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18、僕の爆弾は驚くほどの威力を発揮した
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RUMICO「さあー、メールどんっどんまいりましょう。今週のテーマ《嗚呼!夏休みの宿題の思い出》えー、ラジオネーム もねリンさんから。
『私は昔から夏休みの宿題は7月中に終わらせ、』おー、多いですねやっぱり。でもこっから違いますよ。
『二人の姉の宿題を手伝っていました。手伝うのはおもに読書感想文などの作文や工作自由研究など。読書感想文は二人の年齢、学年に合わせた本をチョイスし、文章も年齢に合わせた書き方に。工作も、去年はあれだったから今年はこれ、自由研究は自分がやりたいものを好きにやらせてもらいましたが、何度か賞も貰いました』おおーっ。『ちなみに報酬は、』あっ、これ気になるねこれ(笑)
『やりたくてやってたので戴きませんでした。お気持ちだけで結構です、と姉からお菓子的なものを戴いてました』(笑)
お菓子的なもの。なんだろ(笑)お菓子、ではないのかな。お姉ちゃんの分のおやつをこっそり分けてとか、多めに。お姉ちゃんの方がお小遣い多く貰ってるから、そこからお姉ちゃんが買って、
貰ってとか、ねえ。姉妹で金銭やりとりしちゃうとねー、さすがにねえ、お母さんとかも。あれ?お母様知ってたのかしら、これ。この姉妹たちの秘密のやり取り(笑)」
零児は目を閉じたまま、全身の神経を耳だけに集中させて聴いていた。
もっと後になってから知る、AMよりかはクリアな音質。
そこから、ラジオから、車のスピーカーから聴こえてくる読まれているメールは、30分ほど前に自分が送ったメールだった。
初めての体験に興奮しながらも、頭の中ではウケたことに、笑いがとれたことに安堵していた。
零児にとってはそれが唯一の気がかりだった。
面白いセンテンスをバランスよく配置し、それにパーソナリティが笑ってくれる。自分が思い描いた通りに笑いの小爆発が起きる。
それは小さな、誰にも気付かれないように行われるテロ行為のようなものだ。
長女である零児には、当然姉はいない。
いわゆる作りメールだった。
しかし悪いとは思っていなかった。これぐらいの脚色、演出はありだろうと。
話しの持って行き方、言い回しの妙。すべてに満足していた。
頭の中で考えた文章が自分の手元から発信され、ラジオ局に届き、それが選考され、音声化され、電波に乗り、自分の耳に還ってくる。
予想以上に、それは不思議な体験だった。
零児のネタ職人デビューはこうして終わった。
そして番組の最後にズワイ蟹当選者、つまりその週送られてきたメールの中で一番面白かった人の発表となった。
RUMICO「さて、今週一番面白いメールくれた方ー、♪ズンザンズンザンズンザンズンザン、んー、これだーっ!えー、幼いころからお姉さん達の宿題を手伝っていた、ラジオネーム もねリンさんですっ!おめでとーっ!」
サイクーくん「オメデトー!」
テンションの高いパーソナリティの声と、よくわからない合成音声とともに、車のスピーカーから安っぽく景気のいいファンファーレが聴こえてきた。
RUMICO「ラジオネーム もねリンさんにはズワイ蟹2キロをお送りしまーす。待っててねー。是非ご家族と食べてくださーい。ねー、夏のカニっていうとやっぱり、あれ…、鍋?(笑)」
サイクーくん「ハハハハ」
RUMICO「いや、夏の鍋もねえ、なかなかオツよ?ほら夏ってどうしても冷たいもんばっか食べちゃうから。でもやっぱワサビ醤油とかでね。さっ、来週のメールテーマは、」
パーソナリティはまだ何か言っていたが、零児の耳には入ってこなかった。
身体の、シートで見えない部分、首筋、背中にかけて鳥肌が立つ。
そのラジオ番組が全国何局ネットなのかわからないが、自分の名前が、ラジオネームとはいえ自分が考えた名前が呼ばれ、メールが選ばれ、一番面白かったと言われた。
これを聴いた誰もが零児だとは気づかないだろう。
旅行帰りの同級生が聴いてたとしても、わからないだろう。
おそらく隣にいる父親ですら気付いてないだろう。
何という完全犯罪。高揚感。心臓は荒れ狂うほど高鳴っているのに、不思議と零児の心は穏やかだった。
三日後。零児の家にラジオ番組、active Night cycleから特製ポストカードが届き、それから二週間後、冷蔵便が届いた。
送り主はラジオ局、中身はズワイ蟹2キロ、宛名は帆波零児様。
ポストカードは自分で回収出来たが、とてつもなく存在感のある冷蔵便が届いた日、零児は運悪く出かけていた。
娘の許可なく母親が勝手に開けると、蟹と一緒に、メールを採用された方の中から厳正なる抽選の元、貴方様のメールが選ばれ番組プレゼントとして云々というパソコンで打った手紙が入っていた。
番組を聴いていなかった母と妹は、唯一聴いていたはずの父に説明を求めた。
確かキャンプの帰りに聴いていたラジオでそんなこと言ってたなあ。夏休みの宿題がどうとかこうとか。なんだあのメール、零児か。ハッハッハ。なーんか妙にこそこそソワソワしてたと思ったら。お前姉ちゃんなんていないじゃないか。えー?すごーい、れいちゃん。ラジオでメール読まれたの?ねえねえ、どんなペンネームで送ったの?ねえねえ。れいはやっぱり文才あるのねえ。前も作文で賞取って。審査員賞だけど。
-だからだ。
零児がノベルティグッズの貰えるラジオ番組にメールを送る時に、名前と住所を書かないようにしたのは。
ノベルティが届かないように。ラジオでメールが読まれたのを家族に悟られないように。
家族にからかわれるのが嫌なのだ。
内に秘めた自分の面白さを、誰にも悟られたくなかった。知られたくなかった。気づかれたくなかった。誰にも。
貪欲で自意識過剰な獣を、誰にもわからないようにしてきた。なのにー、
『私は昔から夏休みの宿題は7月中に終わらせ、』おー、多いですねやっぱり。でもこっから違いますよ。
『二人の姉の宿題を手伝っていました。手伝うのはおもに読書感想文などの作文や工作自由研究など。読書感想文は二人の年齢、学年に合わせた本をチョイスし、文章も年齢に合わせた書き方に。工作も、去年はあれだったから今年はこれ、自由研究は自分がやりたいものを好きにやらせてもらいましたが、何度か賞も貰いました』おおーっ。『ちなみに報酬は、』あっ、これ気になるねこれ(笑)
『やりたくてやってたので戴きませんでした。お気持ちだけで結構です、と姉からお菓子的なものを戴いてました』(笑)
お菓子的なもの。なんだろ(笑)お菓子、ではないのかな。お姉ちゃんの分のおやつをこっそり分けてとか、多めに。お姉ちゃんの方がお小遣い多く貰ってるから、そこからお姉ちゃんが買って、
貰ってとか、ねえ。姉妹で金銭やりとりしちゃうとねー、さすがにねえ、お母さんとかも。あれ?お母様知ってたのかしら、これ。この姉妹たちの秘密のやり取り(笑)」
零児は目を閉じたまま、全身の神経を耳だけに集中させて聴いていた。
もっと後になってから知る、AMよりかはクリアな音質。
そこから、ラジオから、車のスピーカーから聴こえてくる読まれているメールは、30分ほど前に自分が送ったメールだった。
初めての体験に興奮しながらも、頭の中ではウケたことに、笑いがとれたことに安堵していた。
零児にとってはそれが唯一の気がかりだった。
面白いセンテンスをバランスよく配置し、それにパーソナリティが笑ってくれる。自分が思い描いた通りに笑いの小爆発が起きる。
それは小さな、誰にも気付かれないように行われるテロ行為のようなものだ。
長女である零児には、当然姉はいない。
いわゆる作りメールだった。
しかし悪いとは思っていなかった。これぐらいの脚色、演出はありだろうと。
話しの持って行き方、言い回しの妙。すべてに満足していた。
頭の中で考えた文章が自分の手元から発信され、ラジオ局に届き、それが選考され、音声化され、電波に乗り、自分の耳に還ってくる。
予想以上に、それは不思議な体験だった。
零児のネタ職人デビューはこうして終わった。
そして番組の最後にズワイ蟹当選者、つまりその週送られてきたメールの中で一番面白かった人の発表となった。
RUMICO「さて、今週一番面白いメールくれた方ー、♪ズンザンズンザンズンザンズンザン、んー、これだーっ!えー、幼いころからお姉さん達の宿題を手伝っていた、ラジオネーム もねリンさんですっ!おめでとーっ!」
サイクーくん「オメデトー!」
テンションの高いパーソナリティの声と、よくわからない合成音声とともに、車のスピーカーから安っぽく景気のいいファンファーレが聴こえてきた。
RUMICO「ラジオネーム もねリンさんにはズワイ蟹2キロをお送りしまーす。待っててねー。是非ご家族と食べてくださーい。ねー、夏のカニっていうとやっぱり、あれ…、鍋?(笑)」
サイクーくん「ハハハハ」
RUMICO「いや、夏の鍋もねえ、なかなかオツよ?ほら夏ってどうしても冷たいもんばっか食べちゃうから。でもやっぱワサビ醤油とかでね。さっ、来週のメールテーマは、」
パーソナリティはまだ何か言っていたが、零児の耳には入ってこなかった。
身体の、シートで見えない部分、首筋、背中にかけて鳥肌が立つ。
そのラジオ番組が全国何局ネットなのかわからないが、自分の名前が、ラジオネームとはいえ自分が考えた名前が呼ばれ、メールが選ばれ、一番面白かったと言われた。
これを聴いた誰もが零児だとは気づかないだろう。
旅行帰りの同級生が聴いてたとしても、わからないだろう。
おそらく隣にいる父親ですら気付いてないだろう。
何という完全犯罪。高揚感。心臓は荒れ狂うほど高鳴っているのに、不思議と零児の心は穏やかだった。
三日後。零児の家にラジオ番組、active Night cycleから特製ポストカードが届き、それから二週間後、冷蔵便が届いた。
送り主はラジオ局、中身はズワイ蟹2キロ、宛名は帆波零児様。
ポストカードは自分で回収出来たが、とてつもなく存在感のある冷蔵便が届いた日、零児は運悪く出かけていた。
娘の許可なく母親が勝手に開けると、蟹と一緒に、メールを採用された方の中から厳正なる抽選の元、貴方様のメールが選ばれ番組プレゼントとして云々というパソコンで打った手紙が入っていた。
番組を聴いていなかった母と妹は、唯一聴いていたはずの父に説明を求めた。
確かキャンプの帰りに聴いていたラジオでそんなこと言ってたなあ。夏休みの宿題がどうとかこうとか。なんだあのメール、零児か。ハッハッハ。なーんか妙にこそこそソワソワしてたと思ったら。お前姉ちゃんなんていないじゃないか。えー?すごーい、れいちゃん。ラジオでメール読まれたの?ねえねえ、どんなペンネームで送ったの?ねえねえ。れいはやっぱり文才あるのねえ。前も作文で賞取って。審査員賞だけど。
-だからだ。
零児がノベルティグッズの貰えるラジオ番組にメールを送る時に、名前と住所を書かないようにしたのは。
ノベルティが届かないように。ラジオでメールが読まれたのを家族に悟られないように。
家族にからかわれるのが嫌なのだ。
内に秘めた自分の面白さを、誰にも悟られたくなかった。知られたくなかった。気づかれたくなかった。誰にも。
貪欲で自意識過剰な獣を、誰にもわからないようにしてきた。なのにー、
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