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第三回公演
9、暫定2位登場
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心地いい余韻を残しつつ、すぐに次の踊り子さんのステージが始まる。
小気味いいドラム、続いてベース、そしてギター。楽器が一人ずつ登場してくるような曲の入り方。
三人の女の子のスリーピースバンドでこれほど重厚に無駄なく音楽を表現が出来るのかと思わせるサウンド。
そこに、いつでも一生懸命な小動物みたいな、なのに力強い歌声が加わる。
流れてきたのは『ワーキングタイガー』だった。確か深夜にやっていた、大人向けアニメのエンディング曲だった。
当然嵐士も知っている。
だが知っていたのはJ―POPとして売れた感があるからだ。逆に世間一般ではアニメのタイアップソングというイメージは薄いだろう。
ドラム、ベース、ギターが揃ったところで、昔の人が着ていたシマシマ水着に浮き輪姿という格好で踊り子さんが舞台袖からぴょこんと登場する。
前面にアヒルがついた黄色い浮き輪。頭に被ったスイミングキャップにもアヒルの絵が描いてあった。お揃いが何とも可愛いらしい。
ニ匹のアヒルに挟まれた踊り子さんのニッコニコした笑顔が更に可愛い。そのまま行進するように本舞台まで進む。
舞台のセンターに立つと、踊り子さんが浮き輪をすとんと下に落とした。水着の上に斜め掛けしたアヒル、ではなくひよこポシェットが見える。
そこから折りたたみケータイを、秘密道具よろしくジャジャーン!と取り出す。
それを真下に落とした、と思ったら繋げられた糸によりケータイが空中で静止した。そのままゆっくり舞台まで下ろし、ケータイをずるずると、犬の散歩のように引きずる。
自分でもどこへ向かうかわからないような気ままなお散歩。
しばらく舞台上を引きずり、ポシェットからハサミを取り出すと、糸をちょきんと切ってしまった。手から離れたそれを見つめながら、踊り子さんが虚ろな笑みでバイバイと手を振る。
サビにさしかかると落とした浮き輪を拾い、栓を外して空気を抜きだした。
そのまま満面の笑みで浮き輪をきつく、強く抱き締める。当然浮き輪の空気が抜けていき、みるみるしぼんでいった。
ある程度空気が抜けると浮き輪を畳み、さらに追い打ちをかけて笑顔で抱き締め、空気を抜いていく。場内に流れる歌声とツンデレ感漂う歌詞に、踊り子さんの芝居が不思議とマッチする。
浮き輪は愛する恋人のことを表しているのだろうかと嵐士は考える。
遥心曰く、上手に踊れない、自称ダンスが不得意という踊り子さんは、ストーリー仕立てのステージにすることが多いらしい。
ダンスが下手という引け目を感じた上での苦肉の策のようだが、独創的で趣向を凝らしていて、自分なりに曲を解釈し、多くの客が置いてきぼりで、嵐士は見ていて面白かった。
空気をすっかり抜いてしまうと、踊り子さんが元気を無くした浮き輪を腕に嵌め、リズミカルなドラムに合わせてぐるぐると回す。
意味の無いひとり遊びを終えると、汚いものでも捨てるかのように踊り子さんが浮き輪をぽいっと舞台袖へ放ってしまった。歌詞の中にある好きな人と繋がる手段だったはずのケータイも、あんなものとばかりに蹴り飛ばす。
シュルシュルとケータイが舞台上を回転しながら滑り、舞台袖へと消えた。
演出の中であくまで自然に使った小道具を処理し、舞台から捌けさせていた。
最後にひよこポシェットをぶうんぶうんと頭上で振り回しながら、踊り子さん自身が舞台袖へと引っ込んだ。
曲が変わり、アニメ MAKI×BISHIT!!主題歌『シルフィー』が流れてくる。
こちらもアニメタイアップが付いていた、とはあまり一般には知られていないJ-POP寄りアニソンだ。
ボーカルの鼻にかかったような、けれどストレートに伝えてくる歌声。そのあとに吹き鳴らされるブルースハープ。そんな切なさを背負って、青い羽根で作ったタンキニビキニ姿の踊り子さんが登場する。
歌詞をなぞっているのか、コントで使うような青い大きな翼を腕にはめて出てきた。
黄色いくちばしと、頭にはネイティブアメリカンの女の子が付けてそうな大きな羽根飾り。
コミカルな格好とがっつり地に足の着いた力強いボーカルと、妙に真剣な表情の対比が面白い。
ゆっくり羽ばたいたり、飛び立とうと片足立ちで懸命に早く羽ばたいたり。舞台下手から上手へ向かって助走を付けて飛び立とうとしたり。唐突に不死鳥のポーズを決め、抜けた青い羽根が舞台に舞う。
くちばしをはめた顔でうざったそうな表情を作り、翼でバサバサ抜けた羽根を払いのける。再度真剣な表情に戻り、翼を羽ばたかせる。
サビになると一定の法則性で翼を上げ下げしだした。
手旗信号ならぬ翼信号のような動き。
それを終わると、踊り子さんがまた不死鳥のポーズを決める。
天丼になっている不死鳥に嵐士が小さく笑った。
TVサイズヴァージョンなのか、短めのステージで羽ばたきながら踊り子さんが再度舞台袖へと帰っていく。
舞台が暗転し、今では聞くことの出来ない大御所声優陣の生声サンプリングを使ったイントロが流れきた。
各キャラクターの声が主人公の名を呼ぶたび、本舞台がキャラクターに合わせた色のライトで照らされる。
流れてきたのは炎城!怪盗稼業『Dearモリアーティ』だった。
こちらはTVサイズではなくCD版だということに嵐士が気付く。ということはイントロが不必要に長ったらしい。
が、ステージで使うには好都合だった。早替えの間を持たせられる。
出てくるまでたっぷり時間をかけ、芸術的ウェーブがかかった濃いブラウンのウィッグにレザーのつなぎ、ではなく黒のレザージャージ上下、ハーレー、ではなく折り畳み小径自転車に乗って踊り子さんが出てきた。滑稽なヒロインに客から笑いが起きる。
ジャージなのはつなぎのレザーが調達できなかったからではなく、早替えの手間を考慮してか。ハーレーも現実的に舞台に登場させるのが困難だからではなく、折り畳み自転車ならば巡業での持ち運びに便利だからかもしれない。
キコキコと自転車を走らせ、咥えた火の付いてないタバコを吸ってみせる。
アニメに出てくる女大泥棒のコスプレか。
とても時には味方、時には敵、主人公の恋人なこともあった美女には見えない。彼氏のチャリを借りてコンビニまでタバコを買いにきたヤンキーねえちゃんだ。
踊り子さんは自転車に跨りながら、下に何も着ていないジャージの前をゆっくり開けて見せたりゆっくり閉めて見せたりする。早く閉めたり早く開けたり。ただそれだけ。
自転車を降り、リズミカルにファスナーを上げ下げしながら舞台を闊歩すると、しゃがみ込んで舞台周りの席の客に開けてみろ、とばかりにファスナーをちょいちょいと指差す。
指名されたお客さんがファスナーの引き手を摘み、一定まで下ろすと、おっとそこまで、と踊り子さんが制止する。
シナを作って舞台に横座りし、違う客に今度は閉めろ閉めろと指示する。開けろと言われた客は役得だが、閉めろと言われた客は役損だった。
サビに入ると踊り子さんが客にライブ会場さながら手を頭上で左右に振らせるよう煽った。嵐士を含む少ない客たちがそれに答える。
更に曲中のスクラッチ音に合わせてリズミカルにファスナーを開けたり閉めたり。
本舞台から中央舞台までの花道を、ファスナーをじらしつつ下ろし、練り歩く。
ファスナーを下ろしきったジャージからは胸の谷間が見えた。
そしてそのまま、曲もまだ途中なのに勝手にワンマンショーを終わらせ、踊り子さんが自転車に跨り舞台袖へと帰っていく。
場内が一体今のはなんだったんだ感に包まれるが、客は嵐士も含めみんな笑顔だった。
続いて主役のいない舞台に流れてきたのは、アニメ 四面楚歌鳥 の二期主題歌『ニンゲンヤメタルカ』だ。
えぐいギターと、開幕からすでに走ってるようなドラム。
次いで鼓膜が破れるほどのデスボイスに、嵐士が思わずびくっと首をすくめる。
その爆音に合わせて、舞台と客席を乱暴なぐらいにライトが激しく点滅して照らし出す。
演出と音楽に、おおお、と隣に座るおじさんが発泡酒を持ったまま驚いていると、胸にはわざとボロく加工した包帯をぐるぐる巻きにし、下は試合用のぶかぶかボクシングトランクス、片手に持った黄緑色のヌンチャクを不敵な笑みでぐるぐる回しながら、場内に響き渡るデスボイスを背に踊り子さんが出てきた。
色鮮やかな蛍光塗料が塗られたヌンチャクを目の高さまで掲げ、それを首にかける。拳と手のひらを胸の前でパシンと合わせて一度ファイティングポーズを取り、曲に合わせて腰が90度以上曲がるヘッドバンキングをかましだした。
ヘドバンの儀式を終わらせると、ようやくヌンチャクの高速演武を披露しだした。ややライトを落とし気味の舞台で、光るヌンチャクが残像を残しつつ高速で回転する。
一通り演武を披露するとヌンチャクを首に掛け、今度は空手の演武に移る。
途中、おしりをふりふりしたり、胸を両腕で挟んでぱふぱふしたりと、お色気を挟むのも忘れない。
挑発的なモデルウォーキングをしながら中央舞台に進み、動き過ぎて既に取れかかっている包帯を解いていく。
最後にターンを決めながら包帯を軽やかに取ると、本舞台後方へと放り投げた。
そして顔を伏せながら踊り子さんが中央舞台に片膝を付く。サビ前の、この曲の最大のテーマとも言うべきフレーズを繰り返し受けながら、
「ぇぇぇっ」
踊り子さんを乗せたまま小さな円形舞台がせり上がっていった。
嵐士が驚きの声を上げる。
「ここの劇場、こういうギミックもあるんだよ」
仕掛けに驚いている嵐士が嬉しいのか、おじさんがホクホクした声で教えてくれる。
舞台が上がりきると暴発するようなサビとともに綺麗に脚の上がった上段蹴りを決めてそのまま制止する。
強いライトを浴びながら、せり上がった舞台が回転した。
「ふわぁぁ」
上段蹴りの型のまま動かない踊り子さんが、まるで格闘ゲームキャラのボトルフィギアのようで嵐士のテンションが上がる。おまけに胸は惜しげもなく晒されている。そんなボトルフィギア、どこのゲーセンプライスでも置いていない。客席から拍手が送られる中、嵐士は強めに拍手を送った。
更に回る舞台の上で爪先がはみ出すくらいの低い足払い、腰の入った掌低などを次々決めていく。
そのたびに拍手が沸き起こる。
型を見せ終わるとボクシングトランクスを元気よく脱ぎ、爪先に引っかけて宙に蹴りあげた。
空中でキャッチするとトランクスを掴んだまま拳を突き上げ、うおおおと声に出さずに踊り子さんが雄叫びをあげた。
そして垂直に足の上がった踵落としを上手、中央、下手客席へと順に披露する。ボクサーパンツを脱いだ生殖器が惜しげもなく丸見えになる。豪気な見せ方に客席からはまた拍手が起こった。
連続踵落としが終わると踊り子さんがせり上がった舞台からこわごわ下り、可愛いらしくててててっと小走りしながらさっき投げ捨てた包帯を拾い上げる。
さっきまでの荒々しい演武と対極して、動作の一つ一つに可愛らしさを見せる演出が施されていた。
包帯を右拳に巻きつけると、今度は全裸でのヌンチャク演武に移った。ヌンチャクを振り回すたびに包帯を取った胸が揺れ、肉体がさっきとは違った表情を見せる。
最後にヌンチャクを両手で持つと、ラストのめちゃくちゃなサウンドに合わせて股間にあてがい前後に動かす。
縦に持ちかえ、腰をリズミカルに上下させ、舌を出しながらアヘ顔でエクスタシーを感じている様もみせた。
演武+笑い+エロと大満足でステージが終わった。
「ふおおおぉ」
ストリップというものの表現の幅広さを目の当たりにし、嵐士は感嘆のため息を付く。
そしてあることが引っかかった。アレは必要だったのかと。
アレ、とはヌンチャクを膣内に挿入するような演出だ。
しかしアレがないとストリップとして成立しないのかもしれない。
加えて選曲もいささか気になった。使われていたのはアニメのタイアップ曲かそれに準ずる曲ばかりだったが、そうとは知らずに使っていたようにも思える。
知ってか知らずか。あるいはアニソンがそれだけ一般層にごく普通の邦楽として浸透しているということか。
「それでは撮影ショーです。撮影を希望される方は舞台向かって左側に、」
いつしか撮影ショーが始まる。BGMとして、おそらくこれもアニソンなのかなという曲が流れている場内で、嵐士はぼんやりとそんなことを考えていた。
小気味いいドラム、続いてベース、そしてギター。楽器が一人ずつ登場してくるような曲の入り方。
三人の女の子のスリーピースバンドでこれほど重厚に無駄なく音楽を表現が出来るのかと思わせるサウンド。
そこに、いつでも一生懸命な小動物みたいな、なのに力強い歌声が加わる。
流れてきたのは『ワーキングタイガー』だった。確か深夜にやっていた、大人向けアニメのエンディング曲だった。
当然嵐士も知っている。
だが知っていたのはJ―POPとして売れた感があるからだ。逆に世間一般ではアニメのタイアップソングというイメージは薄いだろう。
ドラム、ベース、ギターが揃ったところで、昔の人が着ていたシマシマ水着に浮き輪姿という格好で踊り子さんが舞台袖からぴょこんと登場する。
前面にアヒルがついた黄色い浮き輪。頭に被ったスイミングキャップにもアヒルの絵が描いてあった。お揃いが何とも可愛いらしい。
ニ匹のアヒルに挟まれた踊り子さんのニッコニコした笑顔が更に可愛い。そのまま行進するように本舞台まで進む。
舞台のセンターに立つと、踊り子さんが浮き輪をすとんと下に落とした。水着の上に斜め掛けしたアヒル、ではなくひよこポシェットが見える。
そこから折りたたみケータイを、秘密道具よろしくジャジャーン!と取り出す。
それを真下に落とした、と思ったら繋げられた糸によりケータイが空中で静止した。そのままゆっくり舞台まで下ろし、ケータイをずるずると、犬の散歩のように引きずる。
自分でもどこへ向かうかわからないような気ままなお散歩。
しばらく舞台上を引きずり、ポシェットからハサミを取り出すと、糸をちょきんと切ってしまった。手から離れたそれを見つめながら、踊り子さんが虚ろな笑みでバイバイと手を振る。
サビにさしかかると落とした浮き輪を拾い、栓を外して空気を抜きだした。
そのまま満面の笑みで浮き輪をきつく、強く抱き締める。当然浮き輪の空気が抜けていき、みるみるしぼんでいった。
ある程度空気が抜けると浮き輪を畳み、さらに追い打ちをかけて笑顔で抱き締め、空気を抜いていく。場内に流れる歌声とツンデレ感漂う歌詞に、踊り子さんの芝居が不思議とマッチする。
浮き輪は愛する恋人のことを表しているのだろうかと嵐士は考える。
遥心曰く、上手に踊れない、自称ダンスが不得意という踊り子さんは、ストーリー仕立てのステージにすることが多いらしい。
ダンスが下手という引け目を感じた上での苦肉の策のようだが、独創的で趣向を凝らしていて、自分なりに曲を解釈し、多くの客が置いてきぼりで、嵐士は見ていて面白かった。
空気をすっかり抜いてしまうと、踊り子さんが元気を無くした浮き輪を腕に嵌め、リズミカルなドラムに合わせてぐるぐると回す。
意味の無いひとり遊びを終えると、汚いものでも捨てるかのように踊り子さんが浮き輪をぽいっと舞台袖へ放ってしまった。歌詞の中にある好きな人と繋がる手段だったはずのケータイも、あんなものとばかりに蹴り飛ばす。
シュルシュルとケータイが舞台上を回転しながら滑り、舞台袖へと消えた。
演出の中であくまで自然に使った小道具を処理し、舞台から捌けさせていた。
最後にひよこポシェットをぶうんぶうんと頭上で振り回しながら、踊り子さん自身が舞台袖へと引っ込んだ。
曲が変わり、アニメ MAKI×BISHIT!!主題歌『シルフィー』が流れてくる。
こちらもアニメタイアップが付いていた、とはあまり一般には知られていないJ-POP寄りアニソンだ。
ボーカルの鼻にかかったような、けれどストレートに伝えてくる歌声。そのあとに吹き鳴らされるブルースハープ。そんな切なさを背負って、青い羽根で作ったタンキニビキニ姿の踊り子さんが登場する。
歌詞をなぞっているのか、コントで使うような青い大きな翼を腕にはめて出てきた。
黄色いくちばしと、頭にはネイティブアメリカンの女の子が付けてそうな大きな羽根飾り。
コミカルな格好とがっつり地に足の着いた力強いボーカルと、妙に真剣な表情の対比が面白い。
ゆっくり羽ばたいたり、飛び立とうと片足立ちで懸命に早く羽ばたいたり。舞台下手から上手へ向かって助走を付けて飛び立とうとしたり。唐突に不死鳥のポーズを決め、抜けた青い羽根が舞台に舞う。
くちばしをはめた顔でうざったそうな表情を作り、翼でバサバサ抜けた羽根を払いのける。再度真剣な表情に戻り、翼を羽ばたかせる。
サビになると一定の法則性で翼を上げ下げしだした。
手旗信号ならぬ翼信号のような動き。
それを終わると、踊り子さんがまた不死鳥のポーズを決める。
天丼になっている不死鳥に嵐士が小さく笑った。
TVサイズヴァージョンなのか、短めのステージで羽ばたきながら踊り子さんが再度舞台袖へと帰っていく。
舞台が暗転し、今では聞くことの出来ない大御所声優陣の生声サンプリングを使ったイントロが流れきた。
各キャラクターの声が主人公の名を呼ぶたび、本舞台がキャラクターに合わせた色のライトで照らされる。
流れてきたのは炎城!怪盗稼業『Dearモリアーティ』だった。
こちらはTVサイズではなくCD版だということに嵐士が気付く。ということはイントロが不必要に長ったらしい。
が、ステージで使うには好都合だった。早替えの間を持たせられる。
出てくるまでたっぷり時間をかけ、芸術的ウェーブがかかった濃いブラウンのウィッグにレザーのつなぎ、ではなく黒のレザージャージ上下、ハーレー、ではなく折り畳み小径自転車に乗って踊り子さんが出てきた。滑稽なヒロインに客から笑いが起きる。
ジャージなのはつなぎのレザーが調達できなかったからではなく、早替えの手間を考慮してか。ハーレーも現実的に舞台に登場させるのが困難だからではなく、折り畳み自転車ならば巡業での持ち運びに便利だからかもしれない。
キコキコと自転車を走らせ、咥えた火の付いてないタバコを吸ってみせる。
アニメに出てくる女大泥棒のコスプレか。
とても時には味方、時には敵、主人公の恋人なこともあった美女には見えない。彼氏のチャリを借りてコンビニまでタバコを買いにきたヤンキーねえちゃんだ。
踊り子さんは自転車に跨りながら、下に何も着ていないジャージの前をゆっくり開けて見せたりゆっくり閉めて見せたりする。早く閉めたり早く開けたり。ただそれだけ。
自転車を降り、リズミカルにファスナーを上げ下げしながら舞台を闊歩すると、しゃがみ込んで舞台周りの席の客に開けてみろ、とばかりにファスナーをちょいちょいと指差す。
指名されたお客さんがファスナーの引き手を摘み、一定まで下ろすと、おっとそこまで、と踊り子さんが制止する。
シナを作って舞台に横座りし、違う客に今度は閉めろ閉めろと指示する。開けろと言われた客は役得だが、閉めろと言われた客は役損だった。
サビに入ると踊り子さんが客にライブ会場さながら手を頭上で左右に振らせるよう煽った。嵐士を含む少ない客たちがそれに答える。
更に曲中のスクラッチ音に合わせてリズミカルにファスナーを開けたり閉めたり。
本舞台から中央舞台までの花道を、ファスナーをじらしつつ下ろし、練り歩く。
ファスナーを下ろしきったジャージからは胸の谷間が見えた。
そしてそのまま、曲もまだ途中なのに勝手にワンマンショーを終わらせ、踊り子さんが自転車に跨り舞台袖へと帰っていく。
場内が一体今のはなんだったんだ感に包まれるが、客は嵐士も含めみんな笑顔だった。
続いて主役のいない舞台に流れてきたのは、アニメ 四面楚歌鳥 の二期主題歌『ニンゲンヤメタルカ』だ。
えぐいギターと、開幕からすでに走ってるようなドラム。
次いで鼓膜が破れるほどのデスボイスに、嵐士が思わずびくっと首をすくめる。
その爆音に合わせて、舞台と客席を乱暴なぐらいにライトが激しく点滅して照らし出す。
演出と音楽に、おおお、と隣に座るおじさんが発泡酒を持ったまま驚いていると、胸にはわざとボロく加工した包帯をぐるぐる巻きにし、下は試合用のぶかぶかボクシングトランクス、片手に持った黄緑色のヌンチャクを不敵な笑みでぐるぐる回しながら、場内に響き渡るデスボイスを背に踊り子さんが出てきた。
色鮮やかな蛍光塗料が塗られたヌンチャクを目の高さまで掲げ、それを首にかける。拳と手のひらを胸の前でパシンと合わせて一度ファイティングポーズを取り、曲に合わせて腰が90度以上曲がるヘッドバンキングをかましだした。
ヘドバンの儀式を終わらせると、ようやくヌンチャクの高速演武を披露しだした。ややライトを落とし気味の舞台で、光るヌンチャクが残像を残しつつ高速で回転する。
一通り演武を披露するとヌンチャクを首に掛け、今度は空手の演武に移る。
途中、おしりをふりふりしたり、胸を両腕で挟んでぱふぱふしたりと、お色気を挟むのも忘れない。
挑発的なモデルウォーキングをしながら中央舞台に進み、動き過ぎて既に取れかかっている包帯を解いていく。
最後にターンを決めながら包帯を軽やかに取ると、本舞台後方へと放り投げた。
そして顔を伏せながら踊り子さんが中央舞台に片膝を付く。サビ前の、この曲の最大のテーマとも言うべきフレーズを繰り返し受けながら、
「ぇぇぇっ」
踊り子さんを乗せたまま小さな円形舞台がせり上がっていった。
嵐士が驚きの声を上げる。
「ここの劇場、こういうギミックもあるんだよ」
仕掛けに驚いている嵐士が嬉しいのか、おじさんがホクホクした声で教えてくれる。
舞台が上がりきると暴発するようなサビとともに綺麗に脚の上がった上段蹴りを決めてそのまま制止する。
強いライトを浴びながら、せり上がった舞台が回転した。
「ふわぁぁ」
上段蹴りの型のまま動かない踊り子さんが、まるで格闘ゲームキャラのボトルフィギアのようで嵐士のテンションが上がる。おまけに胸は惜しげもなく晒されている。そんなボトルフィギア、どこのゲーセンプライスでも置いていない。客席から拍手が送られる中、嵐士は強めに拍手を送った。
更に回る舞台の上で爪先がはみ出すくらいの低い足払い、腰の入った掌低などを次々決めていく。
そのたびに拍手が沸き起こる。
型を見せ終わるとボクシングトランクスを元気よく脱ぎ、爪先に引っかけて宙に蹴りあげた。
空中でキャッチするとトランクスを掴んだまま拳を突き上げ、うおおおと声に出さずに踊り子さんが雄叫びをあげた。
そして垂直に足の上がった踵落としを上手、中央、下手客席へと順に披露する。ボクサーパンツを脱いだ生殖器が惜しげもなく丸見えになる。豪気な見せ方に客席からはまた拍手が起こった。
連続踵落としが終わると踊り子さんがせり上がった舞台からこわごわ下り、可愛いらしくててててっと小走りしながらさっき投げ捨てた包帯を拾い上げる。
さっきまでの荒々しい演武と対極して、動作の一つ一つに可愛らしさを見せる演出が施されていた。
包帯を右拳に巻きつけると、今度は全裸でのヌンチャク演武に移った。ヌンチャクを振り回すたびに包帯を取った胸が揺れ、肉体がさっきとは違った表情を見せる。
最後にヌンチャクを両手で持つと、ラストのめちゃくちゃなサウンドに合わせて股間にあてがい前後に動かす。
縦に持ちかえ、腰をリズミカルに上下させ、舌を出しながらアヘ顔でエクスタシーを感じている様もみせた。
演武+笑い+エロと大満足でステージが終わった。
「ふおおおぉ」
ストリップというものの表現の幅広さを目の当たりにし、嵐士は感嘆のため息を付く。
そしてあることが引っかかった。アレは必要だったのかと。
アレ、とはヌンチャクを膣内に挿入するような演出だ。
しかしアレがないとストリップとして成立しないのかもしれない。
加えて選曲もいささか気になった。使われていたのはアニメのタイアップ曲かそれに準ずる曲ばかりだったが、そうとは知らずに使っていたようにも思える。
知ってか知らずか。あるいはアニソンがそれだけ一般層にごく普通の邦楽として浸透しているということか。
「それでは撮影ショーです。撮影を希望される方は舞台向かって左側に、」
いつしか撮影ショーが始まる。BGMとして、おそらくこれもアニソンなのかなという曲が流れている場内で、嵐士はぼんやりとそんなことを考えていた。
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