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35、ただ知りたい。ただ大人を騙したい。

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  「響季、いつから献結してる?」

  いきなりなんだと思いながらも響季は答える。

  「中1…、かな。入学してすぐの、最初の身体測定の血液検査で引っかかって」
  「周りの女の子で引っ掛かった子は?」
  「あんまり、いなかったかな。学年で三人くらい」
  「その子達、まだ献結やってる?」
  「自然と正常値になったって。でも個人差があるから」
  「どんな子達だった?」
  「大人っぽくて綺麗な子と、もう一人は小さいけどバスケ部で、あとは」

  響季が保健室で何度か遭った女の子達のことを思い出す。それぞれが献結をしに行く時間帯も曜日もバラバラだったので、頻繁に遭遇することはなかった。

  「その子達って、彼氏いた?」
  「…なに?」

  関係ないような質問ばかりが続き、響季が少し苛立った声を出す。

  「私もよく知らないんだけど」

  零児がそう言って、真っすぐ向けていた視線を伏せると、

  「恋人が出来たら女の子は献結しなくてよくなるんだって」
  「なに、それ」

  フードコートの片隅で、いきなり出てきた非科学的な説に響季が戸惑う。

  「献結する子がかかってるのは、子供や思春期の不安定な時期の病気だから、その、恋人が出来て、精神的に大人になれば献結しなくてよくなるんだって」

  ふてくされたような話し方で零児が喋る。
  その話は響季も以前どこかで聞いたことがあった。質疑応答の際に出てくるアレだ。
  《貴方は今、恋人はいますか はい/いいえ》
  アレにはいと答えると献結は出来なくなるという。
  だが、ただの噂だと信じていた。

  「だからあたしと付き合いたいの?献結するのめんどくさいから?」

  響季は献結を面倒くさいとは思わなかった。特に誰かの役に立っているという意識もなかった。
  やった方がいいと言われたからやっているだけで、それに見合った幾ばくかの謝礼が貰えるのが嬉しかったから。ただそれだけだったが、

  「違う」

  零児が首を振る。

  「単に知りたいの。本当にそうなのか」

  恋人が出来たぐらいで本当に何かが変わるのか。身をもって知りたいと、零児は言う。

  「じゃあ男の子と付き合えば」
  「女の子の恋人が出来ればどうなるのか。女の子が女の子と付き合うことで変わるのか知りたい、あと」

  そう言葉を切ると、零児が息を吸い、細く吐いた。

  「清らかな血を持ったまま、大人になれるのか」

  その目に宿るのは、歪んだ子供が放つヒカリだった。

  あの噂には続きがあった。
  恋をすると女の子は血液が落ち着く。が、同時に不順なモノが入り込む恐れもある。
  異性と交わり、放たれるものが。
  そして受け取る側のドナーは、男性は、清らかな少女の血だけを欲しがっている。
  だから恋をし、交わり、穢れを知った女の血はいらない。
  そんな歪んだ信仰心とドラキュリズムにも似たものがあの質問にはあるという。

  女の子が好きなの?なんて野暮なことを響季は訊かない。
  この子は、零児は単純に、純粋に、疑問に思ったことを、身をもって知りたいのだ。
  噂は本当なのか。
  女の子同士はカウントに入るのか、ノーカウントになるのか、グレーゾーンになるのか。
  同性でも他人の誰かと真剣に向き合うことで、ヒトは精神的に大人になるのか。血の質が変わるほどの体験を経れば、厨二病のようなものは治るのか。
  そんなことでちゃちな管理システムは掻い潜れるのか。
  大人達の鼻をあかせるのか。
  清純さを纏ったまま、血の色を変えることは出来るのか。
  裏で舌を出し、少女のままでいられるのか。
  一点の曇りもない探求心。その実験台役に、自分は選ばれたのだ。
  それを悟った時、響季の心の中には何もなかった。
  さっきまで沸きがっていた怒りも、その少し前まで抱いていた愛しさも。

  「いいよ」

  静かに言いながら、響季が染みのついた安っぽいフードコートのソファから立ち上がる。
  零児はただそれを見上げていた。大きなアーモンドアイで。

  「あたしも知りたい」

  響季の中には漠然とした好奇心、興味があった。
  夏休みの自由研究。そんな言葉が響季の頭に浮かんだ。
  ピンクがかった茶髪の少女が、アーモンドアイの少女の手を引いて立たせる。
  少し骨ばった響季の指には装飾品などの類は一切ない。そういったものはひどく重たく感じてしまうからだ。

  「行こう」

  二人はフードコートをあとにした。
  さっきぶらついた時は用もないと思われたサーファーショップ。あそこならまだやっているはずだったと。



  さゆきとめぐみの深夜のラッピングバス
 パーソナリティ 榛葉 さゆき/保呂草 恵
  第56回放送分より抜粋 《飛び出せ!ひっさつけんっっっ!!》のコーナー

 榛葉 「世の中にある様々な必殺拳について語り合うというというこのコーナー。てなわけで先生、今週のテーマは?」
  保呂草「すうーっ…。ほあーっ…」
  榛葉 「先生は今、気を錬られています(笑)」※このコーナーの時だけ保呂草恵はボローニャ大禅先生になられています
 保呂草「ふんぬっ!!つあっ!!」
  榛葉 「先生っ、今だったんじゃないですか!?(笑)」
  保呂草「大丈夫ですっ!わたしのタイミングでいかせて!こういうのはもう、バンジーとかと一緒だから!」
  榛葉 「あー、じゃあもう時間無いんでお願いしますっ!今週のテーマはっ?」

  保呂草「(エコー)わりびき拳っっっ!クーポン券含むっ!!」

  榛葉 「……はいっ(笑)ありがとうございます、先生。というわけで」
  保呂草「言っときますけどあたしこれやるとき袖ビリビリですからね。服の袖」
  榛葉 「いつもとおなじきったないパーカーに見えますけど(笑)」
  保呂草「心の袖がビリビリなの!!」
  榛葉 「(笑)はい、もうわかりましたんでメール」
  保呂草「あたしこれやる時付け髭くれないかなあ、こーゆーの」
  榛葉 「こういうのって(笑)先生、ラジオなんで」
  保呂草「びよーんって。長いの。びよーんて長いの」
  榛葉 「カイザー髭、じゃないや。なんか達人みたいなやつね。竜の髭みたいの」
  保呂草「でもねぇ今回あんだけ送ってくんなっつったのに、バカな門下生どもがぁーもぉー、期限切れで使えませんでした系のやつばっかでね。ネタ被りすぎやっちゅーね!やっちゅーね!!」
  榛葉 「(笑)」
  保呂草「ちょっともうミキサーさーん、エコーください。エコー最大で」

  保呂草「(エコー最大)有効期限見ろっ!!」

  榛葉 「(笑)先生っ、力強いですっ!!」
  保呂草「もう、ちゃんと見て!!有効に使って!!経済回して!!」
  榛葉 「(笑)先生、私なんか知んないんですけど涙出てきました。はあーっ…。あ、メールメール(笑)メール、どっちですか?」
  保呂草「あ、すいません私からです。えーと、最初のメール。『僕のわりびきけんは』ああこの方、ラッピンネーム ジャージニアジャージストさん」
  榛葉 「あぃがとござまス」
  保呂草「『ネットで使える2000円割引拳を使って輸入物の靴を買いました』」
  榛葉 「おおー」
  保呂草「『海外サイズの表記がわからず、』たぶんこれ日本でいう25センチが、なんか7インチとか、25、5センチが7、5インチとかそういうことだと思うんですけど。
 『しかも紐で調整できるタイプではないので、ジャストサイズを選ばなくてはならない一発勝負な買い物でした』」
  榛葉 「へえー。ヒールとかですかね」
  保呂草「いや、男性の方ですから。ジャージニアジャージストさん」
  榛葉 「あ、そっか(笑)」
  保呂草「スリッポンとか?わかんないですけど(笑)
『このメーカーは幅が狭いからワンサイズ上にした方がよいだの、海外サイズででかいから小さめを買えだの、ネットのクチコミを見ながらなんとか購入しました』」
  榛葉 「あー、足の幅に合わせたら大きめを買った方が良いんだけど、日本人サイズに合わせると大きいから小さめを買わなきゃいけないんだ。へえー」
  保呂草「えー…、で、今週メールたくさん来てたんですけど、読むのこれだけです(笑)」
  榛葉 「ええーっ!?(笑)」
  保呂草「ちょっとねえ(笑)番組前半で微妙に遊び過ぎちゃって時間無くなっちゃいました(笑)このなんか靴買ったってのだけです」
  榛葉 「うそおー(笑)」
  保呂草「はいっ!というわけで次回募集するテーマはっ!エコー、エコーたっぷりよ?ガンかけよ?ミキサーさんっ」

  保呂草「(エコー最大)しんれいたいけんっっっ!」

  榛葉 「なんかスタジオん中と私の耳ゆわんゆわんしてますけど(笑)はいっ、というわけでリスナーの皆さんからは心霊体験にまつわるメールをお待ちしています」
  保呂草「あれよ?ガチで怖いのは読まないからね、ボローニャ先生。おもしろお岩さんさんみたいの頼むわね」
  榛葉 「はいっ!それでは先生っ、今週もありがとうございましたっ!」
  保呂草「うむっ!それではワシは帰るぞっ!巻きでなっ!」
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