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フランス編(現在の遺産編)
ある日突然番外編が投稿された理由。ーフランス編(前半)ー
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※本編の遺産編に当たる、旧引き勇のフランス編を夜な夜なこっそり移転していきます。本編に直接かかわらないので注意。
……、喋りすぎた。なんか、色々喋りすぎた。前回、きっちり終わるといっていたが、何故改めて再開されたかだけを言わせてもらおう。
先日、ジャンヌ・ダルク伝説で何やら書き換えが行われたらしい。今回は、その調査である。ジャンヌ・ダルク―――彼女は本来ならば火あぶりなのだが、今回の書き換えは、どうやら『変死』らしい。
で、その調査に向かうのが今回の仕事らしい。
え? ゴブリンどうなったかって? ……、晴ちゃんが一晩で全滅させてくれました! やったね、ゴブリン!
と、まあ、それは冗談だ。ゴブリンは、ジャンヌ・ダルク伝説の書き換えと共に全滅したらしいのだ。
だが、それはゴブリンだけの問題ではなく、今もなお、世界中で動物が少しずつ消えているらしい。それが、ジャンヌの遺産、『BlackBox』の効果らしい。
何者かが、その箱に向かって『世界消滅』を唱えたらしいのだ。
今、僕はその調査のため、フランスに向かうための飛行機に乗っているのだが―――酔っている。非常に酔っている。その上、隣で美雨さんが酒飲んで酔ったうえで乗り物酔いしてるからとんでもない姿になっている。
と、まあ―――今回は、飛行機に乗っているだけだろうが。
ピンポーンパンポーン
へんてこな音が聞こえた。これ、飛行機のアナウンスとしては致命的じゃないだろうか。
「信二さんんんんんんんん、もうすぐつきま―――うっぷ……」
喋らないでください。お願いします。絶対しゃべったら見せられないような状態になります。もう喋らないで―――
と、言っている間に。ついた。フランスに。―――よし、まずは食料かく…… !?!? どうなってんだ、これ―――なんだよ。目の前にフランスパンぶっ刺さってんだけど!? どでかいフランスパン刺さってますが!?!?
「んー、よいしょ」
ふぁ!? フランスパン!? フランスパンナンデエエ!?!? てか、シャベッタアアアアアアアアアアアア!?!?
「あ、どもども。君が、現地調査員の伊勢谷君ですか?」
あ、ありのまま今目の前で起こったことを話すぜ……
「目の前にあった巨大フランスパンから手足が生えて、おはよう」
な… 何を言ってるかわからn
「伊勢谷さん、それ以上は何かが失われる気がします。やめてください。私は切実な顔でそう言った」
いや、あんた言い切ってるよ!! いろんな意味ですごいよ!!!
ああ……何を言ってるのか全部わかってしまう自分が憎い―――
「なあ、ところで、伊勢谷君」
「な、なんでしょうか?」
フランスパンの着ぐるみに、かなり印象深い星形のサングラス。おまけに声は……ウホッ、いい男((( いいえ、違います。星形のサングラスが許されるのはアメリカンかブラジルだけです。一緒に居るだけで恥ずかしいんでやめてください。
「あ、紹介が遅れましたね。彼が、私たちのフランスでの生活をサポートしてくれる、ミスターフランスパン、ケビンです」
ちがあああう!! そこはミスターフランスだ!!! あ、あれ? 何言っているんだ? 僕は―――彼は、ミスターフランスパンじゃないか。
「あなたは次に、『ケビンさん、なんかよくわかんねえけどお願いします!』と、言うでしょう」
「ケビンさん、なんかよくわかんねえけどお願いします! はっ!?」
いっけねえ、美雨さん、いつの間にこんな技を―――持っててもすげえ要らないスキルです。本当にありがとうございました。
てか、こんな事してる場合じゃないでしょうが……
「さて、じゃあ、私たちの家、探しましょうか。ケビンさん」
「そうですねぇ、どこの家にホームstayがいいでしょうか」
かっこよさげに今、ステイだけ英語で言っただろ。絶対今、ステイをかっこよくstayって言っただろ。
てか、ケビンさん生活アドバイザーなのになんで家探そうとしてんだよ!!!
それ、あんたの仕事だろ!!!
ぷっぷー。
変な音と共に現れたのは、フランスパン型の―――はぁ!?!?!? フランスパン型の車ぁ!?!?!?
「よーし、乗りたまえ、shyboy」
「僕はシャイじゃねえし!!」
思わず街中で大声で突っ込んじゃったよ!! 恥かいちゃったよ!!
……、本当に、こんなのでフランスの調査なんて出来るのだろうか。
心配だ。すごい心配だ。ああ……楽しかったはずのフランス旅行―――今はいずこに―――
「その幻想を!!」
「やめろ!!!」
……あっははははは。フランスって、楽しいや(棒読み)
フランス旅行でここまで疲れるものなのだろうか―――フランスパン型スポーツカー。本人曰く、「本気出せば、マッハ7で走れるよん」らしい。いや、それを出すには速度という法律が―――あ、ここは日本じゃねえんだった―――
「さて、真面目な話をしようか」
そういって、彼は星形のサングラスをくいっと位置を治した。いや、真面目な話これからするのにそういう事されると雰囲気ぶち壊しなんですが。
これから話すのは、君たちの元指令のミスターKからの話だ。と、彼はいつになく冷静に話し始めた。
「彼曰く、君たちの今回の調査対象である、ジャンヌの遺産。これを巡って、数年後に第三次世界大戦が起きるらしい」
第三次世界大戦……、その単語に反応するように、美雨さんは言った。
「でも、それは過去にハルトさんが―――」
「いや、彼の作戦は成功して『いた』んだよ。ただ、これは話が違う。彼が、その事実を知った理由、聞いただろう?」
はい。美雨さんは、多分、何か訴えたかったのだろうが、それを堪えたように見えた。そして、ケビンは続けた。
「タイムループによって生じる現象―――わかるよね? そう、『パラレルワールド』だ。彼が未来に来た時に、パラレルワールドによって『第三次世界大戦の経緯』が変わってしまったんだよ」
『パラレルワールド』、この言葉は、ニートをやっていた時代に否定してきた。だが、ケビンの顔を見るに、これはどうやら本当の事らしい。ならば、第三次世界大戦は確実に起こるのだろうか―――? そこに、一つの疑問が生じた。
ならば、もう一度同じことをしてしまえば、また世界が切り替わるのでは?
という疑問だ。理論上は可能なのだろうが、彼はおそらく―――
「この世界戦はどうあがいても切り替えることのできない、『固定平行世界』だ。だから、君たちはジャンヌの遺産を手に入れるしかないんだよ」
『固定平行世界』―――? 聞いたことも、見たこともない言葉が飛び出した。それがどういう原理、どういう経緯で発生するのか。それを知る人物は、ボスを未来で助けた人物、『シルフ・アヴェーゼ』ただ一人しか解明できなかったらしい。つまり、この時代で起きた以上、この時代の人間で解決するしかないのだ。
「……、伊勢谷君、君には『この世界』の責任を押し付けてしまう―――許してくれ」
『この世界の責任』それは、多分、第三次世界大戦を起こしてしまうほど、愚かな人間を許す。そういうことなのだろうか―――?
「僕が勇者になった以上、この世界は救って見せます」
「それは心強い。だが、駄目だ。今の君では」
なんでだ―――? 今の僕に、何が足りない? この疑問をすべて知っているのが、ジャンヌの遺産なのだろうか? この世界のすべての理由を知るのがジャンヌの遺産なのだろうか?
……、そんなのは駄目だ。この世の存在する理由があろうと、どんな理由があろうと、『神に従っては駄目だ』
「さて、伊勢谷さん。仕事に向かいますよ」
仕事。よし、行こう。そんな中、とある方に話しかけられた。
「なあ、そこのあんた」
言葉使いが荒い。フランス人なんですか? なんで、英語ぺらぺらなんですか?
まあいいや―――彼女に、所在を問う。
「わたしは、ドミニオン・フォーン。過去に木山さんとは面識があるんだ。過去って言っても―――最近なんだけどな」
ん? 最近? おかしいな。すでにハルトさんは―――てか、木山さん呼びなのか!?
どうやら、彼女はここより少し時間のずれた世界で、ハルトさんと出会っているらしい。でも、どうして彼女にそんな記憶が? ―――聞いてみると、なんか、別の世界線の記憶を一部持ってこれるらしい。……、なら、もう彼女に頼めばいいんじゃないかな?
「伊勢谷君。彼女に協力してもらおうじゃないか。それが、この場での最善策みたいだからね」
まあ、僕が出る幕じゃないんですけどねwwwwwwww ……、冗談です。やります。僕にしかできないんで。
で、何をすればいいんですか? ライラさんに聞く。彼女は何も答えない。やばい、積んだ。答えは簡単、積んだ。彼女、何も話そうとしない。
やっと喋ったと思えば、ジャンヌ博に行こうぜ。そう言い始めた。えぇ……それ駄目やん。
悪いね、可愛いgirl。遊んでる暇はねえ。ケビンは彼女をナンパするかのごとくそういった。てか、もう完全にナンパだよ!! それ!!
でも、ジャンヌ博。言ってみる価値はありそうだ。そこで、ジャンヌについて調べるのも、立派な仕事の内だろうから。
行きましょう。そういうと、美雨さんは、僕の耳元でささやいた。「二人で行きましょう」そう、耳元でつぶやかれた。彼女から、デートのお誘いである。断らないわけないだろぉぉぉぉぉ。僕、絶賛リア充生活満喫中なんだZE★
…………、日本から大量の殺意を感じる。やめておこう。これ以上は。
さて、そんなこんなで目的は決まった。ジャンヌ博へ仕事デートしに行く!! さて、ちゃんとフランス編っぽくなってきたじゃないか。嫌いじゃないぜ。僕は。
10時。もうすぐ、来るはずだ。僕は、手元の時計の針を見ながらそういった。
……、おかしいな。来るはずなんだどな。こないぞ。
「おまたせー」と言って、来るはずなのだけど。違った。
あれは、美雨さんだ。よし、いつでも何されてもいいように―――
そんな僕の予想を上回るように、おまたせーという声とともに、彼女は飛び蹴りで登場した。痛い。親にも蹴られたことがないのに。
さて、何はともあれ、そろったんだ。行こうか。そう言って、ジャンヌ博行きのバスに乗った。はずだったのだけど……それは悪魔で幻想だった。的外れだった。
このバスは―――はめられた。来る前に、ケビンに言われたことを思い出す。
「ここは今、ジャンヌの遺産を巡って、色々な組織が徘徊している。だからこそ、君たちは、あまりうろちょろしてほしくはないんだ……」と。色々な組織―――まさか、そこに『彼女』はいるのだろうか……? 僕は彼女が裏切ったとは思えない。
* *
その頃の日本では―――
「あー、お姉ちゃんも伊勢谷さんもいないから詰まんない~」
晴ちゃんが、退屈そうにしていた。まあ、今回の任務では、何が起こるかわからない。という理由で、彼女には日本で待機してもらっている。
退屈だろうなぁ……そう思いながらも、僕たちはフランスで任務をしている。
あ、そうだ。久しぶりに連絡してみよ。そう言って、彼女は携帯を取り出し、電話帖から、名前を探して電話をかけた。
「あ、もしもし」その声とともに、彼女の顔は曇った。何を言われたのだろうか? わからない。……、誰に電話して、何を言われたのか。全くわからない。
数分後、彼女はフランスに居る姉に電話をした。今、起きたことを報告するために。しかし、美雨さんが電話に出ても、彼女の声はしなかった。おかしい。あまりにも不自然だ。美雨さんは、そう言って、僕に帰りたい。と言ってきた。
* *
「ねえ、信二くん」
「ん?」
「私、日本に帰りたい」
わけもわからず、僕は彼女に理由を問うが、彼女は、帰りたいの一点張りで、何も言わなかった。このバスが怪しいからだろうか? それとも―――
ぴんぽーん。
その音とともに、アナウンスが聞こえた。「もう間もなくー、ジャンヌ博―ジャンヌ博でございますー」
ジャンヌ博。いよいよなのだが、今の美雨さんを連れていくのは―――危険すぎる。
チャイム音と共に、バスはジャンヌ博前の停留所に止まる。止まる直前、運転手は、何かを言いたそうな顔でこちらを見ていた。口の動きで何を言っているか。知ろうとしたが、そんな技術はない。口の動きを思い出してみる。最初のは―――に……? にって……、思い当たる言葉をひたすらに考える。
肉? 違う。ニラ? 違う。食べ物じゃぁない。だとすると、物? に、に……
ニット帽? 違う。恐らく、ものですらない。単語? 口元は、焦っていた。焦ってまで伝えたい事―――ばく、ばく……!? 『爆発』脳裏に浮かんだのは、その言葉だった。何が爆発する? 停留所? いや、被害がでかい。ジャンヌ博? いや、それじゃあ、ジャンヌの遺産ごと木端微塵だ。あれ? なんで、今、ジャンヌの遺産が思い浮かんだ? もう一度、ケビンに言われた事を思い出す。
「他の組織に命を狙われている可能性もなくはない。気を付けろ」
この言葉からすると―――バス! そうだ、他の組織がやりやすいかつ、ばれにくい方法、それは、バスの爆発だ!
だとすると、バスは―――
どかん。
鈍い音と、激しい爆発音が脳内を掻き回した。『バスの街中爆発』それは、恐らく、メディアと、世間一般は食いつくだろう。だが、この業界に入ったからには、そんなことはいつ起きてもいいように心がけている。―――わけもない。いや、今回のは完全に予想外だった。ジャンヌ博の前、そこでは、警備員たちが入口の前を封鎖している。ここで、しばらく黙っていた、いや、震えていた美雨さんが口を開いた。
「もしかして、私たちを消すんじゃなくて、これが目的だったんじゃないの?」
僕たちの末梢。確かに、他の組織にとっては都合のいい話だ。だが、大半の組織は死体の回収などをしない。任務に余計な時間を与えるからだ。その結果、世間、マスコミはぎゃあぎゃあ騒ぐ。だが、僕たちに被害を与えず、綺麗に対象物を奪う。そうしたとき、有効なのは足止めだ。派手な事をすれば、警察たちが動き、さらに、近くに居た僕たちはその警察の標的に真っ先になる。
それが狙いか―――だが、ジャンヌの遺産。渡すわけにはいかないんだ。こんなところで。負けて―――たまるか……!!
「美雨さん、乗り込むぞ!!」
え? この状態で? 混乱している彼女の腕を引っ張り、僕は警備員を上手くかわし、ジャンヌ博に乗り込んだ。しかし、その姿は確実に、警備カメラに映るだろう。だが、ここで遺産を渡すくらいなら、僕が捕まったって、日本の晴ちゃんに無事に届けたほうが賢明だ。いや、賢明なはずだ。
混乱し、少し頭の回転が鈍くなっている僕を見て、美雨さんは、今まで見せたことのない、心配する顔で僕を見つめている。乗り込んで、乗り込んで。僕たちは、ジャンヌ博の目玉、ジャンヌの旗のエリアまで来ていた。まさか、この旗が遺産なのでは? そんなとはない。
このエリアについた時、後ろでした足音に、僕は気づかなかった。誰かがいる。それに気づいたのは、声を掛けられてからだ。声の先を見る―――そこには、見たことのある人物がいた。
ひっさしびりの再開、喜ぶ暇はねえ見てぇじゃん? そう言って、彼女は、僕に銃を向けた。その銃は悲しみなどはなく、ただ、殺意のままに向けられた。
七瀬さん、彼女は、完全に。僕たちの敵になった。
七瀬さん、今僕たちの目の前で立ちふさがる最大の脅威だ。何しろ、彼女は対人戦、銃撃戦、対機械戦。すべてにおいてこなすエリートだ。それに対し僕は、ついこの間、彼女の師匠から銃撃戦のみを習っただけである。勝てっこないのであった。
銃を構える。それが、今の僕にできる精いっぱいだ。美雨さんなら、彼女に勝機はあるだろう。だが、今の彼女は駄目だ。戦闘どころじゃない。今彼女に戦わせれば、間違いなく、確実に負けるだろう。負けて……殺される。ここで死ねば、黒箱どころじゃない。だから―――僕は彼女に銃を向ける。美雨さんにではない。七瀬さんにだ。
「お前、なかなか成長したじゃねえか」
そう言い、彼女も銃を抜く。ここからは、以下に接近しないかだ。接近しすぎると、対人戦に圧倒的な力を持つ彼女に確実に腕、あばら、足。どれかを持っていかれる。そうなれば、隙が確実に生まれ、確実に負ける。
対人戦が苦手だったら―――それを補って戦うだけだ。彼女に銃を向ける。引き金を引けば、銃弾が放たれる。それを、外さず。確実に―――僕は、銃使った体感型のゲームならやり込んだ。あの感覚を忘れるな。それが―――勝つための条件だ。
あの戦法なら―――世界大会でリアルなSPすらも度肝を抜いたあの戦法なら―――行ける。意表を突け。相手を驚かせろ。隙を生め。『隙』それも勝利のための条件だ。
「んで、死ぬための準備はできたかい? あたしは―――あんたを殺す準備が出来たんだがね!!!」そう言って、彼女は接近しながら銃弾を放った。狙い通りの動きをしてくれた。次の瞬間―――僕は銃を捨てた。その瞬間、彼女は一瞬だけ、驚くそぶりを見せた。逃さない。この一瞬を。
捨てた銃をすぐに拾い上げ、体を寝かせながら打ち込む。これで、銃弾も回避して―――なんて、うまくいくはずもない。僕はあくまでゲームの動きをしている。そして、ぶっつけ本番。完全にあの通りに動けるわけでもない。対して彼女は、かなり戦闘慣れしている。おそらく、こういった予測不可能な状況にも対応できているのだろう。接近された―――彼女に。懐に、接近された。こうなれば―――勝ち目はない。
が、彼女が次に隙を見せたのは、僕の行動ではない。むしろ、僕が捨てた銃を―――美雨さんが拾い上げ、彼女に対して銃弾を放った。
その銃弾は、『確実に』七瀬さんの太ももを貫いた。おそらく、予測不可能と言っても、戦闘に全く関係していない、部外者からの予測不可な状況に対応しきれなかったのだろう。その隙を逃さず、僕。ではなく―――美雨さんが彼女の腹に一発、ケリを入れる。
「晴を……、返しなさあああああああああああああい!!!!」
その雄叫びとともに、彼女にケリを入れる。まさか―――晴ちゃんに何かあったのだろうか……?
罰として、しばらく私たちと行動を共にしなさい。美雨さんは、彼女にそう言い放つ。勇ましい。その言葉が似合う格好で。しかし、美雨さんの背中は―――格好良かった。正直、惚れ直す。でも、さすがにその怪力はどうかと思うが、まあ、色んな行動を共にして、彼女を好きになったのだから、怪力でも何でもいい。
ケリを入れられた七瀬さんは、伸びている。かなり。しかも、吐血しながら。泡まで吹いてるんですけど―――ちょっと、美雨さん、本気でけり入れすぎじゃ……、下手したら、死人が出るレベル。人を殺すってレベルじゃねえぞ―――殺すどころか、いたぶっている。それも、結構笑顔で。あかん。ドSすぎる。やばい、僕もいずれああなると想像すると、吐血。ではなく、腹痛に見舞われる。なんでだ……けり入れられたの見たから、その影響で腹痛なんだろうけど……
「春の事は気になりますが、彼女が何か情報を知っているのは確かです。私は、そっちも調べたいので、しばらくはケビンを当てにしてください」
そういうと、彼女は七瀬さんを担ぎ、裏口の非常用ドアから外に出た。担ぐなよ。仮にも、彼女は秘密情報機関の戦闘部隊のトップだぞ……その光景、彼女の組織が見たら激おこぷんぷん丸じゃすまないはずなんですが……
とはいえ、また、彼女に助けられた。そうため息をつきながら、銃を拾い上げ、腰のショルダーにしまう。そして、ジャンヌ博の調査だ。戦闘じゃなくて今回の目的はあくまでそっちである。もう少し部屋の奥まで進む。
* *
あの後、ジャンヌ博の調査を続けたが、何もなかった。と、言うより、本当にただの展示会だった。まあ、そんなとこにジャンヌの遺産なんて置かないのが普通だろう。さて。となれば、あとは何処だろうか。まさか、もう他の組織の手の中だろうか。僕は、ジャンヌ博の帰りのバスに乗りながら色々と憶測をしてみるが、どうも、しっくりこない。七瀬さんは、本当にジャンヌの遺産が目当てだったのだろうか? それが、しっくりこない原因だった。そもそも、彼女はジャンヌの遺産を探しに来たとは言ってない。じゃあ、何のために―――?
ともあれ、しばらくは、僕も続けないとな。戦闘の訓練。ケビンあたりに手伝ってもらうか……と、若干の眠気に襲われ、眠むりかけたその時、事件は再び起きた。そう、行きのバスで狙われていたのなら、帰りとて同じことである。バスは―――爆発した。当然、僕の乗っているバスだ。
爆発……ではない。有毒ガス。しかも、かなり強い毒素を持つ毒だ。さすがに、眠気に襲われてかつ、こういった訓練のない中で―――これ―――は―――
……、喋りすぎた。なんか、色々喋りすぎた。前回、きっちり終わるといっていたが、何故改めて再開されたかだけを言わせてもらおう。
先日、ジャンヌ・ダルク伝説で何やら書き換えが行われたらしい。今回は、その調査である。ジャンヌ・ダルク―――彼女は本来ならば火あぶりなのだが、今回の書き換えは、どうやら『変死』らしい。
で、その調査に向かうのが今回の仕事らしい。
え? ゴブリンどうなったかって? ……、晴ちゃんが一晩で全滅させてくれました! やったね、ゴブリン!
と、まあ、それは冗談だ。ゴブリンは、ジャンヌ・ダルク伝説の書き換えと共に全滅したらしいのだ。
だが、それはゴブリンだけの問題ではなく、今もなお、世界中で動物が少しずつ消えているらしい。それが、ジャンヌの遺産、『BlackBox』の効果らしい。
何者かが、その箱に向かって『世界消滅』を唱えたらしいのだ。
今、僕はその調査のため、フランスに向かうための飛行機に乗っているのだが―――酔っている。非常に酔っている。その上、隣で美雨さんが酒飲んで酔ったうえで乗り物酔いしてるからとんでもない姿になっている。
と、まあ―――今回は、飛行機に乗っているだけだろうが。
ピンポーンパンポーン
へんてこな音が聞こえた。これ、飛行機のアナウンスとしては致命的じゃないだろうか。
「信二さんんんんんんんん、もうすぐつきま―――うっぷ……」
喋らないでください。お願いします。絶対しゃべったら見せられないような状態になります。もう喋らないで―――
と、言っている間に。ついた。フランスに。―――よし、まずは食料かく…… !?!? どうなってんだ、これ―――なんだよ。目の前にフランスパンぶっ刺さってんだけど!? どでかいフランスパン刺さってますが!?!?
「んー、よいしょ」
ふぁ!? フランスパン!? フランスパンナンデエエ!?!? てか、シャベッタアアアアアアアアアアアア!?!?
「あ、どもども。君が、現地調査員の伊勢谷君ですか?」
あ、ありのまま今目の前で起こったことを話すぜ……
「目の前にあった巨大フランスパンから手足が生えて、おはよう」
な… 何を言ってるかわからn
「伊勢谷さん、それ以上は何かが失われる気がします。やめてください。私は切実な顔でそう言った」
いや、あんた言い切ってるよ!! いろんな意味ですごいよ!!!
ああ……何を言ってるのか全部わかってしまう自分が憎い―――
「なあ、ところで、伊勢谷君」
「な、なんでしょうか?」
フランスパンの着ぐるみに、かなり印象深い星形のサングラス。おまけに声は……ウホッ、いい男((( いいえ、違います。星形のサングラスが許されるのはアメリカンかブラジルだけです。一緒に居るだけで恥ずかしいんでやめてください。
「あ、紹介が遅れましたね。彼が、私たちのフランスでの生活をサポートしてくれる、ミスターフランスパン、ケビンです」
ちがあああう!! そこはミスターフランスだ!!! あ、あれ? 何言っているんだ? 僕は―――彼は、ミスターフランスパンじゃないか。
「あなたは次に、『ケビンさん、なんかよくわかんねえけどお願いします!』と、言うでしょう」
「ケビンさん、なんかよくわかんねえけどお願いします! はっ!?」
いっけねえ、美雨さん、いつの間にこんな技を―――持っててもすげえ要らないスキルです。本当にありがとうございました。
てか、こんな事してる場合じゃないでしょうが……
「さて、じゃあ、私たちの家、探しましょうか。ケビンさん」
「そうですねぇ、どこの家にホームstayがいいでしょうか」
かっこよさげに今、ステイだけ英語で言っただろ。絶対今、ステイをかっこよくstayって言っただろ。
てか、ケビンさん生活アドバイザーなのになんで家探そうとしてんだよ!!!
それ、あんたの仕事だろ!!!
ぷっぷー。
変な音と共に現れたのは、フランスパン型の―――はぁ!?!?!? フランスパン型の車ぁ!?!?!?
「よーし、乗りたまえ、shyboy」
「僕はシャイじゃねえし!!」
思わず街中で大声で突っ込んじゃったよ!! 恥かいちゃったよ!!
……、本当に、こんなのでフランスの調査なんて出来るのだろうか。
心配だ。すごい心配だ。ああ……楽しかったはずのフランス旅行―――今はいずこに―――
「その幻想を!!」
「やめろ!!!」
……あっははははは。フランスって、楽しいや(棒読み)
フランス旅行でここまで疲れるものなのだろうか―――フランスパン型スポーツカー。本人曰く、「本気出せば、マッハ7で走れるよん」らしい。いや、それを出すには速度という法律が―――あ、ここは日本じゃねえんだった―――
「さて、真面目な話をしようか」
そういって、彼は星形のサングラスをくいっと位置を治した。いや、真面目な話これからするのにそういう事されると雰囲気ぶち壊しなんですが。
これから話すのは、君たちの元指令のミスターKからの話だ。と、彼はいつになく冷静に話し始めた。
「彼曰く、君たちの今回の調査対象である、ジャンヌの遺産。これを巡って、数年後に第三次世界大戦が起きるらしい」
第三次世界大戦……、その単語に反応するように、美雨さんは言った。
「でも、それは過去にハルトさんが―――」
「いや、彼の作戦は成功して『いた』んだよ。ただ、これは話が違う。彼が、その事実を知った理由、聞いただろう?」
はい。美雨さんは、多分、何か訴えたかったのだろうが、それを堪えたように見えた。そして、ケビンは続けた。
「タイムループによって生じる現象―――わかるよね? そう、『パラレルワールド』だ。彼が未来に来た時に、パラレルワールドによって『第三次世界大戦の経緯』が変わってしまったんだよ」
『パラレルワールド』、この言葉は、ニートをやっていた時代に否定してきた。だが、ケビンの顔を見るに、これはどうやら本当の事らしい。ならば、第三次世界大戦は確実に起こるのだろうか―――? そこに、一つの疑問が生じた。
ならば、もう一度同じことをしてしまえば、また世界が切り替わるのでは?
という疑問だ。理論上は可能なのだろうが、彼はおそらく―――
「この世界戦はどうあがいても切り替えることのできない、『固定平行世界』だ。だから、君たちはジャンヌの遺産を手に入れるしかないんだよ」
『固定平行世界』―――? 聞いたことも、見たこともない言葉が飛び出した。それがどういう原理、どういう経緯で発生するのか。それを知る人物は、ボスを未来で助けた人物、『シルフ・アヴェーゼ』ただ一人しか解明できなかったらしい。つまり、この時代で起きた以上、この時代の人間で解決するしかないのだ。
「……、伊勢谷君、君には『この世界』の責任を押し付けてしまう―――許してくれ」
『この世界の責任』それは、多分、第三次世界大戦を起こしてしまうほど、愚かな人間を許す。そういうことなのだろうか―――?
「僕が勇者になった以上、この世界は救って見せます」
「それは心強い。だが、駄目だ。今の君では」
なんでだ―――? 今の僕に、何が足りない? この疑問をすべて知っているのが、ジャンヌの遺産なのだろうか? この世界のすべての理由を知るのがジャンヌの遺産なのだろうか?
……、そんなのは駄目だ。この世の存在する理由があろうと、どんな理由があろうと、『神に従っては駄目だ』
「さて、伊勢谷さん。仕事に向かいますよ」
仕事。よし、行こう。そんな中、とある方に話しかけられた。
「なあ、そこのあんた」
言葉使いが荒い。フランス人なんですか? なんで、英語ぺらぺらなんですか?
まあいいや―――彼女に、所在を問う。
「わたしは、ドミニオン・フォーン。過去に木山さんとは面識があるんだ。過去って言っても―――最近なんだけどな」
ん? 最近? おかしいな。すでにハルトさんは―――てか、木山さん呼びなのか!?
どうやら、彼女はここより少し時間のずれた世界で、ハルトさんと出会っているらしい。でも、どうして彼女にそんな記憶が? ―――聞いてみると、なんか、別の世界線の記憶を一部持ってこれるらしい。……、なら、もう彼女に頼めばいいんじゃないかな?
「伊勢谷君。彼女に協力してもらおうじゃないか。それが、この場での最善策みたいだからね」
まあ、僕が出る幕じゃないんですけどねwwwwwwww ……、冗談です。やります。僕にしかできないんで。
で、何をすればいいんですか? ライラさんに聞く。彼女は何も答えない。やばい、積んだ。答えは簡単、積んだ。彼女、何も話そうとしない。
やっと喋ったと思えば、ジャンヌ博に行こうぜ。そう言い始めた。えぇ……それ駄目やん。
悪いね、可愛いgirl。遊んでる暇はねえ。ケビンは彼女をナンパするかのごとくそういった。てか、もう完全にナンパだよ!! それ!!
でも、ジャンヌ博。言ってみる価値はありそうだ。そこで、ジャンヌについて調べるのも、立派な仕事の内だろうから。
行きましょう。そういうと、美雨さんは、僕の耳元でささやいた。「二人で行きましょう」そう、耳元でつぶやかれた。彼女から、デートのお誘いである。断らないわけないだろぉぉぉぉぉ。僕、絶賛リア充生活満喫中なんだZE★
…………、日本から大量の殺意を感じる。やめておこう。これ以上は。
さて、そんなこんなで目的は決まった。ジャンヌ博へ仕事デートしに行く!! さて、ちゃんとフランス編っぽくなってきたじゃないか。嫌いじゃないぜ。僕は。
10時。もうすぐ、来るはずだ。僕は、手元の時計の針を見ながらそういった。
……、おかしいな。来るはずなんだどな。こないぞ。
「おまたせー」と言って、来るはずなのだけど。違った。
あれは、美雨さんだ。よし、いつでも何されてもいいように―――
そんな僕の予想を上回るように、おまたせーという声とともに、彼女は飛び蹴りで登場した。痛い。親にも蹴られたことがないのに。
さて、何はともあれ、そろったんだ。行こうか。そう言って、ジャンヌ博行きのバスに乗った。はずだったのだけど……それは悪魔で幻想だった。的外れだった。
このバスは―――はめられた。来る前に、ケビンに言われたことを思い出す。
「ここは今、ジャンヌの遺産を巡って、色々な組織が徘徊している。だからこそ、君たちは、あまりうろちょろしてほしくはないんだ……」と。色々な組織―――まさか、そこに『彼女』はいるのだろうか……? 僕は彼女が裏切ったとは思えない。
* *
その頃の日本では―――
「あー、お姉ちゃんも伊勢谷さんもいないから詰まんない~」
晴ちゃんが、退屈そうにしていた。まあ、今回の任務では、何が起こるかわからない。という理由で、彼女には日本で待機してもらっている。
退屈だろうなぁ……そう思いながらも、僕たちはフランスで任務をしている。
あ、そうだ。久しぶりに連絡してみよ。そう言って、彼女は携帯を取り出し、電話帖から、名前を探して電話をかけた。
「あ、もしもし」その声とともに、彼女の顔は曇った。何を言われたのだろうか? わからない。……、誰に電話して、何を言われたのか。全くわからない。
数分後、彼女はフランスに居る姉に電話をした。今、起きたことを報告するために。しかし、美雨さんが電話に出ても、彼女の声はしなかった。おかしい。あまりにも不自然だ。美雨さんは、そう言って、僕に帰りたい。と言ってきた。
* *
「ねえ、信二くん」
「ん?」
「私、日本に帰りたい」
わけもわからず、僕は彼女に理由を問うが、彼女は、帰りたいの一点張りで、何も言わなかった。このバスが怪しいからだろうか? それとも―――
ぴんぽーん。
その音とともに、アナウンスが聞こえた。「もう間もなくー、ジャンヌ博―ジャンヌ博でございますー」
ジャンヌ博。いよいよなのだが、今の美雨さんを連れていくのは―――危険すぎる。
チャイム音と共に、バスはジャンヌ博前の停留所に止まる。止まる直前、運転手は、何かを言いたそうな顔でこちらを見ていた。口の動きで何を言っているか。知ろうとしたが、そんな技術はない。口の動きを思い出してみる。最初のは―――に……? にって……、思い当たる言葉をひたすらに考える。
肉? 違う。ニラ? 違う。食べ物じゃぁない。だとすると、物? に、に……
ニット帽? 違う。恐らく、ものですらない。単語? 口元は、焦っていた。焦ってまで伝えたい事―――ばく、ばく……!? 『爆発』脳裏に浮かんだのは、その言葉だった。何が爆発する? 停留所? いや、被害がでかい。ジャンヌ博? いや、それじゃあ、ジャンヌの遺産ごと木端微塵だ。あれ? なんで、今、ジャンヌの遺産が思い浮かんだ? もう一度、ケビンに言われた事を思い出す。
「他の組織に命を狙われている可能性もなくはない。気を付けろ」
この言葉からすると―――バス! そうだ、他の組織がやりやすいかつ、ばれにくい方法、それは、バスの爆発だ!
だとすると、バスは―――
どかん。
鈍い音と、激しい爆発音が脳内を掻き回した。『バスの街中爆発』それは、恐らく、メディアと、世間一般は食いつくだろう。だが、この業界に入ったからには、そんなことはいつ起きてもいいように心がけている。―――わけもない。いや、今回のは完全に予想外だった。ジャンヌ博の前、そこでは、警備員たちが入口の前を封鎖している。ここで、しばらく黙っていた、いや、震えていた美雨さんが口を開いた。
「もしかして、私たちを消すんじゃなくて、これが目的だったんじゃないの?」
僕たちの末梢。確かに、他の組織にとっては都合のいい話だ。だが、大半の組織は死体の回収などをしない。任務に余計な時間を与えるからだ。その結果、世間、マスコミはぎゃあぎゃあ騒ぐ。だが、僕たちに被害を与えず、綺麗に対象物を奪う。そうしたとき、有効なのは足止めだ。派手な事をすれば、警察たちが動き、さらに、近くに居た僕たちはその警察の標的に真っ先になる。
それが狙いか―――だが、ジャンヌの遺産。渡すわけにはいかないんだ。こんなところで。負けて―――たまるか……!!
「美雨さん、乗り込むぞ!!」
え? この状態で? 混乱している彼女の腕を引っ張り、僕は警備員を上手くかわし、ジャンヌ博に乗り込んだ。しかし、その姿は確実に、警備カメラに映るだろう。だが、ここで遺産を渡すくらいなら、僕が捕まったって、日本の晴ちゃんに無事に届けたほうが賢明だ。いや、賢明なはずだ。
混乱し、少し頭の回転が鈍くなっている僕を見て、美雨さんは、今まで見せたことのない、心配する顔で僕を見つめている。乗り込んで、乗り込んで。僕たちは、ジャンヌ博の目玉、ジャンヌの旗のエリアまで来ていた。まさか、この旗が遺産なのでは? そんなとはない。
このエリアについた時、後ろでした足音に、僕は気づかなかった。誰かがいる。それに気づいたのは、声を掛けられてからだ。声の先を見る―――そこには、見たことのある人物がいた。
ひっさしびりの再開、喜ぶ暇はねえ見てぇじゃん? そう言って、彼女は、僕に銃を向けた。その銃は悲しみなどはなく、ただ、殺意のままに向けられた。
七瀬さん、彼女は、完全に。僕たちの敵になった。
七瀬さん、今僕たちの目の前で立ちふさがる最大の脅威だ。何しろ、彼女は対人戦、銃撃戦、対機械戦。すべてにおいてこなすエリートだ。それに対し僕は、ついこの間、彼女の師匠から銃撃戦のみを習っただけである。勝てっこないのであった。
銃を構える。それが、今の僕にできる精いっぱいだ。美雨さんなら、彼女に勝機はあるだろう。だが、今の彼女は駄目だ。戦闘どころじゃない。今彼女に戦わせれば、間違いなく、確実に負けるだろう。負けて……殺される。ここで死ねば、黒箱どころじゃない。だから―――僕は彼女に銃を向ける。美雨さんにではない。七瀬さんにだ。
「お前、なかなか成長したじゃねえか」
そう言い、彼女も銃を抜く。ここからは、以下に接近しないかだ。接近しすぎると、対人戦に圧倒的な力を持つ彼女に確実に腕、あばら、足。どれかを持っていかれる。そうなれば、隙が確実に生まれ、確実に負ける。
対人戦が苦手だったら―――それを補って戦うだけだ。彼女に銃を向ける。引き金を引けば、銃弾が放たれる。それを、外さず。確実に―――僕は、銃使った体感型のゲームならやり込んだ。あの感覚を忘れるな。それが―――勝つための条件だ。
あの戦法なら―――世界大会でリアルなSPすらも度肝を抜いたあの戦法なら―――行ける。意表を突け。相手を驚かせろ。隙を生め。『隙』それも勝利のための条件だ。
「んで、死ぬための準備はできたかい? あたしは―――あんたを殺す準備が出来たんだがね!!!」そう言って、彼女は接近しながら銃弾を放った。狙い通りの動きをしてくれた。次の瞬間―――僕は銃を捨てた。その瞬間、彼女は一瞬だけ、驚くそぶりを見せた。逃さない。この一瞬を。
捨てた銃をすぐに拾い上げ、体を寝かせながら打ち込む。これで、銃弾も回避して―――なんて、うまくいくはずもない。僕はあくまでゲームの動きをしている。そして、ぶっつけ本番。完全にあの通りに動けるわけでもない。対して彼女は、かなり戦闘慣れしている。おそらく、こういった予測不可能な状況にも対応できているのだろう。接近された―――彼女に。懐に、接近された。こうなれば―――勝ち目はない。
が、彼女が次に隙を見せたのは、僕の行動ではない。むしろ、僕が捨てた銃を―――美雨さんが拾い上げ、彼女に対して銃弾を放った。
その銃弾は、『確実に』七瀬さんの太ももを貫いた。おそらく、予測不可能と言っても、戦闘に全く関係していない、部外者からの予測不可な状況に対応しきれなかったのだろう。その隙を逃さず、僕。ではなく―――美雨さんが彼女の腹に一発、ケリを入れる。
「晴を……、返しなさあああああああああああああい!!!!」
その雄叫びとともに、彼女にケリを入れる。まさか―――晴ちゃんに何かあったのだろうか……?
罰として、しばらく私たちと行動を共にしなさい。美雨さんは、彼女にそう言い放つ。勇ましい。その言葉が似合う格好で。しかし、美雨さんの背中は―――格好良かった。正直、惚れ直す。でも、さすがにその怪力はどうかと思うが、まあ、色んな行動を共にして、彼女を好きになったのだから、怪力でも何でもいい。
ケリを入れられた七瀬さんは、伸びている。かなり。しかも、吐血しながら。泡まで吹いてるんですけど―――ちょっと、美雨さん、本気でけり入れすぎじゃ……、下手したら、死人が出るレベル。人を殺すってレベルじゃねえぞ―――殺すどころか、いたぶっている。それも、結構笑顔で。あかん。ドSすぎる。やばい、僕もいずれああなると想像すると、吐血。ではなく、腹痛に見舞われる。なんでだ……けり入れられたの見たから、その影響で腹痛なんだろうけど……
「春の事は気になりますが、彼女が何か情報を知っているのは確かです。私は、そっちも調べたいので、しばらくはケビンを当てにしてください」
そういうと、彼女は七瀬さんを担ぎ、裏口の非常用ドアから外に出た。担ぐなよ。仮にも、彼女は秘密情報機関の戦闘部隊のトップだぞ……その光景、彼女の組織が見たら激おこぷんぷん丸じゃすまないはずなんですが……
とはいえ、また、彼女に助けられた。そうため息をつきながら、銃を拾い上げ、腰のショルダーにしまう。そして、ジャンヌ博の調査だ。戦闘じゃなくて今回の目的はあくまでそっちである。もう少し部屋の奥まで進む。
* *
あの後、ジャンヌ博の調査を続けたが、何もなかった。と、言うより、本当にただの展示会だった。まあ、そんなとこにジャンヌの遺産なんて置かないのが普通だろう。さて。となれば、あとは何処だろうか。まさか、もう他の組織の手の中だろうか。僕は、ジャンヌ博の帰りのバスに乗りながら色々と憶測をしてみるが、どうも、しっくりこない。七瀬さんは、本当にジャンヌの遺産が目当てだったのだろうか? それが、しっくりこない原因だった。そもそも、彼女はジャンヌの遺産を探しに来たとは言ってない。じゃあ、何のために―――?
ともあれ、しばらくは、僕も続けないとな。戦闘の訓練。ケビンあたりに手伝ってもらうか……と、若干の眠気に襲われ、眠むりかけたその時、事件は再び起きた。そう、行きのバスで狙われていたのなら、帰りとて同じことである。バスは―――爆発した。当然、僕の乗っているバスだ。
爆発……ではない。有毒ガス。しかも、かなり強い毒素を持つ毒だ。さすがに、眠気に襲われてかつ、こういった訓練のない中で―――これ―――は―――
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