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38、歴史の終わり。関係の始まり
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呉式穂乃佳のあっとほーむハウス最終回の放送日。
深夜0時2分。
零児は机の引き出しから響季から貰った手紙を出した。
片瀨響季が帆波零児に宛てた手紙より抜粋
零ちゃんは、ああ零ちゃんって勝手に呼んでるけどよろしいのかな。
ダメだったら次の手紙で書いといて。零ちゃんなんて甘っちょろい呼びかたすんじゃねえ!って。
其れがしは悪魔メフィスト、ゼロス・チャイルドで在らせられるぞ!って。
だから零ちゃんて呼べって。
でさ、先生と栗山ちゃんから聞いたんだけど、零ちゃんあんまり自分の名前好きじゃないみたいですね。
普通はご両親がせっかくつけてくれたいい名前なのにー、とか言うんだろうけど、あたしも結構そのクチでして。
あたしの名前、響季って言うんだけど、あ、知ってた?あたしの名前。
知らない?じゃあ、以後お見知りおきのほどをっ!(ここで仁義を切る響季さん。わかんなかったら任侠映画とかを見るんだ!今すぐ!意外と女の人の裸が出てきてキャーッてなる)
響季ってそのままだと「きょうき」って読めるじゃん。
で、クラスの男の子からよく人間凶器と呼ばれてたわけですよ。
昔から男の子とケンカとかしてたんだけど、骨のしくみとか人体のつくりとかって、勉強すると結構軽い攻撃でもダメージ与えられるらしくって。
踵落としとか、膝のお皿前から蹴ったり、人差し指掴んで捻ったり、鎖骨を親指でグッて押したり、あごの骨横から殴ると頭クラクラ出来たり。
そういう攻撃繰り返してたら、ついたあだ名が人間凶器。
親になんで響季なんて名前にしたの?響だけでいいじゃんって聞いたら、普通に響だけだとありきたりだからだって。
そんなもんだよね。親が子供に名前付ける理由なんて。
でも小6の時に先生がクトゥルフ神話の話したんだ。
そんとき狂気山脈の話して、その次の休み時間から狂気山脈ですよ。アタシのあだ名。
小学生のネーミングセンス半端ねえなと思って。
でもこっちはちょっと面白かったから、ちょいちょいラジオネームとかに使ってた。
『狂気山脈に住む女』って。
呉式穂乃佳のあっとほーむハウス最終回の放送日。
深夜1時18分。放送開始10分前に、響季は零児に突然呼び出された公園にどうにかして着いた。
一緒にあっとほーむハウスの最終回を聴くためだ。
零児は誰もいない公園でブランコに座り、呼び出した友達でも恋人でもない相手を待っていた。
「危ないよっ」
「大丈夫だよ」
深夜の公園に女の子が一人でいたことを、響季が咎める。
そんなこと意にも介さず、零児は分厚いウォークマンを取り出した。ラジオ機能付きの、今どき見かけないくらい分厚いカセットウォークマン。
最近ではケータイでもラジオが聴ける。
わざわざこんなアナログなものを持ち出してくるのが響季は彼女らしいなと思った。
隣のブランコに座った響季に、零児が片方のイヤホンを渡す。
お互いが耳に差そうとし、
「遠いね」
ブランコだと二人の間に距離があり、イヤホンが突っ張ってしまう。
「あそこ」
零児が指差したのは公園の真ん中にあるプリン山だ。セメントをプリン形に固め黄色く塗り、中がくり抜かれトンネルになっている。カラメルをかけたようにてっぺんが茶色い。
だが今は転落防止に柵が付けられ、せっかくの造形美が台無しだった。
高いとこなら電波よく入るんじゃない?という零児の言葉に、暗闇の中で二人の女子高生が遊具によじ登る。
てっぺんまで辿りつくと隣り合って座り、お互いイヤホンを耳に嵌める。
チューニングを合せると前番組のエンディングが流れてきた。
改編期を乗り切ったのであろうパーソナリティが、いつもと変わらないテンションでメール募集をし、放送が終わった。
そしていくつかのCMが入って。
20年間続いた声優ラジオ番組の最終回が始まった。
呉式穂乃佳のあっとほーむハウス
パーソナリティ 呉式穂乃香
最終回放送分
オープニングトーク~最終回メール~曲〈明日へ繋ぐ虹〉~《隣り合って聴いています》のコーナー より抜粋
呉式「さあー、始まりましたぁー。あっとほーむハウス、最・終・回っ!ねえーっ、もうドキドキだよぉー。なんか私いつになくキンチョーしてるんですけどもっ(笑)もうねっ、初めての、第一回目の放送の時ぐらい緊張してます私。ハアーッ、もう落ち着いてぇーっ(笑)ねえっ、もう最終回と言いましょうか、卒業式な感覚ですよ。ちゃんとしなきゃっ!ていう。卒業生起立っ!ハイッ!みたいな(笑)スタジオの外にも結構懐かしい顔のオジサマ達がいらっしゃって。あ、手振ってくれてます(笑)」
「これって生じゃないよね?」
「収録」
「最終回も?」
「たぶん」
響季の質問に、零児が短く答える。
ごく稀に、普段は収録だが最終回だけ生放送、というラジオ番組もあるが、あっとほーむハウスは収録で最終回を迎えるらしい。
生放送の方がより一体感、最終回感が生まれるが、さすがにパーソナリティの年齢的に深夜1時30分からの生放送はキツいのか。
カラ元気なオープニングトークが終わり、CMを挟んでメールコーナーになった。
呉式「住民ネーム、見習い勇者改め、おっ、勇者一年目くん。見習いじゃなくなったんだ(笑)いつもありがとう。
『ほのかさんこんばんは。という挨拶も最後になってしまうんですね。本当に終わってしまうんですねー。なんだか信じられないような気持ちでメールを書いてます。僕がこの番組を聴き始めたのはまだネットなどが普及してない時代、雑音の中ラジオにかじりつくようにして聴いていました』
うわー、嬉しいなー、ありがとう。こういうリスナーさんも、たぶん沢山いらっしゃったんでしょうね。『ネットといえば、この番組の最終回のことがネットニュースでトピックにもなってましたね』
そうっ!私もびっくりしたよー。
『この番組だけは変わらず、ずっと続いていくものだとどこかで信じていました。しかし始まりがあれば終わりがくる。悲しみを乗り越え、勇者はまた旅に出ようと思います』とのことです」
「零ちゃん、ラジオの最終回辛かったのっていつまで?」
「……小学校?」
「あー、あたしもそれぐらいかなあ。結構色んな番組同時進行で聴いてるから、終わってもあんまり悲しくは無いよね」
「べつにその声優さんの声が二度と聴けなくなるわけじゃないのに」
「ホント、そうだね…。この番組聴いてた人ってこれしか聴いてなかったのかな」
「どうかな」
「視野狭いなあ。ああ、聴覚か」
呉式「そうだね。もう一通いけるかな?住民ネーム しあわせレシピさん。
『この番組は日だまりのようにぽかぽかしていて、私にとってはふらりと帰ってきてもいつも穂乃佳さんが温かく迎えてくれる場所でした。そんな実家のようなこの番組が終わってしまうのは寂しい限りです』うん。これ、私がお母さんってことかな。おかあさんじゃよー。あれ?これおばあちゃんだな(笑)
『番組を聴き始めた当時は中学生だった私も今や二児の母で、毎日チビちゃん達相手に大奮闘しています』わあー、大変だなあー」
二人がメールを送ったコーナーは番組構成がいつも通りなら一番最後に流れる、はずだ。
呉式は既存コーナーをすべてすっ飛ばし、番組終了を惜しむ内容のメールをひたすら読みあげるが、番組を聴いていなかった二人には白けるだけだった。
慎重に、耳で放送を捉え、聴き流す。その作業を繰り返していた。
響季は落ち着かない様子で柵に背中を預けたり、深く息を吸ったり吐いたり。動いてしまうとイヤホンが外れてしまうから、極力動かないようにはしている。
それでも落ち着かない。
対して零児は身じろぎもせず、ただじっと放送を聴いていた。
深夜0時2分。
零児は机の引き出しから響季から貰った手紙を出した。
片瀨響季が帆波零児に宛てた手紙より抜粋
零ちゃんは、ああ零ちゃんって勝手に呼んでるけどよろしいのかな。
ダメだったら次の手紙で書いといて。零ちゃんなんて甘っちょろい呼びかたすんじゃねえ!って。
其れがしは悪魔メフィスト、ゼロス・チャイルドで在らせられるぞ!って。
だから零ちゃんて呼べって。
でさ、先生と栗山ちゃんから聞いたんだけど、零ちゃんあんまり自分の名前好きじゃないみたいですね。
普通はご両親がせっかくつけてくれたいい名前なのにー、とか言うんだろうけど、あたしも結構そのクチでして。
あたしの名前、響季って言うんだけど、あ、知ってた?あたしの名前。
知らない?じゃあ、以後お見知りおきのほどをっ!(ここで仁義を切る響季さん。わかんなかったら任侠映画とかを見るんだ!今すぐ!意外と女の人の裸が出てきてキャーッてなる)
響季ってそのままだと「きょうき」って読めるじゃん。
で、クラスの男の子からよく人間凶器と呼ばれてたわけですよ。
昔から男の子とケンカとかしてたんだけど、骨のしくみとか人体のつくりとかって、勉強すると結構軽い攻撃でもダメージ与えられるらしくって。
踵落としとか、膝のお皿前から蹴ったり、人差し指掴んで捻ったり、鎖骨を親指でグッて押したり、あごの骨横から殴ると頭クラクラ出来たり。
そういう攻撃繰り返してたら、ついたあだ名が人間凶器。
親になんで響季なんて名前にしたの?響だけでいいじゃんって聞いたら、普通に響だけだとありきたりだからだって。
そんなもんだよね。親が子供に名前付ける理由なんて。
でも小6の時に先生がクトゥルフ神話の話したんだ。
そんとき狂気山脈の話して、その次の休み時間から狂気山脈ですよ。アタシのあだ名。
小学生のネーミングセンス半端ねえなと思って。
でもこっちはちょっと面白かったから、ちょいちょいラジオネームとかに使ってた。
『狂気山脈に住む女』って。
呉式穂乃佳のあっとほーむハウス最終回の放送日。
深夜1時18分。放送開始10分前に、響季は零児に突然呼び出された公園にどうにかして着いた。
一緒にあっとほーむハウスの最終回を聴くためだ。
零児は誰もいない公園でブランコに座り、呼び出した友達でも恋人でもない相手を待っていた。
「危ないよっ」
「大丈夫だよ」
深夜の公園に女の子が一人でいたことを、響季が咎める。
そんなこと意にも介さず、零児は分厚いウォークマンを取り出した。ラジオ機能付きの、今どき見かけないくらい分厚いカセットウォークマン。
最近ではケータイでもラジオが聴ける。
わざわざこんなアナログなものを持ち出してくるのが響季は彼女らしいなと思った。
隣のブランコに座った響季に、零児が片方のイヤホンを渡す。
お互いが耳に差そうとし、
「遠いね」
ブランコだと二人の間に距離があり、イヤホンが突っ張ってしまう。
「あそこ」
零児が指差したのは公園の真ん中にあるプリン山だ。セメントをプリン形に固め黄色く塗り、中がくり抜かれトンネルになっている。カラメルをかけたようにてっぺんが茶色い。
だが今は転落防止に柵が付けられ、せっかくの造形美が台無しだった。
高いとこなら電波よく入るんじゃない?という零児の言葉に、暗闇の中で二人の女子高生が遊具によじ登る。
てっぺんまで辿りつくと隣り合って座り、お互いイヤホンを耳に嵌める。
チューニングを合せると前番組のエンディングが流れてきた。
改編期を乗り切ったのであろうパーソナリティが、いつもと変わらないテンションでメール募集をし、放送が終わった。
そしていくつかのCMが入って。
20年間続いた声優ラジオ番組の最終回が始まった。
呉式穂乃佳のあっとほーむハウス
パーソナリティ 呉式穂乃香
最終回放送分
オープニングトーク~最終回メール~曲〈明日へ繋ぐ虹〉~《隣り合って聴いています》のコーナー より抜粋
呉式「さあー、始まりましたぁー。あっとほーむハウス、最・終・回っ!ねえーっ、もうドキドキだよぉー。なんか私いつになくキンチョーしてるんですけどもっ(笑)もうねっ、初めての、第一回目の放送の時ぐらい緊張してます私。ハアーッ、もう落ち着いてぇーっ(笑)ねえっ、もう最終回と言いましょうか、卒業式な感覚ですよ。ちゃんとしなきゃっ!ていう。卒業生起立っ!ハイッ!みたいな(笑)スタジオの外にも結構懐かしい顔のオジサマ達がいらっしゃって。あ、手振ってくれてます(笑)」
「これって生じゃないよね?」
「収録」
「最終回も?」
「たぶん」
響季の質問に、零児が短く答える。
ごく稀に、普段は収録だが最終回だけ生放送、というラジオ番組もあるが、あっとほーむハウスは収録で最終回を迎えるらしい。
生放送の方がより一体感、最終回感が生まれるが、さすがにパーソナリティの年齢的に深夜1時30分からの生放送はキツいのか。
カラ元気なオープニングトークが終わり、CMを挟んでメールコーナーになった。
呉式「住民ネーム、見習い勇者改め、おっ、勇者一年目くん。見習いじゃなくなったんだ(笑)いつもありがとう。
『ほのかさんこんばんは。という挨拶も最後になってしまうんですね。本当に終わってしまうんですねー。なんだか信じられないような気持ちでメールを書いてます。僕がこの番組を聴き始めたのはまだネットなどが普及してない時代、雑音の中ラジオにかじりつくようにして聴いていました』
うわー、嬉しいなー、ありがとう。こういうリスナーさんも、たぶん沢山いらっしゃったんでしょうね。『ネットといえば、この番組の最終回のことがネットニュースでトピックにもなってましたね』
そうっ!私もびっくりしたよー。
『この番組だけは変わらず、ずっと続いていくものだとどこかで信じていました。しかし始まりがあれば終わりがくる。悲しみを乗り越え、勇者はまた旅に出ようと思います』とのことです」
「零ちゃん、ラジオの最終回辛かったのっていつまで?」
「……小学校?」
「あー、あたしもそれぐらいかなあ。結構色んな番組同時進行で聴いてるから、終わってもあんまり悲しくは無いよね」
「べつにその声優さんの声が二度と聴けなくなるわけじゃないのに」
「ホント、そうだね…。この番組聴いてた人ってこれしか聴いてなかったのかな」
「どうかな」
「視野狭いなあ。ああ、聴覚か」
呉式「そうだね。もう一通いけるかな?住民ネーム しあわせレシピさん。
『この番組は日だまりのようにぽかぽかしていて、私にとってはふらりと帰ってきてもいつも穂乃佳さんが温かく迎えてくれる場所でした。そんな実家のようなこの番組が終わってしまうのは寂しい限りです』うん。これ、私がお母さんってことかな。おかあさんじゃよー。あれ?これおばあちゃんだな(笑)
『番組を聴き始めた当時は中学生だった私も今や二児の母で、毎日チビちゃん達相手に大奮闘しています』わあー、大変だなあー」
二人がメールを送ったコーナーは番組構成がいつも通りなら一番最後に流れる、はずだ。
呉式は既存コーナーをすべてすっ飛ばし、番組終了を惜しむ内容のメールをひたすら読みあげるが、番組を聴いていなかった二人には白けるだけだった。
慎重に、耳で放送を捉え、聴き流す。その作業を繰り返していた。
響季は落ち着かない様子で柵に背中を預けたり、深く息を吸ったり吐いたり。動いてしまうとイヤホンが外れてしまうから、極力動かないようにはしている。
それでも落ち着かない。
対して零児は身じろぎもせず、ただじっと放送を聴いていた。
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