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第四章 黒鉄姫の東方大陸動乱 フリギアの変
10 戦争の終結と戦争の始まり
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エフラク領の占領は非常にスムーズに進んだ。
すでに民衆からも見放されていたエフラク公は、逃亡中民衆たちに囲まれ私刑により殺されていた。
親族や家臣もその多くが粛正や最後の戦いのどさくさで死んでいた。
そうして頭を失ったエフラク領はすぐに全土が占領され、話し合い通りに分割されることとなった。
イチル領が得た範囲は特に広大であり、なかなか今後の統治が大変そうである。
ただ、非常にいい土地が多い。
公都であったエフラは古い港町でもあり、地形的に港に向いているので都市として発展余地が大きい。
また周囲に広がる平地は農業に向いていそうだ。
水が若干心もとないがラッザロ師が改良している農法を使えば、生産量も跳ね上がるだろう。
本当は新領地をじっくりと開発をしたいところだが、状況がそれを許していない。
特にフルギア王はメンツの問題もあり、早めにロンバルディア遠征をしたいようであった。
イチルの人たちもロンバルディア遠征には非常に意欲的であり、かなり状況が進んでいた。
西大陸への進出は既にかなり進んでいる。
まずはヨーク公領の港町ファネスだ。
ロンバルディア王国は、コーディリアの死亡を理由にヨーク公に前ヨーク公の甥ジョンをつけたのだが、これには大反発が起きた。
そもそも前ヨーク公に子はおらず、その甥であるジョンは前ヨーク公に嫌われ見捨てられた無能である。
そうでなければわざわざコーディリアを代行に指名してその子供をヨーク公にするなんて言うことを遺言しないのだ。
コーディリアは王家の血を引いているので一応ヨーク公とは血縁はあるのだが、曾祖母同士が姉妹という程度の血の遠さなのだから。
結局公都以北は王家の必死の援護もあってジョンが抑えているが、それより南はコーディリアについていた。
そこにコーディリアとその護衛としてイスハク率いる黒鉄隊1000を上陸させ橋頭保を確保していた。
また、弟のフロライト伯ヨハンも王国に反旗を翻して、積極的に小競り合いを始めていた。
ビュザンから傭兵2000を送っているので、優勢に戦いを進めているらしい。
「でも、アデリーは乗り気じゃないんだね」
「うーん、そうだね」
「どうして?」
「うーん、うまくまとまらない」
東大陸の状況がもう少し落ち着けば、積極的な攻撃にも出られるだろう。
時間はこちらの味方だし、勝ち目も大きい。
でも何となく乗り気にはなれなかった。
ベルトルドがボクを抱き上げ膝に乗せる。
「俺の勝手な予想だけどさ」
「うん」
「アデリーはたぶん、また誰かが失われるのが嫌なんだとおもうよ」
「…… そうかも」
戦争になれば人が死ぬ。
イチルの軍は積極的に衛生兵や軍医を整備して死傷率を劇的に下げているが、それでも限界はあった。
ロンバルディアが許せない気持ちもあるが、それでも誰かが櫛の歯が抜けるように死んでいくのが嫌だった。
「じゃあ、二人で駆け落ちする?」
「どこに?」
「ビュザンでもいいし、エフラでもいいし、南方大陸の方に足を延ばしてもいいし」
「で、どうするのさ」
「適当に教師でもやればいいじゃない。アデリーはラッザロ先生にあこがれてるだろ」
「うーん、やばい凄く魅力的だ」
「でしょ」
ラッザロ先生みたいにいろんな人に教えながら自由に生きるのは非常に魅力的に見えた。
それには色々捨てなければならないだろうが、ベルトルドは最低でもついてきてくれるだろう。
それならいいかも、なんていうことが頭をよぎる。
「どうする?」
ベルトルドがつむじに唇を落としてくる。
多分冗談ではない。本当にそうするといえば、ベルトルドはそうなるように動いてなんだかんだでうまくやるだろう。
それはそれでとても楽しそうに思えた。
「…… やっぱりでも、それはやめておく」
「そう」
「ボクはやっぱりここから逃げたくない」
「じゃあ、頑張ろうね」
それでもボクは逃げないことを選んだ。おそらくまた、何人も死ぬのだろう。
だがそれでもあゆみは止めない。それを心に誓う。
ベルトルドは優しくボクの頭を撫でていた。
すでに民衆からも見放されていたエフラク公は、逃亡中民衆たちに囲まれ私刑により殺されていた。
親族や家臣もその多くが粛正や最後の戦いのどさくさで死んでいた。
そうして頭を失ったエフラク領はすぐに全土が占領され、話し合い通りに分割されることとなった。
イチル領が得た範囲は特に広大であり、なかなか今後の統治が大変そうである。
ただ、非常にいい土地が多い。
公都であったエフラは古い港町でもあり、地形的に港に向いているので都市として発展余地が大きい。
また周囲に広がる平地は農業に向いていそうだ。
水が若干心もとないがラッザロ師が改良している農法を使えば、生産量も跳ね上がるだろう。
本当は新領地をじっくりと開発をしたいところだが、状況がそれを許していない。
特にフルギア王はメンツの問題もあり、早めにロンバルディア遠征をしたいようであった。
イチルの人たちもロンバルディア遠征には非常に意欲的であり、かなり状況が進んでいた。
西大陸への進出は既にかなり進んでいる。
まずはヨーク公領の港町ファネスだ。
ロンバルディア王国は、コーディリアの死亡を理由にヨーク公に前ヨーク公の甥ジョンをつけたのだが、これには大反発が起きた。
そもそも前ヨーク公に子はおらず、その甥であるジョンは前ヨーク公に嫌われ見捨てられた無能である。
そうでなければわざわざコーディリアを代行に指名してその子供をヨーク公にするなんて言うことを遺言しないのだ。
コーディリアは王家の血を引いているので一応ヨーク公とは血縁はあるのだが、曾祖母同士が姉妹という程度の血の遠さなのだから。
結局公都以北は王家の必死の援護もあってジョンが抑えているが、それより南はコーディリアについていた。
そこにコーディリアとその護衛としてイスハク率いる黒鉄隊1000を上陸させ橋頭保を確保していた。
また、弟のフロライト伯ヨハンも王国に反旗を翻して、積極的に小競り合いを始めていた。
ビュザンから傭兵2000を送っているので、優勢に戦いを進めているらしい。
「でも、アデリーは乗り気じゃないんだね」
「うーん、そうだね」
「どうして?」
「うーん、うまくまとまらない」
東大陸の状況がもう少し落ち着けば、積極的な攻撃にも出られるだろう。
時間はこちらの味方だし、勝ち目も大きい。
でも何となく乗り気にはなれなかった。
ベルトルドがボクを抱き上げ膝に乗せる。
「俺の勝手な予想だけどさ」
「うん」
「アデリーはたぶん、また誰かが失われるのが嫌なんだとおもうよ」
「…… そうかも」
戦争になれば人が死ぬ。
イチルの軍は積極的に衛生兵や軍医を整備して死傷率を劇的に下げているが、それでも限界はあった。
ロンバルディアが許せない気持ちもあるが、それでも誰かが櫛の歯が抜けるように死んでいくのが嫌だった。
「じゃあ、二人で駆け落ちする?」
「どこに?」
「ビュザンでもいいし、エフラでもいいし、南方大陸の方に足を延ばしてもいいし」
「で、どうするのさ」
「適当に教師でもやればいいじゃない。アデリーはラッザロ先生にあこがれてるだろ」
「うーん、やばい凄く魅力的だ」
「でしょ」
ラッザロ先生みたいにいろんな人に教えながら自由に生きるのは非常に魅力的に見えた。
それには色々捨てなければならないだろうが、ベルトルドは最低でもついてきてくれるだろう。
それならいいかも、なんていうことが頭をよぎる。
「どうする?」
ベルトルドがつむじに唇を落としてくる。
多分冗談ではない。本当にそうするといえば、ベルトルドはそうなるように動いてなんだかんだでうまくやるだろう。
それはそれでとても楽しそうに思えた。
「…… やっぱりでも、それはやめておく」
「そう」
「ボクはやっぱりここから逃げたくない」
「じゃあ、頑張ろうね」
それでもボクは逃げないことを選んだ。おそらくまた、何人も死ぬのだろう。
だがそれでもあゆみは止めない。それを心に誓う。
ベルトルドは優しくボクの頭を撫でていた。
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