上 下
20 / 31
幕間

しおりを挟む
 
 ◆◇◆◇

 むかしむかし、ある所に金髪の王様がいました。
 小さな国の王様は、お后様でも側室でもない女と子を成しました。
 銀髪の女でした。

 銀髪の女は子供を産むと同時に命を落とし、王様はその死にもその子供にも興味がありませんでした。

 銀髪の子供は、与えられた小さな部屋の中だけで過ごしました。世話をしてくれるメイドはいましたが、話し相手にもなってくれませんでした。

 そんな中でも、銀髪の子供は幸せでした。腹違いの兄、つまり金髪の王子様が、随分可愛がってくれたからです。部屋にこっそり遊びに来ては、銀髪の子供を膝に乗せて遊んでくれました。

 ずっとこのまま部屋から出られなくても、兄がいるならそれでいいと、思っていたのでした。

 銀髪の子供が10歳になった日、お城に不思議な赤い宝石が届きました。初めてクリアしたダンジョンの最奥で手に入れたそれは、王様に献上されたものでした。

 その小さな宝石は、使い道が分からず王様は興味を示しませんでした。ほんの少し目を向けただけの王子様にあげるほど、興味がありませんでした。

 王子様は、宝石をこっそり銀髪の子供にあげました。使用人には見つからないように、と言いつけておきました。


 宝石を受け取った子供は、宝石を隠すために口に含みました。子供の部屋には、なにかを隠す場所などなかったからです。

 しかし宝石は口の中で溶けてしまいました。



 それから、子供は子供のまま、大きくなりませんでした。歳を、とらなくなりました。



 今まで兄として子供を可愛がっていた王子様は、歳を取らなくなった子供を化け物と蔑み、怯え、王様は子供を殺そうと外に捨てました。子供が最後に兄にかけられた言葉は、おぞましい、でした。

 死ぬはずだった子供は、死なずに隣国までたどり着きました。治療魔法が使える子供として、死にかけのところを拾われ高く売り飛ばされたのです。

 それから、歳を取らない子供は、色々な冒険者に買われてダンジョンへ入りました。 

 でも、銀髪の子供はそんな冒険者達に興味が無かったので。

 冒険者が怪我をしても、魔法を使いませんでした。


 めでたしめでたし。


 ◆◇◆


「久しいな」

 王なった兄の言葉に、全ての兵が頭を下げ身を引いた。全ての刃が私の首へと向かう。

「では、死んでもらおう」

 兄が大好きだった。世界で唯一優しくて、世界で唯一私の存在を認めてくれる人だった。
 こんなに嫌われるなんて、思っていなかった。

「お兄ちゃん」

「.......」

 無言で睨まれた。別に、もういい。

「私、成功した。新聞に載った」

「.......」

「1番速いお兄ちゃんが、私の仲間」

 どうだ、少しは見返せたか。
 少しは、私に興味が戻ったか。

「.......おぞましいな」

「.......ん」

 もういい。ロイ兄とダンジョンに潜れたし、初めて楽しいパーティに入れたし。新聞に載ったし、剣聖とロイ兄の戦う姿も目に焼き付いている。

 別に、本物のお兄ちゃんが私の事を嫌いでも、もういい。

 死を受け入れて、目を閉じた。









「すんません王様! ウチのパーティがまたご迷惑をおかけしたようで!」

 兵士の武器の向きが一斉に変わる。

「全員危険人物なのは認めるんですが.......」

 いつの間にか、肩に手が置かれていた。ぐっ、と引き寄せられて、大きく硬い手のひらに顔を拭われる。

 あれ、私の顔、濡れてる。



「泣かすってのはどういうつもりだ、あ?」



 黒髪が、揺れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生賢者の異世界無双〜勇者じゃないと追放されましたが、世界最強の賢者でした〜

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人は異世界へと召喚される。勇者としてこの国を救ってほしいと頼まれるが、直人の職業は賢者であったため、一方的に追放されてしまう。 だが、王は知らなかった。賢者は勇者をも超える世界最強の職業であることを、自分の力に気づいた直人はその力を使って自由気ままに生きるのであった。 一方、王は直人が最強だと知って、戻ってくるように土下座して懇願するが、全ては手遅れであった。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...