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第三話 愚かだということが一番の大罪であった

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ロクロア公庶子であったリリスは、平民格として王立学園へと入学した。
庶子である彼女にはロクロア公に関する一切の権利が存在せず、ただ、個人としてのロクロア公からの援助のみを受けるだけの立場であった。
後世の創作では世紀の悪女と描かれがちな彼女であるが、同時代の資料を確認すると可愛らしくて、それなりに優秀で、愛想の良いだけの少女であったと推測される。

平民として見れば優秀な少女であるが、貴族として見たときには彼女には問題があった。
貴族としての弁えがいささか足りていない、夢見がちな愚かさを持っていた。
もっともその程度の愚かさは彼女ぐらいの年頃の時分なら多かれ少なかれ持っているものではあるかもしれない。
だが、彼女がそのような愚かさを有していたがゆえに、彼女は王太子と結ばれるという夢を見てしまった。
そしてどんな困難でも二人の愛と努力で乗り越えられると信じてしまった。

彼女はいささか愚かだった。
そして、



第三話 愚かだということが一番の大罪であった




彼女が王太子の目に留まった理由は、彼女が優秀だったからに他ならない。
有力諸侯のロクロア公の子供とは言え庶子でしかなく、母も平民だった彼女の学園での地位は平民格でしかなかった。
しかし彼女は優秀な成績を収め、上級クラスに加入することを許されたのだ。
成績優秀者しか加入できない上級クラスは、通常は幼い頃から家庭の教育を受けられる王侯貴族しか入ることができない。
そこにロクロア公の血を引くとは言え平民格でしかないリリスが入ったことは多くの者の目を引いた。
しかし彼女の幸運はここまでだった。
彼女の最大の不幸は、この後王太子に目をつけられた事であり
彼女の最大の愚行は、この後王太子に惚れてしまった事であった。

平民格の彼女が貴族の妻になる、王族の妻になる、ということ自体はこの時代、実は大きく問題とならなかった。
一昔前ならば貴賤結婚として様々な問題になっただろうが、当時、王立学園の上級クラス卒業者は貴族と同等に扱われる慣習があった。
現にそういった方法で貴族の嫁に行く、若しくは貴族に婿入りする平民格の者は何人かおり、王家に嫁いだ者も確かにいた。
王太子という国のトップの正妻にふさわしいか、は置いておいて、慣習上単に嫁ぐというだけならば問題にならなかったのである。

だがそれはあくまで一般論でしかない。
庶子の娘が、嫡子の娘の婚約相手を奪う事、そしてその婚約が重要な政略で会った事。
これが一番の大問題なのであった。

その辺りの貴族のプライドと、機微を彼女はおそらく知らなかった。
そしてそれを知らなければならない王太子は愚かにもそれを知らなかった。
だからこそ、この、王国を滅ぼす愚かな真実の愛が始まってしまったのだった。



愚かな行いの反動はすぐに起きた。
王立学園正門前で彼女の異母姉が殺されるという流血沙汰に発展してすぐ、領主貴族の子たちは様々な理由をつけて領地に戻ってしまった。
表向きは病気だという者も多かったが、100年を優に超える学園史の中での初めての流血沙汰という事で、学園の状況が安定していないことを面と向かって理由に挙げる貴族まで現れた。
彼ら彼女らは王家にとっての人質でもあるため、この不安定な状況でこそ王都に留めておきたい者たちだったが、貴族らの突き上げは激しく、一部は集団で王都から抜け出すと言ったことも起こり始めた。
王家側は兵力的にはこれを力づくで止めることも可能であったが、それをしてしまうとただでさえ不安定で、反乱直前の現状にさらに火に油を注ぐ行為になってしまう。
結局王家の側も王都からの脱出を止めることができず、大半の貴族子息は領地へ帰ってしまうのであった。

多くの貴族らが領地に帰れば、彼らに付き従う家臣らも領地に帰ってしまう。
王都の人口は一気に減った。
単に人が減った以上に、消費が多い身分層の人間が減ったのだ。
王都の経済は一気に落ち込んでしまう。記録的な不景気に陥る王都だが、それがまだ序章でしかないことに、愚かな二人は気づいてもいなかったのであった。



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