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5 そんな中でも味方は案外いるもので
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「では次に、味方を考えましょうか」
イブリンがそういいながら紅茶を用意してくれた。砂糖も3つもつけてくれる。
うんざりして意気消沈していた頭に、糖分がめぐる。もうちょっとだけ頑張れそうである。
「アーベルジュ家内はどれくらい掌握できているのかしら?」
「騎士団も家内衆も、お嬢様には好意的ですよ。敵対的なのはアンドレアの一部ぐらいでしょう」
家臣団の統制はできていた。
私は家内で行われるパーティなどには積極的に顔を出していたし、イベントのたびに民衆にも露出していたから知名度も高い。父上もしっかり当主をしているし、私が血筋的に最有力なのもあり、支持は確固たるものだった。
反発をしているのは叔父上の時代を忘れられない、アンドレアの中でも従兄弟の周辺ぐらいであり、それさえ排除できれば内部に敵はいないだろう。
「うちも一応そちらに味方するわよ。よほど劣勢になったらわからないけど」
「ふふ、ありがとう」
サンバルド伯当主は現在病気に倒れており、サンバルド伯令嬢である彼女が実権を握っている。
入り婿になるシシリー卿も彼女に従うのみなので、彼女の意見が通る可能性が極めて高い。
敗けなければ味方してくれるなら十分だ。地獄に堕ちるときに一緒に来てほしいわけではない。
「このあたりの西部貴族はみんな似たような感じだと思うわよ」
「そうでしょうね。一戦する分には期待してもよさそうね」
周囲の貴族たちにはお手紙を撒いて、味方になってもらうように依頼しなければならない。
基本的に現在の王家に隔意を持つ貴族ばかりなので、こちらの味方につけるのは難しくないだろう。
「南方貴族も期待できると思います」
「あら、なんで?」
「寝取り女のマリアが、聖女を名乗ったというのは王国中に広まっています。聖女アリスを旗頭にしていた南部貴族は王家にはつかないかと」
「聖女」という称号は正式なものではないが、王国では聖女といえば思い浮かぶ人が一人いる。
聖女アリス。
南部貴族サウスリア家の出身の女性で、親友のサウスリア伯令嬢の大叔母に当たる方だ。
前の帝国との大戦時、劣勢の王国軍をまとめ上げ、女性ながら陣頭指揮を執って帝国軍を撃破し続けた彼女は、その銀髪の美しい外見と兵士を献身的に看護する姿、そして先陣を切る勇猛さから聖女と呼ばれたのだ。
最後は帝国につかまり、一方的に異端と判決されて火あぶりで処刑された彼女は、南部貴族に取って理想の女性として神格化されていた。
「マリアに実績があれば違ったでしょうが、彼女のしたことなど王太子や数人と逢瀬を重ねて挙句の果てに王太子を寝取ったという娼婦のような行いだけですから、南部貴族は聖女の肩書を娼婦にけがされたと激怒しているわけです」
「確かにそうね。多少の慰問程度で聖女になれるなら、私もあなたもとっくに聖女だわ」
貧民に施しをする優しい女性だから聖女だ、と彼女の周囲は彼女をたたえていたが、そういった慰問や施しは貴族女性のたしなみだ。彼女より私やサンバルド伯令嬢の方がよほど民を助けている。
ただ、こういった善行は誇るものではないため、皆言わないだけだ。そういうところでもあのマリアとかいう女は品性が足りてない。
「南部貴族は帝国との遺恨もかなりありますし、こちらに誘えば裏切ることもなく連携してくれる可能性は高いかと」
「確かにそうね」
王家に反感が生じても、かといってその敵の帝国は自分たちの旗頭を異端として処刑した相手だ。そちらにも隔意がある以上、そちらに着くとも考えにくかった。
南部貴族の面々にもお手紙を送ることを決める。
明日は腱鞘炎になりそうだ。
だいたい敵味方はわかった。ただ、西部と南部の貴族を糾合しても、王家や帝国軍には数的に劣勢だ。
できれば直接当たりたくはない。
質の差や戦術の妙でどうにかなるとしても、消耗も激しいのだ。
「この状況で、どういう戦略を練るか、が問題ね」
「そう難しい話でもないかと」
「皆あなたほど頭がよくないのよ。説明して頂戴」
イブリンには何か腹案がある様だ。
「王家を中心とした北部貴族も、帝国も、東部貴族も確かにこちらから見たら敵です。しかし、お互い皆味方ではないのです」
「つまり?」
「王家と帝国と東部貴族はそれぞれ別々として敵対させることが可能です。全部私たちが倒す必要はありません」
帝国と王国の仲は最悪だ。一時的な休戦はできたとしても和解するのは容易ではないだろう。
東部貴族はいつもその争いに巻き込まれ、その戦況で右往左往しているだけなので、どちらにも不満が強いが、力関係の問題で従っているだけである。
どれもこれも仲は悪く、連携などできるわけがないのだ。
「お互いに消耗させあって各個撃破すればいいわけです」
そういってイブリンは自分の策を話し始めた。
イブリンがそういいながら紅茶を用意してくれた。砂糖も3つもつけてくれる。
うんざりして意気消沈していた頭に、糖分がめぐる。もうちょっとだけ頑張れそうである。
「アーベルジュ家内はどれくらい掌握できているのかしら?」
「騎士団も家内衆も、お嬢様には好意的ですよ。敵対的なのはアンドレアの一部ぐらいでしょう」
家臣団の統制はできていた。
私は家内で行われるパーティなどには積極的に顔を出していたし、イベントのたびに民衆にも露出していたから知名度も高い。父上もしっかり当主をしているし、私が血筋的に最有力なのもあり、支持は確固たるものだった。
反発をしているのは叔父上の時代を忘れられない、アンドレアの中でも従兄弟の周辺ぐらいであり、それさえ排除できれば内部に敵はいないだろう。
「うちも一応そちらに味方するわよ。よほど劣勢になったらわからないけど」
「ふふ、ありがとう」
サンバルド伯当主は現在病気に倒れており、サンバルド伯令嬢である彼女が実権を握っている。
入り婿になるシシリー卿も彼女に従うのみなので、彼女の意見が通る可能性が極めて高い。
敗けなければ味方してくれるなら十分だ。地獄に堕ちるときに一緒に来てほしいわけではない。
「このあたりの西部貴族はみんな似たような感じだと思うわよ」
「そうでしょうね。一戦する分には期待してもよさそうね」
周囲の貴族たちにはお手紙を撒いて、味方になってもらうように依頼しなければならない。
基本的に現在の王家に隔意を持つ貴族ばかりなので、こちらの味方につけるのは難しくないだろう。
「南方貴族も期待できると思います」
「あら、なんで?」
「寝取り女のマリアが、聖女を名乗ったというのは王国中に広まっています。聖女アリスを旗頭にしていた南部貴族は王家にはつかないかと」
「聖女」という称号は正式なものではないが、王国では聖女といえば思い浮かぶ人が一人いる。
聖女アリス。
南部貴族サウスリア家の出身の女性で、親友のサウスリア伯令嬢の大叔母に当たる方だ。
前の帝国との大戦時、劣勢の王国軍をまとめ上げ、女性ながら陣頭指揮を執って帝国軍を撃破し続けた彼女は、その銀髪の美しい外見と兵士を献身的に看護する姿、そして先陣を切る勇猛さから聖女と呼ばれたのだ。
最後は帝国につかまり、一方的に異端と判決されて火あぶりで処刑された彼女は、南部貴族に取って理想の女性として神格化されていた。
「マリアに実績があれば違ったでしょうが、彼女のしたことなど王太子や数人と逢瀬を重ねて挙句の果てに王太子を寝取ったという娼婦のような行いだけですから、南部貴族は聖女の肩書を娼婦にけがされたと激怒しているわけです」
「確かにそうね。多少の慰問程度で聖女になれるなら、私もあなたもとっくに聖女だわ」
貧民に施しをする優しい女性だから聖女だ、と彼女の周囲は彼女をたたえていたが、そういった慰問や施しは貴族女性のたしなみだ。彼女より私やサンバルド伯令嬢の方がよほど民を助けている。
ただ、こういった善行は誇るものではないため、皆言わないだけだ。そういうところでもあのマリアとかいう女は品性が足りてない。
「南部貴族は帝国との遺恨もかなりありますし、こちらに誘えば裏切ることもなく連携してくれる可能性は高いかと」
「確かにそうね」
王家に反感が生じても、かといってその敵の帝国は自分たちの旗頭を異端として処刑した相手だ。そちらにも隔意がある以上、そちらに着くとも考えにくかった。
南部貴族の面々にもお手紙を送ることを決める。
明日は腱鞘炎になりそうだ。
だいたい敵味方はわかった。ただ、西部と南部の貴族を糾合しても、王家や帝国軍には数的に劣勢だ。
できれば直接当たりたくはない。
質の差や戦術の妙でどうにかなるとしても、消耗も激しいのだ。
「この状況で、どういう戦略を練るか、が問題ね」
「そう難しい話でもないかと」
「皆あなたほど頭がよくないのよ。説明して頂戴」
イブリンには何か腹案がある様だ。
「王家を中心とした北部貴族も、帝国も、東部貴族も確かにこちらから見たら敵です。しかし、お互い皆味方ではないのです」
「つまり?」
「王家と帝国と東部貴族はそれぞれ別々として敵対させることが可能です。全部私たちが倒す必要はありません」
帝国と王国の仲は最悪だ。一時的な休戦はできたとしても和解するのは容易ではないだろう。
東部貴族はいつもその争いに巻き込まれ、その戦況で右往左往しているだけなので、どちらにも不満が強いが、力関係の問題で従っているだけである。
どれもこれも仲は悪く、連携などできるわけがないのだ。
「お互いに消耗させあって各個撃破すればいいわけです」
そういってイブリンは自分の策を話し始めた。
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