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5 茶会でのお話合い
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「で、単刀直入に聞くけど、イリアは何が欲しいわけ?」
「マリア、猫かぶるのがめんどくさくなったわね」
「この前の婚約破棄騒動からもう大騒ぎだもの、疲れたのよ」
「お疲れ様。ほしいものは、二つほどあるわ」
「欲張りさんね」
まず誰とお話するか、というのは問題になる。
当然どうでもいいのほど後回しにするのだが、誰を優先するかは状況にもよるし、ケースにもよる。
影響の大きい順にやっていく、という手も珍しくないが、私は味方になるところから優先するスタイルだ。
味方に裏切られるのが精神的に一番きついし。
という事で身代が大きくて仲が良いイグニス辺境伯夫人のイリアのテーブルに座ってしゃべり始める。
本当だったらもっと迂遠に聞くのだが、最近怒涛の忙しさで精神力がとっくの昔に尽きていた私はぶっちゃけ話から始めてしまっていた。
イリアもわかっているのだろう。
私に縋りつきながら、甘い声でおねだりをする茶番を始めた。
「あのね、イリアね、街道が欲しいの。アデライドからうちまで、移動しやすい立派な道が欲しいの」
「おねだりでする内容じゃないよね」
「まあ確かにね」
「でも道かぁ。領内はあらかた済んだから、調整すれば作れるかもしれないかな」
「じゃあうちともつないでくれると嬉しいですね」
そういってエミリーが口を挟んできた。
このタイミングで入ってくるのは結構勇気がいると思うのだが、商人の街エルランド流なのだろうか。
「というと?」
「あのね、エミリーね、道が欲しいの♪」
「イリアの真似しなくても大丈夫よ」
「楽しそうだったからつい」
「案外ノリがいいのね」
エミリーまでイリアの真似をして腕にまとわりついてきた。
両手に美少女である。意味の分からない状況に陥った。
「辺境域イグニスからうちまでばばーん、と街道ができれば便利だしいろいろ儲かりそうだと思ってね」
「でもうちからそっちは峠道になるし、物に関してはほとんど川で持って行った方が安くなるけど?」
アデライドは交通の要衝であり、山脈の切れ目の平地にある街だ。
それだけ物が集まるが、だいたいはそこからサルーン川で運び出すことが多い。
川の河口にある港町ケルンに運び、そこから海を介して運ぶ、というのが今までの流通経路だ。
そういう関係でケルン都市伯は当然仲が良く、今回の茶会には本人が嫡男を連れてきている。
イリアの後にお話に行く予定だった相手だ。
そういう関係があるので、エルランドの方にあまりいい顔ができるものではない。
街道を作ること自体問題がないが、水運と陸運ならば水運の方が圧倒的に有利だ。
距離でいえばエルランドはケルンまでの半分ぐらいの距離であり圧倒的に近いのだが、峠越えの陸路である以上商売的に勝負にはならないように思う。
「少量の効果品でも価値があるのよ。品ぞろえが増えればそれだけ都市が活発化するわ。あともう一つ、イグニス伯夫人とも話していたけど、人の行き来を増やしたいのよね」
「ほえ、なんで?」
「本当に対応が雑になってるわね…… 今度大学を作ろうかと思ってるのよ」
「またすごいの作ろうとしてるね」
学術機関である大学は、費用対効果が良い施設ではない。
学問的な発達は疑いようがないが、知識人層をかなり集める必要があるので人件費がべらぼうに高いし、書籍代も基本馬鹿みたいにするはずだ。そこで研究された学問は運営側のものにできるが、すぐに直接使えるとは限らない。
知識人たちは知識に自信があるから、下手に強制するとすぐ逃げられてしまう。
権威的なアピールとしては素晴らしいが、実際効果が高い場所だとは思わなかった。それを商人の街を支配し、金の亡者と揶揄されるエルランド都市伯がやるのはちょっと意外だった。
「金の亡者といわれるのにも飽きたから、少し高尚な趣味でも持とうかと思ってね。で、人集めしようと思ったら宰相殿に邪魔されたから、こっちに来たわけ」
「なるほど」
「イグニス伯としても、そういう教育機関が欲しかったから、ちょうどいいかなって」
「それで珍しく二人仲良くお話してたわけね」
「マリアとエミリーの仲の良さには負けるわ」
「「仲良くねーし」」
「そういうところよ」
楽しそうにイリアが笑う。
イグニス伯は近年対蛮族政策の転換を行っている。
単に討伐するばかりでなく、懐柔と同化を行い、家臣化を企んでいるのだ。
そのために必要なのは次代を担う蛮族たちの子息を教育する場であった。
反抗心の強い蛮族たちだが、とはいえやはり帝国の方が豊かだし楽しい場所である。
それに従った方がいいと見せつけるのは非常に大事で、それには教育が一番だ。現に第一弾はアデライドの教育機関で洗脳教育をして送り返したところである。
かなりうまくいっているらしく、イグニス伯側としては拡充を考えているようだが、うちの教育機関は主に領民向けなのであまり一度に受け入れられるものではない。
これをエルランドで作る大学にお願いして、移動のための道を確保しようと企んでいるわけか。
エルランドは帝都を流れるチグル川河口にあるので皇帝とのつながりが強いが、今回帝都の大学に影響力を持つ宰相殿に邪魔されているからこっちに話を持ってきたのだろう。
道は川に比べれば確かに物流の面では劣るが、人的な移動に関しては優位がある。
だから軍の移動にも使いやすく、それゆえ慎重になった方がいいものではあるが……
「まあわかったわ。詳細は後日という事で」
「検討してもらえると助かるわ」
「期待して待ってるわ」
さて次はだれに行くか。
婚約破棄したものだから、新しい婚約の申し込みを言う人も居る。
それを適当に捌くのも面倒である。
楽しくないお茶会はまだ長そうである。
「マリア、猫かぶるのがめんどくさくなったわね」
「この前の婚約破棄騒動からもう大騒ぎだもの、疲れたのよ」
「お疲れ様。ほしいものは、二つほどあるわ」
「欲張りさんね」
まず誰とお話するか、というのは問題になる。
当然どうでもいいのほど後回しにするのだが、誰を優先するかは状況にもよるし、ケースにもよる。
影響の大きい順にやっていく、という手も珍しくないが、私は味方になるところから優先するスタイルだ。
味方に裏切られるのが精神的に一番きついし。
という事で身代が大きくて仲が良いイグニス辺境伯夫人のイリアのテーブルに座ってしゃべり始める。
本当だったらもっと迂遠に聞くのだが、最近怒涛の忙しさで精神力がとっくの昔に尽きていた私はぶっちゃけ話から始めてしまっていた。
イリアもわかっているのだろう。
私に縋りつきながら、甘い声でおねだりをする茶番を始めた。
「あのね、イリアね、街道が欲しいの。アデライドからうちまで、移動しやすい立派な道が欲しいの」
「おねだりでする内容じゃないよね」
「まあ確かにね」
「でも道かぁ。領内はあらかた済んだから、調整すれば作れるかもしれないかな」
「じゃあうちともつないでくれると嬉しいですね」
そういってエミリーが口を挟んできた。
このタイミングで入ってくるのは結構勇気がいると思うのだが、商人の街エルランド流なのだろうか。
「というと?」
「あのね、エミリーね、道が欲しいの♪」
「イリアの真似しなくても大丈夫よ」
「楽しそうだったからつい」
「案外ノリがいいのね」
エミリーまでイリアの真似をして腕にまとわりついてきた。
両手に美少女である。意味の分からない状況に陥った。
「辺境域イグニスからうちまでばばーん、と街道ができれば便利だしいろいろ儲かりそうだと思ってね」
「でもうちからそっちは峠道になるし、物に関してはほとんど川で持って行った方が安くなるけど?」
アデライドは交通の要衝であり、山脈の切れ目の平地にある街だ。
それだけ物が集まるが、だいたいはそこからサルーン川で運び出すことが多い。
川の河口にある港町ケルンに運び、そこから海を介して運ぶ、というのが今までの流通経路だ。
そういう関係でケルン都市伯は当然仲が良く、今回の茶会には本人が嫡男を連れてきている。
イリアの後にお話に行く予定だった相手だ。
そういう関係があるので、エルランドの方にあまりいい顔ができるものではない。
街道を作ること自体問題がないが、水運と陸運ならば水運の方が圧倒的に有利だ。
距離でいえばエルランドはケルンまでの半分ぐらいの距離であり圧倒的に近いのだが、峠越えの陸路である以上商売的に勝負にはならないように思う。
「少量の効果品でも価値があるのよ。品ぞろえが増えればそれだけ都市が活発化するわ。あともう一つ、イグニス伯夫人とも話していたけど、人の行き来を増やしたいのよね」
「ほえ、なんで?」
「本当に対応が雑になってるわね…… 今度大学を作ろうかと思ってるのよ」
「またすごいの作ろうとしてるね」
学術機関である大学は、費用対効果が良い施設ではない。
学問的な発達は疑いようがないが、知識人層をかなり集める必要があるので人件費がべらぼうに高いし、書籍代も基本馬鹿みたいにするはずだ。そこで研究された学問は運営側のものにできるが、すぐに直接使えるとは限らない。
知識人たちは知識に自信があるから、下手に強制するとすぐ逃げられてしまう。
権威的なアピールとしては素晴らしいが、実際効果が高い場所だとは思わなかった。それを商人の街を支配し、金の亡者と揶揄されるエルランド都市伯がやるのはちょっと意外だった。
「金の亡者といわれるのにも飽きたから、少し高尚な趣味でも持とうかと思ってね。で、人集めしようと思ったら宰相殿に邪魔されたから、こっちに来たわけ」
「なるほど」
「イグニス伯としても、そういう教育機関が欲しかったから、ちょうどいいかなって」
「それで珍しく二人仲良くお話してたわけね」
「マリアとエミリーの仲の良さには負けるわ」
「「仲良くねーし」」
「そういうところよ」
楽しそうにイリアが笑う。
イグニス伯は近年対蛮族政策の転換を行っている。
単に討伐するばかりでなく、懐柔と同化を行い、家臣化を企んでいるのだ。
そのために必要なのは次代を担う蛮族たちの子息を教育する場であった。
反抗心の強い蛮族たちだが、とはいえやはり帝国の方が豊かだし楽しい場所である。
それに従った方がいいと見せつけるのは非常に大事で、それには教育が一番だ。現に第一弾はアデライドの教育機関で洗脳教育をして送り返したところである。
かなりうまくいっているらしく、イグニス伯側としては拡充を考えているようだが、うちの教育機関は主に領民向けなのであまり一度に受け入れられるものではない。
これをエルランドで作る大学にお願いして、移動のための道を確保しようと企んでいるわけか。
エルランドは帝都を流れるチグル川河口にあるので皇帝とのつながりが強いが、今回帝都の大学に影響力を持つ宰相殿に邪魔されているからこっちに話を持ってきたのだろう。
道は川に比べれば確かに物流の面では劣るが、人的な移動に関しては優位がある。
だから軍の移動にも使いやすく、それゆえ慎重になった方がいいものではあるが……
「まあわかったわ。詳細は後日という事で」
「検討してもらえると助かるわ」
「期待して待ってるわ」
さて次はだれに行くか。
婚約破棄したものだから、新しい婚約の申し込みを言う人も居る。
それを適当に捌くのも面倒である。
楽しくないお茶会はまだ長そうである。
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