昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第四回公演

7、知らない間に歴史動きまくり

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「ああ、これで終わりだな」

 見ていた映像がプツッと終わり、おいちゃんが言う。
 得るものは多かった。当時でもマイナー声優ソングで踊るような踊り子さんもいた。
 あとは、その出し物を貰ったかもしれない踊り子さんがいるかもしれないという不確定情報も。
 あとは直接聞けたお話も。
 二人が取材メモをまとめていると、

「どう?いいレポート書けそう?」
「あー、いやあ、そうですねえ」
「どうでしょ」

 勇者様が訊くが、なんとも言えない。
 おいちゃんも機械をテレビから外したりと作業するが、

「…嬢のステージでした。この後撮影ショー、オープンショーと続きますが、進行上の都合によりフィナーレはカットとなります」
「おお、なんだよ。フィナーレカットかよ」

 作業しながら漏れ聞こえてくるアナウンスに文句を言う。おいちゃんはフィナーレ好きらしい。
 同じく華やかなフィナーレが好きな詩帆達はなんとなく親近感が湧くが、

「二人、見てかないの?」

 取材メモをまとめ終わると、場内の方を指差しながら勇者様がそう言う。

「そっか…」

 訊かれて遥心がどうする?と詩帆に目で問う。
 観劇が目的ではなかったので、全然出し物も踊り子さんもチェックしてなかった。
 おまけに変わった楽しみ方をしてる二人はアニソンがかからないなら少々退屈だ。

「まあ、せっかくだから」

 遥心の言葉に詩帆も頷く。ついでに見ていこうかと。



「どうも」
「あざっす」

 レディーファーストなのか、勇者様が先立って場内への扉を開けてくれた。
 それに会釈して詩帆と遥心が中に入ると、撮影ショーの途中なのだろう、客席には明かりがついていたが、

「え…」

 そこには、驚くべき光景が広がっていた。
 若い客が多いのだ。しかも女性客が。
 自分達と同じくらいかそれ以上。もっと上の人もいる。
 数人単位のグループで来たような人も多い。
 なんだかバラエティ番組の観覧席のような光景だ。
 撮影ショーの様子を見たり、実際に撮影の列に並んでいる人もいれば、文庫本を取り出して時間潰しを心得ている人もいる。

「どういうこと?」

 遥心と詩帆が戸惑う。
 二人の知ってる客層はもっと灰色で、男性ばかりで年齢層が高いはずだ。

 程なくしてオープンショーが始まった。
 女性客も勝手知ったるといった感じでリズミカルに拍手して出迎える。
 舞台周りの女性客がご開帳サービスを受けると、あああ、ありがとうございますと戸惑いながらもそれを受け入れる。
 少し遠くの席に座る女性客も、うんうんそうですねと受け入れる。



 予告通りフィナーレ無しで香盤が一巡し、すぐに次の公演が始まる。

「トップバッターは彩木 麗嬢、める子嬢によるチームショーです」

 場内アナウンスの声に、きゃああっと女性たちが急に色めきだち、遥心と詩帆がぎょっとする。
 暗闇の中で、いつの間に取り出したのか女性客がうちわを持っていたのがわかった。
 しかも名前入りの応援グッズとしてのうちわだ。
 二人の頭にいくつもハテナが浮かぶが、そういえば遥心はチームショー自体初めて見ることに気付く。
 ハマっていた頃は劇場のサイトで出演者予定を見ると、大体翌々週とかずっと先の出演者がそうだったりした。
 オキニの踊り子さんや見たい出し物を狙って行く事が少なく、うまく当たらなかったのだ。
 そんなことを考えていると曲が流れてきた。

「あ」

 遥心が天井あたりを見上げる。
 束ねた雄々しき叫びから始まる、ハードロック風のイントロ。
 聞き覚えがあるその曲は、人気ハードコアロボットアニメ、のスピンオフ作品の主題歌だ。
 キャラクター達がイケメン引越し業者を営んでいるという設定の。
 女性客が曲に合わせてうちわをオイっ!オイッ!と振る。
 なぜ統率が取れてるのかと遥心が見ると、女性の内、何人かはキャップをかぶっていた。
 それは、かつて外国人客と劇場支配人とでいざこざがあった時に外国人客側の女の子がかぶっていたキャップだった。
 無理のないデザインの、女性整備士の。
 そしてそのキャップの下にあるのは、

「メガネ率高えっ!」

 遥心が抑えた声で言う。
 改めて見ると女の子達は眼鏡っ娘ばかりだった。
 おしゃれで掛けてるのではなく視力が低いという理由で、かといってコンタクト等はしない方々だった。
 ライトがびかびかレンズに反射し、一種異様な光景だが、不意に大音量で流れていた主題歌が絞られ、

【ふああーっと。疲れたあー】

 スピーカーから芝居がかった男の子の声が流れてきた。
 その声に合わせて。
 伸びをしながら妙に派手な作業服姿の、男性?いや女性?男の子?女の子?という見た目の踊り子さんが出てきた。
 髪は赤毛を鋭利にセットしたウィッグ。何やら芝居仕立てだが設定がわからない。

「きゃあああ!」

 それに女性客が声援を送り、

【おおーい。イクミーっ!】

 舞台上手から手を振りながら、今度はおそらく男の子という設定の踊り子さんが、着崩した作業服と毛先を遊ばせた銀髪ウィッグで出てきた。

「きゃあああああ!」

 女性客が更に声援を送る。

【あーっ。サクタくん。んもう、どこ行ってたんだようっ!】

 イクミくんと呼ばれた方が腕組みして肩を怒らせ、ぷんぷん演技をする。
 二人が場内に流れる台詞に合わせて芝居をする。
 どうやらアニメで実際に使われたワンシーンから音声だけ抜き出し、生身で演じているらしい。
 赤毛が元気系キャラで銀髪はクール系か。
 ある程度のキャラ設定を飲み込みつつ、それを見ていた遥心だが、やばい!どうしよう!と急に焦りだす。
 元ネタがまったくわからないのだ。
 タイトルはわかる。設定もなんとなくわかる。しかし個々のキャラクターについてが全くわからない。
 百合設定なら見ていたかもしれないが、そこはかとなくBL色が強いアニメだったので見ていないのだ。
 詩帆を見るとぽかんと口を開けていて、その顔のままこちらにふるふると首を振る。
 自分もあまりわかりませんと。
 二人共必修科目のアニメではなかった。
 そんな二人を置いてけぼりにしてショーは進むが、

【この後訓練なんだから、さっさとシャワー浴びてこいよ】
【どーせ汗かくんだからいいよぉ】
【あーあ、出た出たっ。イクミの野生児発言っ!】
【ううううるさいなあっ!】

 出た出たという台詞に合わせて相手の鼻先を指先でつんつん。
 いい感じにイチャイチャしだした。
 女性客は皆、恵比寿顔だった。
 遥心達も、元ネタがわからずとも踊り子さん達がやりきって芝居をしてるので楽しんで見れる。
 が、シャワー室という設定で服を脱ぎだすと、

【あ、あれ。おかしいぞ。アソコがなんだか、急におっきく】
【どうしタ?」
【う、ううんっ。なんでもないよっ。ヤバイ、あっあっ、ううんンッ、出ちゃう、出ちゃう。アッ、アッ!」
【オイ、ドウシタ。アア?】
【ああああっ!】

 イチャイチャから勝手にいい感じに18禁サイドへ進み始め、イクミくんのイクミくんが急に花開き始めた。
 だが遥心は公式であんな台詞言うか?と訝しむ。
 おまけに台詞が妙なぶつ切りになり、同じ声優なのに声のトーンが違う。
 まるで喉のチューニングをいじったような。
 それに、ああ、そっかと詩帆が呟く。
 なに?と遥心が小声で訊くと、おそらく二人が出てるBLCDから台詞を抜き出し、編集して繋げているのだと教えてくれた。
 ふたりともBL作品に多数出ているので、イロ音源は無限にある。
 多少の違和感も含め、舞台は継ぎ接ぎ台詞を紡いで進んでいった。



学生記者 S隊員(かもめさんチーム) 取材メモ

その後の展開としては、イクミくんは床に擦り付けて自らを沈めるやり方を覚えてしまい、サクタくんにそんなやり方だと後で重大な障害が出るから無理やり強制させられるという流れになりました。
枕を使っての矯正シーンの「まるでオス犬だな」という台詞は、おそらくBL作品 スナイパー犬事 のドラマCDから音源を持ってきたのだと思われます。
サクタくんがムラムラしだし、フェラチオーネやイラマティーオをさせるシーンも有りました。
それが踊り子さんに無いにも関わらずです。でも踊り子さんの熱演によりあるように見えるのです。ここ重要です。テストに出ます。
観客のイマジネーションを巧みに引き出し、本来所持してない器官がそこにあると錯覚させる演出は見事でした。
舞台は演者と観客の共犯意識によって作り出す、ということを目の当たりにした気分です。

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