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良き声優ほど早めに飛び立つ

16、泣いて笑って弔って眠れなくて走ってくる

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DOLCE GARDENのRADIO GARDEN

 Crispy―Na GURASSEお当番回


ぐらっせ「いくよいくよ?(笑)」

すうーっ。

ぐらっせ「…オ、オ?変ワッタ?」
くりすぴ「変わった変わった(笑)すごーい」
ぐらっせ「エー、ミナサンコンバンワァー。DOLCE GARDENノグラ柳徹子デゴザイマス。皆様如何オ過ゴシ?今週ノオ客様ハコチラ。ザ・ベストテン!」
 作家  「(笑)」
くりすぴ「わあー!いいなあー!よぉーし、わたしも」

すうーっ。

くりすぴ「…ん。皆さんこんばんわ。あれ!?」
 作家  「(爆笑)」
ぐらっせ「変ワッテナイ(笑)」
くりすぴ「わたくしDOLCE GARDENのクリ柳徹子でござあれ!?変わってないっ!?違う?もう戻ったの?」
 作家  「声高いから変わってない(笑)」
くりすぴ「えーっ!?」
ぐらっせ「ハハハハハ(笑)」
くりすぴ「んもーっ。つまんなぁーい」


 「なんだよ、これ」

  響季が半笑いでツッこむ。
  今週はどういうわけか、ヘリウムガスで声を変えてオープニングトークをお送りしていた。
  Crispy―Naは元が高音だからガスを吸っても変わらない。
  のっけからもう面白い。
  相変わらずステージで魅せる麗しさなど欠片もない、おちゃらけ放送。
  これはお耳が離せない。


ぐらっせ「トイウワケデ、エー、始マリマシタ。DOLCE GARDENノRADIO GARDEN。オ相手はワタクシ、DOLCE GARDENのGURASSEト?」
くりすぴ「ぶーぶー」
ぐらっせ「エー、何ヤラ外野カラブーイングガ聞コエマスケドモ(笑)」
くりすぴ「ぐらちゃんだけずるいぃー」
ぐらっせ「ショウガナイジャナイノサ、アンタ声高イカラアンマ変化シナイんだから。あっ」
くりすぴ「あー!戻った!すごいねえ!」
ぐらっせ「こんなシームレスに戻るんだねー」
くりすぴ「もっかいやりたい」
ぐらっせ「ダメだって(笑)立て続けにやると頭くらくらしちゃうから。やるなら時間置いてやってって」
くりすぴ「あ、そうね。言われてたわね。じゃあエンディングで出来たら、もう一回」
ぐらっせ「あなた別に無くても自前で行けるんじゃないの?」
くりすぴ「エエーッ!?ソウカナァー?」
ぐらっせ「高い高い(笑)」
くりすぴ「始メハー、私モ遊ビノツモリダッタンデスヨォー」
 作家  「(笑)」
ぐらっせ「プライバシー保護ごっこやめい!(笑)ベタなのやめいて。あれ?あなた、もうちゃんと名乗った?」
くりすぴ「あ、そっか(笑)えー、わたくし、DOLCE GARDENのCrispy―Naデゴザイマアアアアアアアスッ♪ルゥーアアアアアァァァーッ!!!」
ぐらっせ「本域のソプラノやめいて!(笑)リスナーさんちの近所のワンコ鳴いちゃうから!」
くりすぴ「うっそ!こりゃ大変だ。あ、私、犬笛のモノマネできるよ?」
ぐらっせ「やーんーなーよっ!!(笑)スタジオにワンコ来ちゃうから!」
くりすぴ「えー!!学校みたいじゃんっ。楽しそう。ワンちゃんハフハフしよう」
ぐらっせ「授業にならんわ!(笑)」
くりすぴ「眉毛描こう、眉毛。ワンコに」
ぐらっせ「じゃああたしワンコのお腹に宝の地図描くわ」
くりすぴ「エッ!?」
ぐらっせ「えっ?(笑)」
 作家  「(笑)」



 「ふ、ふふっ」

  響季が笑いを噛み殺す。
  高音担当のCrispy―Naがガスを吸わなくとも自前で高音喋りをしだした。
  更に夕方ニュースでインタビューを受ける人になり、ライブでもないのに本域のソプラノハイトーンを披露しだす。
  お遊び感覚で軽くやってみただけなのに、ビブラート全開で下々には勿体のうございますな神のお遊び。
  更にワンコの可愛がり方に地域差かお育ちの差が出て戸惑う二人。
  相変わらず、今週もやりたい放題だ。


  そして、結局そのまま放送を聞き続け、

 「あー、面白かった」

  気づけば丸々30分聴いてしまった。
  リスナーのラジオネームがツボにハマったのかひたすらいじったり。
  この前夜のスーパーに行ったら、試合帰りなのか稽古帰りなのか、空手着姿の小さい男の子がチョロチョロしてて可愛かっただとか。
  GURASSEが急にソースカツ丼を食べたがったり。
  エンディングにこれが最後とCrispy―Naがガスを吸うが、やっぱりダメだった。
  話はとっちらかり、横道に逸れ、お腹いっぱいで笑い過ぎて、お腹と頬が痛い。

 「あー」

  心地よい疲れが身体を包み込む。さっきまでめそめそ泣いてたのが嘘みたいだ。
  いや、程よく泣き疲れたのもあるのか。
  お見送りは出来なかった。
  しかし、自分の身に降り掛かったズッコケでしんみりせずに、笑って前を向けた。
  自分は、それでいい気がした。

 「くぁ、ねむ…」

  このまま眠りにつけそうだ。
  ケータイを見ると、零児からのメールは特に届いていない。
  ならばと返事を期待せず、こちらから送ってみる。

 『お弔い放送』

という件名の後に、

 『最後の歌詞聞く前に予約タイマー働いて、DOLCE GARDENの番組に飛んじゃった。』

と、書いて送った。
  寝ちゃったかなと思ったが、

 「あれ?」

  返信はすぐに来た。

 『わたしは、』

という件名の後に、

 『自分のネタで泣いたのは初めて』

  響季が聴き逃してしまったあの歌詞を、零児はおそらく久しぶりに聴いて、そして泣いたらしい。
  お見送りは、彼女がしてくれたようだ。

 『笑った?』 

  という問いに、

 『笑った。泣いた。笑った』

  今日もまた笑って、泣いたらしい。そして笑ったらしい。
  おそらく過去の自分のネタで笑い、最後の最後で泣いて、泣いてしまった自分に笑ったらしい。
  それでいいんだと響季は思った。
  そうやってまた、悲しみを少しづつ消化していくのだと。
  安心したのか、すうっとした心地よい睡魔が響季に訪れるが、

 「んぐ」

  ケータイが鳴る。零児だ。
  届いたメールを開くと、

 『眠れない』

 「うええっ?」

  どうやら向こうは目が冴えてしまったようだ。
  瞼がうまく開かない中、響季はそれをどうにかして読み、

 『ねてください』

  うまく動かない指でそう返すが、

 『少し話さないか』

 「うううー」

  いつもなら嬉しいお誘いだが、もう眠さが限界だった。

 『ねてよー。あしたはなsうy』
 『じゃあ近所のコンビニまで走って買い物してくるから買うもの指定して』

 「かう、ものぉ?」

  もう半分ほど眠りかけながら、響季は チキン と打とうとするが、

 『チリソース』
 『わかった』

  予測変換でそんな言葉を送ってしまった。
  それっきり、メールは途絶えた。
  響季は眠りについて、零児は深夜の自宅を抜け出した
 自分は眠る。彼女は起きて、ちょっと夜の街に出かけてくる。
  好きな女の子が無駄に元気過ぎる。元気に生きている。
  なんだかさっきよりも安心して、響季は眠りについた。


 (了)
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