12 / 14
帝国歴628年4月4日 新領主のお仕事
新領主のお仕事 9
しおりを挟む
「いやー、温泉はいいねぇ。ちゃんと入ったの初めてだけど」
役場の裏側に突然できた露天風呂に、大きな白餅みたいな物体が浮いている。
温泉を満喫するアーシェロットである。
家に戻ったアーシェロットは、早速裏山の源泉に向かい、そこから役場裏まで、さっさと魔法で水路を築き上げたのだ。
土魔法を使い、地面に溝をつけ、役場裏の空いたスペースに穴を掘り、そこに温泉を流し込んだ。
余ったお湯は下水の水路に直結すれば、簡易の露天風呂は完成であった。
「ツバキちゃんももっと満喫しようよ」
「外から見える場所で、そんなにくつろげるアーシェロットが羨ましいわ」
簡易の露天風呂は囲いがなく、少し回り込めば見放題の場所である。
開放感がありすぎて、ツバキは全く落ち着けなかった。
もっとも見るとしても女性がほとんど、男性も子供ぐらいしかいない町の人か、山の動物ぐらいだろうが。
風呂をバシャバシャと泳いで、ツバキの目の前まで移動するアーシェロット。
後ろを向いて、ツバキの膝の上に座る。
拒否しようと思ったツバキだが、アーシェロットの竜の尻尾がツバキの腰に巻きつく。
めんどくさいなと思いながら、引きはがすのをあきらめたツバキは、アーシェロットの頬を揉み始めた。焼いた餅のように柔らかい。
「それで、人を呼ぶってどこから呼ぶわけ」
「候補は二つ、一つ目は魔王討伐で怪我をした傷病騎士だね」
「ふむ」
「魔王討伐の時に怪我をして、なかなか治らなかったり、もうまったく治らなかったりする騎士って結構出てるんだよ。そういう人のうち、信用できそうな人を何人か呼ぶつもり」
「怪我ってどの程度なの」
「今回呼ぶのは肌の怪我の人だね。魔獣の血とか毒を頭から浴びちゃったような人たち。動くことは出来るけど、外見が結構ひどいんだよ」
魔獣の体液というのは、生物に対して強力な毒であり、あびるだけでも体を腐食する危険なものだ。
討伐中、それを浴びてしまった騎士は少なくない。
ちゃんと処置をすれば命にはかかわらないが、肌は爛れるし、髪は抜けるし、外見がひどいことになる。
元に戻るのにも長時間かかるから、結構社会問題になっていたりする。
そういう人たちのうち、アーシェロットが信用できる人間を呼ぶことを考えていた。
「世話が必要だと難しいと思うけど」
「その辺は大丈夫。騎士だから野宿でも生きていけるぐらい丈夫だし生活力もある。治療はボクがするから」
帝都でも対応に苦慮している傷病騎士対応の一つだ。
五体満足なので、働くこともできるのに、外見のせいで外を歩くことすらはばかられる。復興で予算が必要な状況で、そういった騎士には働けと無責任に言う人間が多数いる一方、外を出歩いていると石を投げる人間すら現れる。
今はまだ、騎士側もあきらめているのでまだ問題にはならないが、この対立はいつか爆発しかねないとアーシェロットは思っていた。
それをこの町に引き取れれば、帝都から援助は貰えるし、労働力が増えるし、男性も増えることになる。いいこと尽くめである。外見さえ目をつぶれば。
「じゃあ大丈夫じゃない?」
「本当に外見やばいけど大丈夫?」
「あんまり気にしないと思うよ。困ってる人は見捨てられない人多いし」
「そうなの?」
「もともと流れてきた人しかいないからね」
昔からある町だと思いきや、ツバキが言うにはそうでもないらしい。
ツバキの生まれる前、ツバキの両親がここに来た時には、廃墟しか残っておらず、住民は一人もいなかったとのことであり、そこから廃墟を修理したりして住みつつ、森を越えて移住してきた人を集めたのがこの町だとか。
そんな経緯もあるから、住人の種族もばらばらである。
ツバキは純ヒューマンらしいが、東方系の血を引いていてこの辺では見かけないぐらい髪が黒い。
万屋のラン親子は獣人だし、金物屋のサーシェはエルフだった。
昨日のどんちゃん騒ぎの時にお酒をくれたおばあちゃんはドワーフだったし、さっき見た田んぼでは、妖精族の人たちが作業をしていた。
帝都も雑多な種族が居住していたのであまり気にならなかったが、通常地方では町ごとに種族が分かれている。文化や考え方が違うことがあり、トラブルになるためだ。
この雑多な種族の状況を見ると、確かに許容性は高いのかもしれない。
「で、もう一つは魔王討伐後に出てる流民の一部を引き取ることだね」
「流民?」
「魔王が出たあたりって土地が汚染されちゃうから、何十年も住めなくなっちゃうんだよ。そんなところにもともと住んでいた人たち」
大量に出ている流民のうち、この町で引き取ることができる人数はたかが知れている。
だが、魔王発生場所から遠く、流民受け入れに非常に消極的な南部において、最初に手を上げることにはかなりの意味がある。
あそこが受けたんだから、ということで、皇帝は南部の領主たちに圧力をかけるきっかけになりうるのだ。
人手も確保できて、帝国からの覚えもよくなる方法だ。
援助を引っ張り出せれば、それを運んでくる人員を行商人代わりに使うこともできる。
「どんな人が来るんですか?」
「受け入れ側から種族と性別は選べるから、それはみんなと相談してから決めていいと思う」
この町は女性ばかりだし、女性の方がいいのだろうか。
それとも、結婚相手を探したいから男性の方がいいのだろうか。
そういったことも町の人の意見を聞きたかった。
「で、そろそろ膝の上からどいてくれません?」
「やー、ツバキちゃん洗ってー」
ご機嫌に笑いながらそんなことをねだる、新人領主様。
ため息をつきながら、ツバキはその頬っぺたをこねくり回すのであった。
役場の裏側に突然できた露天風呂に、大きな白餅みたいな物体が浮いている。
温泉を満喫するアーシェロットである。
家に戻ったアーシェロットは、早速裏山の源泉に向かい、そこから役場裏まで、さっさと魔法で水路を築き上げたのだ。
土魔法を使い、地面に溝をつけ、役場裏の空いたスペースに穴を掘り、そこに温泉を流し込んだ。
余ったお湯は下水の水路に直結すれば、簡易の露天風呂は完成であった。
「ツバキちゃんももっと満喫しようよ」
「外から見える場所で、そんなにくつろげるアーシェロットが羨ましいわ」
簡易の露天風呂は囲いがなく、少し回り込めば見放題の場所である。
開放感がありすぎて、ツバキは全く落ち着けなかった。
もっとも見るとしても女性がほとんど、男性も子供ぐらいしかいない町の人か、山の動物ぐらいだろうが。
風呂をバシャバシャと泳いで、ツバキの目の前まで移動するアーシェロット。
後ろを向いて、ツバキの膝の上に座る。
拒否しようと思ったツバキだが、アーシェロットの竜の尻尾がツバキの腰に巻きつく。
めんどくさいなと思いながら、引きはがすのをあきらめたツバキは、アーシェロットの頬を揉み始めた。焼いた餅のように柔らかい。
「それで、人を呼ぶってどこから呼ぶわけ」
「候補は二つ、一つ目は魔王討伐で怪我をした傷病騎士だね」
「ふむ」
「魔王討伐の時に怪我をして、なかなか治らなかったり、もうまったく治らなかったりする騎士って結構出てるんだよ。そういう人のうち、信用できそうな人を何人か呼ぶつもり」
「怪我ってどの程度なの」
「今回呼ぶのは肌の怪我の人だね。魔獣の血とか毒を頭から浴びちゃったような人たち。動くことは出来るけど、外見が結構ひどいんだよ」
魔獣の体液というのは、生物に対して強力な毒であり、あびるだけでも体を腐食する危険なものだ。
討伐中、それを浴びてしまった騎士は少なくない。
ちゃんと処置をすれば命にはかかわらないが、肌は爛れるし、髪は抜けるし、外見がひどいことになる。
元に戻るのにも長時間かかるから、結構社会問題になっていたりする。
そういう人たちのうち、アーシェロットが信用できる人間を呼ぶことを考えていた。
「世話が必要だと難しいと思うけど」
「その辺は大丈夫。騎士だから野宿でも生きていけるぐらい丈夫だし生活力もある。治療はボクがするから」
帝都でも対応に苦慮している傷病騎士対応の一つだ。
五体満足なので、働くこともできるのに、外見のせいで外を歩くことすらはばかられる。復興で予算が必要な状況で、そういった騎士には働けと無責任に言う人間が多数いる一方、外を出歩いていると石を投げる人間すら現れる。
今はまだ、騎士側もあきらめているのでまだ問題にはならないが、この対立はいつか爆発しかねないとアーシェロットは思っていた。
それをこの町に引き取れれば、帝都から援助は貰えるし、労働力が増えるし、男性も増えることになる。いいこと尽くめである。外見さえ目をつぶれば。
「じゃあ大丈夫じゃない?」
「本当に外見やばいけど大丈夫?」
「あんまり気にしないと思うよ。困ってる人は見捨てられない人多いし」
「そうなの?」
「もともと流れてきた人しかいないからね」
昔からある町だと思いきや、ツバキが言うにはそうでもないらしい。
ツバキの生まれる前、ツバキの両親がここに来た時には、廃墟しか残っておらず、住民は一人もいなかったとのことであり、そこから廃墟を修理したりして住みつつ、森を越えて移住してきた人を集めたのがこの町だとか。
そんな経緯もあるから、住人の種族もばらばらである。
ツバキは純ヒューマンらしいが、東方系の血を引いていてこの辺では見かけないぐらい髪が黒い。
万屋のラン親子は獣人だし、金物屋のサーシェはエルフだった。
昨日のどんちゃん騒ぎの時にお酒をくれたおばあちゃんはドワーフだったし、さっき見た田んぼでは、妖精族の人たちが作業をしていた。
帝都も雑多な種族が居住していたのであまり気にならなかったが、通常地方では町ごとに種族が分かれている。文化や考え方が違うことがあり、トラブルになるためだ。
この雑多な種族の状況を見ると、確かに許容性は高いのかもしれない。
「で、もう一つは魔王討伐後に出てる流民の一部を引き取ることだね」
「流民?」
「魔王が出たあたりって土地が汚染されちゃうから、何十年も住めなくなっちゃうんだよ。そんなところにもともと住んでいた人たち」
大量に出ている流民のうち、この町で引き取ることができる人数はたかが知れている。
だが、魔王発生場所から遠く、流民受け入れに非常に消極的な南部において、最初に手を上げることにはかなりの意味がある。
あそこが受けたんだから、ということで、皇帝は南部の領主たちに圧力をかけるきっかけになりうるのだ。
人手も確保できて、帝国からの覚えもよくなる方法だ。
援助を引っ張り出せれば、それを運んでくる人員を行商人代わりに使うこともできる。
「どんな人が来るんですか?」
「受け入れ側から種族と性別は選べるから、それはみんなと相談してから決めていいと思う」
この町は女性ばかりだし、女性の方がいいのだろうか。
それとも、結婚相手を探したいから男性の方がいいのだろうか。
そういったことも町の人の意見を聞きたかった。
「で、そろそろ膝の上からどいてくれません?」
「やー、ツバキちゃん洗ってー」
ご機嫌に笑いながらそんなことをねだる、新人領主様。
ため息をつきながら、ツバキはその頬っぺたをこねくり回すのであった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
マッシヴ様のいうとおり
縁代まと
ファンタジー
「――僕も母さんみたいな救世主になりたい。
選ばれた人間って意味じゃなくて、人を救える人間って意味で」
病弱な母、静夏(しずか)が危篤と聞き、急いでバイクを走らせていた伊織(いおり)は途中で事故により死んでしまう。奇しくもそれは母親が亡くなったのとほぼ同時刻だった。
異なる世界からの侵略を阻止する『救世主』になることを条件に転生した二人。
しかし訳あって14年間眠っていた伊織が目覚めると――転生した母親は、筋骨隆々のムキムキマッシヴになっていた!
※つまみ食い読み(通しじゃなくて好きなとこだけ読む)大歓迎です!
【★】→イラスト有り
▼Attention
・シリアス7:ギャグ3くらいの割合
・ヨルシャミが脳移植TS(脳だけ男性)のためBLタグを付けています
他にも同性同士の所謂『クソデカ感情』が含まれます
・筋肉百合要素有り(男性キャラも絡みます)
・描写は三人称中心+時折一人称
・小説家になろう、カクヨム、pixiv、ノベプラにも投稿中!(なろう先行)
Copyright(C)2019-縁代まと
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる