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『カフェイン中毒』 2戦士目
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「は?」
仲間二人の告白に、口をぽかんと開けたまま萌桃が固まる。何それと。
「いやマジですまん」
それに、梨咲さんは頭に手をやり申し訳なさそうにする。今回ばかりは何も言い返せない。
その横に立つ大鳥さんも。
学生の身で、おまけに正義の味方なのに。それを言ったら梨咲さんなど浪人生なのに。
「妊、娠?」
小学生の口からはあまり聞かない単語が飛び出す。
気まずそうに梨咲さんが自分の頬をかき、萌桃の目がその梨咲さんのお腹に向く。
「だって」
「なんかさ、同性間?での受粉?まあ同性間なんちゃらが可能らしくて」
女同士でしょ?という問いに先回りして梨咲さんが答える。
要は友情以上の情がうっかり湧き、軽い感じでヤってしまったらデキてしまったということだ。
お互い同性同士は初めてだったのに、一発で。
「えーとだから私は戦線から離脱しますんで」
「わたしも」
手を挙げて言う梨咲さんに大鳥さんも同意し、
「えええっ!?」
いきなりの戦力低下に萌桃が驚く。
「梨咲さんはわかるけど大鳥さんはっ」
「いや、なるべく側にいてあげたいしさ」
そう言う大鳥さんが梨咲さんを見る。
梨咲さんも大鳥さんを見る。
二人の間には番(つがい)のような信頼と親密さがあった。
「それで、だ」
柔らかな雰囲気を堪能した梨咲さんが萌桃に向き直り、
「キミに任務を与える」
戦士として三人が選ばれたときと同じようなことを言う。
「まず一つは、二人か三人くらい仲間を見つけること。出来れば自分と同年代の」
「ええっ?」
萌桃がまた驚く。
「だって、大人がいた方が良いからって二人は選ばれたんでしょ?」
「大人だとこういう事態になっちゃうでしょうが」
梨咲さんが他人事みたいに言う。
「あともう一つは」
言って大鳥さんがピッと人差し指を立てる。
「この子に、ノンカフェインコーヒー買ってきてあげて」
「え…」
この子、と梨咲さんを手で指し示し、大鳥さんが言う。
先程ではないが萌桃が驚く。なんでというのが強いが。
「いやあー、もうコーヒーない生活とか考えられなくてさあ。今は麦茶とかでごまかしてるんだけど、ストレスとか出てきちゃうかもだから、コーヒー飲みたくってやっぱ。朝飲めないのとか辛いし。あと便通?コーヒー飲んだ方が出るんだよね」
また頭に手をやり、申し訳ねえとばかりに梨咲さんが言う。
「なに…、パシリ?」
「そうじゃなくて。袋の、インスタントでいいからさ。デカフェとかって言い方もあるけどお店とかで売ってたら買ってきて」
「大きいスーパーのコーヒー売り場とかで売ってると思うから。ああ、コーヒー売り場ってあの粉のやつが売ってるとこね。ボトルじゃなくて。ボトルので売ってたらそれでもいいけどコスパが」
「そんなのネットで買えばいいじゃんっ!」
ウダウダ言ってる梨咲さんに文明の利器を使えと萌桃が言うが、
「だって試しで買ってハズレたらショックデカいじゃんか」
妊婦さまがそう言う。
「出来るだけ実店舗で買って、良さそうだったらリピートするから。あ、ちょっとお店遠くてもウォーキングにもいいかも」
「そうだね。運動しなきゃ」
もう二人は未来のベイビーちゃんの話で持ちきりだった。
小学生の萌桃はそこに入り込めないが、
「で、産まれたら、すごい早いらしいからさ。おっきくなるの。成長したらすぐ戦線に加えるってことで」
言われた言葉に萌桃がなにそれという顔をする。
「同性間でも子供が出来るっていうこと自体が、そもそもポコポコ産んで戦士として育てろっていうための仕様みたい。だから戦えるまでに成長するのも早いんだって」
聴いてきたようなことをそっくりそのまま伝える。
どうやら上から言われたことらしい。
すでに戦士として目覚めたときから体内の作りもそうなっていたようだ。
当然、萌桃もだが。
それらを聴いた時、梨咲さんはひどい時代に産まれたなと思った。
だがどうしようもない。
自分達はそういう時代に産まれたのだ。
お腹の子も、そういう時代に産まれてくるのだ。
「この子がおっきくなったら、」
そう、まだ膨らみの目立たないお腹を抑え、
「三人で、お茶会でもしよう」
すでに母性を感じさせる笑みを浮かべ、梨咲さんはそう言ったが、
「……いやだ」
萌桃は子供みたいな言い方でそれをぶった切った。
「お茶会、じゃなくて、星とか、見たい。夜、みんなで」
そして子供みたいに欲求を途切れ途切れで口にする。
「芝生に、ピクニックシートみたいの敷いて、みんなで寝転んで。それで、ボトルに、大鳥さんか梨咲さんが、家で淹れてきれくれた、ナントカ出汁コーヒーを、飲むの」
お子ちゃまは、夜更かしを臨んだ。
なぜか唐突に涙を流しながら。
それはあまりにも可愛いらしいおねだりだった。
コーヒーなんてまだ飲めないくせに。
二人が真っ黒な大人な飲み物の話を楽しそうにしてるのが、彼女はいつも羨ましかったのだ。
あと、ナントカ出汁ではなく水出しだ。
そんなお願いに大鳥さんと梨咲さんは呆気にとられていたが、すぐにふたりともフッと笑い、
「うん。そうだね。この子と、あと新しく見つけた仲間とみんなで」
愛おしき小さな戦士にそう言うが、
「いやだ」
「ええっ?」
「さんにんが、いいの」
唇を尖らせて萌桃が言う。
小さな戦士はまだ子供で、まだ少しだけこの二人を独り占めしたかった。
それに、二人のお母さんはハイハイ、やれやれ、しょうがないなと笑った。
〈了〉
仲間二人の告白に、口をぽかんと開けたまま萌桃が固まる。何それと。
「いやマジですまん」
それに、梨咲さんは頭に手をやり申し訳なさそうにする。今回ばかりは何も言い返せない。
その横に立つ大鳥さんも。
学生の身で、おまけに正義の味方なのに。それを言ったら梨咲さんなど浪人生なのに。
「妊、娠?」
小学生の口からはあまり聞かない単語が飛び出す。
気まずそうに梨咲さんが自分の頬をかき、萌桃の目がその梨咲さんのお腹に向く。
「だって」
「なんかさ、同性間?での受粉?まあ同性間なんちゃらが可能らしくて」
女同士でしょ?という問いに先回りして梨咲さんが答える。
要は友情以上の情がうっかり湧き、軽い感じでヤってしまったらデキてしまったということだ。
お互い同性同士は初めてだったのに、一発で。
「えーとだから私は戦線から離脱しますんで」
「わたしも」
手を挙げて言う梨咲さんに大鳥さんも同意し、
「えええっ!?」
いきなりの戦力低下に萌桃が驚く。
「梨咲さんはわかるけど大鳥さんはっ」
「いや、なるべく側にいてあげたいしさ」
そう言う大鳥さんが梨咲さんを見る。
梨咲さんも大鳥さんを見る。
二人の間には番(つがい)のような信頼と親密さがあった。
「それで、だ」
柔らかな雰囲気を堪能した梨咲さんが萌桃に向き直り、
「キミに任務を与える」
戦士として三人が選ばれたときと同じようなことを言う。
「まず一つは、二人か三人くらい仲間を見つけること。出来れば自分と同年代の」
「ええっ?」
萌桃がまた驚く。
「だって、大人がいた方が良いからって二人は選ばれたんでしょ?」
「大人だとこういう事態になっちゃうでしょうが」
梨咲さんが他人事みたいに言う。
「あともう一つは」
言って大鳥さんがピッと人差し指を立てる。
「この子に、ノンカフェインコーヒー買ってきてあげて」
「え…」
この子、と梨咲さんを手で指し示し、大鳥さんが言う。
先程ではないが萌桃が驚く。なんでというのが強いが。
「いやあー、もうコーヒーない生活とか考えられなくてさあ。今は麦茶とかでごまかしてるんだけど、ストレスとか出てきちゃうかもだから、コーヒー飲みたくってやっぱ。朝飲めないのとか辛いし。あと便通?コーヒー飲んだ方が出るんだよね」
また頭に手をやり、申し訳ねえとばかりに梨咲さんが言う。
「なに…、パシリ?」
「そうじゃなくて。袋の、インスタントでいいからさ。デカフェとかって言い方もあるけどお店とかで売ってたら買ってきて」
「大きいスーパーのコーヒー売り場とかで売ってると思うから。ああ、コーヒー売り場ってあの粉のやつが売ってるとこね。ボトルじゃなくて。ボトルので売ってたらそれでもいいけどコスパが」
「そんなのネットで買えばいいじゃんっ!」
ウダウダ言ってる梨咲さんに文明の利器を使えと萌桃が言うが、
「だって試しで買ってハズレたらショックデカいじゃんか」
妊婦さまがそう言う。
「出来るだけ実店舗で買って、良さそうだったらリピートするから。あ、ちょっとお店遠くてもウォーキングにもいいかも」
「そうだね。運動しなきゃ」
もう二人は未来のベイビーちゃんの話で持ちきりだった。
小学生の萌桃はそこに入り込めないが、
「で、産まれたら、すごい早いらしいからさ。おっきくなるの。成長したらすぐ戦線に加えるってことで」
言われた言葉に萌桃がなにそれという顔をする。
「同性間でも子供が出来るっていうこと自体が、そもそもポコポコ産んで戦士として育てろっていうための仕様みたい。だから戦えるまでに成長するのも早いんだって」
聴いてきたようなことをそっくりそのまま伝える。
どうやら上から言われたことらしい。
すでに戦士として目覚めたときから体内の作りもそうなっていたようだ。
当然、萌桃もだが。
それらを聴いた時、梨咲さんはひどい時代に産まれたなと思った。
だがどうしようもない。
自分達はそういう時代に産まれたのだ。
お腹の子も、そういう時代に産まれてくるのだ。
「この子がおっきくなったら、」
そう、まだ膨らみの目立たないお腹を抑え、
「三人で、お茶会でもしよう」
すでに母性を感じさせる笑みを浮かべ、梨咲さんはそう言ったが、
「……いやだ」
萌桃は子供みたいな言い方でそれをぶった切った。
「お茶会、じゃなくて、星とか、見たい。夜、みんなで」
そして子供みたいに欲求を途切れ途切れで口にする。
「芝生に、ピクニックシートみたいの敷いて、みんなで寝転んで。それで、ボトルに、大鳥さんか梨咲さんが、家で淹れてきれくれた、ナントカ出汁コーヒーを、飲むの」
お子ちゃまは、夜更かしを臨んだ。
なぜか唐突に涙を流しながら。
それはあまりにも可愛いらしいおねだりだった。
コーヒーなんてまだ飲めないくせに。
二人が真っ黒な大人な飲み物の話を楽しそうにしてるのが、彼女はいつも羨ましかったのだ。
あと、ナントカ出汁ではなく水出しだ。
そんなお願いに大鳥さんと梨咲さんは呆気にとられていたが、すぐにふたりともフッと笑い、
「うん。そうだね。この子と、あと新しく見つけた仲間とみんなで」
愛おしき小さな戦士にそう言うが、
「いやだ」
「ええっ?」
「さんにんが、いいの」
唇を尖らせて萌桃が言う。
小さな戦士はまだ子供で、まだ少しだけこの二人を独り占めしたかった。
それに、二人のお母さんはハイハイ、やれやれ、しょうがないなと笑った。
〈了〉
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