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第二章 東方大陸と無能姫
10 戦乱の風が吹く
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イチルに来て7年が経った。
初めのころは単なる漁村だったここは、今では人口も5000を超える。
三方を山、一方を海に囲まれた場所であり、塩が強く農業には向いていなかったが土地はそれなりにあり、今では木材、黒鉄、造船、海運といったものでにぎわっていた。
順調に大きくなっていくイチルの町には、現状二つの問題があった。
問題の一つは故郷である西方大陸の大国ロンバルディア王国からの移民である。
魔法至上主義のロンバルディア王国から、ここ最近魔力が少ない人間の移民が増え始めたのだ。
これが問題を生じさせていた。
まず言語の問題である。同大陸内では言語は基本的に似ており、方言程度の差しかないのでそこそこ通じるのだが、西方大陸のロンバルディア語と東方大陸のフルキア語はかなり違う。
母やボクはどちらの言葉もつかえたので、行政も何もかもフルキア語で行っているが、ロンバルディアから来た人々は領主が母だからロンバルディア語が使えるのを期待してくる人が多かった。
そのすれ違いから、問題を起こす人間がちょこちょこ発生していた。
他には魔力に対する認識のすれ違いもあった。
東方大陸でも、魔力というのは能力の一つとして考えられており、魔力が低いことはネガティブにみられるのは変わらないが、西方大陸と異なり、魔力だけで判断することは少なかった。
そのため、ボクを含めた黒鉄を使う魔力の非常に低い黒鉄隊の人々は、頼れる人たちとして町から尊敬を集めていたのだが、ロンバルディアの人たちはそれが納得できないらしい。
黒鉄隊の面々とロンバルディアから来た人たちの間でのいざこざが頻発していた。
だが、ロンバルディア人の労働力は捨てがたい。
彼らはロンバルディアでは魔力が低いといわれていた人々だが、東方大陸基準だと魔法が使える方なのだ。
人が足りていないイチルとしてはどうにか労働力化したかった。
こういう時は、最初は分断して徐々に同化していくのがいいだろう。
なので片っ端から交易船の水夫にすることにした。
陸の仕事は、加工場であれ黒鉄隊であれ、黒鉄の道具がふんだんに存在しており、魔力の有無は基本影響しない。他地域からの移民で十分である。
母が主導する治癒院は、魔力がある人間が欲しいが命に係わる部門なので信用できない人間は使えなかった。
その点、海の上の交易船は、魔力が求められており、隔離された空間だから管理も難しくなく、また人手が足りていない場所だった。
操船技能が低くても人の数で補える大型船を増やし、海運部門を増強するのにロンバルディア移民を回すことで、どうにかこの問題を収めていった。
マッキナさんと加工場を酷使し、月1ペースで大型船を増やしたので移民の増加にぎりぎり対応が出来ていた。
そしてもう一つの問題は隣領との紛争である。
イチルの町は三方が山に囲まれており、山が領の境目となる。そして山の向こうには別の領地があるのだ。
北側は基本的に都市ビュザンの勢力圏であり、友好関係にあるので特に問題はないのだが、問題は南方だった。
南方のエフラク公国がここ1年ほどちょっかいをかけ続けてきていた。
イチル領全土を自領と吹聴し、様々な嫌がらせを行い始めていた。
もっとも、フルギア王はイチル領主である母側だし、都市ビュザンも母に非常に友好的であったため、エフラク公の暗闘による切り崩しは全くうまくいっていなかった。
だが、最近は境界あたりでのいざこざも多く、不穏な状況になっていた。
ボクは来年には15歳になり、成人の儀を行う予定であった。
しかし、それまでにいろいろと問題が生じそうであった。
初めのころは単なる漁村だったここは、今では人口も5000を超える。
三方を山、一方を海に囲まれた場所であり、塩が強く農業には向いていなかったが土地はそれなりにあり、今では木材、黒鉄、造船、海運といったものでにぎわっていた。
順調に大きくなっていくイチルの町には、現状二つの問題があった。
問題の一つは故郷である西方大陸の大国ロンバルディア王国からの移民である。
魔法至上主義のロンバルディア王国から、ここ最近魔力が少ない人間の移民が増え始めたのだ。
これが問題を生じさせていた。
まず言語の問題である。同大陸内では言語は基本的に似ており、方言程度の差しかないのでそこそこ通じるのだが、西方大陸のロンバルディア語と東方大陸のフルキア語はかなり違う。
母やボクはどちらの言葉もつかえたので、行政も何もかもフルキア語で行っているが、ロンバルディアから来た人々は領主が母だからロンバルディア語が使えるのを期待してくる人が多かった。
そのすれ違いから、問題を起こす人間がちょこちょこ発生していた。
他には魔力に対する認識のすれ違いもあった。
東方大陸でも、魔力というのは能力の一つとして考えられており、魔力が低いことはネガティブにみられるのは変わらないが、西方大陸と異なり、魔力だけで判断することは少なかった。
そのため、ボクを含めた黒鉄を使う魔力の非常に低い黒鉄隊の人々は、頼れる人たちとして町から尊敬を集めていたのだが、ロンバルディアの人たちはそれが納得できないらしい。
黒鉄隊の面々とロンバルディアから来た人たちの間でのいざこざが頻発していた。
だが、ロンバルディア人の労働力は捨てがたい。
彼らはロンバルディアでは魔力が低いといわれていた人々だが、東方大陸基準だと魔法が使える方なのだ。
人が足りていないイチルとしてはどうにか労働力化したかった。
こういう時は、最初は分断して徐々に同化していくのがいいだろう。
なので片っ端から交易船の水夫にすることにした。
陸の仕事は、加工場であれ黒鉄隊であれ、黒鉄の道具がふんだんに存在しており、魔力の有無は基本影響しない。他地域からの移民で十分である。
母が主導する治癒院は、魔力がある人間が欲しいが命に係わる部門なので信用できない人間は使えなかった。
その点、海の上の交易船は、魔力が求められており、隔離された空間だから管理も難しくなく、また人手が足りていない場所だった。
操船技能が低くても人の数で補える大型船を増やし、海運部門を増強するのにロンバルディア移民を回すことで、どうにかこの問題を収めていった。
マッキナさんと加工場を酷使し、月1ペースで大型船を増やしたので移民の増加にぎりぎり対応が出来ていた。
そしてもう一つの問題は隣領との紛争である。
イチルの町は三方が山に囲まれており、山が領の境目となる。そして山の向こうには別の領地があるのだ。
北側は基本的に都市ビュザンの勢力圏であり、友好関係にあるので特に問題はないのだが、問題は南方だった。
南方のエフラク公国がここ1年ほどちょっかいをかけ続けてきていた。
イチル領全土を自領と吹聴し、様々な嫌がらせを行い始めていた。
もっとも、フルギア王はイチル領主である母側だし、都市ビュザンも母に非常に友好的であったため、エフラク公の暗闘による切り崩しは全くうまくいっていなかった。
だが、最近は境界あたりでのいざこざも多く、不穏な状況になっていた。
ボクは来年には15歳になり、成人の儀を行う予定であった。
しかし、それまでにいろいろと問題が生じそうであった。
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