婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび

文字の大きさ
上 下
9 / 10

9 皇太子の最期

しおりを挟む
ノッテン陥落の報は、帝国軍に大きな波紋を投げかけた。

帝国と王国を繋ぐ街道はいくつかあるが、王都から帝国へ最短で行ける街道であり、しかも一番太く平坦な街道がノッテンを通る道であった。
つまりノッテンは要衝の一つであり、そこが堕ちたのだから衝撃は大きかった。

さらに、皇太子が命からがら逃げだした、というのも悪かった。
彼がノッテンを訪れたのは、ノッテン防衛という名目であった。
実際はマリアに会いに行くためであったが、名目は防衛のために手勢を引き連れていったということになっていた。
全く歯が立たずに逃げ出してきた皇太子に、帝国軍は不信感が高まっていた。

そんな中、王都に再度アーベルジュ騎士団が襲来する。
その数2000。重騎兵ばかりの有力な軍ではあるが、数は前回の襲撃よりも減っていた。
陣頭指揮はアーベルジュ公令嬢がとっており、それゆえ前回よりも弱体と思われていた。

皇太子はそんな援軍に対応するために予備兵力3000をもって騎士団前面に布陣。
騎兵1000、長槍兵2000というオーソドックスな編成であり、負けることはないだろうと思われていた。
皇太子としても、ここで得点を稼がないと、場合によっては寄り集まり集団である帝国軍が瓦解しかねないことを察していた。
もう少しで王都が落とせるのだから、ここで引くのはありえず、場合によっては政治生命にかかわるのだから必死だった。

そうして、皇太子軍は鎧袖一触で敗北するのであった。
前アンドレア卿の技術を継いでいたのは、アーベルジュ公令嬢であった。
女性用の軽鎧をまとう彼女が、薙刀状の槍をふるうと、皇太子軍の槍先は簡単に切り捨てられていった。
呆然とする長槍兵たちは、彼女に続きランスチャージを行う騎兵に突っ込まれ、一瞬にして瓦解する。
正午前に始まった戦いは1時間もかからずに皇太子軍が崩壊することで決着がついてしまった。

この皇太子軍の敗北により帝国軍は一瞬にして崩壊した。
彼女のその技術は、先の大戦の英雄前アンドレア卿を彷彿とさせるものであり、また、先陣を切る彼女の姿は、先の大戦で聖女と謳われたサウスレア伯令嬢アリスを思い起こさせるものであった。
帝国の悪夢が重なって襲い掛かってきたようなものであり、帝国軍は恐慌状態に陥ったのだ。
そしてその瞬間、サウスレア伯軍が、ノッテンを焼き払って撤退したという情報が入ると、帝国軍は統制を失い逃亡を始めた。
まず逃げ出したのは帝国西部および北部の諸侯だった。
彼らはいくら手柄を立てても王国の領地はかなり遠距離の飛び地になるため統治しずらい。
本当に義理で来ているだけの彼らの士気は低く、再度街道を閉鎖される恐れを抱いた彼らは一目散に帰国してしまったのだった。

一部が逃亡すれば、それは軍全体に波及する。友崩れ、といわれる現象だ。
それでも皇太子は必死に軍をまとめ包囲を継続しようとした。
なんせ今の王都は国王も、王太子も死亡した、主無き都である。
あと少し、あと少しで陥落する状況なのである。

そうして、自ら剣を抜いてまで督戦し、軍をまとめようとした皇太子は督戦として処断しようとした味方の一兵卒の反撃にあい殺された。
武術が不得手な彼では、武術の知識はないが鍛えられている雑兵にすら勝てなかったのだ。

そうして皇太子が死去した帝国軍はあわてて撤退。
帝国はその後皇帝の求心力が下がり内乱を繰り返すことになるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とある断罪劇の一夜

雪菊
恋愛
公爵令嬢エカテリーナは卒業パーティーで婚約者の第二王子から婚約破棄宣言された。 しかしこれは予定通り。 学園入学時に前世の記憶を取り戻した彼女はこの世界がゲームの世界であり自分が悪役令嬢であることに気づいたのだ。 だから対策もばっちり。準備万端で断罪を迎え撃つ。 現実のものとは一切関係のない架空のお話です。 初投稿作品です。短編予定です。 誤字脱字矛盾などありましたらこっそり教えてください。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】さっさと婚約破棄しろよ!って、私はもう書類を出していますって。

BBやっこ
恋愛
幼い頃に親同士で婚約したものの、学園に上がってから当人同士合わない!と確信したので 親を説得して、婚約破棄にする事にした。 結婚したらいいねー。男女で同い歳だから婚約しちゃう?と軽い感じで結ばれたらしい。 はっきり言って迷惑。揶揄われるし、合わないしでもう婚約破棄にしようと合意は得た。 せいせいした!と思ってた時…でた。お呼びでないのに。 【2023/10/1 24h. 12,396 pt (151位)】達成

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

[完結]要らないと言ったから

シマ
恋愛
要らないと言ったから捨てました 私の全てを 若干ホラー

この世で彼女ひとり

豆狸
恋愛
──殿下。これを最後のお手紙にしたいと思っています。 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

王太子殿下が欲しいのなら、どうぞどうぞ。

基本二度寝
恋愛
貴族が集まる舞踏会。 王太子の側に侍る妹。 あの子、何をしでかすのかしら。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

処理中です...