上 下
69 / 96
良き声優ほど早めに飛び立つ

10、まずはまだ逢える方から

しおりを挟む
鳴嶋「はぁーい。ということで今日はですねー、特別!あ、特別企画としてェー!わたしの大事な人たちに急遽電話をかけてですね、わたしについてのお話を聞いちゃおうと、ワタシの事どう思ってんの?好き?嫌い?愛してる?ねえ愛してるの?愛してるのどうなの?重い?ワタシの愛情重い?重いオンナ嫌い?というコーナーを、えー、やろうかなと。突発的ではありますが、評判宜しければまたやりたいなというコーナーでして」


  趣旨について説明すると、鳴嶋がテーブルに置かれていた黒電話を引き寄せ、


 鳴嶋「それじゃあ一人目ー。えー、ジーゴロジーゴロ、あっ!…あ、これボタン押すんですか?えっ、掛からないんですけど。回すの?えっ、そうなの?」


  ダイヤルを回していたが、急にカマトトボイスで黒電話知らない世代コントをしだす。

 《掛け方知ってただろ(笑)》
 《はよせぇ(笑)》
 《茶番はじまった(笑)》


リスナーからのツッコミコメントが止まらない。


 鳴嶋「出るかな、出るかなっ♪っていうか寝てるかな。いや起きてるかな。わたしが出てる深夜アニメ見てるかな。いや今期わたし出てないな」

  掛けた先の相手の状態を予想し、鳴嶋がワクワク顔をしたり寂しい事情をバラしたりするが、



 鳴嶋「…あっ、おかあさーん!?はいー、そおよぉ。娘よぉ。え?オレオレじゃねえっで。娘だっで。アンダの娘だっで」


 《なまってる(笑)》
 《おかあさんっ!》
 《ママー》
 《おかあさんはじめまして》
 《いつもおれらがおせわしてます》


  掛けた相手は田舎に住むお母さんらしい。鳴嶋は楽しそうに実家のお母さんと話していたが、


 《これホントに電話掛けてるの?》


  リスナーの一人が気付く。


 鳴嶋「うん。ちゃんと食べてる。食べてるってぇー。ん?うん。う?うーん…。ぅうっ?」


 《掛けてなくね?(笑)》
 《アドリブ?》
 《え、すごいな》
 《フツーに電話したのかと思った》


 「…すごいな」

  響季がリスナー同様、鳴嶋の芝居力に驚く。
  どうやら電話してる風小芝居らしい。
  お世話になった人に本当に電話をかける企画だと思っていたのに、エアーのようだ。
  なぜこんな企画を急に、と響季は思ったが、理由はなんとなくわかっていた。
  そして、それを理解したくなかった。
  しかし見たかった。


  続いて鳴嶋は幼稚園からのお友達に電話を掛けた。
  最近そのお友達に子供が生まれ、鳴嶋が人気女児向けアニメ パティーシエンジェルに出ているから電話口でそのキャラの声をやってくれ、出来れば必殺技でという流れ。
  リスナーからはあるある、試練やね、みんなやらされんだなとツッコミコメントが流れてきた。


 鳴嶋「いくよ、いくよ、やるよ?あ、ちと待って。ウ、ヴンッ、ンンンッ!アーッ、アーッ!ンッ、ンッ」



 《咳払い(笑)》
 《うるせえ(笑)》
 《喉整えて(笑)》
 《す、すてびあたぁーん(笑)》
 《子供の夢壊すぞ(笑)》
 《喉がババア(笑)》
 《ステビア喉いがらっぽい(笑)》


 鳴嶋  「はい、いくよ?ゥトムハー・ココッ!(エコー最大)」
スタッフ「(笑)」


 「ふはっ」

  響季が思わず吹き出す。
  鳴嶋が必殺技を言うタイミングで白目を剥くというベタボケを放ってきたからだ。
  これは動画ならではのボケだった。



 《白目っ!(笑)》
 《白目剥くなっ!(笑)》


  リスナーもコメントでばんばんツッこむ。


 鳴嶋  「ぅとむはー・ここ(雑」
スタッフ「(笑)」
 鳴嶋  「かしめしぃーきんし、あ、違った。しんきぃーかしめし(雑」


 《雑にやんなっ!(笑)》
 《それ三人じゃないと出来ないやつっ!(笑)》
 《ちょいちょい白目(笑)》
 《なるしまけいは白目を剥くギャグを覚えた(笑)》



 「あっはっはっ!」

  響季が声に出して笑う。
  必殺技の声は適当なのに白目はギンっと全力でやる。その対比が面白い。
  笑い過ぎてお腹が痛い。
  が、この後に控えた相手を思い浮かべると、ひゅるりと脇腹が冷えた。


 鳴嶋  「あちち。おおー、イテ。へえー、イテ。眼球イテ」
スタッフ「(笑)」
 鳴嶋  「えー、というわけでCMのあとは最後のゲストさんでーす。誰かな誰かな?」

  白目剥きで乾いた眼球を痛がりつつ、一旦コーナーを閉めると、番組ジングルとともにまた番組タイトルが挟み込まれる。
  気持ちを作るために仕切り直すということか、と響季は予想する。
  そして、数秒ののち。

鳴嶋「さてー、えー、というわけで最後のゲストさんにね、お電話を…、おでん?やだなんか美味しいの出てきた(笑)ちくわぶ出てきた。えー、お電話掛けたいと思うのですが…、ね。ちょっとね、この方は前お二人に比べるとちょっと遠いとこにいらっしゃるので。あっ、お引越しされたのかな?つい最近ね」


 《うわあ》
 《遠いよね…》
 《永住か》

  少しのトーンダウンとともに、鳴嶋が最後のゲストについて説明する。
  空気を察したリスナーからのコメントに、響季の脇腹がますます冷える。
  同時に、覚悟をした。
  もしかしたら泣き過ぎて頭痛がするコースかもしれない。


 鳴嶋「なのでこれを付けましてですね、電波をよくしようと」


  言って鳴嶋が金モールで作った輪っかを頭につける。
  悪ふざけの天使が出来上がるが、見た目が面白くなったことで少し救われた。


 鳴嶋「それでは……、掛けますか」


  なにやら先程の二人に比べて気合が違う。
  いじるにしても死者なので丁重にということか。
  先程と同じようにジーゴロジーゴロと鳴嶋がダイヤルを回す。


 《黒電話知らない小芝居しないのか》
 《もう忘れてる》
 《緊張してきた》


 プルルルル、というコール音が聞こえ、鳴嶋が向こうが出るのを待つ。
  その眼には何も映っていない。
  もしかしたら在りし日の友人を思い浮かべてるのかもしれない。
  そして、何回目かのコール音の後。
  鳴嶋の目に一瞬決意のようなものが見えた。
  気持ちが出来たのか、と響季が思ったのと同時に、プル、とコール音が途切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アニラジロデオ ~夜中に声優ラジオなんて聴いてないでさっさと寝な!

坪庭 芝特訓
恋愛
 女子高生の零児(れいじ 黒髪アーモンドアイの方)と響季(ひびき 茶髪眼鏡の方)は、深夜の声優ラジオ界隈で暗躍するネタ職人。  零児は「ネタコーナーさえあればどんなラジオ番組にも現れ、オモシロネタを放り込む」、響季は「ノベルティグッズさえ貰えればどんなラジオ番組にもメールを送る」というスタンスでそれぞれネタを送ってきた。  接点のなかった二人だが、ある日零児が献結 (※10代の子限定の献血)ルームでラジオ番組のノベルティグッズを手にしているところを響季が見つける。  零児が同じネタ職人ではないかと勘付いた響季は、献結ルームの職員さん、看護師さん達の力も借り、なんとかしてその証拠を掴みたい、彼女のラジオネームを知りたいと奔走する。 ここから第四部その2⇒いつしか響季のことを本気で好きになっていた零児は、その熱に浮かされ彼女の核とも言える面白さを失いつつあった。  それに気付き、零児の元から走り去った響季。  そして突如舞い込む百合営業声優の入籍話と、みんな大好きプリント自習。  プリントを5分でやっつけた響季は零児とのことを柿内君に相談するが、いつしか話は今や親友となった二人の出会いと柿内君の過去のこと、更に零児と響季の実験の日々の話へと続く。  一学年上の生徒相手に、お笑い営業をしていた少女。  夜の街で、大人相手に育った少年。  危うい少女達の告白百人組手、からのKissing図書館デート。  その少女達は今や心が離れていた。  ってそんな話どうでもいいから彼女達の仲を修復する解決策を!  そうだVogue対決だ!  勝った方には当選したけど全く行く気のしない献結啓蒙ライブのチケットをプレゼント!  ひゃだ!それってとってもいいアイデア!  そんな感じでギャルパイセンと先生達を巻き込み、ハイスクールがダンスフロアに。 R15指定ですが、高濃度百合分補給のためにたまにそういうのが出るよというレベル、かつ欠番扱いです。 読み飛ばしてもらっても大丈夫です。 検索用キーワード 百合ん百合ん女子高生/よくわかる献血/ハガキ職人講座/ラジオと献血/百合声優の結婚報告/プリント自習/処世術としてのオネエキャラ/告白タイム/ギャルゲー収録直後の声優コメント/雑誌じゃない方のVOGUE/若者の缶コーヒー離れ

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...