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第四回公演

9、大将、もっと味濃いめにしてくれ。これじゃ物足りねーやさ

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 そうこうしているうちに撮影ショーは終わった。
 続いてオープンショーになるとサンバ笛が聞こえてきて、

「うおあああ」

 聞き覚えの有り過ぎるその音色とメロディに、腐女子様以上に詩帆と遥心が色めき立つ。
 ミラーボールが回転する場内に流れてきたのは、ぴっぴぷー、ぴっぴっぴぷぷぷー、ぴっぴぷー、ぴっぴっぴぷーというサンバ笛。
 流れてきたのはアニメ あーいえばおんゆあまぁ~く。 第2期 主題歌 匠が作りし札束風呂 だった。
 サンバ風メロディと早口かつ情報量が多過ぎる歌詞。
 それを、自分が演じるキャラを維持しながら見事に歌いこなす主演女性声優。
 実際の1万円札より8倍はでかい札束扇子で優雅に仰ぎ、ヲーッホッホと高笑いしながら踊り子さん達が全裸に真っ赤なピンヒール一丁で、カツカツ歩きで登場した。
 扇子をレビュウ羽根のように扱うと、それで自分の股間を隠したり見せたり、相手の股間を隠してあげたり見せたり。
 更に閉じた扇子で相手の胸の先端をこしょこしょしてアア~ン、アンアン。された方がやり返し、お互いにアア~ン、アンアン。
 そんなやり取りを見て客席から笑い声が起こる。
 ノリノリなBGM効果もあり、バブリーかつキャッキャしたオープンショーに遥心はワクワクする。
 フッフー!という掛け声に合わせて、女性客が一糸乱れぬ動きでうちわを掲げ、遥心達も自然と拳を突き上げていた。

「今日このあともう一組こういうの出るよ」

 ショーが終わり、次の踊り子さんが出て来るまでの短い時間に勇者様がそう教えてくれた。
 それを聴いて、なんて週に当たっちまったんだい、楽しくてたまらねえぞと遥心達はワクワクした。


 次の踊り子さんはエッチな森のくまさんが出てくるショーだった。
 あの童謡とともに熊の着ぐるみパジャマを着た踊り子さんが登場し、客席に目一杯愛嬌を振りまく。
 曲がムーディーなものに変わるとするりとそれを脱ぎ捨て、赤いチビT一枚で蜂蜜プレイをしだした。
 液体を零さないよう、舞台にきちんと敷物を敷いた上でのローションプレイ。
 悪くはないしきちんとエロスもある。
 が、味が薄い。
 いや、ひとつ前のショーの味が濃すぎるのだが。
 それがまだ舌に残り、遥心は物足りなさを感じた。


 続く踊り子さんは恐らく新人の子だった。
 特に主張もない選曲と構成。
 ダンスではなく芝居仕立て。
 ダンスが上手くないとお芝居風に仕上げると聞くが、まだまだなのか、スキルがないのか。
 古い曲から新し目の曲を織り交ぜ、うまく振っているがなんというか自分がない。
 これ、という主張がない。
 ひょっとしたら振付師など誰かに考えてもらったものかもしれない。
 若くて顔が綺麗でスタイルが良くてそこそこで。どこをとっても無難と言えた。
 要は味が薄い。
 いや、前々回のステージの味が濃いのだか。
 そんなことを遥心が考えていると、隣に座る詩帆の首が、かくん、と落ちた。

「ぇぇっ?」

 すぐに顔を上げて舞台を見るが明らかに眠そうだ。
 いや、退屈だけど流石に寝るなよ、朝早かったけどさあと思うが、その向こうに座る腐女子様達もさっきはあれだけ目をキラキラさせていたのに、今はガラス玉みたいな目でステージを見ていた。
 眼鏡越しなので余計にガラス感が増す。
 まじめに見てはいるのだが、ただ見ているといった風だ。
 ああ、この時間が早く過ぎないかなあ、と。でも一生懸命だしこっちも真面目に見なきゃなあ、と。
 綺麗にまとまっているが冗長なショーが終わり、撮影ショーになるとその踊り子さんが本来好きそうなポップスがBGMとして流れてきた。
 いかにも若い女の子が好きそうな、最新の男性アイドルの曲。
 その頃になってようやく落ちていた詩帆の首がぴょこんと起きた。


 退屈なショーをやり過ごすと、お待ちかねの二組目のアニパロチームショーが始まった。
 仕事帰りなのか、女性客が更に増える。
 暗くなった場内に、アニメ ベーシック・ベーシクスの主題歌が流れてきた。
 ベーシック・ベーシクスは女子高生軽音部のベース担当を独自のネットワークでかき集めて交流を図ろうというアニメだ。
 これは遥心も見ていた。
 なぜ貴方はベースを?バンド内でのベースの立ち位置って?ツインベースのこだわりとは?とベースマニアにはたまらない設定だったらしいが、遥心は単純にキャラ萌え視点で見ていた。
 出てきたのは主人公と仲の良い、チャラチャラした茶髪にピアスバシバシガールと、主人公の影響でベースを始めた、主人公のお隣に住む中学生女子。
 先頬のロボットアニメと違い、踊り子さんがどのキャラに扮してるのかわかる。
 同人誌的には珍しいカップリングだなと思うが、逆に興味をそそった。

【はあーっ。このデモンストーンの新曲のベース、やっぱりいいなああー】
【おっ。おとなるちゃーん。どうしたの?うっとり顔でー】
【うわ、チャラいの来たっ】


 お隣の音田鳴子ちゃんが大きめなヘッドホンを耳に中央舞台でうっとりしていると、チャラ子こと茶川雷子がおいーっすと軽く手を上げながら上手から出てきた。
 先程と同じく、劇中台詞に合わせて芝居をするが、元の音源がわからない。
 なんというか、芝居が四コマっぽいというかショートアニメっぽい。
 こんな台詞あったかな、あとヘッドホン女子姿が何気に可愛いなと遥心が思っていると、

「特典アニメかな」

 詩帆がぽつりと呟く。
 ブルーレイに収録されていた特典アニメから音源を引っ張ってきたのかなと。


【んもー、だから言ったじゃないですか!】

 ショーは進み、チャラ子がCDショップの割引券の使用期限を切らしてしまうと、おとなるちゃんがじれったそうに足でだんっ!とステージを踏む。
 だからさっさと使ってしまえと言ったのに勿体無いと。
 それを見て、あんなことするキャラだったかなと遥心が訝しげながら公式設定を脳内で照らし合わせると、チャラ子がだんっ!に一拍遅れてぴょん!と飛び、客席から笑いが起きる。
 舞台でやるものとして無理のない程度にアレンジしてるようだ。


 その後なんやかんやとショーは進み、18禁同人誌シーンになった。

【べっくん、こんななっちゃった】

 そう言って、ステージ上のおとなるちゃんがベースを模したヴァイブレーション、性具を取り出す。

「なんだあれ」

 遥心が怪訝そうな目でそれを見る。
 どこのショップでお買いになったの?と聴きたくなるグッズだった。
 まさにパーティーグッズの名にふさわしい。
 スピーカーから流れてきた台詞は、逆恨みで他のバンドメンバーによって大事なベースがバキバキにされてしまった後の台詞だ。
 本編での名台詞をそないに使うなと遥心は思うが、おとなるちゃんはベースバイブを、すでに中央舞台に横たわって足を開いているチャラ子の中心部にゆっくり、馴染ませるように押しこむ。
 最初はゆっくり、入り口だけ。
 気遣うような視線を向けられると、チャラ子は小さく頷き、

「あっあっあっ」

 おとなるちゃんが、スイッチを入れた。
 ブィーっという低い音と大音量でアニソンが響き渡る場内に、喘ぎ声が重なる。
 男性客も女性客も、皆真剣に、息を詰めて見ているのがわかった。
 わりと好きな曲なのに、遥心はBGMのボリューム下げてくれんかと音響係の従業員さんに思わず言いたくなる。
 最後のサビ直前、メロディが静かめになり、歌声が前面に出だす。
 舞台上の二人が見つめ合い、おとなるちゃんが愛おしそうにチャラ子の頬に触れると、 触れられた方は涙を湛えた表情でこくんと頷く。
 ラストスパートに向けて一気に、一思いにと。
 醸し出す百合百合しい空気感に、うわあ、ええなっ!と遥心が腕組みしたままニヤつくと、

「あっ!あっ!あっ!あっ!」

 曲が盛り上がり、突き上げる動きに合わせてチャラ子が喘ぎだす。
 が、BGMが大音量過ぎてその声がかき消される。
 遥心と詩帆は、声聞こえねえよ!ボリューム下げてくれんか!と本気で言いたくなる。





学生記者 S隊員(ゆでたまごさんチーム) 取材メモ

なかなかでした。

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