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第五章 無能姫の西方大陸動乱 ロンバルディア戦役
8 ロンバルディア王都戦 決戦
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王都をめぐる戦いが始まって二か月。すでに終わりは近づいていた。
王都から出撃して来た部隊を撃退すること4回。向こうの死傷者は2000を超えるだろう。
一方こちらは損害軽微。日々、ボクが頑張って企画したレクレーションが行われている。
笑いの絶えない、とてもアットホームな職場である。
こちらも積極的に攻めていないので、王都を落とす直接的な算段が出来ているわけではないが、消耗を抑えている以上長期対陣の問題は少なかった。
王都側の士気はどん底だろう。
包囲を解除するのは難しく、ロンバルディア王家を援護する外部勢力もない。
西方大陸にある国はほとんど反ロンバルディアだし、東方大陸もフルギアとの関係から同様だ。
援軍も期待できない状況で、既に勝ち目が見えないだろう。
そんな中で彼らがとったのは積極攻勢だった。
「お姫! 第一防衛線が抜かれる!」
「黒鉄隊前に出て押さえて! 機械弓隊は援護射撃! 魔法隊が下がったら下がって!」
王都側は、今度はボクの付城の方へと攻撃を始めた。
敵の決死隊の突撃により十字砲火陣地は突破されようとしていた。
どうも魔法の効きが悪いので、おそらく黒鉄の物品を身にまとっているのだろう。
黒鉄の武具は外には基本だしていないが、黒鉄の製品はうちの輸出品だ。
王都にそれがあってもおかしくない。
だが、日用品レベルの黒鉄を身に着けているだけでは濃厚な十字砲火の火線を防ぎきるのは難しいだろう。
膨大な数の損害が敵に生じている。それでも決死隊の献身により、第一陣は抜かれてしまった。
黒鉄隊と射程の長い機械弓で足止めをしつつ射撃していた魔法兵を下がらせる。
その後、魔法兵の先を考えない魔法の連射で敵を足止めして、黒鉄隊も下げさせた。
最初の防衛施設はすべて魔法で爆破し、敵に転用されないようにしている。
そうして第一陣は突破されたが、当然第二陣が待ち構えていた。
鉄筋の入った石壁で作られた特火点を連結させて作った防衛ラインである。
攻撃のために空いた銃眼以外は丈夫な構造体でおおわれた特火点は、突撃して銃眼に爆発魔法を投げ込むぐらいしか対応策はない。
先ほどまでの十字砲火と違い、火点が少ないので散発的な攻撃にはなるが、一方的に撃たれる状況が続く中、どこまで士気を維持できるか。
兵たちが出入りするために、防衛線が途切れているところが三カ所あるが、すべてそこは火力が集中するキルゾーンである。突破するのは難しい。
黒鉄隊を収容した防衛線の切れ目のところに敵が殺到した。追撃をしながら乱戦に持ち込み、一気に突破しようとしたのだろう。
相手の将軍は無能ではないだろう。むしろ、一瞬にして最適な攻撃地点を探しそこに全力を集中するのだから、戦術眼もあれば統率力も高い。優秀な将軍だ。
しかし、それでは突破できなかった。
第一陣の時と同様の魔法の雨が敵を襲う。
悲惨なぐらい敵が倒れていく中、ついに攻勢を維持できなくなったらしい敵は下がり始めた。
追撃を考えていると、ヨハンが声をかけてくる。
「姉さま、私が行きます」
「大丈夫なの?」
「あれはたぶん撤退を偽装してますよ。第一防衛線の残骸におそらく伏兵を隠しています」
「じゃあ大人しく見送った方がいいんじゃないの?」
伏兵なんてまるで気づいていなかったが、それなら見送った方がいいように思う。
伏兵はそう長くかくしておけるものではない。敵に損害を十分出したし、残存兵力を王都に戻してもそこまで問題ないと思うが……
「たぶんあそこには僭王クリストファーがいます」
「さすがに親玉は出てこないんじゃないの?」
ロンバルディア王、こちらから言うと正当性がない王として僭王としている異母弟のクリストファーがあそこに居るという。それなら仕留めれば確かに戦争は終わるが、のこのことこんなところに出てくるだろうか。
「兵の統率に関して王都側で一番優秀なのは疑いようもなくクリストファーです。あそこまで兵を自在に操れるのはあいつしかいないですよ。あとは、状況的に出てこざるを得ないでしょう。クリストファーが支持される理由は戦争での強さですが、今回の戦争ではいいところなしですから」
北と南で苦戦していたところに東からの戦略的奇襲で総崩れになっている現状、確かに良いところなしだろう。
だから出てきたのあろうとヨハンは読んでいるようだ。
「怪我しないでよ」
「大丈夫ですよ。戻ったら結婚しましょう姉さま」
「変なフラグ建てないでよ!? あと近親相姦絶対反対だしボクはベルがいるし!」
「ちっ、ベルトルドとは後でじっくり話す必要がありそうですね。まあ、さっさと片付けてきますよ」
そういってヨハンは兵を率いて出ていった。
王都から出撃して来た部隊を撃退すること4回。向こうの死傷者は2000を超えるだろう。
一方こちらは損害軽微。日々、ボクが頑張って企画したレクレーションが行われている。
笑いの絶えない、とてもアットホームな職場である。
こちらも積極的に攻めていないので、王都を落とす直接的な算段が出来ているわけではないが、消耗を抑えている以上長期対陣の問題は少なかった。
王都側の士気はどん底だろう。
包囲を解除するのは難しく、ロンバルディア王家を援護する外部勢力もない。
西方大陸にある国はほとんど反ロンバルディアだし、東方大陸もフルギアとの関係から同様だ。
援軍も期待できない状況で、既に勝ち目が見えないだろう。
そんな中で彼らがとったのは積極攻勢だった。
「お姫! 第一防衛線が抜かれる!」
「黒鉄隊前に出て押さえて! 機械弓隊は援護射撃! 魔法隊が下がったら下がって!」
王都側は、今度はボクの付城の方へと攻撃を始めた。
敵の決死隊の突撃により十字砲火陣地は突破されようとしていた。
どうも魔法の効きが悪いので、おそらく黒鉄の物品を身にまとっているのだろう。
黒鉄の武具は外には基本だしていないが、黒鉄の製品はうちの輸出品だ。
王都にそれがあってもおかしくない。
だが、日用品レベルの黒鉄を身に着けているだけでは濃厚な十字砲火の火線を防ぎきるのは難しいだろう。
膨大な数の損害が敵に生じている。それでも決死隊の献身により、第一陣は抜かれてしまった。
黒鉄隊と射程の長い機械弓で足止めをしつつ射撃していた魔法兵を下がらせる。
その後、魔法兵の先を考えない魔法の連射で敵を足止めして、黒鉄隊も下げさせた。
最初の防衛施設はすべて魔法で爆破し、敵に転用されないようにしている。
そうして第一陣は突破されたが、当然第二陣が待ち構えていた。
鉄筋の入った石壁で作られた特火点を連結させて作った防衛ラインである。
攻撃のために空いた銃眼以外は丈夫な構造体でおおわれた特火点は、突撃して銃眼に爆発魔法を投げ込むぐらいしか対応策はない。
先ほどまでの十字砲火と違い、火点が少ないので散発的な攻撃にはなるが、一方的に撃たれる状況が続く中、どこまで士気を維持できるか。
兵たちが出入りするために、防衛線が途切れているところが三カ所あるが、すべてそこは火力が集中するキルゾーンである。突破するのは難しい。
黒鉄隊を収容した防衛線の切れ目のところに敵が殺到した。追撃をしながら乱戦に持ち込み、一気に突破しようとしたのだろう。
相手の将軍は無能ではないだろう。むしろ、一瞬にして最適な攻撃地点を探しそこに全力を集中するのだから、戦術眼もあれば統率力も高い。優秀な将軍だ。
しかし、それでは突破できなかった。
第一陣の時と同様の魔法の雨が敵を襲う。
悲惨なぐらい敵が倒れていく中、ついに攻勢を維持できなくなったらしい敵は下がり始めた。
追撃を考えていると、ヨハンが声をかけてくる。
「姉さま、私が行きます」
「大丈夫なの?」
「あれはたぶん撤退を偽装してますよ。第一防衛線の残骸におそらく伏兵を隠しています」
「じゃあ大人しく見送った方がいいんじゃないの?」
伏兵なんてまるで気づいていなかったが、それなら見送った方がいいように思う。
伏兵はそう長くかくしておけるものではない。敵に損害を十分出したし、残存兵力を王都に戻してもそこまで問題ないと思うが……
「たぶんあそこには僭王クリストファーがいます」
「さすがに親玉は出てこないんじゃないの?」
ロンバルディア王、こちらから言うと正当性がない王として僭王としている異母弟のクリストファーがあそこに居るという。それなら仕留めれば確かに戦争は終わるが、のこのことこんなところに出てくるだろうか。
「兵の統率に関して王都側で一番優秀なのは疑いようもなくクリストファーです。あそこまで兵を自在に操れるのはあいつしかいないですよ。あとは、状況的に出てこざるを得ないでしょう。クリストファーが支持される理由は戦争での強さですが、今回の戦争ではいいところなしですから」
北と南で苦戦していたところに東からの戦略的奇襲で総崩れになっている現状、確かに良いところなしだろう。
だから出てきたのあろうとヨハンは読んでいるようだ。
「怪我しないでよ」
「大丈夫ですよ。戻ったら結婚しましょう姉さま」
「変なフラグ建てないでよ!? あと近親相姦絶対反対だしボクはベルがいるし!」
「ちっ、ベルトルドとは後でじっくり話す必要がありそうですね。まあ、さっさと片付けてきますよ」
そういってヨハンは兵を率いて出ていった。
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