昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第二景

3、ジャンジャンバリバリウォーキング

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「しフォさん、ここ行きタイ」
「うわあ。思った以上に、これは、止まらない。なに?」

 詩帆が台所で粉末マッシュポテトのお味見をしていると、同居人のシャオちゃんがタブレットPCを見せてきた。

「あー、ウォーキングゲーム?」
「オっ。ワタシもオアジミ」
「はいはい」

 請われて詩帆がマッシュポテトをシャオちゃんに一口食べさせてやる。

「ンー!これこのままでこのお味?バターが効いていル」
「そう、結構ね。で、なに?どこ」
「アア、これネ」

 シャオちゃんがマップを拡大してみせる。
 ここからかなり遠い土地。その地図上にぐじゃぐじゃぐじゃと出鱈目なルートとポイントが描かれている。ウォーキングコースだ。
 シャオちゃんは最近ウォーキングアプリゲームにハマっていた。
 実在のマップと連動した指定コースを巡り、チェックポイントをこなすとゲーム内で使えるアイテムやゴールドが手に入る。
 近隣のコースはすでにこなしてしまったので遠征したいと言っていたのだが、

「デ、ついでにココ行く」

 画面を切り替えると何かのサイトが出てきた。何、というかストリップ劇場のサイトだ。

「ココでスタンプラリーやってル」

 詩帆がふうむと考えてみる。
 遠征ウォーキングのついでにスタンプラリー込みのストリップ観劇。無駄のない娯楽と健康。
 なんとも粋なセット旅行だが悪くない。
 シャオちゃんがやっているウォーキングゲームはお寺や神社、地元の史跡などがチェックポイントになっているので、そういったものを見るのもいいかと思った。


「こっちィ?」
「だと思うけど」

 目当てのストリップ劇場のある、こじんまりとした駅前で。
 シャオちゃんのスマホを見ながら、二人はこれから向かうチェックポイントを確認していた。
 日が暮れてから知らない土地を徘徊するのは流石に怖いからと、ストリップ観劇の前にウォーキングをこなすことにしたのだ。
 第一ポイントに指定されている駅前からスタートし、商店街の中にあるなんとか地蔵、江戸時代からある史跡を回り、

「あ、ここカ」
「そうだね」

 お目当てのストリップ劇場を見つけた。
 ヌードシアター 小唄 だ。
 スナックぐらいの小さな看板が出ているのでかろうじてわかる。駅と同じでこじんまりとしていて、うっかりすると見落としてしまう。
 場所を確認した後、駅前の外れにある樹齢何十年だかの大木も通過する。
 知らない土地ではあるがそれほど範囲が広くない、難易度の低いコースだったので、二人は一時間もあれば終わるかと見積もった。
 更に住宅街へと進んでいくが、

「オット」
「何?」
「ポリスメン」

 シャオちゃんの声にそら大変だと詩帆が折り畳み自転車からひらりと降り、前から来たパトカーをなんなくやり過ごす。
 二人はより効率よくと、折り畳み自転車に二人乗りしてコースを回っていた。それでも、

「もうタイムリミットじゃない?」

 詩帆が時間を確認しながら言う。
 帰りの時間も含めるとそろそろ戻らなくてはならない。
 今回は二人とも少し見たい踊り子さんのショーがあったのだ。地図上で見れば大した事ない距離に思えたが、坂があったりで時間がかかってしまった。

「帰り寄れるゥ?」
「どうかな。途中抜けられたらなんとか」

 見たい人以外があまり見応えのないショーが続けばなんなく抜けれる。
 金を払って見る立場としてはつまらないショーに当たるのは勘弁だが、気兼ねなく中抜け出来るのならそれはそれで都合が良かった。


 二人乗りで劇場前へと無事辿り着き、

「成人フタリー」

 受付でシャオちゃんがそう告げてチケットを買い、ロビーへ向かおうとすると、

「ああ待って。女性のお客さんはサービスあるから」
「ホエ?」
「こっから好きなの一本、取っていいよ」

 若い従業員さんが受付のすぐ近くにある冷蔵ケースを指差す。
 ケースには「女性のお客様にはソフトドリンクを一本無料プレゼント」という張り紙がされていた。
 ほお、と二人がそれを見る。思わぬところで恩恵を受けた。
 ケースの中にはコーラ、ボトルコーヒー、サイダー、オレンジジュースなどがあったが、

「(訳)水かお茶無いのんかい」
「(訳)まあまあ」

 従業員さんにはわからない言葉でシャオちゃんがラインナップについて愚痴る。
 とりあえず普段飲まないサイダーとボトルコーヒーをそれぞれ貰うが、

「…イチリットル」
「うん」

 ウォーキングもこなすのもあり、それぞれ飲み物は前もって買ってあったので、500ミリボトルに更にプラスで合計1リットルもの水分を持ち歩くことになってしまった。


「空いてナイ」

 ロビーで こぅた というスタンプを押した後、場内に入ると思った以上に席がいっぱいだった。
 狭い上に結構客が入ってる。しかし、

「ンーっ」

 シャオちゃんが不機嫌そうな声を上げる。客の何人かが買ったものが入っているらしきビニール袋やカバンを椅子に置いているのだ。
 空いてるならまだしも、客が増えてきたらそれらは退かすべきなのだが。

「あそこ」 

 場内を見回していた詩帆が一画を指差す。
 社長か悪の組織のボスが膝に置いた猫を撫でながらきゅるりと振り返るような、黒い革張りの背もたれの高い椅子があった。
 すぐ近くに一つだけ席が空いている。二人一緒に座るとなるとそこしか空いてない。
 そしてそんな偉そうな椅子に座るのは当然、

「デハ」

 シャオちゃんが両方の肘掛けに腕を乗せて座ってみる。

「ムムー」

 だが大き過ぎて落ち着かない。
 位置的にも、本来は荷物置きか上着をかけるなどの使い方かもしれないが、座ってしまった以上仕方ない。
 正しい姿として偉そうに頬杖をつき、足を組んで座ってみると、

「なんだ、可愛い社長さんがいるな」
「最年少女社長か」

 気の良さそうなおいちゃん達が話しかけてきた。

「アズキソーバを買イ占メロっ」

 こちらもいい気になって、椅子に埋もれそうな姿でおいちゃん達を指差しながら、シャオちゃんがそんなことを言ってみると、

「社長、チョコやるよ」

 おいちゃんその1がチョコレートバーをくれた。その2があずきじゃねえのかよとツっこむ。

「ありがとう」

 シャオちゃんがそれにきちんとした発音でお礼を言い、受け取るが、

「パチンコの余り玉のやつだけどな」
「うわあ、ありがとうっ!」

 出どころを聞き、さっきとは打って変わって心底嬉しそうに言う。
 最近はアニメ作品がパチンコ台になることが多く、行ってみたいとは思っていたが、射幸心のないシャオちゃんはなかなか縁遠かったから尚更だ。
 そんなシャオちゃんにとって、パチンコの余り玉で貰うチョコレート菓子はまさに夢のお菓子だった。
 若い女の子のリアクションにおいちゃんは驚きつつも、こんなもので喜ぶ姿に頬を緩ませる。

「んまいっ」

 シャオちゃんはライスパフ入りのチョコバーを早速頬張ってみせた。
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