彼女の中指が勃たない。

坪庭 芝特訓

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『末端冷え性』 ~先から食べて。

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「なんでお前の部屋は息が白いんだよ」
「まあまあ」

 並んで立つとだいぶ小柄過ぎる恋人に詞亜(しあ)が言う。
 が、小柄な若葉は気にするなと笑って見上げてくる。
 二人揃っての学校帰り。
 詞亜が若葉の家にあがり、更に若葉の自室に入るとまた外に戻ったのかと思ったくらいにそこは寒かった。
 玄関や廊下はひんやり寒い程度だ。
 だが真冬の北関東。その北向きの部屋というのは恐ろしく寒い。

「ストーブとか買わないの?」

 かじかむ手を制服カーディガンの袖口に引っ込めながら、すでに何度もした質問を詞亜がすると、

「暖房苦手なんだってばさぁ」

 若葉が何度めかの同じ答えを言った。
 レースのカーテンを開ければ窓は結露し、ひやりとしている。
 吐く息は白く、白いレースと相まって室内は寒々しい。

「カーテン、厚手のにしただけでだいぶ変わるよ」
「うん」

 そう詞亜が言っても若葉は生返事ばかりだ。
 昔から若葉は暖房対策というものを必要としていない。
 仕方なく冷たいフローリングに置かれたクッションに座るが、

「しあちゃん、こっちこっち」

 見れば若葉は定位置であるベッドの上だ。
 足だけを布団に入れ、上はいつものどてらを着ていた。
 この部屋唯一の防寒グッズだ。
 そんな雪国スタイルで若葉は手招きし、詞亜はまたかという顔をするが結局はベッドに上がる。
 そして、後ろに回り若葉の背中を、身体を包み込むようにして座る。
 足も若葉と同じように布団の中に入れる。
 背の高い詞亜はどてらを着た恋人もすっぽりその身体に収めることが出来る。
 ちょうどいい位置にある頭に詞亜があごを乗せると、若葉は逆に詞亜の身体の前面に背中を預ける。
 小さく、綿のはいったもこもことしたどてらを着た身体。
 まるでぬいぐるみを抱きしめているようだった。
 お腹に手を回し、頬をくっつける。
 全身でくまなく抱きしめられ、若葉が、んふー、と嬉しそうな声をあげる。
 しかしこれでは何も出来ない。おまけにベッドの上だ。
 する事は逆に、一つしかないのに。

「しあちゃん」
「うん」
「昨日ねえ」
「うん」

 それからはしばらく他愛ないお話が続いた。
 その身と同じように、幼い舌っ足らずな口調での若葉が話す続け、それを詞亜が聞く。
 寒くなければ雑誌を読んだりゲームも出来るが、寒いと話すしかない。  
 どてらを通して、身体を通して若葉の声が反響する。それが心地良かったが、

「…寒い」
「んー?」
「背中、寒い」

 詞亜がそう言うと、顔をこちらに向けた若葉が口付ける。
 詞亜の背中が寒くなると、二人は決まって布団の中に入る。
 若葉はどてらを脱ぎ、制服スカートは二人ともシワにならないよう脱ぐ。
 学校で疲れた足は靴下を脱いで解放する。
 そして寒さからお互いの足を絡ませあう。
 子供みたいな若葉の足を、その母親のような長い足で詞亜が挟み込む。
 電気毛布を買えと言えば、言われた方はやはり曖昧な返事をする。
 体温が高いから熱いのだ。
 若葉の身体は発熱するわけでもなく、穏やかに温かい。

「詞亜」
「ん」
「する?」

 布団に潜り込んだまま上目遣いで訊く。
 しあちゃんではなく、詞亜、と呼ぶ時はそういうことが始まる時だ。
 そのたびに、罪悪感がつきまとう。
 小学生のような若葉を抱くのはいつも抵抗感があった。
 けれど性感は発達し、反応はきちんとみせる。
 布団に入るのは元々それが目的のようなものだ。
 詞亜が仰向けになり、布団に入った若葉がままもぞもぞと移動する。
 小さな若葉は身体も口も舌もどこも小さい。

「んっ」

 舌を絡ませながら出す喘ぎ声も。
 ちくりとした罪悪感と、ぞくりとする背徳感に苛まれる。 
 布団の中でまさぐりあうと寒さが気にならなくなる。
 出来るだけ密着出来るようにと、伸ばした足の上に座らせ、まず若葉の服を脱がすと、

「脱がして」

 両腕を水平に伸ばして詞亜がお願いする。
 小さな手が、Lサイズの詞亜の身体から服を脱がしていく。
 ぷちぷちとボタンを外し、見えてきた肌に口付けていく。

「う」
「いたい?」

 訊かれた詞亜が熱い息を吐いて首を振る。
 それを見ると、若葉は口付けた場所を嘗めた。
 子猫がミルクを嘗めるように。
 その姿が愛しくて、顔を向けさせるとさっきよりも深く舌を入れる。
 合わせて手のひらで身体全体を撫でさする。
 手を滑らすたびにぴくぴくと反応する。
 首筋を吸い、髪の中に指を這わすと頭皮にまで熱がこもっていた。

「もう、して」
 
 ねだられ、指を差し入れると、

「つめたい」

 若葉が顔を顰める。
 恋人の反応に、詞亜がすぐに指を引き抜く。
 末端冷え性な詞亜は当然指が冷たい。
 真冬を閉じ込めたような部屋なら尚更だ。
 身体が大きいから熱が全身まで行き渡らないのだと、若葉はいつも茶化していたが、そんな指を入れるわけにはいかない。
 長く冷たい指は貫くとまではいかないが、若葉の中に入れるには抵抗がある。

「あっためる?」
「うん」
「貸して」

 行為の最中に出る舌ったらずな声に、詞亜が手を差し出すと受け取った若葉が首にあてがう。
 首元、鎖骨の辺り、耳の裏辺りなど、熱がたまりやすい場所に当て、手が熱を吸い取ってしまうと反対側へ。
 最後は脇の下へと持ってくる。
 それに、詞亜はひどく興奮した。
 若葉は柔らかい。脇も腕も、胸も。
 体温を測るように脇で手を挟み込むと、押し寄せられた胸の形が変わる。
 少しでも動かせばおかしなことを考えてると思われてしまう。
 これは暖めるための行為なのだ。
 だから、詞亜は微動だにしない。
 指先も。
 それに、若葉は口元に笑みを浮かべながら脇を閉めて手をきゅっきゅっと挟む。
 詞亜がそれをじっと見つめる。
 こちらから仕掛ければまた変態扱いされるだけだ。
 そんな考えを悟られないようにするが、どうせ向こうはそんなこともわかっているのだろうなと思った。
 そしてお互いの体温が同化し、

「あったまった?」

と、いうのがいつものやり方だったが。


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