50 / 139
第二回公演
10、おさけください。350ミリぽっちでいいんです。
しおりを挟む
「ふはあ」
10分の休憩が終わる頃には詩麻呂はすっかり出来上がっていた。
顔が上気し、暑い。鬱陶しくて眼鏡は外してしまった。
「ふひゅう」
「うわ、弱いんだね。お酒飲むの初めて?」
ジャージ男性が前もって外で買っておいたらしい安い発泡酒を煽りながら訊くと、
「んーん。ちがうよー」
詩麻呂が舌ったらずな口調で答える。上半身は振り子のように揺れ、安定しない。
「あんま酔うと追い出されるぞ」
「んー」
注意された詩麻呂は、ジャージ男性が缶を持ったたっぷりとした二の腕をたしたし叩き、
「あぐう」
「わあっ」
それに甘噛みした。
「あぐあぐ」
「ちょっと!」
「んーっ」
男性に額を押されて、腕から引き剥がされる。更に身体を揺らしながら詩麻呂はうつろな目で宙を見つめ、
「クリスマスの」
「えっ?」
「足の…、クリスマスの…、靴下の…」
「なに?サンタクロース?」
「違う…。鳥の…、七面鳥の…」
「俺の腕、七面鳥じゃないから!腹に詰め物とかもしてないから!」
ジャージ男性が自分の腕を叩き、たぷたぷな腹をさすった。周りにいた客が笑い、詩麻呂もにゃはーと笑う。
笑いながら男性の頼もしい身体に抱きつく。なぜか無性に甘えたかった。
やはり男はたっぷり体型に限る、女だとこうはいかない、安易にもたれかかると倒れてしまうからな、と自分ではない声が詩麻呂の中にこだまする。
「あーあー、もう」
ジャージ男性が懐かれてしまった少年の背を、犬でもあやすように分厚い手で撫でていると、
「なんだ坊主、ご機嫌だな」
「女みたいな酔い方するな」
なんだか面白そうな光景に他の客も集まってきた。
「酒弱いなあ、最近のガキは。そんなのジュースみてえなもんだろ」
「今だとタバコも買えねんだろ?ったくガキの頃から大人の味知っとかねえからフニャチン野郎が増えるんだよ」
集まってきた年配客により、例によって俺達の若い頃はなあ話が始まったが、開演を告げるアナウンスが流れる頃には少年は眠ってしまった。
「ぼうや寝ちゃったの?」
「酒飲ましたら寝ちゃった」
頭の上で交わされる声に詩麻呂はぼんやりと目を覚ます。
気がつけばサッカージャージ男性の膝枕で寝ていた。
身体に置かれたぶ厚い手のひらの重みが心地いい。それは普段は感じない重みだった。
どれぐらい寝ていたのか、今は誰のステージなのかわからない。
場内には薄くBGMとしてアニメ アディショナルタイムのオープニング曲『TYANBA!TYANBA!』が流れていたことだけはわかった。
そしてそれが男装アイドルユニット ギークスターボーイズがカバーしたバージョンだということに、おそらく詩麻呂だけが気づいていた。
大学の友人である蘭ちゃんが好きでよくカラオケで歌っているからだ。
ふわふわする頭でそんなことを考えていると、
「大丈夫?未成年なんじゃないの?」
「二十歳越えてるって」
踊り子さんとジャージ男性の会話を聞いて詩麻呂がむくりと起き上がる。
開き切らない目で舞台を見るが、またしてもタッチショーの最中だった。
「ぼくちゃんも触る?」
少年の視線に気づき、胸を揉まれていた踊り子さんが言う。先程と同じく詩麻呂は断るつもりだったが、
「やらしてもらえよ。どうせしたことねんだろ?」
と、囃し立てるように舞台周りにいた男性客が言った。
どうやら顔立ちと背格好から童貞と見受けられたらしい。
そういった行為をしてるかしていないかはさほど重要ではない。だが男の子モードに入っているので妙に癪に障った。
くだらないと思いつつも立ち上がるが、天地が逆になったような感覚に足がよろける。
「おっと」
ジャージ男性が身体を抱きとめようとし、
「わ」
「ん。ごめん」
詩麻呂はその頬に軽くキスを落とした。
事故を装っての行為だが、なぜだかしたかった。
無礼を謝り、ふらつく足で舞台周りの席へ進む。
ジャージ男性はドキドキしながらそれを見ていた。
順番が進むにつれ、詩麻呂の意識が徐々にはっきりしてくる。
舞台周りはライトが当たり、酷く暑い。
全裸の踊り子さんからは化粧品の匂いと汗と脂肪分の混じった香りがした。
酔客から放たれるアルコールの匂いと湿った加齢男性特有の匂い。
場違いな自分に動悸が激しくなる。
そして膝においた手を見て、詩麻呂は爪が長いことに気付いた。
フリーなのだから久しぶりにネイルでもしようとちょうど爪を伸ばし始めた頃だった。
相方の内部を傷つけないようにと短く切りそろえている爪は、普段からすればやや伸び気味で、
「…爪、伸びてるんですけど」
自分の順番になると詩麻呂は踊り子さんに小声で断りを入れた。
「んー、大丈夫よこれぐらい」
一度とった手を見てそう言われると、両手をウェットティッシュで拭かれ、すぐに胸にあてがわれた。
その上から踊り子さんの手を重ねられ、揉むよう促される。
うにゅうにゅとした張りのない胸と厚みのある手に挟まれ、一切の逃げ場がなかった。
「ぼくちゃん綺麗な手ねえ」
「ピ、アノ…」
熱い息を吐きながら詩麻呂がそれだけをようやく伝えると、
「あら、ピアノやってたの?いいとこの子なんじゃないの?そんな子に生まれたかったわー、あたしも。あたしなんて下町の」
胸を揉ませながら踊り子さんが周りの客と会話する。
そこにはエロスな雰囲気はない。淡々と、流れ作業として行為をこなしていた。
詩麻呂も特にテクニックを見せる気など毛頭ない。
風俗嬢だからといって好き勝手に身体をいじくっていいものでもない。
下を向き、こちらもただ淡々と優しく胸を揉みしだいていると、サービスなのか踊り子さんがあんあん気持ちいいとあえぎ声を出し始めた。
その声に詩麻呂はびくりと顔を上げ、過呼吸のように息が荒くなっていく。
「童貞にはきつくないか?」
それを見て、客が下卑た声でがははと笑う。
その声が頭にガンガンと響き、詩麻呂は自分の今の状況が、行為の意味がわからなくなった。金を払い、好きでもない熟女の胸を触っている。触りたくもないのにだ。
「もうおしまい」
暫くすると踊り子さんに手を離され、
「上手だったわよ」
再度ウェットティッシュで手を拭かれながら、お世辞だとしても嬉しくないことを言われた。
次の客の番になると詩麻呂は場内を抜け出し、トイレの洗面所で手と指を洗った。
身についた穢れは落ちる気配が無かった。
10分の休憩が終わる頃には詩麻呂はすっかり出来上がっていた。
顔が上気し、暑い。鬱陶しくて眼鏡は外してしまった。
「ふひゅう」
「うわ、弱いんだね。お酒飲むの初めて?」
ジャージ男性が前もって外で買っておいたらしい安い発泡酒を煽りながら訊くと、
「んーん。ちがうよー」
詩麻呂が舌ったらずな口調で答える。上半身は振り子のように揺れ、安定しない。
「あんま酔うと追い出されるぞ」
「んー」
注意された詩麻呂は、ジャージ男性が缶を持ったたっぷりとした二の腕をたしたし叩き、
「あぐう」
「わあっ」
それに甘噛みした。
「あぐあぐ」
「ちょっと!」
「んーっ」
男性に額を押されて、腕から引き剥がされる。更に身体を揺らしながら詩麻呂はうつろな目で宙を見つめ、
「クリスマスの」
「えっ?」
「足の…、クリスマスの…、靴下の…」
「なに?サンタクロース?」
「違う…。鳥の…、七面鳥の…」
「俺の腕、七面鳥じゃないから!腹に詰め物とかもしてないから!」
ジャージ男性が自分の腕を叩き、たぷたぷな腹をさすった。周りにいた客が笑い、詩麻呂もにゃはーと笑う。
笑いながら男性の頼もしい身体に抱きつく。なぜか無性に甘えたかった。
やはり男はたっぷり体型に限る、女だとこうはいかない、安易にもたれかかると倒れてしまうからな、と自分ではない声が詩麻呂の中にこだまする。
「あーあー、もう」
ジャージ男性が懐かれてしまった少年の背を、犬でもあやすように分厚い手で撫でていると、
「なんだ坊主、ご機嫌だな」
「女みたいな酔い方するな」
なんだか面白そうな光景に他の客も集まってきた。
「酒弱いなあ、最近のガキは。そんなのジュースみてえなもんだろ」
「今だとタバコも買えねんだろ?ったくガキの頃から大人の味知っとかねえからフニャチン野郎が増えるんだよ」
集まってきた年配客により、例によって俺達の若い頃はなあ話が始まったが、開演を告げるアナウンスが流れる頃には少年は眠ってしまった。
「ぼうや寝ちゃったの?」
「酒飲ましたら寝ちゃった」
頭の上で交わされる声に詩麻呂はぼんやりと目を覚ます。
気がつけばサッカージャージ男性の膝枕で寝ていた。
身体に置かれたぶ厚い手のひらの重みが心地いい。それは普段は感じない重みだった。
どれぐらい寝ていたのか、今は誰のステージなのかわからない。
場内には薄くBGMとしてアニメ アディショナルタイムのオープニング曲『TYANBA!TYANBA!』が流れていたことだけはわかった。
そしてそれが男装アイドルユニット ギークスターボーイズがカバーしたバージョンだということに、おそらく詩麻呂だけが気づいていた。
大学の友人である蘭ちゃんが好きでよくカラオケで歌っているからだ。
ふわふわする頭でそんなことを考えていると、
「大丈夫?未成年なんじゃないの?」
「二十歳越えてるって」
踊り子さんとジャージ男性の会話を聞いて詩麻呂がむくりと起き上がる。
開き切らない目で舞台を見るが、またしてもタッチショーの最中だった。
「ぼくちゃんも触る?」
少年の視線に気づき、胸を揉まれていた踊り子さんが言う。先程と同じく詩麻呂は断るつもりだったが、
「やらしてもらえよ。どうせしたことねんだろ?」
と、囃し立てるように舞台周りにいた男性客が言った。
どうやら顔立ちと背格好から童貞と見受けられたらしい。
そういった行為をしてるかしていないかはさほど重要ではない。だが男の子モードに入っているので妙に癪に障った。
くだらないと思いつつも立ち上がるが、天地が逆になったような感覚に足がよろける。
「おっと」
ジャージ男性が身体を抱きとめようとし、
「わ」
「ん。ごめん」
詩麻呂はその頬に軽くキスを落とした。
事故を装っての行為だが、なぜだかしたかった。
無礼を謝り、ふらつく足で舞台周りの席へ進む。
ジャージ男性はドキドキしながらそれを見ていた。
順番が進むにつれ、詩麻呂の意識が徐々にはっきりしてくる。
舞台周りはライトが当たり、酷く暑い。
全裸の踊り子さんからは化粧品の匂いと汗と脂肪分の混じった香りがした。
酔客から放たれるアルコールの匂いと湿った加齢男性特有の匂い。
場違いな自分に動悸が激しくなる。
そして膝においた手を見て、詩麻呂は爪が長いことに気付いた。
フリーなのだから久しぶりにネイルでもしようとちょうど爪を伸ばし始めた頃だった。
相方の内部を傷つけないようにと短く切りそろえている爪は、普段からすればやや伸び気味で、
「…爪、伸びてるんですけど」
自分の順番になると詩麻呂は踊り子さんに小声で断りを入れた。
「んー、大丈夫よこれぐらい」
一度とった手を見てそう言われると、両手をウェットティッシュで拭かれ、すぐに胸にあてがわれた。
その上から踊り子さんの手を重ねられ、揉むよう促される。
うにゅうにゅとした張りのない胸と厚みのある手に挟まれ、一切の逃げ場がなかった。
「ぼくちゃん綺麗な手ねえ」
「ピ、アノ…」
熱い息を吐きながら詩麻呂がそれだけをようやく伝えると、
「あら、ピアノやってたの?いいとこの子なんじゃないの?そんな子に生まれたかったわー、あたしも。あたしなんて下町の」
胸を揉ませながら踊り子さんが周りの客と会話する。
そこにはエロスな雰囲気はない。淡々と、流れ作業として行為をこなしていた。
詩麻呂も特にテクニックを見せる気など毛頭ない。
風俗嬢だからといって好き勝手に身体をいじくっていいものでもない。
下を向き、こちらもただ淡々と優しく胸を揉みしだいていると、サービスなのか踊り子さんがあんあん気持ちいいとあえぎ声を出し始めた。
その声に詩麻呂はびくりと顔を上げ、過呼吸のように息が荒くなっていく。
「童貞にはきつくないか?」
それを見て、客が下卑た声でがははと笑う。
その声が頭にガンガンと響き、詩麻呂は自分の今の状況が、行為の意味がわからなくなった。金を払い、好きでもない熟女の胸を触っている。触りたくもないのにだ。
「もうおしまい」
暫くすると踊り子さんに手を離され、
「上手だったわよ」
再度ウェットティッシュで手を拭かれながら、お世辞だとしても嬉しくないことを言われた。
次の客の番になると詩麻呂は場内を抜け出し、トイレの洗面所で手と指を洗った。
身についた穢れは落ちる気配が無かった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。
ほんのりと百合の香るお話です。
ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。
イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。
★Kindle情報★
1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
★第1話『アイス』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
★Chit-Chat!1★
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる