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10 王国の終焉および女王戴冠
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かくして王国は滅びた。
といってもほろんだのは王室だけであり、国土が亡くなったわけでも人が多く死んだわけでもない。
であるゆえに国は新しい王を抱くこととなった。
その王に選ばれたのは、アーベルジュ公令嬢であり、のちに薔薇女王と謳われたヴィクトリアであった。
残された王位継承者の中でかなり上位にいたことはもちろん、今回の帝国軍侵攻を撃退した立役者としての名声や、西部および南部の貴族たちが彼女を推したのもあった。
北部貴族や東部貴族は消耗しきっており、対抗できる候補者は軒並み戦死していたため、異議を出すことができなかったのだ。
薔薇女王ヴィクトリアは、自身の乳兄弟であったノーザンランド公イブリンと結婚。
50年続いたその治世はバラ色の時代と呼ばれ、王国最盛期の一つに数えられるほどであった。
子宝にも恵まれ、彼女の人生は幸せだった、といわれている。
「で、イブリン」
「なんですか。女王陛下」
「婚約破棄から今まで、どれがあなたの策略だったの?」
「策略なんて大げさな。当時一介の家臣でしかなかった私に何ができたと?」
夫婦だけの部屋。
そこにいるのは二人のみ。
対帝国戦やその後の活躍により、どうにか貴族位をでっちあげ、結婚する程度に彼女は彼を愛していた。
しかしそれはそれ、これはこれだった。
一連の出来事に、ところどころ彼の影が見えることがあった。
驚くほど優秀な彼のことだ。きっと何かをしていたに違いないと思い、思い切って尋ねてみたのだ。
「正直に話して」
「ちょっといろいろな人間にいろいろ吹き込みまして、ちょっとだけ背中を押しただけですよ。馬鹿が平均以上に馬鹿でなければきっと婚約破棄は起きなかったでしょうし、帝国だって今でも平穏だったでしょうし、公爵領もいつも通り平和な日々を送っていたでしょうね」
「で、その吹き込んだ相手は?」
「もしかして嫉妬しています?」
「悪い?」
別に彼がどのようなことをしていたとしても嫌いになるわけではなく、今まで気にもしていなかったが、少し気になったことがあったのだ。
今日昼に茶会をしたある婦人から、イブリンのことを聞かれたのだ。まだ家臣の時代に話したことがあるというたわいもない話。
しかし、嫉妬と不安を抑えきれなくなったのが今回の話であった。
「我が女王陛下。私の体も心も、一分の曇りもなく女王陛下のものです。策略を巡らせる際に、多くの女性とも会話をしましたが、指一本触れたことがないことを誓います」
「本当に?」
「本当に」
「でも、それだけ策略を巡らせてたわけね」
「そうですね」
直接的に何かしたわけではない。
王太子や側近に対して生意気にも忠告をして煽ったり、従兄弟殿にいろいろ都合の良いことを教え込んだり、あの偽聖女を聖女と呼ばせるようにしてみたり。
単に一つ一つは大したことないきっかけ程度の話である。
それで愚者は踊り、予想以上の成果を彼にもたらした、ただそれだけでしかない。
本当は色仕掛けまでしたかったのだが、彼の目的は愛しいお嬢様である。汚れてしまえば触る資格はないと、その分寝る間も惜しんで暗躍したため、一時期は本当に過労死するかと思ったぐらいだった。
だから、彼女に言ったことは何も嘘はなかった。
「愛しの女王陛下」
「なにかしら」
「大好きですよ」
「私もよ」
二人して微笑みあう。
その二人の行く末がどこであろうと
その行く道が血塗られていようと
幸せだと確信している二人は、仲良く微笑みあうのであった。
といってもほろんだのは王室だけであり、国土が亡くなったわけでも人が多く死んだわけでもない。
であるゆえに国は新しい王を抱くこととなった。
その王に選ばれたのは、アーベルジュ公令嬢であり、のちに薔薇女王と謳われたヴィクトリアであった。
残された王位継承者の中でかなり上位にいたことはもちろん、今回の帝国軍侵攻を撃退した立役者としての名声や、西部および南部の貴族たちが彼女を推したのもあった。
北部貴族や東部貴族は消耗しきっており、対抗できる候補者は軒並み戦死していたため、異議を出すことができなかったのだ。
薔薇女王ヴィクトリアは、自身の乳兄弟であったノーザンランド公イブリンと結婚。
50年続いたその治世はバラ色の時代と呼ばれ、王国最盛期の一つに数えられるほどであった。
子宝にも恵まれ、彼女の人生は幸せだった、といわれている。
「で、イブリン」
「なんですか。女王陛下」
「婚約破棄から今まで、どれがあなたの策略だったの?」
「策略なんて大げさな。当時一介の家臣でしかなかった私に何ができたと?」
夫婦だけの部屋。
そこにいるのは二人のみ。
対帝国戦やその後の活躍により、どうにか貴族位をでっちあげ、結婚する程度に彼女は彼を愛していた。
しかしそれはそれ、これはこれだった。
一連の出来事に、ところどころ彼の影が見えることがあった。
驚くほど優秀な彼のことだ。きっと何かをしていたに違いないと思い、思い切って尋ねてみたのだ。
「正直に話して」
「ちょっといろいろな人間にいろいろ吹き込みまして、ちょっとだけ背中を押しただけですよ。馬鹿が平均以上に馬鹿でなければきっと婚約破棄は起きなかったでしょうし、帝国だって今でも平穏だったでしょうし、公爵領もいつも通り平和な日々を送っていたでしょうね」
「で、その吹き込んだ相手は?」
「もしかして嫉妬しています?」
「悪い?」
別に彼がどのようなことをしていたとしても嫌いになるわけではなく、今まで気にもしていなかったが、少し気になったことがあったのだ。
今日昼に茶会をしたある婦人から、イブリンのことを聞かれたのだ。まだ家臣の時代に話したことがあるというたわいもない話。
しかし、嫉妬と不安を抑えきれなくなったのが今回の話であった。
「我が女王陛下。私の体も心も、一分の曇りもなく女王陛下のものです。策略を巡らせる際に、多くの女性とも会話をしましたが、指一本触れたことがないことを誓います」
「本当に?」
「本当に」
「でも、それだけ策略を巡らせてたわけね」
「そうですね」
直接的に何かしたわけではない。
王太子や側近に対して生意気にも忠告をして煽ったり、従兄弟殿にいろいろ都合の良いことを教え込んだり、あの偽聖女を聖女と呼ばせるようにしてみたり。
単に一つ一つは大したことないきっかけ程度の話である。
それで愚者は踊り、予想以上の成果を彼にもたらした、ただそれだけでしかない。
本当は色仕掛けまでしたかったのだが、彼の目的は愛しいお嬢様である。汚れてしまえば触る資格はないと、その分寝る間も惜しんで暗躍したため、一時期は本当に過労死するかと思ったぐらいだった。
だから、彼女に言ったことは何も嘘はなかった。
「愛しの女王陛下」
「なにかしら」
「大好きですよ」
「私もよ」
二人して微笑みあう。
その二人の行く末がどこであろうと
その行く道が血塗られていようと
幸せだと確信している二人は、仲良く微笑みあうのであった。
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