アニラジロデオ第二波  ~来週新曲宇宙初オンエアだけど、ネット配信版だと曲カットだからリアルタイムで聴いて!

坪庭 芝特訓

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同じ国に生まれて、全く違う音楽を聴いてる

9、今日は女の子達が主役よ!男子はすっこんでて!

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 そんなこんなで三人で楽しんでいると、

「そろそろかな」

 パイセンがケータイで時間を見る。そろそろお目当てのイベントが始まる頃だった。
 じゃあそろそろ行きましょうかと三人はイベントステージの方へ移動したが、

「わっ」

 観覧スペースの入り口に列が出来ていて響季が驚く。
 並んでいるのは下は幼稚園くらいの女の子から上は中学生くらい、高校生ぐらいの女の子。
 ほとんどが友達か、小さい子はお母さんらしき人と連れ立ってという雰囲気だが、

「おおお」

 その女の子達の格好を見て響季が更に驚く。
 女の子達は皆サッカーユニフォームを着て来ていた。
 身体の線から、自分達とは違う運動部系部活少女だとすぐにわかる。
 プロチームのレプリカユニフォームらしき子も多いが、ほとんどが普段自分が来ているようなウェアだった。
 所属チーム名が入ったようなものや、学校名が入ったようなもの。
 それらを、正装とばかりに着込んで観覧スペースへと移動していった。
 サッカー少女達は皆わくわくした表情で整理券を手に、係員の指示に従って移動していく。
 それはアニメを見るような小さい子も、本来ならアニメを見なくなるような歳の子も変わらなかった。
 以前、アルコール・ド・ボンバーのラジオ公録を見た時のような、なにやら熱いものが響季の胸にこみあげてきた。


 係員による誘導が済むと、

「まだ入れますが」

 柵の外側から見ている客達に、係員のお兄さんが言う。
 客達は、いえ自分達は、という顔で会釈をしたり手を上げて断る仕草をする。
 男女ともに眼鏡率が高く、髪を染めたりしない柔和な雰囲気を醸し出した大人達だ。
 それに、響季はどこか自分と同じ匂いを感じ取る。
 純粋な作品のファンではなく、声優目当てで来たのだと。
 いや作品のファンかもしれないが、ここはお子達のために邪魔をしないという空気を出していた。
 響季を真ん中に、左にパイセン、右に零児が立ち、ステージが始まるのを三人は待った。

 しばらくすると、

「お」

 番組のテーマ曲らしきものが会場に流れ出し、響季が天井を見上げる。
 曲名はわからないがいかにもアニソンらしいコード進行。
 それに聞き入っていると、

「はあーい。こぉーんにちわぁー」

 響季の隣で零児の身体がびくっと反応を見せる。
 その声と、出てきた妙齢のお姉さんに。
 出てきたのは当然神部ちゃんだ。
 零児のお目当ての。
 ファイルのようなものを携え、ハンドマイクを手に舞台下手から上手に神部ちゃんが小走りで移動する。
 そんなお姉さんを、ほわああ、と目をキラキラさせながら見る。
 ただの社員さんをそんな目で見つめているのは零児だけだろうと響季は思った。

「はい、皆さんこんにちわー」

\…こんにちはー/

「あれれー?こえがちいさいなあ」

\(笑)/

「もういちど、こんにちわーっ!」

\こんにちわーっ!!!/


「おー、げんきですねー。ごめんなさいね(笑)、ちょっと、大きい女の子たちも付き合わせてしまって」

\(笑)/


 移動が済むと、神部ちゃんが小さなお友達イベントお約束の掛け合いをする。
 だが、見に来た子達には中高生ぐらいの女の子もいた。
 照れがあってか始めの掛け合いには参加しなかったのか、声が足りなかった。
 神部ちゃんはその子達も巻き込んだのだ。
 会場から笑い声が上がる。主に中高生ちゃん達の。
 それは、ここは敢えて乗っておこうという笑いだ。子供に戻り、楽しんじゃおうと。
 司会と観客。そこに共犯意識のようなものが出来上がった。

「えー、というわけで本日は、アニメ ぶんサカ スペシャルトークショーにお集まりいただき、ありがとうございました。司会はわたくし、」

 神部ちゃんは台本ファイルを片手に、ハキハキした発声でイベント概要と自分の名を告げる。
 会場から拍手があがり、興奮が混じらないよう、零児も普通の強さで拍手をする。
 そして諸々の説明も済むと、
「それでは登場していただきましょうっ。アニメ ぶんサカ より、カントク役の真津島 夏妃さ
ん、杉浦伊智香(いちか)、双実(ふたみ)役の森口茜さん、東海林美椿(みつば)、夜櫻(よざくら)役の臣場史織さん、石河奈和(なお)、知瑠波(ちるは)役の衣鈴綾羽さんですっ!」


 神部ちゃんの紹介のあとにBGMが一層大きくなり、声優達が次々と登場する。

「すごいな…」

 カントク役の真津島 夏妃を見て、響季が小さな声で唸る。
 真津島は先程設定資料集で見たカントクと同じジャージを着て登場した。
 おそらく作中でキャラクターが着ていたものを実際に製作し、衣装として着ているのだろう。
少し長めのショートカットと涼やかな面差し、スッとした高身長で見事に着こなしている。
 さすが業界きっての男前女性声優だ。
 他の声優陣も、設定資料集でキャラクター達が着ていたユニフォーム姿でぞろぞろ登場する。
 妙齢女子のサッカーユニフォーム姿というのもなかなか可愛らしい。
 観客の女の子達からいいなあーという声が小さく上がる。

「あれ、実際にあんのかな」
「売ってると思う」

 響季の小さな問いに、零児が小声で答える。
 グッズとしてすでにあるようだ。
 これで売り上げがあがりそうだ。
 そうこうしてるうちに順番に登場した声優陣が、ステージ上に等間隔で並ぶ。
 すると、もちょっとこっち来なよと森口が臣場を手招きし、臣場がぴょんと飛んで一歩分真横に移動する。
 大人のそんな面白かわいい動きに、観客から笑いが起こった。
 いい感じに会場がほぐれていく。

「それではまずカントクから」

 どうぞと手を差し出しながらの神部ちゃんの声に、はい、と答えながら真津島が一歩前に出ると、


カントク(CV真津島 夏妃 )「≪いいぞお前ら!今のお前らは今日イチでかっこいいぞー!≫」


\おおおおー/


 名刺代わりにマイクを通して、おそらく作中の決め台詞らしきものを言う。
 その一言で観客の中にあった、この人が本当にあのキャラの声の人なの?という思いが一瞬で払拭される。
 そのキャラクターを知らない響季でもわかる。
 それは声だけでキャラクターという命が生まれた瞬間だった。

「カントク役の真津島 夏妃です。今日はよろしくお願いします」

 本来の声に戻り、真津島がお辞儀をする。そして、

「はい。では続きまして」

 神部ちゃんの声に、森口茜がまた一歩出て、

「はい。えー、」


杉浦伊智香(CV 森口茜)「≪あと一点返そうっ!いやあと7点っ!≫」

\おおーっ/


双実(CV 森口茜)「≪楽しくやろう。楽しく楽しくっ≫」


\わあーっ!/

 響季が先程読んだ設定資料集を思い出す。
 伊智香はガンガンいくぜスタイルのキャプテン。対して分身の術で生み出された双実は勝ち負けに拘らない楽しくサッカーをしようというタイプらしい。
 森口茜は声帯のスイッチングで見事に一人二役を演じ分けた。
 声優の職人技を目の当たりにし、響季はゾクゾクする。

「杉浦伊智香(いちか)、双実(ふたみ)役の森口茜です。よろしくお願いしまーす」

 最後に森口が本来の声で挨拶をすると、観客がぱち、ぱちぱちぱちと拍手し、それが徐々に大きくなる。
 みんな呆気にとられているのだ。
 一人の人間の声が二人のキャラクターを演じるということに。

「そして、東海林美椿(みつば)、夜櫻役の臣場史織さん」
「はい」
 
 神部ちゃんの声にまた臣場が一歩前に出ると、

東海林美椿(CV)「また後でね、子猫ちゃん達」


\キャアァーッ!/

夜櫻(CV)「あツっ苦しいんだよ。このメスブタどもっ!」


\おおおーっ/


 美椿はチャラチャラジゴロ系の女子にモテモテストライカー。
 そして分身側の夜櫻はきっちり仕事をこなす職人型ストライカーでこちらも女子におモテになるキャラらしい。
 が、夜櫻は体温が高く極端に暑がり。こちらは女嫌いらしいが作中のお決まりなのか、振り払うような動きをすると、アニメと同じだと女の子達から声が上がる。



「東海林美椿(みつば)、夜櫻(よざくら)役の臣場史織です」

 女の子達の反応に、臣場が嬉しそうにニカッと笑顔を見せると観客から拍手が起こる。
 相変わらず実年齢がよくわからないのに可愛らしい笑顔だ。

「…また若くなってる」

 その笑顔を見て、おかしい、これはおかしいと響季が低く呻く。
 実年齢に比例して、またきれいに可愛くなっている。
 やはり仕事が充実してる役者はそうなのか、しかもお子向けアニメだと、と不思議なシステムに唸るが、

「子供たちからエネルギー貰ってる」
「うん…」

 同じことを思ったのか、零児の言葉に響季が頷く。
 作品を通して子供達にパワーを与え、それを見た子供達から同じくらいエネルギーを受け取っている。
 それゆえ声優はいつまでも若々しい。
 なんとも面白い職業だった。

「続いて石河奈和、知瑠波役の衣鈴綾羽さん」

 紹介された衣鈴は返事をせず、ぺこっと会釈だけで応えると、



奈和(CV衣鈴綾羽)「監督、御意」

\おーっ/

台詞声だけで観客の心を掴み、


知瑠波(CV衣鈴綾羽)「…ぎょぃ」

\アハハハッ!/


 続いてもう一人のキャラの声で更に掴む。
 声質的にはあまり変わらない、双子のような発声。
 なのに、音だけなのに、響季には奈和の御意は固い漢字のイメージで、知瑠波の御意はひらがなで聞こえた。
 ちょっとの差でキャラクターが生まれるのだ。
 そして、

「それでは最後に、この方をお呼びしましょうっ」

 その紹介に、観客からうおおおおーっと今日イチの声が上がる。
 やはりというか、観客にとってのヒロインは彼女なのだ。
 現役サッカー選手の仲村 紀久恵だ。
 パイセンもよく見ようと柵から少し身を乗り出す。
 この場にいる少女達には彼女こそが今日のヒロインなのだ。
 声優達が着ているのと同じユニフォーム姿で。
 短い髪と日に焼けた肌。
 はにかみ、観客に軽く手を振りながら声優陣の前を小走りで駆け抜け、カントクの横に収まった。
 思った以上に小柄だが、体の線は誰よりもかっちりしている。

 そこからは現役選手も交えてトークショーが始まった。

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