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第三回公演
27、ご友人が大事な決断のためにログアウトされます
しおりを挟む時間つぶしにあのアニソンが聴きたい、このアニソンが聴きたいと二人が話し合っているうちに、次の踊り子さんのショーになった。
学ラン姿の男子高校生姿で、踊り子さんが登場する。
舞台には甲子園の時にかかる合唱曲が流れてきた。
斜め掛けしたエナメル製スポーツバックのベルトを掴み、おどおどキョロキョロと周囲を伺う。
人目で人工毛とわかるべったりした黒髪ウィッグと、自信のないやや猫背気味な立ち姿。
合唱曲が一度フェードアウトし、場内に、「タクヤ、お前は今日から男として私立シラヌイ高校に通うのだ」という妙に説明くさいナレーションが響き渡る。
脳内に響き渡るその声を、タクヤ君は耳をふさぎ、頭を振って追い払う。
気を取り直して本舞台でセイッ、セイッという可愛らしい掛け声とともに正拳突き、柔道の前受け身などを披露する。
付け焼刃な型や受け身で、たどたどしく危なっかしい。しかしそれがロリショタな雰囲気に合っていた。
ひと汗かくと中央舞台に進み、スポーツバックから出したタオルで汗を拭う。
それを首にかけると、
「うわ…」
嵐士が低い、嫌そうな声を上げる。
タクヤ君は女の子座りでバッグから大小様々なバイブレーターを取り出した。
細いもの、太いもの、黒いもの、スケルトンピンクのもの、肌色のもの。
何本ものバイブをバッグから出し、スイッチを入れると舞台に立たせていく。
所狭しと立たせられたバイブは、いくつかは自らの振動で倒れ、舞台の上で生き物のようにうねる。
バイブ博覧会のその中心で、一番のお気に入りといった体でタクヤ君は-、
「……えっ」
嫌な予感に嵐士と詩帆が声を上げる。
タクヤ君はバッグからソプラノリコーダーを取りだした。
先輩のものか、あるいは同級生のものか。
うっとりとそれを見つめると、学ランの胸ポケットから三つに繋がったコンドームを取り出した。口の端で封を開け、分解したリコーダーの真ん中パーツに被せる。
準備が整うと、待ちきれないとばかりにベルトをがちゃがちゃ鳴らしながら制服のズボンを脱ぐ。
ズボンは全部脱がずに膝まで。ポップな柄のボクサーパンツも一緒に脱ぐ。
次にいそいそと窮屈な学ランを脱ぎ出した。胸の盛り上がりが見える白のワイシャツを第二ボタンまで外し、それ以上は脱がない。
そしてリコーダーの先端部分を口に咥え、コンドームを被せた真ん中のパーツを生殖器にゆっくり挿入させる。パーツを出し入れさせるたびに、先端部分をか細く吹く。
女の喜びを堪能すると、今度は口に咥えていた先端にもう一つコンドームを付け、
「うわぁぁ」
嵐士が思わず声を上げる。苦しそうに。
男子高校生はリコーダーを後ろの排泄穴に挿入した。
ずぶずぶと粘膜に入りこむその様に、嵐士と詩帆が顔を顰めた。
続くショーでも踊り子さんは異物を排泄穴に挿入し、ベッドショーでは二点同時攻めを見せてくれた。
若者二人が内臓を掻き回されたような妙な腹痛をくらい、ショーが終わった。
一人目三人目と、ちょっと胸焼けする内容のショーをこなした後。
「あれ!?」
盗撮容疑がかからぬよう、バッグの中でケータイをチェックしていた詩帆がすっとんきょうな声をあげる。
「なんか、着信いっぱい来てる」
「誰?」
そう嵐士が訊くと、
「……ハルちゃん」
不安の混じる声で詩帆が返す。
「なんだろう」
なんだか胸騒ぎがした。嵐士も、蘭もなんとなくだが。
画面を見て詩帆が固まる。
「何?」
何かトラブルかと蘭が訊くが、
「ハルちゃん…、お母さんに捕まったって」
「え…」
言われてこちらも固まる。
詩帆のお母さんと遥心。
その組み合わせはわりと危険だった。
「ハルちゃん、バーで飲んでたらわたしのお母さんに偶然見つかって、うちの娘どうすんのかって今二者面談中だって」
詩帆が画面の文字を読み上げ、嵐士がごくっとつばを飲み込む。
詩帆のお母さんは決して悪くない人だ。
女手一つで何の苦労もなく娘を育て、遥心という娘の同性の恋人も歓迎してくれていた。
だが歓迎し過ぎていた。
要は娘とつきあってるなら一緒になれ、それも早く、きちんとした形でと遥心に迫っていた。
法律的に、子供のことも考えてと。
しかし、学生で親にも自分のことをきちんと伝えていない遥心にはそれは荷が重過ぎた。
説明と説得が追いつかない。
それを詩帆自身もわかっていた。
母親が望む将来を自分も望んでいるのは事実だが、遥心にはそれがまだ重過ぎるということを。
あるいは、遥心の本来の性格からすれば変にプレッシャーをかけると逃げられてしまうかもしれない。
だから慎重にと思っていたのだが、母親は暴走を始めていた。
「ちょっと…、行かなきゃっ!」
「うんっ」
バッグを手にそう言う詩帆に嵐士が蘭の声で行っといでと告げる。早く行ったほうがいいと。だが、
「私も、行ったほうがいい?」
友人である自分が同席した方が心強いかと蘭が訊くが、
「えっ、と」
一度迷った後、
「…ううん。いい」
詩帆はきっぱりそう言った。
「ちゃんと、言う。お母さんに」
それを聴き、蘭が、うん、と頷く。
逃げ回っていてもしょうがない、きちんと話し合わなくてはという決意が友達からは見れた。
「じゃあ、行ってくるねっ」
そう言い残して詩帆はあっという間に劇場を出て行った。
そうして半日限りの情婦を見送った後。
「はあ……。…あれ?」
嵐士は仲間がいなくなったことに急に心細くなった。
心にひゅるっと風が吹いてくる。
友達二人は人生の方向を決めに行った。
パートナーとどう歩んでいくかの決断をしに。
それに比べて自分はと、急に蘭の心が寒々しくなる。
こんな変装めいたことをして、叔父の見舞いにかこつけて昼間から遊んでいた。
「えーと……」
そして、現状から逃げるべく一度ロビーに逃げることにした。しかし、
「あれ?」
すぐに気づく。
この劇場に、ロビーなるものがあったかと。
入る時は当然入り口のドアを開けて入ってきた。
しかしロビーを抜けた記憶が無い。
すぐに場内に入った気がする。ワープをした覚えはないのだが。
そんなことを考えながら先程入ってきた妙に軽いドアを開けると、
「あれ!?」
出た先にはやはりロビーはなく、いきなりビルの通路になっていた。
その劇場はそこそこ大きなテナントビルの地下にあった。
もしかしてこの通路がロビーなのか、吸わないけどタバコなどもここで吸うのか、灰皿もないのに、と思っていると、
「外出ですか?」
と、声をかけられた。
見ると先程チケットを買った受付があった。
今出てきたドアと隣の店舗の間にすぽっと挟まるようにしてある受付。
声をかけてきたのはその中にいる従業員だが、
「いや、ええと」
どう訊こうか嵐士が迷っていると、
「ああ、休憩?」
向こうがV字にした指を口元に近づけたり離したりするジェスチャーをする。喫煙かと。
それ自体が目的ではないが大体合っている。
「だったらそっち、隣だよ」
そっち、と嵐士が従業員が指さした方を見る。受付を挟んだ隣の店舗を。
ガラスが嵌め込まれたドアには、喫茶 女城(めじろ)の文字。
そこには古ぼけた、いかにも昭和らしい喫茶店があった。
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