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4 茶会に来る人来ない人
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茶会は、紅茶を飲み、軽食をつまみながら雑談をする、格式張らない会、というのが建前である。
実際は社交の場であり、非公式な事前交渉や情報収集、腹の探り合いまで様々な情報が飛び交う。
優雅に見えるその裏では、ドロドロの駆け引きがあるのだ。
婚約破棄騒動から3日後に私が開催したこの茶会では、さらに意味合いがあった。
「イリア。来てくれたのね」
「当り前じゃないマリア。なんか大変そうね」
「本当にいろいろあったわ…… だから気晴らしに今日のを開いたのよ。そちらは最近はどう?」
「平和すぎるぐらい平和だわ。うちの騎士たちもなまっちゃいそう。いい機会があれば教えてね。大暴れするから」
イグニス辺境伯夫人であるイリアは親友であり、血縁もあるうえ家同士の中もよい。
蛮族との最前線に立ち、懲罰をすれば交易もするイグニス辺境伯と、その背後でイグニス辺境伯を援助しながら交易品の流通を引き受ける我らアデライド公は持ちつ持たれつだからだ。
もともと彼女も私も跡継ぎであったのもあり付き合いは長かった。
見た目は華奢で穏やかに見える子だが、実際は斬馬刀担いで敵兵をぶった切るバーサーカーである。
平和だと言っていたので、国境地域は問題ないのだろうし、有事となれば駆けつけてくれるだろう。
今回の茶会の返事を一番にくれた相手であり、今後内戦になってもこちらが大負けしない限りこちら側についてくれるだろう。
大崩れしたら相手に転ぶかもしれないが、地獄まで付き合ってほしいわけではないのでそれで構わない。
いち早く参加を表明した人は、次の戦いでもこちらに味方してくれるだろうし、そういうアピールである。
今回は主催が私なので参加者は女性が多い。その中でも当主や当主夫人が来てくれているところは当面味方だと考えていいだろう。
帝国には諸侯が200おり、寄親寄子を考えれば派閥の頭になるのは大体30ぐらいだ。そのうちすでに10以上は今回の茶会に積極的に来ており、流れは悪くない。
「陽姫も来てくれたのね。ありがとう」
「華姫さんも大変やね。次は決まってるんかい?」
「陽姫は自分のことを気にした方がいいのでは?」
「ふふふ」
「ふふふ」
「あなたたち、相変わらず仲いいわね」
陽姫といったのはエルランド都市伯令嬢のエミリーだ。華やかな美人であり、陽姫という二つ名で一時呼ばれていたが、本人がぺかぺかしてるみたいでいやだと言って呼ばせないようにしていた子である。
ちなみに華姫というのは私の二つ名として一時呼ばれていたものだが、あたまの中までお花畑みたいなニュアンスを感じて拒否しているものである。
他のやつがそれを言ったらぶん殴るのだが、エミリーはライバルみたいなものなので、ギリギリ許すことにしている。
ちなみに美人だが、頭が良すぎて性格も悪いからだろう、同い年でありお金もあるのにいまだ婚約者の一人もいない。
エルランド都市伯は交易が盛んな港町エルラントを中心とする領主であり、アデライド公とはライバル関係にある。
私と彼女の仲も決して良くないが、家同士の仲もよくない。そんな関係であり、今回の茶会に当主本人ではないとはいえ、娘で次期当主有力候補の彼女が来たのは少し意外だった。
「あんたの所のお茶、相変わらずいまいちね」
「エルランド伯の所のには負けますわ」
「明後日、皇后さまがお茶会をするのよね。何が出るかしら」
「うちよりも豪華かもしれませんね」
「ブランデーもらえないかしら。紅茶に入れたいの」
「後ほど用意させますわね」
ニッコリとほほ笑むと、相手もにっこりと笑う。
交易で稼ぐライバル同士だが、必ずしもすべてがすべて競合しているわけではない。
現状エルランド都市伯はどちらにつくか天秤にかけているのだろう。
狙いはブランデーなどの農業特産品だろうか。領地が広いアデライド公家の得意分野であるのは確かだ。
明後日開かれるらしい皇后の茶会に彼女が出るのはほぼ確実だ。
そこで天秤にかけてどちらにつくか決めるのだろう。
こういう慎重に様子見、悪く言えば日和見しているところも少なくはない。
家の将来がかかっているのだから当然である。もっともそれも今までの行い次第、というところもある。
「やあ、大変だったねマリア。良かったら次は俺と婚約しないか?」
「忙しいのでそういったことはお兄様にご連絡ください」
今馴れ馴れしく声をかけてきたのはランドル辺境伯のドラ息子だ。イグニス辺境伯の南に領地をもつ領主の息子である。
数年前、蛮族の侵攻を受け、援助を求めてきたので助けたにもかかわらず、その後礼もしないどころか文句ばかり述べてうちに対して不義理を重ねてきたところである。
そこまでしておいて、当主も出てこないで息子をよこして日和見が許されると思っているあたり当主も馬鹿なのだろう。
四方で信用を落としている状況で両天秤などしたらそれこそ双方ともから総スカンをされる。
その先には御家断絶だというのが、まあわかっていないのだろうな。
日和見というのは今までも中立で恩を受けてないからできるのだ。
ドラ息子本人も馬鹿だ。そもそも私の名を呼ぶのを許していないし、こんな騒動から三日後に私に直接婚約を打診してくるなど失礼にもほどがあった。
無礼な人間など相手にするほどでもない。それに無能な奴など相手に行ってくれた方がむしろ得だろう。
雑に無視して次に行く。
「オリーヴィア様。今日はありがとうございます。ウルカ王はご一緒ではないのですか?」
「お招きいただきありがとうございます、マリア様。でもウルカ王とセットに考えないでいただきたいですね」
「失礼しました」
「あんなの一時の熱病のようなものだったのでしょう。本日も参加すると伝えていたのですが、返事も何もありませんでしたから」
「当家もお返事いただいておりませんね」
オーベル伯令嬢オリーヴィアは、ウルカ王がしつこく付きまとっていた相手である。
ウルカ王は帝国内で唯一王号が認められているウルカ王国の王である。領地は帝国内最大であり、経済力、軍事力ともに大きな領主である。
大きい故に基本的には争いには局外中立な立場を取り、勝ち馬に乗るのが上手い家、という印象の所であった。
そんなウルカ王はオリーヴィアにベタぼれしている様子であり、オリーヴィアに迷惑だろうなと思うぐらい付きまとっていたのだ。
もっともオリーヴィアも若干うっとおしそうではあったが、イケメンで金持ちで包容力のある男性に愛されてまんざらでもなさそうであった。このままいくかと思っていたのだが……
ここでまさかの破局である。
オリーヴィアがこちらに近すぎるから嫌ったのであろうか。だが、オリーヴィアは私に憧れがあるらしく結構べったりだが、家としてのオーベル宮中伯は現皇帝の財務大臣をやっているかなりの皇帝派である。
娘を使って中立をたくらんでいるのは私でも透けて見えることであり、それが許されるだけの実力がオーベル宮中伯にはあった。
そういうところもウルカ王家の方針とあっているからこそこのままいくと思っていたのだ。
ここでまさか皇帝派に転ぶのは少々予想外だった。
予想外に相手に行ってしまうというところもあるのだ。
こういう会を開くとそれが如実に表れる。
だが、会を開いて終わりというわけではない。
仲間になってくれそうな相手を引き留め、中立を決め込む相手を少しでもこちらに引き込まないといけないのだ。
ここからが本番である。
実際は社交の場であり、非公式な事前交渉や情報収集、腹の探り合いまで様々な情報が飛び交う。
優雅に見えるその裏では、ドロドロの駆け引きがあるのだ。
婚約破棄騒動から3日後に私が開催したこの茶会では、さらに意味合いがあった。
「イリア。来てくれたのね」
「当り前じゃないマリア。なんか大変そうね」
「本当にいろいろあったわ…… だから気晴らしに今日のを開いたのよ。そちらは最近はどう?」
「平和すぎるぐらい平和だわ。うちの騎士たちもなまっちゃいそう。いい機会があれば教えてね。大暴れするから」
イグニス辺境伯夫人であるイリアは親友であり、血縁もあるうえ家同士の中もよい。
蛮族との最前線に立ち、懲罰をすれば交易もするイグニス辺境伯と、その背後でイグニス辺境伯を援助しながら交易品の流通を引き受ける我らアデライド公は持ちつ持たれつだからだ。
もともと彼女も私も跡継ぎであったのもあり付き合いは長かった。
見た目は華奢で穏やかに見える子だが、実際は斬馬刀担いで敵兵をぶった切るバーサーカーである。
平和だと言っていたので、国境地域は問題ないのだろうし、有事となれば駆けつけてくれるだろう。
今回の茶会の返事を一番にくれた相手であり、今後内戦になってもこちらが大負けしない限りこちら側についてくれるだろう。
大崩れしたら相手に転ぶかもしれないが、地獄まで付き合ってほしいわけではないのでそれで構わない。
いち早く参加を表明した人は、次の戦いでもこちらに味方してくれるだろうし、そういうアピールである。
今回は主催が私なので参加者は女性が多い。その中でも当主や当主夫人が来てくれているところは当面味方だと考えていいだろう。
帝国には諸侯が200おり、寄親寄子を考えれば派閥の頭になるのは大体30ぐらいだ。そのうちすでに10以上は今回の茶会に積極的に来ており、流れは悪くない。
「陽姫も来てくれたのね。ありがとう」
「華姫さんも大変やね。次は決まってるんかい?」
「陽姫は自分のことを気にした方がいいのでは?」
「ふふふ」
「ふふふ」
「あなたたち、相変わらず仲いいわね」
陽姫といったのはエルランド都市伯令嬢のエミリーだ。華やかな美人であり、陽姫という二つ名で一時呼ばれていたが、本人がぺかぺかしてるみたいでいやだと言って呼ばせないようにしていた子である。
ちなみに華姫というのは私の二つ名として一時呼ばれていたものだが、あたまの中までお花畑みたいなニュアンスを感じて拒否しているものである。
他のやつがそれを言ったらぶん殴るのだが、エミリーはライバルみたいなものなので、ギリギリ許すことにしている。
ちなみに美人だが、頭が良すぎて性格も悪いからだろう、同い年でありお金もあるのにいまだ婚約者の一人もいない。
エルランド都市伯は交易が盛んな港町エルラントを中心とする領主であり、アデライド公とはライバル関係にある。
私と彼女の仲も決して良くないが、家同士の仲もよくない。そんな関係であり、今回の茶会に当主本人ではないとはいえ、娘で次期当主有力候補の彼女が来たのは少し意外だった。
「あんたの所のお茶、相変わらずいまいちね」
「エルランド伯の所のには負けますわ」
「明後日、皇后さまがお茶会をするのよね。何が出るかしら」
「うちよりも豪華かもしれませんね」
「ブランデーもらえないかしら。紅茶に入れたいの」
「後ほど用意させますわね」
ニッコリとほほ笑むと、相手もにっこりと笑う。
交易で稼ぐライバル同士だが、必ずしもすべてがすべて競合しているわけではない。
現状エルランド都市伯はどちらにつくか天秤にかけているのだろう。
狙いはブランデーなどの農業特産品だろうか。領地が広いアデライド公家の得意分野であるのは確かだ。
明後日開かれるらしい皇后の茶会に彼女が出るのはほぼ確実だ。
そこで天秤にかけてどちらにつくか決めるのだろう。
こういう慎重に様子見、悪く言えば日和見しているところも少なくはない。
家の将来がかかっているのだから当然である。もっともそれも今までの行い次第、というところもある。
「やあ、大変だったねマリア。良かったら次は俺と婚約しないか?」
「忙しいのでそういったことはお兄様にご連絡ください」
今馴れ馴れしく声をかけてきたのはランドル辺境伯のドラ息子だ。イグニス辺境伯の南に領地をもつ領主の息子である。
数年前、蛮族の侵攻を受け、援助を求めてきたので助けたにもかかわらず、その後礼もしないどころか文句ばかり述べてうちに対して不義理を重ねてきたところである。
そこまでしておいて、当主も出てこないで息子をよこして日和見が許されると思っているあたり当主も馬鹿なのだろう。
四方で信用を落としている状況で両天秤などしたらそれこそ双方ともから総スカンをされる。
その先には御家断絶だというのが、まあわかっていないのだろうな。
日和見というのは今までも中立で恩を受けてないからできるのだ。
ドラ息子本人も馬鹿だ。そもそも私の名を呼ぶのを許していないし、こんな騒動から三日後に私に直接婚約を打診してくるなど失礼にもほどがあった。
無礼な人間など相手にするほどでもない。それに無能な奴など相手に行ってくれた方がむしろ得だろう。
雑に無視して次に行く。
「オリーヴィア様。今日はありがとうございます。ウルカ王はご一緒ではないのですか?」
「お招きいただきありがとうございます、マリア様。でもウルカ王とセットに考えないでいただきたいですね」
「失礼しました」
「あんなの一時の熱病のようなものだったのでしょう。本日も参加すると伝えていたのですが、返事も何もありませんでしたから」
「当家もお返事いただいておりませんね」
オーベル伯令嬢オリーヴィアは、ウルカ王がしつこく付きまとっていた相手である。
ウルカ王は帝国内で唯一王号が認められているウルカ王国の王である。領地は帝国内最大であり、経済力、軍事力ともに大きな領主である。
大きい故に基本的には争いには局外中立な立場を取り、勝ち馬に乗るのが上手い家、という印象の所であった。
そんなウルカ王はオリーヴィアにベタぼれしている様子であり、オリーヴィアに迷惑だろうなと思うぐらい付きまとっていたのだ。
もっともオリーヴィアも若干うっとおしそうではあったが、イケメンで金持ちで包容力のある男性に愛されてまんざらでもなさそうであった。このままいくかと思っていたのだが……
ここでまさかの破局である。
オリーヴィアがこちらに近すぎるから嫌ったのであろうか。だが、オリーヴィアは私に憧れがあるらしく結構べったりだが、家としてのオーベル宮中伯は現皇帝の財務大臣をやっているかなりの皇帝派である。
娘を使って中立をたくらんでいるのは私でも透けて見えることであり、それが許されるだけの実力がオーベル宮中伯にはあった。
そういうところもウルカ王家の方針とあっているからこそこのままいくと思っていたのだ。
ここでまさか皇帝派に転ぶのは少々予想外だった。
予想外に相手に行ってしまうというところもあるのだ。
こういう会を開くとそれが如実に表れる。
だが、会を開いて終わりというわけではない。
仲間になってくれそうな相手を引き留め、中立を決め込む相手を少しでもこちらに引き込まないといけないのだ。
ここからが本番である。
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