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第三章 黒鉄姫の東方大陸動乱 エフラク戦役
9 不穏な空気
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イチルの町の発展は著しく、いろいろな場所から移民が来るが、主な先が2か所あり、それが問題であった。
一つはお隣のエフラク領である。
敗戦の折の粛正により、人材が大量喪失ないし流出したエフラク領は、高額な賠償支払いのための重税もあり疲弊し、住民の流出が止まらなくなっていた。
うちの領へ来る者たちは皆セヴァン盆地へと送り開拓などに従事してもらっているのでそこまで問題にはならなかったが、他の隣接領では対応に苦慮しているようだ。
そうして貧しくなっていくエフラク公はこちらを憎んでいるらしい。
向こうから攻めてきて敗けて貧しくなっただけなのに、逆恨み甚だしい。
先日も官吏と住民の引き抜きをやめるよう恫喝文が届いたりしている。
なのでエフラク公国南方のフィリー候に写しを送ってやって、難民化している住民を送り返す口実にさせて嫌がらせをしてやった。
フィリー候領は森が広がり、香辛料などが豊かな裕福な地であるが、食糧生産はあまりできず流民に対応する余力がない、そんな場所だ。口実に食糧費も請求して難民を追い返したので、エフラク公国南方の治安はひどいことになっているのだとか。
そろそろ立替金の返還の未払いも起きそうだし、フルギア王家や周辺国と公国侵攻の準備をした方がいいかもしれない。
もう一つは西方大陸にある故郷、ロンバルディアからの移民である。
もともと魔力至上主義で、魔力の低い人間が移住してきていたが、最近は魔力のことなんて関係なく多くの人間が流れてきていた。
原因は、父であるロンバルディア王の圧政である。
母がボクを連れて逃亡し、追放扱いになった後、父は後妻を迎えたらしい。下級貴族の娘である彼女は父の愛人であり、すでにボクの一つ下の息子がいたのだとか。
完全に不倫であるが、母のことを不祥事として法的に抹殺したため法的には嫡子として認められた半血の弟は、いまでは成人し王太子になっている。
ちなみにボクには弟ヨハンと妹コーディリアがいたが、二人とも王家の跡継ぎにはなれなかった。
ヨハンは病没した叔父を継いで、母の実家であるフロライト伯を継承したと聞いている。一応祝いの品だけは送ったが、母を連れ去ったボクが果たして恨まれていないか、自信がない。
妹は50も年上のヨーク公に嫁いだが、ヨーク公はすぐに病死し、今は子のいなかったヨーク公を引き継いでいるという。
まあ、弟妹のことは置いておこう。
新しく王妃になった人は、非常に浪費をしているらしい。宝石やドレスを買いあさるに飽き足らず、政治にも口を出し、親族や気に入った相手を能力も関係なく要職につけているとか。
さらに、様々なものを欲しがり、もともと拡張志向が強かった父が王妃の要望を口実に遠征を重ねているという。
おかげでロンバルディア王国の版図は広がっているが、重税と兵役に住民は耐えかねて離散し、その一部が海を渡りこちらに流れてきているのだとか。
最近はロンバルディア王国内の貴族から、イチル伯である自分に使者がちょくちょく来ている。
正直、ロンバルディアには一切望郷の念もないので、すげなく突っぱねているのでたいした問題にはなっていない。
だが、確実に海の向こうの状況は悪化しているのだろう。
まだ難しい状況が続くな、とその時はまだ他人事のように思っていた。
一つはお隣のエフラク領である。
敗戦の折の粛正により、人材が大量喪失ないし流出したエフラク領は、高額な賠償支払いのための重税もあり疲弊し、住民の流出が止まらなくなっていた。
うちの領へ来る者たちは皆セヴァン盆地へと送り開拓などに従事してもらっているのでそこまで問題にはならなかったが、他の隣接領では対応に苦慮しているようだ。
そうして貧しくなっていくエフラク公はこちらを憎んでいるらしい。
向こうから攻めてきて敗けて貧しくなっただけなのに、逆恨み甚だしい。
先日も官吏と住民の引き抜きをやめるよう恫喝文が届いたりしている。
なのでエフラク公国南方のフィリー候に写しを送ってやって、難民化している住民を送り返す口実にさせて嫌がらせをしてやった。
フィリー候領は森が広がり、香辛料などが豊かな裕福な地であるが、食糧生産はあまりできず流民に対応する余力がない、そんな場所だ。口実に食糧費も請求して難民を追い返したので、エフラク公国南方の治安はひどいことになっているのだとか。
そろそろ立替金の返還の未払いも起きそうだし、フルギア王家や周辺国と公国侵攻の準備をした方がいいかもしれない。
もう一つは西方大陸にある故郷、ロンバルディアからの移民である。
もともと魔力至上主義で、魔力の低い人間が移住してきていたが、最近は魔力のことなんて関係なく多くの人間が流れてきていた。
原因は、父であるロンバルディア王の圧政である。
母がボクを連れて逃亡し、追放扱いになった後、父は後妻を迎えたらしい。下級貴族の娘である彼女は父の愛人であり、すでにボクの一つ下の息子がいたのだとか。
完全に不倫であるが、母のことを不祥事として法的に抹殺したため法的には嫡子として認められた半血の弟は、いまでは成人し王太子になっている。
ちなみにボクには弟ヨハンと妹コーディリアがいたが、二人とも王家の跡継ぎにはなれなかった。
ヨハンは病没した叔父を継いで、母の実家であるフロライト伯を継承したと聞いている。一応祝いの品だけは送ったが、母を連れ去ったボクが果たして恨まれていないか、自信がない。
妹は50も年上のヨーク公に嫁いだが、ヨーク公はすぐに病死し、今は子のいなかったヨーク公を引き継いでいるという。
まあ、弟妹のことは置いておこう。
新しく王妃になった人は、非常に浪費をしているらしい。宝石やドレスを買いあさるに飽き足らず、政治にも口を出し、親族や気に入った相手を能力も関係なく要職につけているとか。
さらに、様々なものを欲しがり、もともと拡張志向が強かった父が王妃の要望を口実に遠征を重ねているという。
おかげでロンバルディア王国の版図は広がっているが、重税と兵役に住民は耐えかねて離散し、その一部が海を渡りこちらに流れてきているのだとか。
最近はロンバルディア王国内の貴族から、イチル伯である自分に使者がちょくちょく来ている。
正直、ロンバルディアには一切望郷の念もないので、すげなく突っぱねているのでたいした問題にはなっていない。
だが、確実に海の向こうの状況は悪化しているのだろう。
まだ難しい状況が続くな、とその時はまだ他人事のように思っていた。
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