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第五章 無能姫の西方大陸動乱 ロンバルディア戦役

3 オルド平原開拓戦

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西大陸東部には、かつて東西両大陸にまたがる帝国の首都があったという。
帝都オルドといわれたそこは、200年続いた古帝国とともに栄え、帝国の滅亡とともに衰退したという。
衰退後は平原となり、強力な魔獣が跋扈したために人が住むのに適さない不毛の地になったという。

そんな歴史を持つオルド平原の端に、ポート・マリーといわれる港町がある。
東西大陸の航路の中継地としてそこそこ栄えていたが、周り中魔物が跋扈する場所であるため、中継以上の価値がない場所であり、フルギアの変の時にロンバルディア艦隊が最後に立ち寄った場所である。
その際、ロンバルディア艦隊は略奪の限りを尽くし、無茶苦茶になったらしい。
変後に町に援助して立て直したのがボクであり、既にロンバルディア王国から離脱しこちらの傘下に入っている。
古帝国時代に大規模な港があったという伝承もある町は、地形的に確かに良港であり、援助により港湾設備はかなり拡充していた。

「領主様、お待ちしておりました」
「町長さんもお元気そうで何よりです」

先遣隊としてボクが連れてきたのは黒鉄隊2000。
今回の計画の中核となる部隊である。
そんなボクたちを迎えたのはポート・マリーの町長さんとラッザロ先生である。

「白いのも案外元気そうだな」
「元気なのが取り柄ですから」
「まあそうだな。下調べは大体終わったぞ」

ラッザロ先生にお願いしていたのは、ポート・マリーに残された古文書を解読することで、周囲の地形を把握することだった。
古帝国が滅んだのは300年も前だが、そのころからの資料がいまだポート・マリーには残されており、それを解読することで、今後の開墾に役立てようと思っていたのだ。

「にしても随分悠長な作戦だな」
「ボクはロンバルディアを舐めていませんから」

ロンバルディアは西大陸一の軍事国家である。
圧倒的な軍事力で版図を広げた国であり、特に陸戦では圧倒的な強さを誇っていた。
弱体化したとはいえ油断できる相手ではない。
敵を疲弊させてさらに弱体化させながら、こちらは力を蓄える、それが一番確実だと思っていた。

1年ほどかけて、ポート・マリー周辺のオルド平原を開拓し策源地としながら王都への道を作る。
そんな悠長な作戦が東方ルートでの作戦であった。

開墾の邪魔になる魔獣の対応も考えていた。
魔獣というのは魔力を有した獣であり、普通の獣よりも力が強く、さらに個体によっては魔法も使う厄介な相手だ。
そんな魔獣が跋扈する場所を開拓するのに使えるのが、この黒鉄隊であった。
その防具は魔獣の牙も爪も通さないし、魔法も弾くのだから圧倒的に有利なはずである。
また、魔獣たちは黒鉄を嫌がるので、黒鉄やその原料の魔封石を使って獣除けをする予定であった。

「お姫の下では充実してますが、なんというか、土木工事と書類仕事しかしていない気がします」

黒鉄隊の初代隊長のジョヴァンニさんはそうボヤキながら黒鉄の鍬をふるっていた。
最近は剣より鍬の方が持っている時間が長いらしい。
イチルの開発からセヴァン盆地の開拓、旧エフラク領エフラやポート・マリーの再興と、ジョバンニ旗下の黒鉄隊はこき使い続けてきた。
悪いなとは思うが、なんせ一番信頼できる部隊なのだ。
強さはもちろんあるが、開拓から統治、そして土木工事から操船までそれ以外の能力も高い。
戦いならビュザン傭兵出身のジュスティニアー二団が、黒鉄の扱いならイスハク旗下の黒鉄隊が、統治ならばエミールさん率いる旧エフラク官吏たちが、操船や開発ならばマッキナさん旗下の加工場の面々が、おそらく上だろう。
だが、どれも高レベルでできるという点、危険な場所で開拓や開発をするには必須なのだ。
ボクとしては掛け値なしのイチル軍最精鋭部隊だと思っているのだ。

「お姫がそういうならば、もうちょっと鍬を握って頑張りますよ」

魔獣たちとの戦いはあっけなかった。黒鉄を嫌う彼らは黒鉄隊の面々が近づくと戦いもせずに逃げ出していた。
黒鉄の道具だけでも有効らしく、だからこそ黒鉄の土木用具しか使っていないらしい。
必死に彼らを褒め、盛りあげながら開拓は順調すぎるぐらい順調に進んでいく。
雪が解けて春を迎えたころ、道はついに王国東部の都市へとつながるのであった。
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