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第一章 断罪劇からの帝都脱出

5 お話合いの時間2

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「まずは今回の騒動ですが、根本原因はこの第二皇子です。皇太子殿下の第二皇子への敵視は普通ではありませんでしたが、その理由は割愛します。だいたいご存知でしょう?」
「まあ、先帝陛下は皇太子殿下に厳しくて第二皇子へ甘かったですから、子供としては複雑でしょうね。ボクから見れば期待してるのだろうとは思いましたが、本人からはそうは見えないでしょうし、周りも第二皇子がもしや、と思っていた人もいるかもしれません」
「皇太子殿下が第二皇子を貶めようとしていたところに現れたのが、騎士アンジェリーナ、あなたです」
「ボクに何の意味が? 確かに聖女ですし、政治的な意味は大きいでしょうが所詮教皇庁側の人間ですよ。帝位に絡める立場にないでしょう?」

聖女ポジションは確かに非常に名誉だ。それを妻に向かえる、とかすればそれなりに大きい。さらにうちの聖竜騎士団は医療技術の専門集団の側面がある。
治癒魔法はもとより、薬学や外科手術までできるメンバーが何人もいる。抱え込めれば諸侯にとってかなりおいしいのは確かだ。

ただ、逆に言えばその程度でしかない。利益が大きいが利益だけだ。武力的にそこまで大きいわけでもなし、正当性をひっくり返せるほどの存在ではないはずだ。

「普通ならそうでしょうね。多少抱き込みを考えるか、帝国にかかわらないように帝国領域外に早く行っていもらうか、その程度だったでしょう。その状況を変えたのがこのバカ第二皇子です」
「仕方がないじゃないか、一目ぼれしたのだから。成り行きでは確実に捕まえられないだろう。聖女なんて」
「で、バカ第二皇子が婚姻の打診を教皇庁にしまして、それが漏れて、このような状況です」
「完全なもらい事故ですね」

絶対第二皇子に嫌がらせしたい皇太子と、こっちにほれた第二皇子の衝突に完全に巻き込まれたわけだ。
たまったものではなかった。
そんな話をしていると、今まで一言も発していなかったクロエが第二皇子に質問を始めた。

「ということは、イストリア公は、うちの姫様を嫁にもらいたいと?」
「はい、そうです!!!」
「ではいくつか聞きましょう。不合格ならば姫様は渡しません」
「いや、クロエはボクのなんなのよ」

不合格にする権限がなぜクロエにあるのか、ツッコミはスルーされて話が続く。

「本音で語りましょう。面倒でだらしなくて猫の子でも拾ってくるように困りごとを拾ってくる大事な大事な姫様ですから、生半可な覚悟では渡しませんよ」
「ならば私の覚悟を見せてやろう」
「もう好きにしてよ……」

謎のノリに死んだ目をしてみていることしかできなかった。

「姫様のどこが好きなんですか?」
「語りつくせないほどですが、片っ端から離しましょう。まずは見た目、は陳腐ですが、非常に好みですね」
「まあ座っているだけでいてくれたら、美少女なのは間違いないですね」
「座っていないと何だっていうんですか」
「野猿か悪魔?」
「人ですらなかった!」
「特にその笑顔が美しいのですが、大けがの人の手術をするときの満面の笑みが忘れられません」
「ほほう、騎士の96%がトラウマになっている姫様のサディスティックスマイルが好みとは、なかなか上級者ですね」
「ええ、治療を受けた時に恋に堕ちましたから」
「ちょっとまって、そのサディスティックスマイルってなに?」

そもそも96%がトラウマっていったいなんだ。何の統計だ。
もともと血を見るのが苦手なのだが、治療の際はどうしても切ったりえぐったりする必要がある。
治癒魔法だけだと、乱れた傷口はきれいに戻らないのだ。だから、きれいに大きめに切除して、治癒魔法で生やす、なんていう手法が必要な場合は少なくなく、手術として切ったりえぐったりすることは多かった。
本気で泣きたくなるのだが、泣いたり騒いだりすると治療に差支えがあるので、笑顔でいるように自主訓練したのだ。その笑顔がトラウマとか、ちょっと泣きたい。

「聖竜騎士団100人に聞きました、姫様が嫁にいけない理由アンケートで、2位に選ばれた理由ですよ」
「なにそのアンケート!!!」
「96名がトラウマと答えました。『姫様のあの笑顔は怖い。切り刻んでいるのを喜んでいるとしか思えないぐらいきれいすぎる笑顔だ』『叫ぶと、「痛いのは生きている証ですよ」って満面の笑みで言われるのがトラウマ』などという意見が寄せられていますね。なお、残りの4名は姫様の治療を受けたことがない人たちでした。よかったですね、受診者の100%にトラウマを植え付けてますよ」
「次きた奴らはもっと痛くしてやる…… というか1位は何よ」
「1位は戦場で臭い、ですね」
「もっとひどいのきた!」
「ああ、アンジェ嬢の聖女臭か。私は好きだぞ。こう、首もとを嗅ぎたいぐらい」
「ぶはっ!!」

クロードとノイマール公が噴き出した。聖女臭がツボだったらしい。そのまま突っ伏して痙攣していた。
というかなんだよ聖女臭って。

「姫様が水浴びしないのがいけないんですよ。他の女性騎士たちだって、みなほぼ毎日水浴びしていますよ」
「戦場だと騎士長はいそがしいし、そもそも水浴びすると戦意が抜ける感じがして嫌なんだもん」
「ああ、確かにわかりますな。当方も若いころは戦場では水浴びなどしませんでしたよ。何か抜けてしまう感じがするのが嫌というのは戦士や騎士だと珍しく無い感覚かと」

ヴァイザッハ辺境伯はボク側の様だ。フォローしてくれている。

「そうして姫様は今後も聖女臭を振りまくわけですね。ご利益ありそうです」

クロエにそういわれるとぐうの音も出なかった。次回からはちゃんと水浴びをしようと心に誓うのであった。
なお、「聖女臭」なる単語は騎士たちの間でも流行ってしまい、今後散々からかわれることになるのをこの時のボクはまだ知らない。
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