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2 手を差し伸べる隣国の皇太子もやはり敵で

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「この国が彼女を要らないというなら私がもらい受けよう」

そういってこちらに近寄ってくるのは隣国の皇太子だ。
隣国である帝国とは現在休戦中とはいえ、とても仲が悪い国であり、そんなところに乗り込んできた度胸は褒めてやりたいところだが、まったく気を許す気にならない。

なんせ、王太子の腕に引っ付いているマリアとかいう女が帝国のハニートラップであるということは既につかんでいるからだ。
国境地域の貴族の娘となっているが、美人の孤児を使ったスパイであるというのは既に分かっていた。
そんな見え見えの罠にうちの王太子が引っ掛かってるのだから、もうこの国もおしまいだろう。
泳がせて、背後をがっちり捕まえるのだと思い込んでいたが、単にバカだったとは思っていなかった。

そんなよくて敵対的中立の相手、悪くて敵な人間の手なんて取りたくないのだが……
皇太子の目が言っている。これしか逃げる手はないだろう、と。

確かに皇太子は安全だ。ここで彼を殺しても、当代の皇帝は子だくさんだ。スペアは何人もいる。
そうして絶好の口実を得た帝国は火のごとく王国を攻めてくるだろう。
そういう点からいって皇太子暗殺はリスクリターンが割に合わない。

私が皇太子である彼の手を取れば帝国は丁重に扱ってくれるだろう。
公国の姫であり公唯一の子である私は、継承順位が一番高い。
そんな自分を保護すれば、公国は転がり込んでくるし、帝国の侵略もかなりうまくいくのが予想できた。
皇太子と結婚して子をなせば、合法的に公国の公位も手に入るのだから、とても大事な駒だろう。
王国も公位を狙って、私と婚約をしたはずなのだが、なぜ破棄をしたのか、これが分からない。
たぶん何も考えていないのだろう。
昔から王太子はバカで、何も考えていないのは長い付き合いで身に染みていた。

意外な乱入者に場は混乱している。
ここで座して殺されるなら、皇太子の手を取るのも一つの手だろう。
だけど、私はこのマッチポンプ男も許すつもりはなかった。

今まで黙っていた口を初めて開く。

「あら、皇太子様は、マリアさんを助けなくてよいのですか?」

この発言の意味を、皇太子は察するだろう。
マリアがお前のところから送られたハニートラップだとわかっているというアピールである。
多くの貴族も察するだろう。もともと疑っていた人間は多いはずだ。
これだけならただ交渉のため、自分の価値を釣り上げるために情報を出したようにしか見えないはずだ。

「なんだと!! 貴様! 俺の元婚約者だけでなく、マリアを奪おうというのか!!」

しかし、アホ王太子は違うとり方をするだろうことは予測していた。
剣を抜き、決闘だと皇太子に詰め寄る。
私の言った言葉から、皇太子がマリアを奪おうとしていると勘違いをしたのだ。
アホ王太子は、頭は空っぽだが、その分武術はそこそこ得意だ。
騎士と遜色しない程度には鍛えており、だからこそ勉学を疎かにして頭空っぽなのだが。
一方腹黒皇太子は完全にもやしだろう。
体つきが細すぎて、戦えるとはとても思えない。
決闘といわれてものらりくらりと躱していた。
混とんとしている今がチャンスである。

すすす、と入り口にむかうとすでに親友のサンバルド伯令嬢が、彼女の婚約者とともに扉を開けて待っていてくれた。
注目が王太子と皇太子に集まる中、私たちは部屋から、そして城から脱出をするのであった。
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