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第六章 無能姫のエフラ王戴冠

1 ロンバルディア王宮にて

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「姉さま、どれが欲しいですか?」
「え、全部いらない」

ロンバルディア王ヨハンに会って開口一番聞かれたのがこれであり、それへの即答がこれであった。
ヨハンが見せてきたのは、今回のロンバルディア戦役で僭王についた貴族たちの領地の資料だった。
かなりの量があり、この分配が問題になるだろうことは予想できたし、ここからならボクへの恩賞を出せるのだろうが正直どれもいならない。

「姉さまぁ、それ困るんですよぉ。王姉はすべてを捨ててロンバルディアを救った無私の聖女とか呼ばれてるんですよ! そんな姉さまに何も渡さないと王のあれやこれやいろんなものにかかわるんです!」
「尻尾に引っ付くな! といわれてもどれもいらないよ。ボクじゃ多分収めきれないよ。これ、全部ボクを追い出した連中の領地でしょ。官吏連中も領民もボクの言うこと聞かないでしょ」

7歳の時、ロンバルディアから追放になりそうになったときに、ボクと母の処分については意見が割れていたらしいことは後から知った。
ボクを王につかせないことは確定事項だったが、母もろとも殺して王妃そのものをなかったことにする意見と、ボクのことは幽閉するなりフロウライト伯に養子に出してヨハンを次につける意見の二つに分かれていたらしい。
父が前者側だったため、前者の意見で決まったが、大別してその意見を主張していた連中が今回の僭王についた貴族たちであり、ヨハンについたのは後者の主張をしていた貴族たちである。
そんな状況で、提示された領地を受け取っても罰ゲームでしかない。絶対統治できない自信がある。

「名義だけでもいいですからぁ、今後の生活とか、ついてきてる人を雇うお金とか必要でしょ?」
「いや、全然? むしろ領地がないから責任も少なくて楽なぐらいだよ」
「え?」
「その辺はヨハンもわからないんだねぇ。お姉ちゃん弟に自慢できることがあってちょっとうれしいな」

イチル伯の官吏たちも基本的にはイスハクについていったが、ジョヴァンニさんたちがボクについてきている。
最近土木道具しか握ってねえ! と文句を言うので黒鍬隊と名前を改めたボクについてくる人たちは300ほどいる。熟練の鍬の使い手である。
ヨハンは彼らを養うためにも領地がいると考えていた様だが、そんなことは全くなかった。

「イチルとエフラクを譲るときに、それぞれの町での自由交易権はもらってるんだよ。ビュザンの商業組合にも入っているから取引自由だし、フィリーとか西方大陸南方の都市との交易権も、フルギア王都での自由交易権も持ってるんだ。で、それをポート・マリーに運んでこっちで売れば、ぼろもうけですね。お姉ちゃん商才あるからね♪」

ビュザン籍の船はボクの名義だったので領地を渡しても残っているし、名義貸しで売買してもらって儲けることもできる。
現状収入は確かにかつての10分の1ぐらいだが必要経費が圧倒的に少ないので、好き勝手出来るお金は増えた位である。
ここで罰ゲームみたいな領地もらって苦労はしたくなかった。

これで終わり、と尻尾を振ってヨハンを跳ね飛ばしたが、ヨハンは今の話を聞いて何かを思いついたようだ。
跳ね飛ばされてソファに着地したヨハンはとてもいい笑顔でボクにこう告げた。

「では、ロンバルディア王として、アデライドをエフラ王に推挙します」

なんかとんでもないことを言い始めた。
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