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第二章 皇女と辺境伯

4 話し合い

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 客間らしい部屋に通されて、早速ボクは義兄と話し合いを始めます。

 これだけの関係者がいると、誰と何を話すかは、ちゃんと場合分け、色分けしておかないとごちゃごちゃになってしまいます。

 まず絶対信用ができる人。現状これは義兄しかいません。あとは義父や母ぐらいで、あまりにその対象が少なかったりします。
 次に同じ目的を持っているだろう人達。辺境伯軍の進撃路の道中にあたり避難していた村の人達はここに含まれます。隣村のセバスさんや幼馴染のクレイ、他の村の代表として来ていて、ハラスメント部隊で一緒に戦っていた女性のフィオナさんなどもここに含まれます。行商人のニキータさんもここに入れていいでしょう。
 さらに広げて辺境伯以外の男爵の人たちはさらに一段下になります。ローランド男爵のおじいちゃんとかですね。決して無視はできませんが、どう動くかは読みがたい層です。
 その下が辺境伯側のこちらに好意的な人たちです。アルゥちゃんやアレンさんは仲良くなりましたし話しやすい相手ではありますが、いつ手の平を返すかわかりませんので、あまり油断ができる相手ではありません。

 ひとまずボクの根本的な方針を決める必要がありますから、義兄と二人でお話合いです。部屋一つにしてもらって押し倒そうかと思っていましたが、その計画は一時中断になりました。


「で、何から考えればいいんでしょうね」
「まず受けるか受けないかだろうし、受けた場合の問題でわかる範囲のことを検討するべきだろうな」


 突拍子もなさすぎる話に義兄も困惑しています。
 ボクとしては頼れるお兄ちゃんではありますが、まだ20にもなっていない若者ですし、あまり頼りすぎるのも問題でしょう。


「辺境伯の引継ぎが正当にできるのか、は考えてもしょうがないのでおいておきましょう。皇女パワーがどれくらいすごいかわかりませんし。それがわかる人というと…… お母様ですよね…… 一度馬で村に戻って話を聞いた方がいいかもしれません」
「そうだな。義母上をこちらに呼ぶのは難しいだろうし」


 母は現在妊娠していますから、こちらに呼ぶのは難しいでしょう。
 そうするとこちらから戻る必要があります。馬を走らせて往復二日です。それくらいする時間的余裕はあると思われます。


「そのあたりの正当性についても、辺境伯側に話をまず聞く必要があるだろう。だがこれ以上考えてもしょうがないし正当に辺境伯になれるとして、懸念点は何か、ということだ」
「まずは人でしょう。道中聞いた限り、辺境伯には子爵が二人ついているわけですし、寄子の男爵も30以上いると聞いています。それを取りまとめられるだけの人が必要です」
「アラン殿に残ってもらうとしても子爵一人はこちらで準備する必要があるわけだな」
「できればバランスを考えて二人ぐらいは欲しいところです。その下の行政を任せる人たちも、ある程度辺境伯時代の人を使うとしても、こちらから人を入れるべきでしょうし」
「それがどの程度準備できるかだな。ほかの男爵にも相談が必須だ」


 辺境伯の下についてもらうのは、一時的に兵士を出してもらうのと違い、恒久的にこちらに所属を移してもらう必要があります。
 もちろんそれなりの地位を渡すことになりますが、各男爵の方は人手不足になりかねません。これは今来ている代表たちに聞いてみないとわかりませんね。


「あとはお義兄さまが一緒に来てくれないととても無理ですから、ボクと結婚は必須でしょうね」
「まあ、そうなるか……」


 頭をガシガシ掻き始める義兄は、とても悩んでいるように見えました。
 いやなら嫌で断ってくれてもいいわけで、それなら辺境伯もお断りするで済むでしょう。


「ボクとの結婚、いやですか?」
「いや、アーシェの方が私以外と一緒になったほうがいいかと思っている」
「ほえ?」
「アーシェは前世の記憶があるんだろう?」
「そうですね」


 ボクが前世の記憶を持っているという話は母と義兄しか話したことがありません。義父は知っているかもしれませんが、ボク自身から話したことはないです。
 前世男性の時の記憶を話して、いろいろできないかと義兄を悩ませ続けましたが、技術レベルも違えば知識があやふやなのもあり、ろくに使えなかったです。母には衛生知識が役に立って喜ばれましたがそれくらいですね。


「男性の記憶があるから、女性と一緒になる方がいいかと思ってな。もしくはもっと男らしくない相手とか」
「いや、そんなこと考えていませんが」
「でもこの前、ルドン男爵令嬢とお楽しみだったんだろう?」
「あれは、単なる気の迷いですよ!?」


 遊撃部隊を率いていた時、同行していた女性に胸を揉まれたのは確かです。いや、確かにお姉さま方に迫られて楽しかったのは否定できません。
 その時の相手の一人がルドン男爵令嬢で、今回の一行にも実は加わっています。

 あの人はその時の話を5割り増しぐらいで義兄に話したものですから、義兄が不機嫌になって結構大変だったんです。あの恨み、いつか晴らしてやる。


「お義兄さま、いくつか僕の意見を聞いていただけますか?」
「なんだい?」
「まず、ボクはお義兄さまを愛しているということです、多分」
「なんでそこで多分が付くんだ。まあアーシェらしいが」
「燃えるような恋とかよくわかりませんし…… ただ、お義兄さまと一緒に居ると非常に落ち着きますし、ずっと一緒に居ても苦にならないわけです」
「まあ、私もアーシェと一緒に居ても苦にはならないな」


 村では男爵の子供でしたし、ボクはさらによそから来た子供ですからそれなりに浮いていました。なので義兄にべったりでしたし、それで辛かったことも困ったこともありません。


「結婚するというのは一緒に暮らすことですから、一緒に居て楽しい相手というのはすごく大事だと思うのです。これって愛していることになると思います」
「でも多分と言ったのはなんでだい?」
「そりゃ体の相性を確かめたことがないですから」


 ボクは義兄を押し倒しました。部屋の鍵は閉まっていますし、邪魔が来ることもないでしょう。
 義兄は予想外の展開に慌てています。


「結婚するということは子供を作るわけですが、そういう行為は長い間一緒に居てもしたことがないわけです。ですからもしかしたらやろうとしても生理的に受け付けないとかあるかもしれないなと思いまして。ボクも、お義兄さまも」
「ちょ、ちょっと待てアーシェ」
「これが大丈夫なら、『多分』が取れますね」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 結論だけ言えば義兄は獣でした。
 特に問題なく終わった、と言いたいところですが、義兄はたまりにたまっていたのでしょう。まあ、先日まで続いた戦の間、誰かに手を出していた気配もなかったですしね。義父すら母と激しかったのに。

 それでこんな状況になればもうハッスルですよ。いつも甘えている相手だということで忘れていましたが、義兄もまた思春期の男でした。
 一瞬にして逆転されて、やめてと言っても止めてもらえずまあ大変でした。
 何にしろ相性は良かったですがボクには辛過ぎて完全にグロッキーであり、そのまま二日ほど寝込んでいました。敵地で何やっているんでしょうね……
 もっともボクがグロッキーであった間、義兄はいろいろ動いてくれたようです。母のところにも話を聞きに帰ってくれたようですし、情報収集してくれたようです。

 あまり寝ているばかりも行かないですから、ようやく復調したボクは皆の話し合いに参加します。既に辺境伯以外の人達全員が参加する会議の段階まで来ているようです。


「義母上から聞いたところによれば、アーシェが辺境伯を引き継ぐことは可能らしい。皇女にあずかっていた辺境伯位を返還する、という形になるそうだ」
「それじゃあお嬢ちゃんは晴れて辺境伯か」
「まだ流動的だがな」
「捕虜の身代金は、辺境伯になったアーシェさんが保証してくれる、ということでいいんですか?」
「正確にはアーシェではなく辺境伯が保証するという形にする。アーシェが追い出されても補償義務は辺境伯に残る形にしておかないと、何かあったときに怖い。アーシェ自身は何も持ってないからな」
「なるほど」
「あとはアーシェが就任したとすると任せられる爵位はこれだ。男爵位が6つ、子爵位が1つ。条件があるところもあるから、どこをどれを取るかを詰めておきたい」


 義兄が取り出した紙には、領地の名前とざっくりした概要、そして条件が書いてありました。
 これが褒賞として配れる土地なのでしょう。
 子爵位は、すでに逃げた方から取り上げる予定のモノです。緊急事態に尻尾巻いて逃げるような者を子爵位にはおけないですからね。一族全体もすでに逃げてますし。
 これについては重要な役割ですし、おそらくセバスさんあたりか、ルドン男爵令嬢あたりに依頼することになるでしょう。セバスさんがベストですが、本家の方のお仕事もありますからね……
 男爵家6つは、先の戦いで当主が亡くなり、後継ぎもいないという悲しい状況の場所です。存続のために新しい男爵を派遣する必要がありますから、今の領地と兼任はできません。なので、後継ぎでない子供を抱えている家に配り、引き継いでもらう予定です。
 中には婿入り希望とか嫁入り希望といったものもあるので、性別や未婚であることが求められるものもあります。
 子爵位はまだしも、男爵位に関してはボクから何も言うつもりはありません。今いる代表者の人たちで決めてもらいます。

 ある程度こちら側のお話は固まりました。
 あとは相手と最終調整をするだけです。
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