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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(上り線)

9、積極的に探してはいなかったあの曲

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「へえー、そうなんだ」

  平静さを保ちつつも熱っぽく柿内君に説明されたが、響季はそれに対し気のない返事を返す。
  とにかくすごい人達がおらが村に来るというのはわかった。
  彼女達が主題歌を担当したというゲームソフトもやったことはあったが、響季は長ったらしいオープニングは飛ばしてしまう派だった。
  おまけに昨今のアニソンアーティストと呼ばれる方々はあまりにも多過ぎる。
  アニソンというのはアニメと一緒に浸透するため、完全にそちら側の人間ではない響季にはカバーしきれていない。
  アニソンというジャンルもすでにそれ自体が広大過ぎる。陸海空全て制覇したような広大さだ。
  おまけにくれっしぇんどふるむ~んのように、意図的にお耳に入れなければ入ってこないこともある。
  柿内君の説明を聞いてもあまり自分には馴染みがない人達のように思っていたが、

 「でも響季、アルボン見てるだろ?」
 「見てるよ?」
 「だからそのエンディング曲の、」
 「えっ!?」

  最後まで親友の言葉を聴く前に、響季が考えを巡らす。
  アニメ アルコール・ド・ボンバーのエンディング曲。
  今は確かスマエレガールズなる謎のユニットが歌っていた。
  子供も大人も、おねーさんもおかーさんもおとーさんも楽しめるノリノリのディスコファンク。
  スマートバーテンダーズに属する女性二人のボーカルとピンクエレファント団に属する女性二人のボーカルが毎週入れ替わりで、同じメロディのアレンジ違いを違う歌詞で歌う歌だ。
  先週はスマートバーテンダーズ側だったから今週はピンクエレファント団側。
  いい歌だと思ってはいたが、なぜか誰が歌っているのかまでは響季は気にならなかった。アニメの主題歌やエンディングだけを歌うためにユニットが作られるなどよくあることだからだ。
  その中の人達がDOLCE GARDENだという。

 「えーっ!?あたしあの歌めっちゃ好きだよ!!」

  ホゥホゥとモンキーダンスを踊りながら響季が言う。
  ディスコ世代ではないのに、なぜかDNAに呼応するような心地良さがあった。

 「だからそれを歌ってる人達なんだって!」
 「うん。だから…、えーとこれでしょ?」

  だから知ってるだろうともどかしく伝えてくる柿内君に、響季がパソコンを操作して動画を検索する。
  アルコール・ド・ボンバー今期エンディング曲 《Shake BODY Who? FOO!!》それのフルバージョン。
  新曲だというのに誰かが違法にアップロードしたそれは、日本の子供向けアニメのエンディング曲なのにすでに世界中で何万回も再生されている。

 「ここのコーラスんとこいいよね。すんごいクールなのになんかフワフワする。低いのに甘くってさ」
 「そこはParfaitのパートだな。いつもはソプラノだからそういう歌い方するのは珍しいんだ」
 「そうなんだぁ」

  音と歌声がいっぱいで贅沢なディスコサウンドに身体がワクワクしだし、響季が自然とリズムを取り出す。隣で聴いている柿内君も同様に。
  それは今週も番組が終わってしまう、けれどまた来週には彼らに逢えるという余韻を、切なくも楽しく引き伸ばしてくれた。その心地よい切なさは再生数からして日本のみならず聴いた者全員のハートに響くのだろう。

 「ここの♪テテンテテン、テテンテテンッ、ドゥクトゥン、テテンテテンテファー!のとことか…、あれ?」

  サウンドに身を委ねていた響季が何かに気付く。
  動画が再生されている画面にいくつかの関連動画が並んでいた。

 「あ…」

  そこにある動画の曲名に、響季は見覚えがあった。そしてまさか、そんなという思いが湧き上がり、

 「あーっ!!!」
 「なんだよっ」

  突然の大声に柿内君が驚くが、

 「これっ!これっ!」

  それに構わず、響季がカチカチとマウスをクリックする。
  が、流れてきたイントロをすぐに止める。その手は震えていた。

 「どうしよう…」
 「なんだよ…」

  ただ事ではなさそうな雰囲気を柿内君が訊く。どうにも事態が飲み込めない。

 「これ……、あたしがずっと探してた曲」
 「えっ?」

  言われて柿内君が曲の説明を見ると、オレンジコーギー・ゴーホームという実写映画の挿入歌らしい。
  タイトルは聴いたことがあった。が、内容が思い出せない。
  なんだか評判自体はあまり良くなかった気がするのだが。

 「いや、昔さあ。あたしが小学生の時に…、うわあー、こんなことあるんだ」

  そう言いながら、響季は興奮が消化しきれず顔を手で覆う。
  まさに運命的な出会い。
  だがすべて手のひらで踊らされていたのだということへの喜びもあった。

 「いいだろう。ゆっくり話せ」

  背中をトントンと叩き、柿内君が話の続きを促す。
  口調と手だけは気遣っているようだが、口の端は微かに笑っていた。
  興奮で整理がつかないほどの親友の思い出話。
  それはなんだかとても面白そうだった。
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