昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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昭和90年代のストリップ劇場は2010年代アニソンかかりまくり

3、ワシャこういうおなごも好きじゃよウシャシャ

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 最初の踊り子さんは、カッコイイ系の女性ボーカルの洋楽だった。
 宣材写真ではおしとやか系なのに、出てきたのは主張の強いスパイラルパーマの踊り子さんだった。
 男性客はお決まりとしての手拍子をする。
 曲を知ってる詩帆達もリズミカルに手拍子するが、詩帆はこういう感じの出し物かあとほんのりテンションが下がる。
 ダンスは上手いのだが、あまり前のめりで見るものではないかなと。
 しかし、そんな詩帆の耳が反応したのは三曲目だ。
 
 だがアニソンではない。
 世界中が知っているキング・オブ・ポップ。そのご兄妹ソングだった。
 PVでは不意打ちのように日本アニメの映像が差し込まれるアレだ。
 それに載せてパキリとした、直線的かつ軽やかなダンスを踊り子さんが披露する。
 着ているのはセクシーな、スケスケ編み編みで乳房が最初から丸見えな衣装。
 これはいいぞぉと詩帆の胸が躍る。
 ブラックなDNAを感じるサウンドに、自然とこちらの手拍子もいつもよりリズムカルになる。
 上手いのは一曲目でわかっていたが、踊ること自体が好きなのが伝わってくる。
 それが曲に上手く乗ってくる。
 宣材写真と違い過ぎるスパイラルパーマはもしかしてこのためのものかと予想する。
 要所要所のニヤリとした笑顔はダンスの上手い人によくある独りよがりさがなく、嫌味がない。
 妹ちゃんパートになると踊り方を変えてきた。
 更に曲を編集し、ご兄妹揃ってのダンスシーンを早めに持ってきて一人でこなす。
 安心と信頼の縦割れ腹筋をチラ見せする振り付けに、おおーっと詩帆のテンションが上がる。
 
 だが、しかし。
 詩帆はこれだけテンションが上ってるのに、男性客は曲を知らないのかぼんやりと見ていた。
 なんかダンスはすごいんだろうけど、それはわかるけど、とぼんやりと。
 おじさん世代には懐かしいのか、軽くリズムに乗って見ている紳士もいる。
 世代じゃない詩帆ですら必修科目の曲なのに、見てきたものが違うのか、シャオちゃんもぼんやり。
 MTVとかも見なさいよ!ムキーっ!と詩帆はアニオタ同居人に説教したくなった。


 次の踊り子さんは目と口が大きく、肌が浅黒くて大柄な踊り子さんだった。
 大柄な身体を駆使してダンサブルなステージを見せてくれた。
 ステップは軽やかなのに体重の乗せ方が上手い。
 それを見つつ、確かこういった顔の人を指す言い方があったはず、と詩帆が考えてみる。
 ワニ顔という言葉が一瞬浮かんだが、

「美人ですね」
 
 明瞭な発音でシャオちゃんが言うが、詩帆はそうかな、と思った。
 パーツを見れば悪くない。というか好きなタイプだが。
 そこまで考え、そうかな、は男性的目線で見ての感想だと気づいた。
 女性目線で見れば美人だった。
 なにがそうかなだよ、もっと素直に見ればいいのにと思ったが、

「舞台映えする」

 シャオちゃんにそう言われ、ああ、そっちの観点からかと納得する。
 パーツが大きいので遠くから見ても見やすい。
 こんな小さな劇場なのに、シャオちゃんはパフォーマーとしてきちんと見ていた。


 そんなショーも挟み、二人にとっては待ちに待ったヨンバンメの踊り子さんだ。
 聞こえてきたイントロに二人の背筋が伸びる。
 流れてきたのは女児向けアニメの主題歌だった。
 どこかありきたりな萌え萌えコスプレ衣装で踊り子さんが登場した。
 玩具ショップで買ったらしき既製品の変身ステッキとうさ耳、短いフリフリ付きのスカートとラメラメしたピンクのブーツ。
 やや濃い目のメイクに、髪はツインテールときた。
 ある種記号的な衣装だ。
 そんな衣装、髪型、メイクで、踊り子さんがこの場に相応しくないくらい元気いっぱいに踊る。
 それっぽい曲を選んでそれっぽい衣装、にしたのではおそらくない。敢えてだろう。
 作品に寄せ過ぎないことで汎用性をもたせてるような気がした。
 メイクが濃いことで味の濃い衣装も浮かない。
 子供向けアニソンらしく希望に満ち溢れまくり、暗い未来が待ち受けてるなど疑いもしない歌詞。
 歌っているアニソン歌手は口を大きく開けて一音一音はっきり聞かせる、歌のおねいさん風歌唱をとっている。
 笑顔と声量たっぷりの、良い子ちゃんアニソン。

 なのにだ。
 主演声優達によるコールが入ってる。パンパンっという小気味いいクラップ音も。
 甘ったるいお菓子みたいな曲なのに、ギュインと唸るギターや軽やかな管楽器がアクセントになっている。
 時折入る英語歌詞はごまかし日本語発音ではなく、きちんとネイティブな発音に近い。
 幼少時からちゃんとした発音を学ばせようという配慮だ。
 バランスが良く、曲から得られる栄養価が高い。
 女児様たちにとっては、きっと大人になって聞いてもソラで口ずさめるくらいに心に残る歌だ。
 それは詩帆にだって経験がある。
 大人にとっては気恥ずかしさがあるが、そんな恥ずかしさを取っ払ってしまえば音が楽しいと書いて音楽だということがよくわかる。
 聴いてるのが爺様客達がほとんどなので、逆に子供と変わらないかとも詩帆は思った。


 曲が変わり、踊り子さんが一度舞台袖へと引っ込むが、流れてきた曲にシャオちゃんがふおーっと声にならない声を上げる。
 コレ知ってるーと。
 それも同じ時間帯にやっていたアニメの挿入歌だったが、流れてきたのは海外版の挿入歌だった。
 確か美人敵幹部が現れる時のテーマ曲で、コレカッコイイとシャオちゃんに勧められてネット経由で詩帆も聴いたことがある。

 日本のアニメは海外でも放送されているが、主題歌もその国に応じた言葉、歌手でカバーされる。
 それは当然挿入歌もだが、流れてきたのはドイツ版のものだった。
 キャラクターや物語、設定を歌詞で説明してしまうため、日本語だとそちらに意識を引っ張られてしまうが、異国の言葉で歌うといい感じに歌詞がわからない。
 それでも元から英語の歌詞やキャラクター名はそのまま使われ、作品を知るものならどころどころなら意味がわかるのが少し面白い。
 ここの歌詞は伸ばさず切るんだなどの比較も出来る。
 もしかしたらアレンジもそちらの国に寄せているのかもしれない。
 これは家に帰ってからきちんと比較しようと自分への課題にしていると、着替えに手間取ったのか踊り子さんがようやく再登場する。

 甘ったるい萌え萌え衣装から一転し、妖艶なフラメンコ風衣装で。
 客と詩帆達がそれを拍手で迎える。
 先程のダンスで出来る人だとすでにわかっていたが、それにしても振り幅がすごい。
 きちんと経験のあるフラメンコステップだ。

 ツインテールは解かれ、程よいウェーブのある髪になっていた。
 メイクは次のステージに繋げても違和感がないように濃いめだったのかもしれない。
 少し冷たく硬質な言語と情熱的なギターの音色、そして原曲に元々備わってるラテン風の曲調。
 それに踊り子さんの衣装、髪、メイク、ダンスが合わさる。
 これが女児アニメの挿入歌だなんて誰が思うだろうというぐらいのかっこよさ。
 こっちのアレンジ、言語の方が正解なんじゃとなるくらい。
 まったくこれだからアニソンってやつは、と詩帆は腕組みし、椅子の背もたれに背中を預ける。
 アニソンというジャンルの幅広さには毎度驚かされる。
 それが嬉しくて楽しくて仕方ない。

 踊り子さんが腰をくねらせ、手首につけたカスタネットを叩き。
 ダンスの途中で赤いバラを咥え、魅惑の流し目を客席に送る。
 その目線が、二人にも送られる。
 少し珍しい女性客二人ということもあってかと詩帆が思っていると、シャオちゃんが口パクで歌っていることに気づいた。
 ちょっと恥ずかしかったが、ソラで海外アニソンを歌えるかっこよさが少し羨ましくもあった。


 ベッドショーはキラキラした綺麗な薄布をまとったショーだったが、その曲に詩帆が、あっ、と小さく声を上げる。
 リアル女児時代に見ていた夕方の女の子向けアニメの曲だった。
 確か最終回付近、長く続いたシリーズを締めくくる、本当の最終決戦前に流れていた曲だ。
 先程の作品より対象年齢が高く、シリーズが終りを迎える頃には周りのお友達は大人になってしまい、皆見ていなかった。
 だからその曲を知らないものは多い。
 知られざる名曲なのだが、改めて聞くとこんなジャキジャキザクザクにロックな歌だったのかと気付かされる。
 もう日本ではこんな歌は恐らく聴けないし誰も歌わない。

 そしてこれも海外版。
 ロック魂が海を超えて更に注入され、おそらく知らない人からすれば【なんかよくわからないけどすごくかっこいい曲】になっていた。
 それを、踊り子さんが裸体と一枚の布でもってステージに仕上げる。
 その姿は戦士を鼓舞する女神のようだった。
 サビでは翻訳された必殺技名をそのまま叫んじゃってるのに、ロックなシャウトで普通に聞けば気付きもしない。
 踊り子さんがポーズを決め、その体にライトが強く当たる。
 あまりのかっこよさに詩帆がおあーっと口を開けて拍手を送る。
 なんじゃこりゃあと。
 ロック魂溢れる古い女児向けアニメの挿入歌。
 しかしそれを知るものは少なく、詩帆自身今の今まで忘れていた。

踊り子さんいくつなんだ。
もしかして同世代?
ねえ、どのキャラが好きでした?
私はあの髪の青い女の子!
ねえ、どのお話が一番好きでした?
あのね、私は。

 そんなことを訊いて、話してみたくなる。性風俗の場で。
 訳がわからない。
 なのに詩帆は楽しかった。


「良かったね」
「デスネ」

 ショーが終わり場内が明るくなると、アニソンの使い方も含めいいステージだったねと二人が感想を述べ合う。
 そして撮影希望客が列を作るが、シャオちゃんが財布を手にスタンバイの様子を見せる。

「撮るの?」
「ハイッ」

 写真を撮りたいというよりおひねり的な意味も兼ねてだろうと詩帆は思ったが、

「来ないデスカ?」
 
 着いてきて、というよりせっかくだし来たら?という顔でシャオちゃんが訊く。
 それに詩帆は、はいはいやれやれ、と保護者顔をして着いていった。
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