――
「目を開けないでくださいよ」
「う、うん」
なんだ、この状況。全く気分転換できてない。むしろ目隠しされて余計に美雨さんの事を考えてしまう。なんでこんなことに……
「もうちょっとです」
後どれだけこの状況が……
「もう開けて大丈夫です」
「や、やっとか……」
目を開けたら、日が暮れていることに気付いた。
「一体どれだけ歩かされたんだ……」
「ざっと、4時間ですね」
「う、うわぁ……」
4時間も目を開けずに歩いてたのか……周りから見たらただの変人じゃないか……というか、この脱力感はそのせいか。多分、目隠しで歩いたってのもあるんだろうけど、すごく疲れた。
「で、ここは?」
「プラネタリウムです」
「プラネタリウム……?」
「はい!」
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「あ、始まるみたいです! ここのすごいんですよ?」
無邪気な顔。可愛いです。おっと、ロリコンじゃございません。仮に変態だとすれば変態という名の紳士です。
と、何を言ってるんだ。僕は。しかし、いくら気分転換と言っても、時間がないのに変わりはない。早く、策を考えて助け出さないと。
「……伊勢谷さん」
「ん?」
―――同時刻―――
「もしもし?」
『あ、七瀬君?』
「そうですが……」
『今伊勢谷君たちは?』
「いないっすわ」
七瀬さんの電話の相手……誰だ? ミスターKだろうか? だとすれば、何故犯人と連絡を……?
『え? い、いない?』
「なんかー気分転換って言って出ていきました」
『そ、そうか……』
「いやーあの子も度胸ありますよねー姉が危険だって言うのにデートなんて」
『ん、ん……?』
ボス、ついて行けてないです。七瀬がなぜついてこなかったかは知らないが、少なくとも、僕たちとあまり仲良くする気はないようだ。
――――――
「……伊勢谷さん」
「ん?」
「お姉ちゃん……絶対に助けましょうね」
彼女は、いい気分転換になったのか、いつになく熱くなっていた。なるほど、これが炎の魔人のご加護か。実に興味深いです。
「助けるよ。絶対に」
「なら、いいです」
なんか、和む。いけない。そんなこと言ったらいけない。そう思いつつも、何かに目覚めかけている僕である。
だが、ロリコンではない。(以下省略
気分は晴れた。大分落ち着いた。
そんなこんなで、期限の1日目は過ぎてしまった。
というか、何もせずに終わった……明日から、真剣に考えなきゃな。期限はあと2日。実行日が2日後だとすれば、明日作戦を練らなきゃいけないことになる。だけれど、気分転換に誘ってくれた彼女にもお礼を言いたい。そして、今の彼女のやる気なら、何とかなるだろう。
それより……夕飯はこの近くのラーメンだ。美味しいとこ知ってるじゃねえか。楽々停とか一番好きなとこだ。わかってんじゃねえか。
「伊勢谷さん、しょうゆとみそかソルト、どれにしますか!?」
いや、なんで塩だけ英語なんだよ! ま、まあ、みそは英語でもみそだからな……って、そうじゃない。僕は断然みそ派だ。これは揺るがないっ!
「えー、そこはソルトでしょ?」
うう、なんでそんな目で見るんだ。いや、変えないぞ? みそだ。変える気はない。絶対にみそだっ!
「み、みそに何かあるんですか」
ちょっと怯えて彼女は聞いてきた。
うぃーだろう。答えてやる。(あれ? アウトな口調になってね?)
みそとはーー
「長くなりそうなので先に食べますね」
おうふ。語らせろ。みそについて語らせろ。と、その時、電話だ。
『お前! どこほっつき歩いてんだ!』
な、七瀬さん? どうしてそんなにご乱心……あっ。
『お前なあ……人の命かかってんのになんでそんなのんびりできんだよ!』
「ご、ごめんなさい……」
『いいから。早く戻って来い』
はい。戻ります。ただし――もちろんラーメンを食ってからだっ!
『(あいつ、すする音聞こえたが……ラーメンか? 楽々停だな? ……あたしもついて行けばよかったっ!)』
怒られたので、今の内容をまんま晴ちゃんに伝えた。
「あー、そういえばそうでした」
ファ!? こ、この子、姉の命をなんだと思ってるの……!
「お姉ちゃんが死ぬわけないじゃないですか。あれを殺せるのは筋力極振りのゴリラだけです」
お、おう。なんかたとえがわかりやすい。この子もゲーマーか。それも、格ゲーの。姉妹揃って世界チャンピオン……?
でも、彼女にリアルの戦闘能力はないから安心だな。
「……帰ったら、格ゲー、しましょうね?」
怖い。威圧かかってる。怖い。でも、負けないぞ。何年引きこもってやり込んだと思ってるんだ。僕はねっとりファイターズ2はかなりやり込んだからな。
「あ、ねっとりファイターズ2はお姉ちゃんといっつもやってるから甘く見ないほうがいいですよ」
な、なんだと。つまり、世界チャンピオン並みの実力……! いいぜ、その方が燃えるからな。ふふ、楽しくなって……じゃない! 美雨さんを助けるんだよ!
「ですね。救出の作戦練りましょう。ねっとりファイターズはその後です」
残り時間――45時間
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