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22、充電させてもらえやせんでゲスか?
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「なんか…」
「うん」
「モヤモヤして」
「モヤモヤ…」
ペパーミント色のパスタをフォークで巻き取りながら、零児は話しだした。
なんだかモヤモヤするからどこか遠くへ行けば気が晴れる。零児はそう考えたらしい。
「なんでモヤモヤするんだ?」
訊かれた零児は一度自分のカラフルなパスタを見て、柿内君を見る。
その顔は、少し怒っているように見えた。
一瞬、自分が原因かと柿内君は思うが、
「……響季が」
「ああ」
やはりそっちかと落胆する。
「学校の先輩の、献結に付き添ったんだって。昨日献結した時に言ってた」
「へえ」
それがモヤモヤの原因か。だがもう少し掘り下げないとわからない。
そう柿内君が思っていると、零児は勝手に喋り出した。
「でも響季、その時一緒に献結しなかったんだって」
「なんで?」
「わかんない。バスでしたって言ってたけど。ルームの方がいいもの貰えるし、設備もいいっていうのはあるけど」
そこで零児は言葉を切る。
もう一つ思い当たる理由があるらしい。
けれど、それを自分からは言えない。
「れーじ君とやりたかったんじゃないか?」
だから、柿内君は代わりに言ってあげた。
響季がいつも零児と連れ立って献結に行っているのは彼も知っていた。
先輩とやってしまうとその機会が無くなってしまう。
でもそれを言われても、零児は逆に怒ったような顔をする。
「その人が初めてだったなら、一緒にやってあげるべきだったんじゃないかな」
一つ呼吸をつくと、零児はそう言った。
ルームでやった方が安心だし、いいものが貰える。
そして、零児と行きたいから響季がパスしたのならそれはそれで嬉しい。
しかし初心者の付き添いだったのなら一緒にやってあげるべきではと零児は思ったのだ。
全体の流れや痛み、かかる時間、身体への負担など初献結は不安な部分が多いからだ。
それがバスだったのなら尚更だ。
響季は学校の先輩の初献結に付き添った。
でも献結の先輩としてお手本を見せてやることはしなかった。
それは、謝礼品や自分の身体を気遣ったからか。
あるいは零児との約束を優先させたのか。
いやもしかしたら、そんなものは建前で、いつも自分と一緒に行くのに他の人と行こうとしたのか、という単純な苛立ちかもしれない。
どうやらその辺りがモヤモヤの原因らしい。
だが話を聴きながら、柿内君はその先輩とやらが気になった。
「その先輩、って?」
「わかんない。見た目ギャルっぽいパイセンなのにビクビクしてたから面白かったって言ってた」
「え…」
その特徴を聞き、柿内君には思い当たる節があった。
ギャルっぽい見た目と、パイセンという呼び方。
いや、思い当たるどころか、今日昼休みに見た光景を思い出す。
「知ってる人?」
その表情を見て零児が訊く。
響季の学校の先輩なら、柿内君とも面識があるかもしれないと。
柿内君の視線がさ迷い、
「ちょっ、ちょっと待ってくれっ。訊いてみるっ」
ケータイを取り出し、本人に直接訊いた。
素早く、この前響季と献結したかと用件だけをメールに打ち込み、送信すると、
♪ってってーれ、てれレれーんれ、てけてレレてーれてーれ
すぐに柿内君のケータイがテレビ東京系ドラマ ジェリーイン・ザ・メリーゴーラウンドのエンディング曲 実際の恋だもんねを奏でる。
設定したメロディで誰からかわかる。小阪パイセンだ。
『したよ』という相変わらずシンプルな答え。
せめて『アタイ、アイツとしたわよ』くらいの含みのある蓮っ葉女な回答は出来んものかと思うが、パイセンがTB成分の検査に引っ掛かったなんて柿内君は知らなかった。
「あー、俺の…、知ってる先輩だった」
自分と小阪パイセンの関係性を説明するのは少し面倒くさい。
だから柿内君は適当にそう言ったが、
「その先輩、響季と仲いいの?」
そう訊く零児には明らかに嫉妬が見えた。
目の前のパスタはさっきから全然減っていない。自分のミルフィールユも。
柿内君の脳裏には、今日の昼休みに見た光景がまざまざと思い出されていた。
「……ちょっと待って」
響季がデート話にストップをかける。
背中がひやりとした。
零児と献結ルームに行った翌日、ということはパイセンと昼休みにジェンガをした日だ。
その時、柿内君は教室に居ただろうか。
本来、彼は学校ではあまり目立たない生徒だ。
常に放電してはしゃいでるような響季と違い、大人しいというよりはひっそりしている。
響季と絡んだり、ふとした拍子に化学反応的にキャッハァー!とはしゃぎだすことはあるが、それは普段の彼が常に充電状態にあるか、あるいは省エネモードだからだ。
ネタ職人たる彼は、なるべく学校生活で無駄な体力を使いたくないのだ。
当然昼休みもそれは行われ、居るか居ないかわからないほど存在を消している。
そんな彼が教室に居て、響季達のことを観察していたら-。
何をしていたか響季が思い出していく。
ただジェンガをしていただけだ。
いや、パイセンを膝に載せて、落ちないように柔らかいお腹に腕を回していた。
あとは棒を引き抜こうとしたパイセンを邪魔しようとお腹の肉を摘んだり。
わがままブリンな太ももをぱちんと叩いたり。
脇腹をくすぐって邪魔をしようとして、膝から落ちそうになったパイセンを抱きとめたり。
そうだ、その程度だ。
それらを思い出し、おそるおそる親友の顔を伺う。
「何、話したの?れいちゃんと」
いや正解には、何か自分達について話したかと。
そんな親友を冷ややかに見た後、
「その先輩が昼休みにうちの教室に来て、響季と、あとクラスの女の子達とジェンガしながら遊んでたと」
「へ、へええー。そお」
そう言った柿内君に、響季はひとまず安堵する。見たままを告げたらしい。だが、
「先輩膝に載せて、腹や太もも触って邪魔したり。首元に手入れて邪魔したり、耳になんか囁いて邪魔したり、楽しくやってたと」
続く親友の言葉に、響季は背中以外に肋骨のあたりにも冷や汗をかく。
そんなことしてたかと思うが、観察力の高い彼のことだ。おそらくやってたのだろう。
それでも仲の良い先輩後輩のお戯れの範囲だ。
大丈夫だ、何もやましいことなど無いと言い聞かせ、
「で?そ、それからどしたの?」
「まあそんな話して。食べて、土産のマフィン買って。下にでかい模型屋があったからそこにれーじ君が居着いて」
「ゲッ!」
「未来都市のジオラマとかあったからそこにしばらく張り付いて、専用テーブルみたいのでカードゲームしてるお兄さん達ガン見して」
「うわあなにそれ!れいちゃん絶対好きなやつやん!ちくしょうぉおう!」
悔しそうに響季がガンガン机を拳で叩く。
零児ならそんな所はものすごく好きそうだし楽しめそうだ。
キラキラおめめでじっとジオラマを見たり、いい歳したカードゲームボーイズを腕組みしながら見て無言の圧力をかけてみたりしたのだ。
そんな姿が容易に想像出来たが、
「で、まあその後帰ったんだけど。途中ちょっと」
そう言って、柿内君が視線を逸らす。
何か言いづらいことでも起きたのかと響季は思うが、視線に反して彼の口元は笑っていた。
「帰りに、俺のバイクの充電が切れたんだ」
意外と遊べたオサレビルを出た後。
ブイーンと電動バイクが二台、元来た国道を戻っていたが、
「……あ?あっ!ヤバい!!」
軽快に走っていた柿内君のバイクが勝手に減速し始めた。
まさかと計器を見ると、バイクのバッテリーを表すマークが点滅していた。
「どしたのよー!?かっきー!」
先導する柿内君の焦った声に、零児が後ろから大声で訊いた。
「ちょっと待て!」
「なんだ」
「テメ、話盛ってんだろ!れいちゃんどしたのよー?なんて言わねえよ!」
話を聴いていた響季がそれを遮る。
零児はどしたのよーなんて言わない。
第一一緒にいてそんなおとぼけ口調は聴いたことがない。
だから柿内君が話を盛っていると思ったのだ。自分にも経験がある、ネタ職人がついよくやってしまうアレだと。
怒りのままに、犬のマズルを掴むように響季は親友の両頬を片手でガッと掴むと、
「盛っへなひ。おもひろいからノーへんひゅうでおおくりひている」
柿内君がその状態のまま、面白いからそっくりそのまま、ノー編集でお送りしていると言った。
自分の好きなコの、自分が知らない面白いところを見た。
それは歯噛みするほど悔しかったが、
「…続け給え」
掴んでいた手を離し、響季が苦々しく言う。
悔しいが、話の続きの方が気になった。
「どしたのよー!?かっきー!」
「ヤバい!充電が切れそうだ!」
「えー?あかんやーん」
「うわ、ヤバい!!」
言ってるうちにどんどん柿内君のバイクは減速していく。確か充電は充分だったはずだが、
「……そうか」
以前、姉者達がバイクの説明書を見ていたのを柿内君が思い出す。
確かドライバーの体重や坂道などでバッテリーを多く食うこともある、と書いてあり、説明書を見ていた姉者達が「じゃあ食べ歩きした後はバッテリーの減りが早いかも」などと冗談まじりで言っていたことを。
零児と自分とでは体重差があるからこちらの方が充電が早くなくなるのかと考えるが、今はそれどころではない。
「れーじくん先行ってくれ!!」
「だいじょーぶー?」
柿内君のバイクが減速するのに対し、スピードをあげたので後ろを走っていた零児が隣に並ぶ。
「この先にコンビニがあるからそこで待っててくれ!!事情行って充電させてもらう!!」
「わかったー!」
並走しながらそう告げると、減速していく柿内君を零児が追い抜いていく。
その姿はどんどん小さくなり、
「あ、あ、あ」
ドライバーの情けない声とともに、柿内君のバイクは完全にエンジンが止まった。あとは惰性で進むしかなくなる。
それもままならなくなると、彼はすぐにバイクから飛び降り、押して進んだ。
こんな公道で受ける辱しめ。周囲への迷惑。
何より彼女を待たせてはならないという使命感と、こんなワクワクするようなアクシデントに猛スピードでバイクを押した。
「うん」
「モヤモヤして」
「モヤモヤ…」
ペパーミント色のパスタをフォークで巻き取りながら、零児は話しだした。
なんだかモヤモヤするからどこか遠くへ行けば気が晴れる。零児はそう考えたらしい。
「なんでモヤモヤするんだ?」
訊かれた零児は一度自分のカラフルなパスタを見て、柿内君を見る。
その顔は、少し怒っているように見えた。
一瞬、自分が原因かと柿内君は思うが、
「……響季が」
「ああ」
やはりそっちかと落胆する。
「学校の先輩の、献結に付き添ったんだって。昨日献結した時に言ってた」
「へえ」
それがモヤモヤの原因か。だがもう少し掘り下げないとわからない。
そう柿内君が思っていると、零児は勝手に喋り出した。
「でも響季、その時一緒に献結しなかったんだって」
「なんで?」
「わかんない。バスでしたって言ってたけど。ルームの方がいいもの貰えるし、設備もいいっていうのはあるけど」
そこで零児は言葉を切る。
もう一つ思い当たる理由があるらしい。
けれど、それを自分からは言えない。
「れーじ君とやりたかったんじゃないか?」
だから、柿内君は代わりに言ってあげた。
響季がいつも零児と連れ立って献結に行っているのは彼も知っていた。
先輩とやってしまうとその機会が無くなってしまう。
でもそれを言われても、零児は逆に怒ったような顔をする。
「その人が初めてだったなら、一緒にやってあげるべきだったんじゃないかな」
一つ呼吸をつくと、零児はそう言った。
ルームでやった方が安心だし、いいものが貰える。
そして、零児と行きたいから響季がパスしたのならそれはそれで嬉しい。
しかし初心者の付き添いだったのなら一緒にやってあげるべきではと零児は思ったのだ。
全体の流れや痛み、かかる時間、身体への負担など初献結は不安な部分が多いからだ。
それがバスだったのなら尚更だ。
響季は学校の先輩の初献結に付き添った。
でも献結の先輩としてお手本を見せてやることはしなかった。
それは、謝礼品や自分の身体を気遣ったからか。
あるいは零児との約束を優先させたのか。
いやもしかしたら、そんなものは建前で、いつも自分と一緒に行くのに他の人と行こうとしたのか、という単純な苛立ちかもしれない。
どうやらその辺りがモヤモヤの原因らしい。
だが話を聴きながら、柿内君はその先輩とやらが気になった。
「その先輩、って?」
「わかんない。見た目ギャルっぽいパイセンなのにビクビクしてたから面白かったって言ってた」
「え…」
その特徴を聞き、柿内君には思い当たる節があった。
ギャルっぽい見た目と、パイセンという呼び方。
いや、思い当たるどころか、今日昼休みに見た光景を思い出す。
「知ってる人?」
その表情を見て零児が訊く。
響季の学校の先輩なら、柿内君とも面識があるかもしれないと。
柿内君の視線がさ迷い、
「ちょっ、ちょっと待ってくれっ。訊いてみるっ」
ケータイを取り出し、本人に直接訊いた。
素早く、この前響季と献結したかと用件だけをメールに打ち込み、送信すると、
♪ってってーれ、てれレれーんれ、てけてレレてーれてーれ
すぐに柿内君のケータイがテレビ東京系ドラマ ジェリーイン・ザ・メリーゴーラウンドのエンディング曲 実際の恋だもんねを奏でる。
設定したメロディで誰からかわかる。小阪パイセンだ。
『したよ』という相変わらずシンプルな答え。
せめて『アタイ、アイツとしたわよ』くらいの含みのある蓮っ葉女な回答は出来んものかと思うが、パイセンがTB成分の検査に引っ掛かったなんて柿内君は知らなかった。
「あー、俺の…、知ってる先輩だった」
自分と小阪パイセンの関係性を説明するのは少し面倒くさい。
だから柿内君は適当にそう言ったが、
「その先輩、響季と仲いいの?」
そう訊く零児には明らかに嫉妬が見えた。
目の前のパスタはさっきから全然減っていない。自分のミルフィールユも。
柿内君の脳裏には、今日の昼休みに見た光景がまざまざと思い出されていた。
「……ちょっと待って」
響季がデート話にストップをかける。
背中がひやりとした。
零児と献結ルームに行った翌日、ということはパイセンと昼休みにジェンガをした日だ。
その時、柿内君は教室に居ただろうか。
本来、彼は学校ではあまり目立たない生徒だ。
常に放電してはしゃいでるような響季と違い、大人しいというよりはひっそりしている。
響季と絡んだり、ふとした拍子に化学反応的にキャッハァー!とはしゃぎだすことはあるが、それは普段の彼が常に充電状態にあるか、あるいは省エネモードだからだ。
ネタ職人たる彼は、なるべく学校生活で無駄な体力を使いたくないのだ。
当然昼休みもそれは行われ、居るか居ないかわからないほど存在を消している。
そんな彼が教室に居て、響季達のことを観察していたら-。
何をしていたか響季が思い出していく。
ただジェンガをしていただけだ。
いや、パイセンを膝に載せて、落ちないように柔らかいお腹に腕を回していた。
あとは棒を引き抜こうとしたパイセンを邪魔しようとお腹の肉を摘んだり。
わがままブリンな太ももをぱちんと叩いたり。
脇腹をくすぐって邪魔をしようとして、膝から落ちそうになったパイセンを抱きとめたり。
そうだ、その程度だ。
それらを思い出し、おそるおそる親友の顔を伺う。
「何、話したの?れいちゃんと」
いや正解には、何か自分達について話したかと。
そんな親友を冷ややかに見た後、
「その先輩が昼休みにうちの教室に来て、響季と、あとクラスの女の子達とジェンガしながら遊んでたと」
「へ、へええー。そお」
そう言った柿内君に、響季はひとまず安堵する。見たままを告げたらしい。だが、
「先輩膝に載せて、腹や太もも触って邪魔したり。首元に手入れて邪魔したり、耳になんか囁いて邪魔したり、楽しくやってたと」
続く親友の言葉に、響季は背中以外に肋骨のあたりにも冷や汗をかく。
そんなことしてたかと思うが、観察力の高い彼のことだ。おそらくやってたのだろう。
それでも仲の良い先輩後輩のお戯れの範囲だ。
大丈夫だ、何もやましいことなど無いと言い聞かせ、
「で?そ、それからどしたの?」
「まあそんな話して。食べて、土産のマフィン買って。下にでかい模型屋があったからそこにれーじ君が居着いて」
「ゲッ!」
「未来都市のジオラマとかあったからそこにしばらく張り付いて、専用テーブルみたいのでカードゲームしてるお兄さん達ガン見して」
「うわあなにそれ!れいちゃん絶対好きなやつやん!ちくしょうぉおう!」
悔しそうに響季がガンガン机を拳で叩く。
零児ならそんな所はものすごく好きそうだし楽しめそうだ。
キラキラおめめでじっとジオラマを見たり、いい歳したカードゲームボーイズを腕組みしながら見て無言の圧力をかけてみたりしたのだ。
そんな姿が容易に想像出来たが、
「で、まあその後帰ったんだけど。途中ちょっと」
そう言って、柿内君が視線を逸らす。
何か言いづらいことでも起きたのかと響季は思うが、視線に反して彼の口元は笑っていた。
「帰りに、俺のバイクの充電が切れたんだ」
意外と遊べたオサレビルを出た後。
ブイーンと電動バイクが二台、元来た国道を戻っていたが、
「……あ?あっ!ヤバい!!」
軽快に走っていた柿内君のバイクが勝手に減速し始めた。
まさかと計器を見ると、バイクのバッテリーを表すマークが点滅していた。
「どしたのよー!?かっきー!」
先導する柿内君の焦った声に、零児が後ろから大声で訊いた。
「ちょっと待て!」
「なんだ」
「テメ、話盛ってんだろ!れいちゃんどしたのよー?なんて言わねえよ!」
話を聴いていた響季がそれを遮る。
零児はどしたのよーなんて言わない。
第一一緒にいてそんなおとぼけ口調は聴いたことがない。
だから柿内君が話を盛っていると思ったのだ。自分にも経験がある、ネタ職人がついよくやってしまうアレだと。
怒りのままに、犬のマズルを掴むように響季は親友の両頬を片手でガッと掴むと、
「盛っへなひ。おもひろいからノーへんひゅうでおおくりひている」
柿内君がその状態のまま、面白いからそっくりそのまま、ノー編集でお送りしていると言った。
自分の好きなコの、自分が知らない面白いところを見た。
それは歯噛みするほど悔しかったが、
「…続け給え」
掴んでいた手を離し、響季が苦々しく言う。
悔しいが、話の続きの方が気になった。
「どしたのよー!?かっきー!」
「ヤバい!充電が切れそうだ!」
「えー?あかんやーん」
「うわ、ヤバい!!」
言ってるうちにどんどん柿内君のバイクは減速していく。確か充電は充分だったはずだが、
「……そうか」
以前、姉者達がバイクの説明書を見ていたのを柿内君が思い出す。
確かドライバーの体重や坂道などでバッテリーを多く食うこともある、と書いてあり、説明書を見ていた姉者達が「じゃあ食べ歩きした後はバッテリーの減りが早いかも」などと冗談まじりで言っていたことを。
零児と自分とでは体重差があるからこちらの方が充電が早くなくなるのかと考えるが、今はそれどころではない。
「れーじくん先行ってくれ!!」
「だいじょーぶー?」
柿内君のバイクが減速するのに対し、スピードをあげたので後ろを走っていた零児が隣に並ぶ。
「この先にコンビニがあるからそこで待っててくれ!!事情行って充電させてもらう!!」
「わかったー!」
並走しながらそう告げると、減速していく柿内君を零児が追い抜いていく。
その姿はどんどん小さくなり、
「あ、あ、あ」
ドライバーの情けない声とともに、柿内君のバイクは完全にエンジンが止まった。あとは惰性で進むしかなくなる。
それもままならなくなると、彼はすぐにバイクから飛び降り、押して進んだ。
こんな公道で受ける辱しめ。周囲への迷惑。
何より彼女を待たせてはならないという使命感と、こんなワクワクするようなアクシデントに猛スピードでバイクを押した。
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