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第四章 黒鉄姫の東方大陸動乱 フリギアの変
8 フリギアの変 エフラク掃討戦
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新フルギア王がエフラク領の討伐を進める中、ボクは王都にとどまっていた。
本当はすぐにイチルに戻りイチル軍の陣頭指揮をとろうと思っていたのだが周り中に反対されてしまった。
フリギア沖海戦で無理をし過ぎたのが悪かったようで、周り中に説教され、東大陸での戦いの間はおとなしくしておけと言われてしまったのだ。
それでも無理に行こうとしたのだが、ベルトルドのお仕置きの前にぐうの音も出なくなってしまった。
きっと無理したらベルトルドがお仕置きと称して恥ずかしいことしてくるのが容易に想像できた。
こんな男女の出来損ないのどこがいいのかと思うが、それを言うと延々とほめたたえる褒め殺しをされて死ぬほど恥ずかしいので、ベルトルドの前では言わないようにしている。
なんにしろ王都滞在である。
「東大陸の戦いでは」というのは当然次があるのを想定している。すなわちロンバルディア遠征である。
本当はかかわりたくなかったが、向こうが喧嘩を売ってきたのだから買わざるを得なくなっていた。
だがその前にいろいろ対応しなければならないことが多かった。
一つは当然エフラクの処分だが、もう一つ、エフラクに比べれば小さいが、大事な問題があった。
妹であるヨーク公代行コーディリアの処遇である。
コーディリアとお茶会を開くことになった。
お茶会というが、実質尋問の様なものだろう。
同行するのはベルトルドとイスハクだ。
二人ともボクの護衛として王都に残っていた。
「初めまして、お姉さま」
「姉と妹の会話で初めまして、ですか」
「お姉さまが国を離れたのは私が1歳の時ですから。なにも記憶がありませんわ」
にっこりと笑うコーディの見た目は母そっくりだ。
線が細くて色が白くて、消えてしまいそうなぐらい儚げなのに、どこか芯の強さを感じる。
年はまだ11歳の少女だが、ボクより少し背が高かった。
これですでに未亡人なのだから、前ロンバルディア王である父はなかなか鬼畜である。
「コーディはボクを恨んでる?」
「お姉さまこそ、私を恨んでいるのでは?」
今回のロンバルディアの侵攻について、コーディリアも関係しているという主張が一部の王家家臣から出ているのは知っている。
状況から見れば彼女をクロとしたい気持ちもわかるが、そもそもこんなことに彼女が同意する理由がない。
彼女は大領をもつヨーク公の相続権を持ち、彼女の子は大領主になることが確定しているのだ。こんな死地に赴く必要がまるでなかった。
一つの可能性を除いては。
「コーディ、これ」
「っ!」
腰に差していた剣を抜くと机の上に突き立てた。
黒鉄の地金が鈍く輝く。
「これは竜封剣。黒鉄製でボクの最高傑作でもある剣です」
「……」
「魔道具でボクを殺すのは難しい。なんせ魔法を無効化する体質だからね。でも、これなら一撃だよ」
「……お姉さま……」
「ボクの命は重いけど、コーディになら殺されてもいいかなって思ってる。母を奪い、幼くして嫁がなければならない環境になったのはボクのせいだ」
コーディリアは手を伸ばした。
剣を取ろうとしたのか、それともボクに手を差し伸べようとしたのか、それはわからなかった。
なぜなら……
「コーディリア嬢、私と結婚していただけませんか」
急に椅子から立ち上がったイスハクがコーディリアに求婚したからだ。
ボクは開いた口がふさがらなかった。
コーディリアは伸ばした手を握られて困惑していた。
ベルトルドは優雅にお茶を飲んでいた。
本当はすぐにイチルに戻りイチル軍の陣頭指揮をとろうと思っていたのだが周り中に反対されてしまった。
フリギア沖海戦で無理をし過ぎたのが悪かったようで、周り中に説教され、東大陸での戦いの間はおとなしくしておけと言われてしまったのだ。
それでも無理に行こうとしたのだが、ベルトルドのお仕置きの前にぐうの音も出なくなってしまった。
きっと無理したらベルトルドがお仕置きと称して恥ずかしいことしてくるのが容易に想像できた。
こんな男女の出来損ないのどこがいいのかと思うが、それを言うと延々とほめたたえる褒め殺しをされて死ぬほど恥ずかしいので、ベルトルドの前では言わないようにしている。
なんにしろ王都滞在である。
「東大陸の戦いでは」というのは当然次があるのを想定している。すなわちロンバルディア遠征である。
本当はかかわりたくなかったが、向こうが喧嘩を売ってきたのだから買わざるを得なくなっていた。
だがその前にいろいろ対応しなければならないことが多かった。
一つは当然エフラクの処分だが、もう一つ、エフラクに比べれば小さいが、大事な問題があった。
妹であるヨーク公代行コーディリアの処遇である。
コーディリアとお茶会を開くことになった。
お茶会というが、実質尋問の様なものだろう。
同行するのはベルトルドとイスハクだ。
二人ともボクの護衛として王都に残っていた。
「初めまして、お姉さま」
「姉と妹の会話で初めまして、ですか」
「お姉さまが国を離れたのは私が1歳の時ですから。なにも記憶がありませんわ」
にっこりと笑うコーディの見た目は母そっくりだ。
線が細くて色が白くて、消えてしまいそうなぐらい儚げなのに、どこか芯の強さを感じる。
年はまだ11歳の少女だが、ボクより少し背が高かった。
これですでに未亡人なのだから、前ロンバルディア王である父はなかなか鬼畜である。
「コーディはボクを恨んでる?」
「お姉さまこそ、私を恨んでいるのでは?」
今回のロンバルディアの侵攻について、コーディリアも関係しているという主張が一部の王家家臣から出ているのは知っている。
状況から見れば彼女をクロとしたい気持ちもわかるが、そもそもこんなことに彼女が同意する理由がない。
彼女は大領をもつヨーク公の相続権を持ち、彼女の子は大領主になることが確定しているのだ。こんな死地に赴く必要がまるでなかった。
一つの可能性を除いては。
「コーディ、これ」
「っ!」
腰に差していた剣を抜くと机の上に突き立てた。
黒鉄の地金が鈍く輝く。
「これは竜封剣。黒鉄製でボクの最高傑作でもある剣です」
「……」
「魔道具でボクを殺すのは難しい。なんせ魔法を無効化する体質だからね。でも、これなら一撃だよ」
「……お姉さま……」
「ボクの命は重いけど、コーディになら殺されてもいいかなって思ってる。母を奪い、幼くして嫁がなければならない環境になったのはボクのせいだ」
コーディリアは手を伸ばした。
剣を取ろうとしたのか、それともボクに手を差し伸べようとしたのか、それはわからなかった。
なぜなら……
「コーディリア嬢、私と結婚していただけませんか」
急に椅子から立ち上がったイスハクがコーディリアに求婚したからだ。
ボクは開いた口がふさがらなかった。
コーディリアは伸ばした手を握られて困惑していた。
ベルトルドは優雅にお茶を飲んでいた。
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