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第一章 男爵領の平和な日々と突然訪れる困難
9 戦の始まり
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うちの村まで戻る途中、村の前にはあらかじめお願いしておいたものが設置されていました。
穴を掘って作られた空堀に、掘った土を盛って作られた土塁、周りの木々を切って作られた柵が張り巡らされています。
俗にいう野戦築城というものです。
それが村に至る道の直前の斜面に張り巡らされています。人の背丈より高い土塁に、四重にめぐらされた空堀、一番外のはへこみぐらいの深さしかありませんが、これは投石するときの射程の目安の場所でしょう。
予想以上に張り切って作られたようです。
見た目は城壁のように洗練されていませんが、なかなか威圧感があるのではないでしょうか。
移動のために空堀の上に置いてある板を渡り、土塁の切れ目にある簡易な木の門をくぐれば、その先はいつもの村でした。
土塁の裏には大量の石が置いてあります。攻めてきたときにここから石を投げつけるわけです。村への入り口は三か所ありますが、この入り口以外は、辺境伯領から大きく回る必要がありますし、他の村につながっているだけの道ですから万が一、回り道をされたらそちらの村から連絡が来るでしょうし、今のところそういう話は来ていません。
「お帰り、アーシェ。怪我はないかい?」
「ただいまお義兄さま。大丈夫ですよ」
そんなことを考えていたら、義兄が出迎えてくれました。
義兄には村の野戦築城をお願いしていました。簡易な要塞を作るというのは最低でもこの辺りにない概念でしたが、ボクの十分だったか不安なレベルの話から、ちゃんと作ってくれたようです。
そのままボクはまっすぐ義兄に向かい、ぎゅーっと抱き着きます。
「ああ、お義兄さまのにおい~ 汗臭くて雄臭いお義兄さまのにおいです~」
「臭いと連呼されるとちょっと悲しいんだけど。水浴びしてこようか?」
「だめです。アーシェ、寂しかったんですから」
先ほどまで働いていたのでしょう、かなり汗臭いです。義兄の匂いが強くて臭くて、思わずいっぱい嗅いでしまいました。
猟師のお姉様たちに遊ばれている程度では欲求不満の解消には不十分だったようです。
とはいえ、そろそろ辺境伯軍も到着する頃ですからあまり色ボケしている場合ではありません。
「お義兄さま。辺境伯軍はあと1、2日でここに到着すると思いますが、準備はできていますか?」
「私なりに工夫もして作ってみたし、大丈夫と思いたいね。アーシェから見てどうだった?」
「村の正面は大丈夫だと思います」
そんなことを話しながら、義兄と一緒に村を回りました。
相談していた準備は十分終わっているようです。決戦はすぐに迫っていました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
辺境伯軍が村の正面までたどり着いたのは、ボクが村に戻った2日後の正午ぐらいでした。
準備していた村の人たちが続々と土塁の上に集まってきます。
辺境軍は、準備もそこそこ早速攻めてきました。
1列10人が並び、盾を構えて進軍を始めます。
村の前の街道は、そう広いわけではなく10人も並べばいっぱいになってしまうぐらいの広さですし、両脇は深い森ですから踏み入って超えていくのは不可能です。
ですから敵軍は馬鹿正直に正面から来るしかできません。
「投石準備ー!!」
「「「「りょうかい~」」」」」
ボクの掛け声で土塁の上に待機していた村の人たちが投石機を振り回し始めます。投石機と言っても、長い布の片方を手首に結び付けただけの簡略なものですが威力は絶大です。
10人以上がぶんぶんと投石機を振り回しながら、ボクの合図を待っています。
「投石はじめー!!」
「とりゃー!!」
「えいっ! えいっ!!」
「えりゃー!!」
目安にしていた小さな空堀のところに先頭の人たちが足を踏み入れた瞬間、投石を始めました。まだ距離が70~80mぐらいありますので、早々当たるものではないと思いましたが、皆さん練習してくれていたのでしょう。それなりの精度で、辺境軍の人たちの方向へと石礫は飛んでいきました。といっても先頭の人たちはみな木製の盾を構えているので、ほとんどの石は盾にはじかれます。
時々隙間に上手く入ったのか、盾の列が欠けるのが見えることがありますが、そんなことはそうそう起きません。
もっとも、盾の列はちゃんと機能していれば矢の雨すら防ぐはずです。遠目から見ても、盾の列は整然と横一列に並んでいるわけではなく、デコボコしていますから練度は高くなさそうです。
幾度となされたハラスメント攻撃で消耗しているのもあるのかもしれません。
一度掛け声をすれば投石は際限なく続きます。
疲れたら予備の人と交代しますし、石は大量にありますから途切れることはありません。
最初は大半が盾に阻まれていましたが、空堀を超えるぐらいになると敵軍の被害は増え始めました。盾を構えながら空堀を登れませんからね。
もちろん相手も黙っているわけではなく、矢を射かけてきたり、こちらが投げた石を投げ返したりをしてきます。ただ、高低差的にこちらが有利なうえ、土塁の端には木製の置盾が置いてありますから、ほとんどその反撃はこちらには届いていません。
運悪く当たってしまった人は後ろに運ばれて母の治療を受けていますし。
相手からの矢が飛び始めたタイミングで、ボクが率いていたハラスメント部隊の猟師さんたちも応射を始めます。
今回撃っているのは、熊撃ち用の鉄の矢尻が付いたものであり、熊の分厚い毛皮すら貫けるものです。
なので、木製の盾ぐらいなら盾ごとぶち抜きますし、金属製の鎧も当たり所次第では貫きます。
遠距離から熊すら倒すその腕は非常に正確であり、バンバンと敵兵を貫いていきます。
とはいえ全体から見て倒れる敵兵の数はそう多くはありません。
1000前後いるわけですから、数十の兵士が倒れてもまだまだ数が減ったようには感じないでしょう。
ただ、敵軍の士気はどんどん落ちているでしょう。一方的に攻撃され、反撃は届かず、目標の土塁までは3つの空堀と木の柵を超える必要があります。
現状先頭の兵たちは最初の空堀を超え、木の柵を半分ぐらい壊したところです。最初に並んでいた盾の列も半分ぐらい脱落し、後ろと入れ替わっているのを考えると怖気づいて逃げたくなる気持ちもわかります。
ですがこちらも必死です。村になだれ込まれたら村人への被害は非常に大きなものになるでしょう。
削れるだけ削るべく、投石と弓による射撃は絶え間なく続けられるのでした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それなりに損害を出しながらも、辺境伯軍は最後の空堀までたどり着きました。
ここを超えられて土塁にたどり着かれると非常に厄介です。
出入り用に作られた中央の門は、突貫工事の木製ですからそう長くは持たないでしょうし、そもそも土塁自体をよじ登ってくる可能性もあります。
これ以上は取りつかせないようにする必要があるわけで、そのための準備もありました。
「お義父さま、行きましょう」
「そうだな。抜剣隊、でるぞ」
剣術が得意な人員で固めた近接部隊10人と一緒に、ボクは門から出撃しました。
門を出ると義父がすごい勢いで突っ込んでいき、先頭にいた兵士を盾ごと切り捨てます。
木製とは言え盾まで真っ二つというのは相変わらずすさまじい技です。地の技は今ではボクの方が得意になってしまいましたが、もともとは義父から教えてもらった技であり、十二分に義父だって使えるわけです。
そのままぶった切った死体を蹴り飛ばすと、後続の兵士は死体ごと空堀に落下します。
義父に負けじと、道中の村の男爵さんたちも今までの恨みを叩きつけようとしているのか、剣をきらめかせ兵士たちに突っ込んでいきました。
そう広い街道ではありませんから、4人でも剣を振るにはかなり狭そうです。
残りのメンバーは、怪我をした時に連れて戻るための人員と、抜けた穴を埋めるための人員ですから、現状動く必要はありません。
ですがボクだけ違うお仕事がありました。
抜剣した大剣を地面に突き刺し、集中を始めます。
魔法を使うための準備です。
空気中に漂う魔法の元、マナをかき集め自分の中に取り込んでいきます。
物にはすべてマナが含まれていますし、体内にも魔力はありますがそれだけでは大きな魔法は使えません。
そのため、周囲からかき集める必要があるわけです。
呼吸に合わせて、魔法に必要なマナをかき集めていきます。
母は先日の暗殺騒ぎの時、ものの30秒程度でこの作業を終わらせていましたが、未熟者のボクではそんな早くはできません。今までの経験的に5分程度、かなり時間がかかります。
まあ、眼前では義父が頑張っていますからそれくらいは持たせてくれるでしょう。
幸いなことに今盾を構えて押し寄せてきているのは雑兵の類らしく、義父らに圧倒されています。
ボクが集中している間、特に問題もなくしのいでくれました。とはいえ義父らの体力だって有限ですから、ずっと戦えるわけでもありません。
ここで一撃を加える必要がありました。
「お義父さま!!」
「一度引けっ!!」
戦っていた皆さまが後ろに飛びのくのを確認し、ボクは剣を振り上げます。
そのまま前に出つつ、大きく横なぎに剣を振りました。
「烈風斬!!!!」
魔力により高められた剣風が敵軍を襲いました。
すさまじい暴風に、先頭にいた兵士たちはバランスを崩し空堀に倒れ落ちていきます。
空堀の中にいた人たちは直接暴風を受けていないでしょうが、倒れこんできた味方に押しつぶされて大変なことになっているでしょう。群衆雪崩と同じような現象が起きているでしょうから、どれだけ圧死しているか、そうじゃなくても大けがしているかわかりません。
もう一つ奥の空堀でも同じようなことが起きています。倒れこんだ人で埋まった堀は少々グロテスクでした。
こんな結果を魔法が生じさせられるなら、もっと早く使えと言いたくなるかもしれませんがそうも行きません。
魔法というのは便利に見えてものすごく不便だったりします。
こと戦闘という面で見れば、準備に時間がかかる上に射程がすさまじく短いわけです。
投石機だと7、80mは余裕で石を飛ばせますし、弓なら狙わないで良ければ100m以上余裕で飛びます。
一方魔法の射程はそれと比べると圧倒的に短く、今の一撃でもおそらく20mぐらいが限界でしょう。
しかも準備に時間かかり、準備中も準備後もそう激しい運動はできませんから、使い勝手は正直劣悪です。
ただ、場合によってはこのように大きな成果も得られるわけですから、使いようではありますけどね。
何にしろ動くこともままならない空堀に落ちた兵士たちを見れば損害は甚大であることは容易にわかります。
油断はできないまでも、こちら有利な状況になったと思ったそのタイミングで、後方から騎馬兵が一人、こちらに突撃してきました。
味方であるはずの兵士で埋まった空堀を踏み越えてこちらに向かってきます。
上で射撃をしていた猟師の矢がその騎馬兵へと射られましたが、手持ちの剣で切り捨てられました。かなりやり手のようです。
「我こそはマーチ辺境伯ウイリアムスである! 貴殿らに決闘を申し込む!!」
戦いはまだ終わらなそうです。
穴を掘って作られた空堀に、掘った土を盛って作られた土塁、周りの木々を切って作られた柵が張り巡らされています。
俗にいう野戦築城というものです。
それが村に至る道の直前の斜面に張り巡らされています。人の背丈より高い土塁に、四重にめぐらされた空堀、一番外のはへこみぐらいの深さしかありませんが、これは投石するときの射程の目安の場所でしょう。
予想以上に張り切って作られたようです。
見た目は城壁のように洗練されていませんが、なかなか威圧感があるのではないでしょうか。
移動のために空堀の上に置いてある板を渡り、土塁の切れ目にある簡易な木の門をくぐれば、その先はいつもの村でした。
土塁の裏には大量の石が置いてあります。攻めてきたときにここから石を投げつけるわけです。村への入り口は三か所ありますが、この入り口以外は、辺境伯領から大きく回る必要がありますし、他の村につながっているだけの道ですから万が一、回り道をされたらそちらの村から連絡が来るでしょうし、今のところそういう話は来ていません。
「お帰り、アーシェ。怪我はないかい?」
「ただいまお義兄さま。大丈夫ですよ」
そんなことを考えていたら、義兄が出迎えてくれました。
義兄には村の野戦築城をお願いしていました。簡易な要塞を作るというのは最低でもこの辺りにない概念でしたが、ボクの十分だったか不安なレベルの話から、ちゃんと作ってくれたようです。
そのままボクはまっすぐ義兄に向かい、ぎゅーっと抱き着きます。
「ああ、お義兄さまのにおい~ 汗臭くて雄臭いお義兄さまのにおいです~」
「臭いと連呼されるとちょっと悲しいんだけど。水浴びしてこようか?」
「だめです。アーシェ、寂しかったんですから」
先ほどまで働いていたのでしょう、かなり汗臭いです。義兄の匂いが強くて臭くて、思わずいっぱい嗅いでしまいました。
猟師のお姉様たちに遊ばれている程度では欲求不満の解消には不十分だったようです。
とはいえ、そろそろ辺境伯軍も到着する頃ですからあまり色ボケしている場合ではありません。
「お義兄さま。辺境伯軍はあと1、2日でここに到着すると思いますが、準備はできていますか?」
「私なりに工夫もして作ってみたし、大丈夫と思いたいね。アーシェから見てどうだった?」
「村の正面は大丈夫だと思います」
そんなことを話しながら、義兄と一緒に村を回りました。
相談していた準備は十分終わっているようです。決戦はすぐに迫っていました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
辺境伯軍が村の正面までたどり着いたのは、ボクが村に戻った2日後の正午ぐらいでした。
準備していた村の人たちが続々と土塁の上に集まってきます。
辺境軍は、準備もそこそこ早速攻めてきました。
1列10人が並び、盾を構えて進軍を始めます。
村の前の街道は、そう広いわけではなく10人も並べばいっぱいになってしまうぐらいの広さですし、両脇は深い森ですから踏み入って超えていくのは不可能です。
ですから敵軍は馬鹿正直に正面から来るしかできません。
「投石準備ー!!」
「「「「りょうかい~」」」」」
ボクの掛け声で土塁の上に待機していた村の人たちが投石機を振り回し始めます。投石機と言っても、長い布の片方を手首に結び付けただけの簡略なものですが威力は絶大です。
10人以上がぶんぶんと投石機を振り回しながら、ボクの合図を待っています。
「投石はじめー!!」
「とりゃー!!」
「えいっ! えいっ!!」
「えりゃー!!」
目安にしていた小さな空堀のところに先頭の人たちが足を踏み入れた瞬間、投石を始めました。まだ距離が70~80mぐらいありますので、早々当たるものではないと思いましたが、皆さん練習してくれていたのでしょう。それなりの精度で、辺境軍の人たちの方向へと石礫は飛んでいきました。といっても先頭の人たちはみな木製の盾を構えているので、ほとんどの石は盾にはじかれます。
時々隙間に上手く入ったのか、盾の列が欠けるのが見えることがありますが、そんなことはそうそう起きません。
もっとも、盾の列はちゃんと機能していれば矢の雨すら防ぐはずです。遠目から見ても、盾の列は整然と横一列に並んでいるわけではなく、デコボコしていますから練度は高くなさそうです。
幾度となされたハラスメント攻撃で消耗しているのもあるのかもしれません。
一度掛け声をすれば投石は際限なく続きます。
疲れたら予備の人と交代しますし、石は大量にありますから途切れることはありません。
最初は大半が盾に阻まれていましたが、空堀を超えるぐらいになると敵軍の被害は増え始めました。盾を構えながら空堀を登れませんからね。
もちろん相手も黙っているわけではなく、矢を射かけてきたり、こちらが投げた石を投げ返したりをしてきます。ただ、高低差的にこちらが有利なうえ、土塁の端には木製の置盾が置いてありますから、ほとんどその反撃はこちらには届いていません。
運悪く当たってしまった人は後ろに運ばれて母の治療を受けていますし。
相手からの矢が飛び始めたタイミングで、ボクが率いていたハラスメント部隊の猟師さんたちも応射を始めます。
今回撃っているのは、熊撃ち用の鉄の矢尻が付いたものであり、熊の分厚い毛皮すら貫けるものです。
なので、木製の盾ぐらいなら盾ごとぶち抜きますし、金属製の鎧も当たり所次第では貫きます。
遠距離から熊すら倒すその腕は非常に正確であり、バンバンと敵兵を貫いていきます。
とはいえ全体から見て倒れる敵兵の数はそう多くはありません。
1000前後いるわけですから、数十の兵士が倒れてもまだまだ数が減ったようには感じないでしょう。
ただ、敵軍の士気はどんどん落ちているでしょう。一方的に攻撃され、反撃は届かず、目標の土塁までは3つの空堀と木の柵を超える必要があります。
現状先頭の兵たちは最初の空堀を超え、木の柵を半分ぐらい壊したところです。最初に並んでいた盾の列も半分ぐらい脱落し、後ろと入れ替わっているのを考えると怖気づいて逃げたくなる気持ちもわかります。
ですがこちらも必死です。村になだれ込まれたら村人への被害は非常に大きなものになるでしょう。
削れるだけ削るべく、投石と弓による射撃は絶え間なく続けられるのでした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それなりに損害を出しながらも、辺境伯軍は最後の空堀までたどり着きました。
ここを超えられて土塁にたどり着かれると非常に厄介です。
出入り用に作られた中央の門は、突貫工事の木製ですからそう長くは持たないでしょうし、そもそも土塁自体をよじ登ってくる可能性もあります。
これ以上は取りつかせないようにする必要があるわけで、そのための準備もありました。
「お義父さま、行きましょう」
「そうだな。抜剣隊、でるぞ」
剣術が得意な人員で固めた近接部隊10人と一緒に、ボクは門から出撃しました。
門を出ると義父がすごい勢いで突っ込んでいき、先頭にいた兵士を盾ごと切り捨てます。
木製とは言え盾まで真っ二つというのは相変わらずすさまじい技です。地の技は今ではボクの方が得意になってしまいましたが、もともとは義父から教えてもらった技であり、十二分に義父だって使えるわけです。
そのままぶった切った死体を蹴り飛ばすと、後続の兵士は死体ごと空堀に落下します。
義父に負けじと、道中の村の男爵さんたちも今までの恨みを叩きつけようとしているのか、剣をきらめかせ兵士たちに突っ込んでいきました。
そう広い街道ではありませんから、4人でも剣を振るにはかなり狭そうです。
残りのメンバーは、怪我をした時に連れて戻るための人員と、抜けた穴を埋めるための人員ですから、現状動く必要はありません。
ですがボクだけ違うお仕事がありました。
抜剣した大剣を地面に突き刺し、集中を始めます。
魔法を使うための準備です。
空気中に漂う魔法の元、マナをかき集め自分の中に取り込んでいきます。
物にはすべてマナが含まれていますし、体内にも魔力はありますがそれだけでは大きな魔法は使えません。
そのため、周囲からかき集める必要があるわけです。
呼吸に合わせて、魔法に必要なマナをかき集めていきます。
母は先日の暗殺騒ぎの時、ものの30秒程度でこの作業を終わらせていましたが、未熟者のボクではそんな早くはできません。今までの経験的に5分程度、かなり時間がかかります。
まあ、眼前では義父が頑張っていますからそれくらいは持たせてくれるでしょう。
幸いなことに今盾を構えて押し寄せてきているのは雑兵の類らしく、義父らに圧倒されています。
ボクが集中している間、特に問題もなくしのいでくれました。とはいえ義父らの体力だって有限ですから、ずっと戦えるわけでもありません。
ここで一撃を加える必要がありました。
「お義父さま!!」
「一度引けっ!!」
戦っていた皆さまが後ろに飛びのくのを確認し、ボクは剣を振り上げます。
そのまま前に出つつ、大きく横なぎに剣を振りました。
「烈風斬!!!!」
魔力により高められた剣風が敵軍を襲いました。
すさまじい暴風に、先頭にいた兵士たちはバランスを崩し空堀に倒れ落ちていきます。
空堀の中にいた人たちは直接暴風を受けていないでしょうが、倒れこんできた味方に押しつぶされて大変なことになっているでしょう。群衆雪崩と同じような現象が起きているでしょうから、どれだけ圧死しているか、そうじゃなくても大けがしているかわかりません。
もう一つ奥の空堀でも同じようなことが起きています。倒れこんだ人で埋まった堀は少々グロテスクでした。
こんな結果を魔法が生じさせられるなら、もっと早く使えと言いたくなるかもしれませんがそうも行きません。
魔法というのは便利に見えてものすごく不便だったりします。
こと戦闘という面で見れば、準備に時間がかかる上に射程がすさまじく短いわけです。
投石機だと7、80mは余裕で石を飛ばせますし、弓なら狙わないで良ければ100m以上余裕で飛びます。
一方魔法の射程はそれと比べると圧倒的に短く、今の一撃でもおそらく20mぐらいが限界でしょう。
しかも準備に時間かかり、準備中も準備後もそう激しい運動はできませんから、使い勝手は正直劣悪です。
ただ、場合によってはこのように大きな成果も得られるわけですから、使いようではありますけどね。
何にしろ動くこともままならない空堀に落ちた兵士たちを見れば損害は甚大であることは容易にわかります。
油断はできないまでも、こちら有利な状況になったと思ったそのタイミングで、後方から騎馬兵が一人、こちらに突撃してきました。
味方であるはずの兵士で埋まった空堀を踏み越えてこちらに向かってきます。
上で射撃をしていた猟師の矢がその騎馬兵へと射られましたが、手持ちの剣で切り捨てられました。かなりやり手のようです。
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